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魔王と勇者と魔王軍幹部共  作者: sazamisoV2
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勇者と妖魔とおくりもの⑩

「それにしても、そのスパイもとても間抜けよね。潜伏している事をあっさりと敵に知られてしまうのだから。とても向いているとは思えないわ」


 小馬鹿にしたように言うアイリス様。

 でもニアさんは何も言いません。


「ただ、それだけ間抜けなスパイなら、大した情報も得られていないでしょう。なんなら、その無能なスパイにいてもらった方が我が国としては安心できるかもしれないわね」


 ニアさんが拳を握るのがわかりました。

 それでも何も言い返しません。


 すると、アイリス様はこれまで見た中で最も楽しそうな笑顔を見せながら言いました。


「でも、何より間抜けなのはそのスパイを選んだ魔王デスヘルガロンでしょうね。何百万もの大軍を率いておきながら、そんな大事な仕事を任せる相手も見極められないなんて。きっと、魔法が強いだけのお飾りの王――」


 アイリス様がそう言った瞬間、目の前が真っ暗になりました。

 夜が来たのかと錯覚しますが、ただの一瞬でそんなことになるはずがありません。


 目を開けているはずなのに何も見えないため、閉じているような感覚に陥ります。

 右を見ても黒、左を見ても黒。

 声を出しても何も聞こえず、手を伸ばそうとしても手があるかどうかすらわかりません。

 まるで自分の何もかもが全て闇の中に溶け込んでしまったかのようで――。


『莉企皮視■倥萓霎ァ縺励◆縺具?』


 突然、鉄を擦るような耳障りな声が何重にも折り重なって聞こえました。


 それを聞いた途端、頭の中を直接金槌で殴られるような痛みが走ります。

 立っていることもままならなくなり、方向感覚が完全に消失して、次第に自分と闇との境界線が曖昧になっていって――。


 すると、急に視界がぱっと明るくなりました。


 見回してみると、さっきまでいた部屋と同じ場所で、なぜか仰向けに寝転がっていました。

 わたしのすぐ近くにはニアさんが立っていて、変わらずアイリス様に向き合っています。


「今、のは……?」


 アイリス様もわたしと同じ現象に見舞われていたようで、テーブルからゆっくりと身体を起こしているところでした。


 本当に、何が起きたんでしょう。

 目を開けながら夢でも見ていたような気分です。


 混乱しているわたしに、ニアさんが振り返ります。


「『心配』してエリス。『駄目』だから」


「は、はい…………えっ?」


 どうしてでしょうか。

 ニアさんにしか見えないのに、ニアさんでないように思えて仕方ありません。

 雰囲気と言うか、纏っている空気と言うか、そういうものがさっきと全く異なっているように感じるのです。


 でも、その言葉を聞いて、どうしてか絶対に大丈夫だと心の底から安心している自分もいて――。


 わたしの声に頷いて答えると、ニアさんはアイリス様に向かって言いました。


「『違います』。王女様の言うとおり、魔王様はとても『賢い』と思います。本当、どうしようもないくらいに」


 そうはっきりと言い切ったニアさんに、アイリス様は驚いた様子を見せます。


 でもそれもほんの少しのことで、すぐに余裕のある笑みを取り戻していました。


「さっきの質問の答え――『あなた』が『スパイじゃない』って言ったら、どうするつもりですか?」


「そうね。捕虜にして魔族との交渉材料に使う、というのが一般的だとは思うけれど……なんだか今は出来る気がしないわ。むしろ、手痛い反撃にあってしまいそうね。さっきのあれは、なんて聞いても、答えてくれないのでしょう?」


「何のことか『とてもよく』『わかります』ね」


「そう」


「エリスの処遇は?スパイの『敵』だなんて思われたら、『何かする』わけにもいかないでしょう?」


「エリスは人族の希望の象徴よ。魔族と繋がっているなんてことを公にできるわけがない。仮にそうだったとしても、私の心のうちに留めておくことしかできないでしょうね」


「そうですか。だったら『心配』してください。『あなた』は魔族のスパイ『ですから』」


「面白いことを言うのね。今更そんな言葉を信用するとでも?」


「信用するかしないか、それを決めるのは『私』です。なにせ、『あなた』はただの一国民でしかありませんから」


 それからしばらく間があった後――。


「ふふ……あっはははははは!エリス、本当に面白いわねあなたのお友達は!」


 見たこともない顔で笑うアイリス様は、とても楽しそうに見えました。


「王女様!?何がございましたか!?」


 アイリス様の笑い声を聞いて部屋の警護をしていた騎士が部屋に飛び込んできます。


「平民ごときが!王女様に向かって一体どんな無礼なことを――!」


「下がりなさい」


「で、ですが!」


「彼女の冗談が面白かっただけ。王女を笑わせただけで捕まえられたなんてことが広まればそれこそ笑い者よ。だって、彼女もまた、我が国の大切な民の一人なのだから」


 その言葉にわたしは驚きを隠せませんでした。

 それが意味するところは、ニアさんの疑いが晴れてしまったという事なんですから。


「はっ!失礼しましたっ!」


 騎士達が出ていくと、アイリス様はいつもの調子に戻って続けました。


「悪かったわねエリス。余計な事に時間を取らせてしまって。どうやら私はいろいろと勘違いをしていたみたい」


「え?あ、いえ、そんなことは……」


「何か用事があったんでしょう?私はもう済んだから、行っていいわよ」


「はい――あ、あのっ!その事なんですけど……!」

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