表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と勇者と魔王軍幹部共  作者: sazamisoV2
33/42

勇者と妖魔とおくりもの②

 ところ変わって【大聖魔堂】。


 ここは以前、魔王城で仕事をするためのテストで来たことのある場所であり、ガルゼブブさんが常日頃から祈りを捧げている場所でもあります。


 相談事を話し終えると、ふむふむ、と顎に手を当てながらガルゼブブさんは言いました。


「なるほどなるほど、身分の高い方への、お誕生日プレゼントですか」


「はい。これまで贈り物なんてしたことがなかったので、どういったものが喜ばれるのかわからないんです。送ったら失礼になるものとかもあるのかなって考えたら、気後れしてしまって……」


 わたしには手の届かないような地位の方への贈り物のため、同じくらい高い地位を持っているガロンさんに意見を聞こうと思った、というのが今日魔王城へとやってきた理由でした。


 少しだけ考えた後、ガルゼブブさんは言いました。


「エリィ様とその方は、親しい間柄なのですか?」


「親しい……と言っていいのかはわかりませんが、よくお話はさせてもらっています」


「そう言うことでしたら、特に気にする必要はないと思いますよ。エリィ様がご自分で選んだものならば、失礼にもなりません。結局のところは、送った方が喜ばれるかどうかですから」


 うんうん頷いて聞いていると、ガルゼブブさんは続けます。


「そうですね。例えば、エリィ様が、どこかの国の王様だったとしましょう。仲の良いお相手に、あなたは王様なんだからと、気を使われ、格式張ったものを送られたら、どう思われますか?」


 仲の良い相手と言われて、真っ先にガロンさんの姿が思い浮かびました。


 わたしの誕生日に、ガロンさんが気を使って格式張った――例えば、祝辞用の剣を送ってくれたとしたら――うん、凄く嬉しいと思います。

 ガロンさんが送ってくれたものと言うだけで嬉しくて部屋にずっと飾ってしまいそう――あぁいや違います違います。多分ガルゼブブさんが言っているのはこういうことじゃないでしょう。


 もう一度視点を変えて考え直してみます。


「……少し、寂しいかもしれません」


 どうやら正解だったようで、ガルゼブブさんは優しく頷いてくれました。


「エリィ様は、好きな方に何をもらえたら嬉しいですか?」


「好きな……ですか?」


「ええ、ええ。それを考えることが、プレゼントを選ぶ際の、参考になるかと思いまして。ただ純粋に、エリィ様のような、可愛らしい御方が好きになるのは、一体どんな方なのか、気になるというのもありますけれど」


 小首を傾げ、ぱちりとウインクして見せるガルゼブブさん。

 意外とお茶目なところも、ガルゼブブさんの魅力のひとつです。


 好きな方、好きな方――そう考えて浮かんできたのは、やっぱりガロンさんでした。


 ガロンさんにもらえるものならば、わたしはきっとその辺に転がっている石ころでも、落ちている小枝でも、何でも喜んでしまう気がします。

 いや、さすがにそれは言い過ぎ――でもないあたり、わたしは随分と安上がりなようです。


 でも、なるほど。

 好きな人からなら何をもらっても嬉しいというのは、つまりこういうことなんでしょう。


 わたしの表情を見て察してくれたのか、ガルゼブブさんはゆっくりと頷いてくれました。


「お役に立てたようで、なによりです」


 優しいだけじゃなくて諭すのも上手だなんて、本当に素晴らしい方です。


 そんなガルゼブブさんだからこそ、ふと聞いてみたくなりました。


「あの、参考までに教えてほしいんですけど……ガルゼブブさんは、好きな方に何をもらったら一番嬉しいですか?」


「あらあら、難しいご質問ですね」


「すみません。失礼なことを聞いてしまって」


「そんなことはありません。こういったお話を誰かとする機会は、滅多にございませんから。とても新鮮で、とても楽しいですよ」


 それからガルゼブブさんは『そうですね』と人差し指を唇に当てて考えると、笑顔のまま言いました。


「魔王様にお言葉を頂戴することが、わたくしにとって何よりの喜び。そういう意味で言えば、わたくしがもらって一番嬉しいものは、魔王様のお言葉、ということになるのでしょうね」


 何の躊躇いもなくそう言い切ったガルゼブブさんの顔は、とても幸せそうに見えました。

 心の底からそう思っている――そんな気持ちが伝わってきて、なんだかわたしの顔まで火照ってきてしまいます。


「申し訳ありません。これでは参考になりませんね」


 どこか恥ずかしそうに言った後、ガルゼブブさんは続けました。


「言葉以上のものをいただけるのなら……やはり、魔王様の右腕、でしょうか」


「え?」


「え?」


 聞き間違いかなとも思いましたが、ガルゼブブさんは相変わらずニコニコしたままでした。


 少しだけ考えて、あぁなるほど、と思い至ります。


 ガルゼブブさんが言っているのは『魔王様の右腕になる権利』ということでしょう。

 まさか、こんなにも優しいガルゼブブさんが、突然『右腕が欲しい(物理)』なんて猟奇的なことを言うはずがありませんからね。


 そういうことでしたら、ガルゼブブさんはガロンさんの右腕にふさわしいとわたしは思います。

 優しくて、誠実で、一緒にいるとほっとする。

 そんな方が傍にいれば、ガロンさんも安心できるに違いありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ