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魔王と勇者と魔王軍幹部共  作者: sazamisoV2
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魔王と勇者と幹部共⑫

「他には?」


「本棚の整理、でしょうか」


「良い着眼点です。ですが、本棚に触れてはいけません。万が一、整理をしている最中に本の配置を間違ってしまった、もしくは忘れてしまった場合、魔王様に部屋に入ったことがバレてしまう可能性があります」


 無駄な気遣い過ぎる……。


「事前に掃除すると伝えておけばいいんじゃ……」


「他には?」


 答えなさいよ。


 考え込むエリスだが、ほとんど物のない部屋で出来ることといったらそれこそ掃除くらいのものだろう。

 結局思いつかなかったのか、肩を落として首を振った。


「わかりません」


 そんなエリスを見て嬉しそうににやりと笑みを浮かべるルルヴィゴール。

 性格が悪い。


「そうですか。まさか、最も大切な『コレ』に気付かないなんて、やはりあなたはその程度ということですね」


 そう言うなり、ルルヴィゴールは俺のベッドに躊躇いなく飛び込んだ。


 何してんのこいつ……。


「ル、ルルヴィゴールさん!?ダメですよ勝手に魔王さまのベッドに横になるなんて!」


「んっ、ふぅ……何か勘違いしているようですね。私が魔王様がいつも横になっているベッドに寝転んでただ喜んでいるだけだとでも?」


 布団を皺ができるくらい抱きしめながら言われても何の説得力もないが。


 狼狽えるエリスに、ルルヴィゴールは堂々と告げた。


「これは魔王様の体調管理の一環です。こうして布団の香りを鼻いっぱいに(スゥゥゥゥゥゥ……)吸い込むことで、魔王様のその日の体調が万全かどうかを確認するのです」


 えぇ……気持ち悪い……。

 ここまでがっつり匂いを嗅がれるのも大分気持ち悪いが、それで体調がわかるとかいう謎スキルも気持ち悪い……。


 部屋の掃除云々はまだ許容できるが、さすがにコレは知りたくなかったな色んな意味で……。


「というわけでエリィ!これが私の出す最後のテストです!魔王様の布団から、今日の魔王様の体調を判別して見せなさい!」


 今日何度言ったかわからないが、これは一体何を試すためのテストなんだろう。度胸試しでもしてるんだろうか。

 あんまり言いたくないがさすがにおバカが過ぎると思う。特にルルヴィゴール。

 幹部にしておいていいのか不安になってくるレベルだよほんとに……。


「わ、わたしは……いえ、でも……」


 葛藤するエリス。


 他人に布団の匂いを嗅がれるのは嫌だろうなという想いと、やらなければテストに合格できないという焦りで迷っているのだろう。

 こんなアホみたいなことに付き合わせて申し訳ない……。


 ルルヴィゴールはそんなエリスの姿を見て心底楽しそうにニヤニヤしていた。

 エリスのこれまでの言動や立ち振る舞いから、どうせできないだろうと高を括っているのだろう。

 実際にそれは当たっているし、見抜いたうえで無理難題をけしかけているのなら中々の洞察力だが、やってることも言ってることも全て最低なので褒めるべきところは何一つない。


「さぁ!どうするんですかエリィ!やるのか!やらないのか!出来ないなら今すぐこの城から出ていきなさい!」


「……っ!」


 すると、エリスは意を決したように部屋を飛び出していった。


 逃げた……なんてことはするはずないだろうから、どこかへ向かったのか――と、そこまで考えて俺はとある推測に辿り着く。


「あーっはっはっは!所詮は下劣な人族ね!魔王様の布団の香りを嗅ぐ度胸もないくせに、魔王様と二人きりでお茶しようなんて一億万年早いのよ!あーっはっはっはっはっ!」


 ルルヴィゴールの勝ち誇ったような高笑いが響く中、近道をして【玉座の間】へ。


 いつも座っている椅子に腰を下ろすのとエリスが扉を開けて入って来るのはほぼ同時だった。


「ガロンさんっ!」


「ど、どうしたエリス。そんなに急いで」


 平静を装いながら聞き返すと、エリスは息を整えながら言った。


「あの、いきなりこんなことを聞くのはおかしいというのは自分でもわかってるんですけど……!今日の体調は、いかがですか……!?」


 やっぱりそうか。


 布団の匂いを嗅がれたくないだろうという俺の気持ちを推測し、じゃあどうすれば体調がわかるのだろうかと自ら考え、わからないなら直接本人に聞いてしまえばいいと判断してすぐに行動に移した。

 まさにルルヴィゴールが言っていたとおりのことを非の打ちどころなく実践してみせたというわけだ。


 あれ、もしかしなくとも、布団の匂いを嗅いで喜んでいる変態よりエリスの方がずっと幹部に向いているんじゃ――いや、やめよう。

 答えがわかっている問いを解いてしまったらそうとしか思えなくなってしまうからな。


「そうだな。体調は万全だ。まぁ色々と残念なことがあって若干気落ちしているが……」


「そう、ですか。あの、わたしなんかで良ければ話を――」


 急いでいるだろうに、どんな時でも相手のことを気遣ってしまうのはなんともエリスらしいと思った。

 お茶程度のことをずっと根に持っているどこかの誰かさんにも見習ってほしいものだ。

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