魔王と勇者と幹部共⑦
「こ、こいつぁやべぇぜ!尋常じゃない数の火山弾が降って来るぞ!まぁ、数が多いっつってもさすがに直撃なんてことにはならねぇだろぐっほぉあッ!」
言った矢先、物凄い速さで飛んできた火山弾が早速デルゼファーの腹部に直撃していた。
フラグみたいなこと言うから……。
しかしこの状況はまずい。
デルゼファーは頑丈だから当たっても問題ないだろうが、エリスに当たったら無事じゃすまない。
それで怪我なんてさせてしまった日には腕の一本でも切り落とさなければ気がすまなくなってしまう。
とりあえず防御魔法を展開しようとするが――。
「お任せください、魔王さま!」
そう言って俺を守るように立ち塞がったエリスは、その辺に転がっていた細長い木の棒を拾って構えると、細剣と同じように青白く発光させる。
剣以外でも使えるんだなそれ……。
そんなエリスに、デルゼファーが叫ぶ。
「動くんじゃねぇエリィ!動かずじっとしていればまず当たりっこねぇんだ!一度ならず二度までも当たるなんて、確率的にも絶対にありえね――ってこっちに向かって飛んでくるじゃあねぇかっ!?」
何でそうフラグばっかり立てるんだお前は。
「行きます!」
そう声を上げるなり、エリスは飛んでくる火山弾に向かって跳躍すると、木の枝を振りかぶって横凪ぎに切りつけた。
抱える程の大きさの火山弾はさすがに壊れるまではいかなかったものの、大きく軌道を変え、遥か後方へと着弾する。
普通に凄いな……。
それからも、エリスは次々に飛んでくる火山弾のことごとくを捌き切り、噴火が収まるまで一切の危なげなく凌ぎ切ってみせた。
息を切らすこともなく平然と戻って来たエリスは、座ったままのデルゼファーの所に駆け寄って声をかける。
「デルゼファーさん!大丈夫でしたか!?」
心配そうに眉をひそめるエリスに向かって、デルゼファーは低い声で告げた。
「そうか……そういうことだったんだな、エリィさんよぉ……!」
ぬらりと立ち上がると、エリスの前で仁王立ちするデルゼファー。
いくら鈍いデルゼファーでも、さすがにあれだけの活躍を目の前で見せられればエリスが普通の人族ではないと気付くだろう。
加えて、火山弾を木の棒で弾き返すなんて芸当が出来る人族はこの世界に一人しか考えられない。
「あ、あの、わたしは……」
「うるせぇ……!何も言うんじゃあねぇぜ……!今お前に何か言われたら、ブチ切れちまいそうだからよぉ……!」
デルゼファーの声は落ち着いていたが、沸々と煮えたぎる溶岩のような静かな怒りが底に見え隠れしているように感じられた。
ひとまず止めないとまずそうだ。
そう思って間に割って入ろうとすると――。
「クソ……!ほんと、情けねぇ……!なんて情けねぇんだオレってやつぁよぉ……!魔王様が危ねぇって時に、カエルみてぇにひっくり返ってたなんてよぉ……!あんまりにも情けなくて、自分自身にブチ切れちまいそうだぜぇ……!」
それからデルゼファーは恥も外聞もなく『おーいおいおいおい』と漢泣きを始めた。
エリスが勇者だとわかって怒ってたんじゃないのかよ。
いやそれ自体は安心すべきところなんだが、なんだかなぁ……。
「で、デルゼファーさん?大丈夫ですか?」
心配そうにのぞき込むエリス。
そんなエリスの前で両膝を折ると、デルゼファーは太い腕で涙を拭った。
「それに引き換えエリィ……!オレは感動したぜ……!お前の、魔王様へのド直球な『愛』に……!」
「え!?あ、愛!?」
「エリィがさっき見せたあの力……あれはオレの忠義なんか遠く霞んじまうくらいの、魔王様に対する強い『愛』の力によるもんだ……!違うか……!?」
また凄い勘違いしてる……。
「い、いや、その、多分違――」
「いやいい、皆まで言うな。わかる奴にはわかっちまうんだ。特に、オレ達幹部みたいに魔王様を敬愛してやまない奴らにはな」
何もわかってないんだが。
なんなら間違えてばっかりだが。
それで敬愛しているとか言われても物凄く安っぽく聞こえて仕方ないんだが。
まぁ都合のいい解釈をしてくれているのはありがたいのでそういうことにしておくか……。
満足気に頷くデルゼファーに、エリスが口を開く。
「あの……あ、愛なんていう立派なものではないと思いますけど……」
そう言って俺に視線を向けると、エリスはふんわりとはにかんで言った。
「いつも助けてもらってばっかりなので、たくさん役に立てたらいいなって、そう思ってます」
ま、まずい……!泣く……!
いいだろう。人族がどうとか勇者がどうとかもうどうでもいい。
このままエリスを魔王軍に正式採用する。
テストなんか知らん。俺が魔王だ。誰にも文句は言わせな――って待て待て待て待て、落ち着けデスヘルガロン。さすがに直情的すぎる。
駄目だ。幹部達が色々とぶっ飛びすぎているせいかエリスの優しさがいつも以上に身に沁みすぎて辛い。
気をしっかり持たなければうっかり魔王軍入りさせてしまいそうだ。
エリスの言葉を聞いたデルゼファーはうんうんと頷き、涙を親指で払いながら言った。
「だがまぁ、なるほどな。魔王様がエリィを魔王軍に迎えようとした理由がよぉくわかったぜ。オレから言うことはもう何もねぇ!文句なしの満点合格だぜ!」
何のテストだっけこれ……?