表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と勇者と魔王軍幹部共  作者: sazamisoV2
15/41

魔王と勇者と勇者らしさ⑮

「確かに一度は辛酸を舐めさせられた相手。しかし、先ほど見せた魔王様への熱い忠誠心――そして裏切らないと言った時の覚悟は間違いなく本物でした。その忠誠心と覚悟をもって、過去の遺恨はきれいさっぱり水に流すとしましょう」


 過去の遺恨凄いあっさり水に流されちゃった……。

 雪辱とか屈辱とか言ってたのにいいのかそれで。


 それからルルヴィゴールはエリスに真正面から向き合う。


「勇者――いえ、剣魔エリスクラージュ」


「は、はい!」


「魔王様は大変恐ろしいお方です」


「はい」


「少しでもお怒りに触れてしまったら、二度と朝日は拝めないと思ってください。口答えなどもってのほかです。少しでも長く生きたいと思うのなら、ご命令には忠実に、そしてご命令以上の成果を出すことです。でないと……いえ、この先は口にしないほうがいいでしょう」


 でないとなんなんだよ。逆に気になるだろうが。

 そもそもそんな恐怖政治みたいなことをした覚えないんだけど。


 周りの魔族達も知ったような顔でうんうん頷いているが、それが本当ならここにいる魔族全員現時点で重大な命令違反をしているのはわかっているんだろうか。明日から朝陽拝めなくなるけど。

 ルルヴィゴールめ、適当なことを……。


「魔王軍幹部の役割は、魔王様のお役に立つこと、魔王様の手足となって働くこと、そして、魔王様を適度にヨイショすることです」

 

 ん?なんか今さらっと滅茶苦茶失礼なこと言わなかった?


 役に立つ云々はわかる。

 手足となって働く云々もまぁわかる。

 でもヨイショするって何?


 確かに幹部達にはこれまで散々持ち上げるようなことを言われてはきたし、時々『ちょっと過剰すぎない?』と思う時もあったが、仕事だったのかあれ。知りたくなかったんだけどそんなこと。

 え、辛い……。


 俺を置いてけぼりにしたまま、ルルヴィゴールは総括するように言った。


「ここまで聞いてもなお、魔王様への忠誠を誓うことができますか?」


 ルルヴィゴールの問いに、エリスは迷うことなく答えた。


「はい、誓います」


 誓うのか……。


 元々エリスには魔族への忌避というか、悪感情がないのはわかっていたが、まさかすんなり仲間になってしまえるくらいだとは思わなかったな……。


 まぁそんなエリスだからこそ、休戦条約を結ぶことができたのかもしれないが。


「わかりました。もう私から言うことは何もありません。思う存分、魔王様のために働いてください。魔族達よ!領地に戻り次第、魔王様の勝利を、そして新たな幹部の誕生を祝し、宴を催すのです!」


『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』


 ルルヴィゴールの掛け声と共に雄叫びを上げた魔族達は、来た時と同じように地響きを上げながら全力で魔族領地へと帰っていった。

 本当に応援するためだけに来たんだな……。


 取り残された俺は、同じく残っていたエリスに話しかけた。


「悪いなエリス。こんなことになって」


 一芝居うつだけのはずが、魔族の仲間になってしまうとは夢にも思わなかっただろう。


 もちろん元の居場所に戻れるよう色々と布石は打ってあるが、面倒事に巻き込んでしまったのには違いない。


「気にしないでください。それに、元はと言えばわたしが迂闊な行動をしてしまったのが原因ですから。謝らなければならないのはわたしの方です」


 兜を取ったエリスの顔には、いつも通りのふんわりとした笑顔が浮かんでいた。


「でも、ガロンさん」


 それから、これまで見たことのないくらい真剣な表情になると、俺を真っ直ぐに見つめて言った。


「もう二度と、わたしに自分を倒せなんて言わないでください。ガロンさんを剣で叩いてしまったとき、心臓がねじれるかと思うくらい痛かったんですから」


「……あぁ、わかった」


 素直に頷くと、再びエリスの顔に笑顔の花が咲いた。


「俺からも一ついいか?」


「はい」


「言いたいことがあるときはなんでも言ってくれ。俺は不器用だから、お前が嫌な思いをしていても気付いてやれないかもしれない。友達に我慢をさせるようなことはしたくないんだ」


「わかりました。でも、それはガロンさんも同じですよ」


「そうだな」


 言いたいことを言い合うとなんだか胸の中がすっきりとして、お互いに自然と笑みが浮かんでいた。


「それでは行きましょうか、魔王様?」


「お前にそう言われるとなんだかむずむずするからやめてくれ」


「そうですか?わたしは結構気に入っているんですけど」


「冗談だろ」


「冗談なんかじゃないですよ。だって、今のわたしは魔王様の忠実なるしもべ、剣魔エリスクラージュ、ですからね」


 楽しそうにそう言うと、エリスは軽い足取りで駆け出したのだった。


―――――


 ちなみにエリスはこの後、魔王城で手厚い歓待を受けたのち、一週間ほどで何者かに攫われたという体で人族の所にこっそりと帰した。


 さらに余談だが、エリスを蔑ろにしていた騎士達は勇者洗脳事件でエリスに追い回されたことがトラウマになったらしく、エリスに近づくことはおろか話しかけてくることもなくなったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ