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警察官とイエローカットの幻

作者: 駒鳥

皆さんイエローカットって知ってます?

車線変更禁止の場所で黄色い線を跨いで車線変更することです。

今回はイエローカットと悲しいお話。


新人で巡査になったA。先輩とパトロールに出るとルート上に片側三車線、右折、左折レーンのある交差点があった。交通量が程よくありいつもイエローカットが絶えない交差点だ。ちょうど交通量が増えてくるお昼過ぎにそこへさしかかった時、やはり目の前でイエローカットをする車があった。


Aはサイレンを鳴らそうとスイッチに手を伸ばした。その時、先輩に止められた。「いいんだあれは。左折してパトロール続けるぞ」

「なんでですか?明らかに違反してたじゃないですか」

「いいんだ。」

「いやでも、違反車行っちゃいますよ?」

「いいか、事故を防ぐのは目くじら立ててなんでも取り締まればいいってもんじゃない。大目に見なくちゃいけないこともあるんだ。」

先輩はそういうと左折し横断歩道の歩行者妨害を見つけてアクセルを踏んだ。Aは不服そうに逃走する車に檄を飛ばした。


ーあの交差点、何かおかしい。

Aは非番になるとイエローカットを見逃したあの交差点に来ていた。ちかくにある歩道橋の上にあがり朝からセルフパトロールをしていたのだ。

交差点が一望できるビュースポットからは沢山の違反車が見える。

午前中、交差点に特に異変は無かったが違反行為だけは数えきれなかった。

「白バイでも取り締まりきれない交差点だな。」

交通ルールが遵守されない事と取り締まりきれないことに少し苛立っていた。

近くのコンビニで弁当を買って公園でチマチマつまみ、また歩道橋に戻ってきたA。夏なのに涼しい風が吹き抜ける歩道橋で監視はもうどうでも良くなっていた。

「非番なのになにやってんだろ。そろそろ帰るか。」

引き返そうと階段に向かった時、交差点からクラクションが聞こえた。

「なんだ?」

どうやら左折レーン右の直進レーンの車がイエローカットしてもう一つ右の直進レーンに入って来ていた。しかし、イエローカットしたその車は右折したかったわけでもなく直進する。そして後続の車も続々とイエローカットして直進しようとしている。

「いや、意味が分からない。そのまま直進すればいいだろうになにかおかしいな。」

Aは交差点の下に降りて来て様子を伺う。そこにパトカーのサイレンが近づいて来るのが見えた。その中に先輩の声がきこえる。

「直進レーン緊急車両が通ります、道を開けてください。」

混み合う交差点の端の直進レーンを掻き分けるように進むパトカーはまるでイエローカットを揉み消しているようだった。

「先輩なにやってんだ。とっ捕まえればいいのに」

不可思議なパトロールを見て悶々となり、非番を無駄にした思いが募るAは、飲み屋に入って至福の時間を取り戻した。


翌日。

Aは先輩に昨日交差点で見たことを問い詰めていた。

「A、お前非番だってのに暇だなぁ…見てたの?」

「あの交差点はどうして直進レーン取り締まらないんすか?」

「お前は見えなかったの?まぁいいや。今日の巡回はお前が運転してくれない?」

「別にいいですけど。」

「んじゃよろしくー」

先輩は手をヒラヒラさせながらトイレに消えていった。


Aはハンドルを握っていつものルートを丁寧に運転している。先輩はその横で時計をチラチラ見ている。

「ちょっと停めようか」

「え?パトロールいいんですか?」

「まぁまぁ。新人には覚えさせないといけないこともあるの。これも教育!」

先輩はそういうと外に出ていった。

Aは周りに目をやり辺りを見回しているとBが戻ってきた。

「その花束どうしたんですか?」

「花束じゃねーよ、仏花。後で使うんだよ。時間だ。行こうか。」

シートベルトを締めウィンカーを出してあの交差点に向かう。

「Aいいか、何があっても車線変更するなよ。」

「ん、当たり前じゃないですか。警察がイエローカットしてどうするんですか」

「ならよし。」

交差点に近づくにつれ、車の数が増え次第に進みが悪くなって来る。

Aはハンドルを握る手に力が入っていた。

先輩に妙なことを言われたからに他ならないが、妙な緊張が車内に張り詰めている。

「スピードはゆっくりでいい。行こうか。」

交差点にジリジリと近づいて次第に左折レーンが左に増えていく。直進レーンは青になるたびに少しずつ進む状態だ。

少し先が見えるようになって来るとやはり端の直進レーンから車線変更する車が見えて来た。

「先輩どうしますか?」

「今日はやりますかね。」

というと先輩はサイレンと拡声器に手をかけた。

「緊急車両通ります、緊急車両通ります」

どんどん車両が左折レーンにはけてゆき直進レーンは真っ直ぐひらけた。

「A、真っ直ぐいけ」

「わかりました」

Aはすこしアクセルを踏んで交差点に侵入した。

その時、車の前に急に女の子が現れた。

「うわぁぁぁぁ!!Aは急にブレーキを踏んだ。」

「A!とまるな!!真っ直ぐ進むんだ!」

「え!?あ、はい!え?え!?」

「大丈夫だ轢いてない!」

「でもいま女の子が前に!」

「大丈夫だ、端にとめろ!」

「はい!」

先輩は手際よくハザードランプをつけ、サイレンを停め、Aを路側帯に促した。

「交差点見てこいよ。」

「怖くて見れないんですけど…」

「いいからちょっと来い。」

先輩は仏花と誘導棒を手に車を降りた。Aもその後に続いて車を降りる。

「あれ…なにもない…」

周りのドライバーはサイレンを出して止まったパトカーから出てきた二人をジロジロと見る。事故か何かだと思ったに違いない。 2人は交差点に入る車を誘導しながら一本の電柱の元へ向かった。

街灯の下にいくつかの仏花が供えられていた。先輩もそこに仏花を手向ける。

「お前も手を合わせてやってくれ」

「なんですか?事故現場って事ですよね?」

「ここはな、昔から出ちゃう交差点なんだよ。」

「出るって、あの女の子の幽霊って事ですか?」

「そうそう、女の子。今からちょうど60年前。まだここが道路も拡張されていない時に悲惨な事故があってな」

手を合わせ2人はパトカーに戻る。


「この交差点がまだ小さかった頃、交差点の角に子供と夫婦、三人が暮らしていた家があったんだ。そこに大きなトレーラーが右折で曲がりきれずこの角に突っ込んでしまって家は全壊、そこに住んでいた夫婦と子供は運悪く巻き込まれて命を落としてしまったんだ」

「その話、聞かないとダメっすか」

顔色の悪くなったAを横目に助手席で先輩は淡々と話す。

「しかし、何故だか分からないが子供の遺体だけが見つからない。夫婦とともに亡くなったと思われていた子供の遺体は建物の残骸をいくら片付けても結局出てこなかったんだ。」

「それって…トレーラーに巻き込まれて…」

先輩は人差し指を左右に振る。

「その事故から20年たって交通量も増えたことから道路の拡張で交差点も工事をすることになり、その家の敷地は買い上げられ土を掘り返していた時のこと。家のあった場所から小さい子供の骨が出てきたんだ」

Aは急に背筋を伸ばしてハンドルにしがみつく。

「まさか女の子の骨ですか…」

「だと思うよねー。その骨を調べた結果、そこにいた子供ではない事がわかって謎が謎を呼ぶことに。」

「えぇぇ話が丸く治らない!女の子どこ?」

「そんなこんなで交差点も開通が遅れながらも完成してその事故のことが風化されようとしてきた時、この交差点は事故が増えていった。交差点に人がいるから避けて接触するというものが立て続けに起きた。」

「みんな女の子が見えてるってことですよね?」

「それがね、ドライバーの多くは無意識に人がいると思ってハンドルを切って避けているんだ。女の子って見えてるのはじつは俺だけだったんだけど…お前も見えたんだな」

「勘弁してくださいよ、見えたことなんて一度もないのに!」

「あ、信号赤だぞ。」

Aはゆっくりブレーキを踏んで停止線の手前でパトカーを静止させた。

「さて、そこに出る女の子の幽霊は誰なのか、夫婦の子供はどこに行ったのか。」

「モヤモヤするので早く教えてくださいよ。」

Aはバンバンハンドルを叩きながら先輩に食いつく。

「はいはい、ちゃんと前みろー。まずお前が見た幽霊の子はトレーラードライバーの娘さんの幽霊らしいんだ。ドライバーはご存命なのだが成人を前に亡くなった娘さんがこの交差点に出てるっぽいんだ。」

「娘さん…何故ここに…」

「そして家の夫婦の子供の遺体はどこに行ったか。実は子供は亡くなっていなかったんだ。」

「えぇ!?」

Aは喜びのあまり横を向く。

「ちゃんと前みろって!」

目を輝かせて安堵しているAを先輩は諭す。

「ドライバーの娘さん、元々は亡くなったご夫婦の子供だったんだ。この夫婦を事故で殺めた後、一人残された女の子が病気で入院していることを遠い遺族から聞き、このドライバーのご夫婦が事故を起こした責任から戸籍も何も変えず娘さんを引き取っていたみたいなんだ。」

「事故の時なんで警察は分からなかったんですか?」

「当時は闇医者なんて沢山いたからね。貧しかったご夫婦は娘を大きい病院にも入れずられず、ご近所さんにも入院しているなんて知らせなかったんだよ。」

Aは深妙な顔で運転している。

「先輩、でもなんで分かったんですか??」

「学生の時からここをチャリで通ってて女の子の霊を見てたんだよ。そして警察官になってトレーラー事故のことを知って過去の新聞記事とか漁ってみたら16歳の女の子が難病と闘ってるって記事を見つけてね。トレーラー事故で亡くなったご両親と同じ姓だった事と、交差点で見る霊の子と同じ顔だったって訳。」

「……そうすかぁ。」

「ん?じゃああの骨は誰のだったんですか?」

「それがどうもご夫婦の流産した子供なんじゃないかと言われて同じお墓に埋葬されたよ。」

「当時はDNA鑑定とかなかったから案外適当だったのかもしれないけど、それが正しいとしたらご夫婦の気持ちを察するといたたまれないよね。初めの子は流産、2人目は小さい時から病に悩まされてさ。」

先輩は遠い目をしながら静かにため息をついた。

「だからこの交差点の事故を防ぎたいし、霊の彼女も護りたいんだよ。それって警察にしかできないじゃん?」

「先輩、涙で前が見えないので運転変わってください」

「嫌だ。ほら署まであと少し。」


「先輩。」

「なに。」

「多分その子、昔遊んでた家に帰ってきて家族一緒になれて嬉しかったんすよ。」

「そうかもねー。」

「なんで適当なんすか!」

「はいはいパトロール終わりー。帰りましょ。」

先輩は少し目頭が緩くなっていたようで視線を外に逸らしたように見えた。


それ以降、女の子は交差点の中には出てこなくなり交差点の端で佇んでいるそうです。


この小説はフィクションです。実在の人物や団体、法令、法規などとは関係ありません。

初めて殴り書いた物なのでとても読みやすいとは思えないのですが、止まらなくなってしまったので勿体無いので投稿させていただきました。

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