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創造神の執筆作業  作者: 木部音尾
第一章~アンドリュー・クリークスの人生~
5/5

アンドリュー・クリークスの人生①

 ・・・・・どうしてこうなったのだろう?

 僕は今暗い森の中をひたすらに走っている。

 ハァハァ、と息を切らしながら自分が今どの方向に向かって走っているのかそんなことを気にする余裕もなくがむしゃらに森の中を駆け抜ける。

 がむしゃらに走っていたせいか、目の前にあった1mほどの段差に気が付かず足元がぬかるんでいたこともあって思い切り転がり落ちてしまう。

 全身が泥だらけになり、痛みと疲れと心細さからその場から動けなくなってしまう。

 膝を抱えて丸くなり、泣きながらどうしてこうなったか?と考える。

 その問いの答えは簡単、僕が怖くなって逃げだしたからだ。


 ------------------


 数時間前、僕アンドリュー・クリークスはいつもの我儘で姉に会おうと帝国にある魔法学園に向かうため馬車を走らせていた。

 魔法学園までは国境にまたがる「死者の森」と呼ばれる森の中を通っていかなければならないのだが前日まで降り続いた雨のせいで森の中の街道はぬかるみ、なかなか思うように進まず、何度も止まる馬車に僕はイライラとしていた。


「ねぇ!まだ町につかないの!?」


 豪華な馬車の中、用意されたお菓子を貪りながら怒鳴り散らすのが、僕だ。

 5歳という年齢にはふさわしくないほど太った体を上下に揺らしながら父親譲りの綺麗な青髪を振り乱し、いつも通り癇癪を起こしていた。


「申し訳ございません坊ちゃま、もう少しだけ時間が掛かるようです」


「今しばらくお待ちください」と付け加え、僕の目の前に座る乳母のシャンリーが表情を変えずに嗜めるように僕に言う

 エルフという種族の特徴的な長くとがった耳をピクピクとさせながら暴れまわる僕とは対照的に落ち着いた様子で外で対応している他の従者と連絡を取りながら状況を把握しているようだった。


「ねぇ!ねぇ!!まだなの?まだ動かいないの!?」


 その様子に更にイライラを募らせた僕は金切り声を上げて当たり散らす。

 ぎゃぁぎゃぁと馬車の中で暴れまわる僕の様子を見ても眉一つ動かさないシャンリー。

 その時ガチャリと馬車の扉があき、外の様子を確認していた執事が中へと入ってくる。


「坊ちゃま、落ち着いてくだされ。外まで声が響いておりますぞ?」


 僕の様子を見た執事のセバスチャンがため息をつきながら手に付いた泥を拭い、シャオリーの隣へ座る。

「外の様子はどうですか?」と尋ねるシャオリーに「車輪が泥に嵌っているのでまだまだ時間がかかりますな」とセバスチャン。どうやら状況の確認をしているようだった。

 その後も暫く二人で話す様子を見て、僕はのけ者にされたと思いイライラをエスカレートさせていく。


「もう!みんな役立たず!!!家に帰ったら全員クビにしてやる!!」


 ふーふー、と肩で息をして顔を真っ赤にしながら僕は息巻く。

「また始まったか」と呆れた顔をするセバスチャン。


「ダメですぞ坊ちゃま、そんなことを言っては。侯爵家の男子たるもの心を広く持ち、常に落ち着いていなければなりませんぞ」


「やだ」


 そういって拗ねる僕の様子を見て更に深いため息をつくセバスチャン。

 本来であれば叱られてしかるべき行動なのだろうが、僕を叱りつける事が出来るのは父上と母上以外存在しない。

 どんなに嫌なことでも僕の言うことには従わなければならなない。

 侯爵家の権力というものをそんな風に理解していた僕は誰にも叱られない事を良いことにやりたい放題の生活をしていた。


 それから少し経った頃、俄かに外が騒がしくなった。

 ようやく動き出したのかな?と思い外を見ようと窓辺に近づくと何かがおかしいことに気が付く。

 鉄と硬い何かがぶつかる「ガキィン」という音共に複数人の怒声が聞こえてきた。

 馬車には防音設備が備わっており外の音は中に中の音は外に聞こえにくいような作りになっていたため、外の音を正確に聞き取ることは出来ないが、なにかあった、ということだけは僕にも分かった。

 外の様子を見ようと更に窓に近づくと、急にシャオリーが立ち上がり馬車のカーテンを全て閉めてしまう。

 急な事で驚きシャオリーに文句を言おうとしたが、普段の数倍も硬い表情をした様子に僕は息をのんだ。

「セバス」と短く言い目配せをすると、セバスチャンは何も言わずに小さく頷き、少しだけ扉を開け、外の様子を伺う。

 外の様子を見たセバスチャンは一瞬目を細め、扉を閉めると何も言わずシャンリーのほうを見る。

 一連のやり取りに徐々に僕の中でも不安が大きくなっていく。


「な、なにかあったの・・・?」


「…心配いりませんよ、坊ちゃま。少しだけ外へ出てまいりますので馬車の中でお待ちくださいませ」


 そう言って穏やかな表情で僕の頭をなでるシャンリー。表情は穏やかのだがそこには有無を言わさない、とても強い圧を感じ、僕は「う、うん分かった」と返事をする。

 僕の返事を聞いたシャンリーとセバスチャンは素早く扉を開け、外へと出て行った。

 先ほどまでの勢いはどこへやら、静かになった馬車の中に一人残された僕は未だわからない外の様子に不安になる。

 短い時間が永遠に感じるような馬車の中でシャンリーとセバスチャンの帰りを待つ。

 我慢しきれずドアに近づくと、防音処理を通り越してなにを言ってるかわからなかったが叫び声が聞こえてくる。


「───っ!!」

「っ!!───」


 雨上がりの泥の匂いに交じって嗅いだことのない鉄の錆びたような匂いを微かに感じ、それがなにかは分からなかったが、僕は背筋に寒気を感じた。

 その瞬間ドン!と天井から大きな音したかと思うと横から衝撃が走り、馬車が大きく揺れる。


「うわぁ!」


 ドアの近くにいた僕は馬車が大きく揺れたことで扉があき、外へと放り出されてしまう。

「いててて」と言いながら体を起こし、その時見た光景に息をのむ。

 馬車を守るように展開する武器を持ったシャンリーやセバスチャンを含めた数名の従者が体を青白い毛で覆われ、鋭い牙を持つ人に似た何かと戦っている光景だった。


 目の前で起こっていることが理解できず、その場にへたり込んだままその光景を見ている。

 ふと、地面についていた手になにか生暖かいものが触れたような気がして、確かめるとそこには馬車の御者をしていた従者が血を流して倒れていた。

 先ほど馬車を襲った衝撃はこの従者が吹っ飛ばされて馬車に激突した衝撃だったようだ。


「ヒッ」


 初めてみる大量の血に驚き小さく悲鳴を上げてしまう。

 胸の鼓動が一気に早くなり、息をするのが辛くなってくる。

 意識を失いかけたところで空を見上げると、馬車の屋根の部分に座るその「何か」の姿が見えた。

 そのなにかは鋭い牙が生えてる口をにやりと歪め僕を見る。

 僕は身の危険を感じ、直ぐに逃げようとしたが足に上手く力が入らずその場を這いずることしかできない。

 声を出そうにも呼吸が上手くできていないからか声を出そうにもヒュー、ヒューと生きだけが漏れる。

 屋根を掴んでいた手に力を入れ、牙を剥いて飛びかかってくるなにかに、恐怖に耐えきれず僕は目をつむった。


「坊ちゃま!!!」


 シャンリーの叫ぶ声が聞こえ、ザシュッという音の後に獣が叫ぶ声が響く。

 ゆっくりと目を開くとそこには魔国独特の柄の長い曲剣を携えたシャンリーが僕の前に立っていた。


「どうして坊ちゃまがこんな所に・・・・馬車から出てはいけないと言ったでしょう!?」


 いつもの表情を変えないシャンリーが眉を顰め表情に怒りを滲み出だし、普段聞いたことのない大きな声を出して僕を咎める。

 自身の乳母の見たことのない表情と大声に僕の体は恐怖を感じ委縮してしまう。

 そんな僕の様子をみたシャンリーは「しまった・・・」と小声で呟き、へたり込んでいる僕に目線を合わせるようにしゃがみ、話を続ける。


「坊ちゃま、よろしいですか?今ここで起こっていることを今の坊ちゃまが知る必要はありません。必要であれば後ほど私から説明します。だから今は馬車へと戻りましょう?」


 と、僕をなだめる様に落ち着かせようと焦ってはいるもののいつもの調子に近いように話すシャンリーに何とか頷き立ち上がろうとしたとき、シャンリーの背後から先ほどと同じ何かが僕たち目掛けて襲い掛かってきた。


「シャンリー!後ろ!!!」


 と僕はとっさに叫ぶ。その声に反応したシャンリーは振り向きざまに一閃。

 持っていた武器を薙ぎ払うと、襲い掛かろうとしたなにかを一撃で両断する。

 グチャ、と嫌な音を立てて崩れ落ちるなにか。その半分が僕のすぐ傍へと落ちてくる

 丁度腹の部分から半分になったそれは、まだ息が残っており虚ろな目で僕を見つめ牙をむいて手を伸ばしてくる。

 即座にシャンリーが僕の視界を塞ぐように立って武器を振り下ろす。

 グシャリと言う不快な音と共に赤い血が飛び散る。


「大丈夫ですか?」


 そういって振り返るシャンリーの姿に、僕は耐えきれなかった。

 返り血で汚れたメイド服に武器を携え、エルフ特有の真っ赤な瞳で見つめられた僕は恐怖の感情が堰を切って溢れだした。


「あ・・・あ・・・・うわあああああああああああああ!!!」


「坊ちゃま!?」


 完全に錯乱した僕は、シャンリーの制止を振り切り森に向かって走り出した。

 後ろからシャンリーが何かを叫んでいたと思うが、この時の僕には全く理解できなかった。

 とにかくこの場から逃げたい一心で太った体を必死に動かし、森の奥へと走る。

 森の中をがむしゃらに走れば当然のように迷ってしまう。

 時々聞こえる不気味な泣き声に止まることを許されず。僕は恐怖に怯えながらとにかく逃げようと森の中を走ったおかげで自分が今どこにいるのは完全に分からなくなってしまった。


 ------------------


 暗い森の中、僕は膝を抱えて動けなくなっていた。

 恐怖で動き出したい気持ちはあるのだが、走り続けた体は既に限界に達しており先ほど転んだ事で足を痛めたのか立つことが出来なくなっていた。

 既に日は落ち、暗くなった森で僕は膝を抱える。

 泣き叫ぶほどの体力も残っておらず、ただひたすらに今日起こったことを思い出し、誰に対していっているのか分からない「ごめんなさい」を何度も繰り返す。


 寒さと心細さ、走り回ったことによる疲れや、目の前で起こった精神的な疲れからか急に眠気に襲われる。

 危機感と恐怖の感情だけでなんとか頑張っていたが瞼が重くなり、僕は眠気に負け、その場にうずくまり寝てしまった。

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