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創造神の執筆作業  作者: 木部音尾
プロローグ
4/5

プロローグ~終~

 四方をコンクリートの壁に囲まれた部屋にカタカタとワープロを打つ音が響く。

 執筆を開始する宣言をしてからどのぐらい経ったろうか。

 この部屋には窓もなければ時計もないため、時間の感覚というものが無くなっていった。

 女神が作ってくれる食事で、辛うじて区切りは付けているものの、その程度である。


 ひたすらに文章を打つ。

 俺の向かい側には眼鏡を掛けた真面目モードの女神が俺が書いた文章を読んでチェックしている。

 あの後女神からアルテナシアの説明を受けてある程度の知識を得たが、如何せん付け焼刃である。

 書いたものに矛盾や間違いが生じる事も考えられたため、俺が書いたものを女神が読んでチェックし間違いがあれば指摘してもらい、その場で修正する方式を取っている。


「ん・・・・先生、この部分ですが流石に10歳の子供には荷が重すぎます。もう少し難易度を下げたほうが良いかと」


「あぁ、そこか。やりすぎなぐらいで丁度いいと思ったんだが、そのほうが箔がつくし」


「箔をつけてあげたいのは分かりますが、この魔獣を狩るにはいくらなんでも無理です。そもそも生息地域が違いすぎます。この場合なら狼の魔獣のほうが適切だと思います」


「あー・・・なるほど、直すわ、ありがとう」


「お願いします。あとここ脱字していますね。・・・・少し誤字・脱字が多くなっていますね、お疲れなら少し休みますか?


「そうか?もう少しできりのいいところまで書けるから、そこまで行ったら休憩にしよう」


「無理をならさないでくださいね?」と、声色だけは心配そうに言っているが一切原稿から目を話さずに言う女神。

 書き始める前に、プロットを作って見せたときには「先生ぇこれ正気ですかぁ?」とあまり乗り気ではなかった女神だったが書き始めてからは約束通りしっかり協力してくれている。

 指摘してくる内容も的確だし、必ず代案も考えてくれるのでこちらとしてはかなりやりやすい。

 筆も乗り、女神の協力もあって大分順調に原稿は進んでいるように思う。


 書いている最中、俺自身の心境にも変化があった。

 最初はこのアンドリューを典型的な「クソガキ」だな、としか思っていなかったのが物語を書き続けてくると愛着が沸き、自分の子供のように思うようになってきた。

 この話を女神にしてみたが「先生もぉアルテナシアの創造神としての自覚が出てきましたねぇ!」と言われた。

 女神曰く「神はぁ世界にいる生きとし生けるもの全てをぉ家族と同じと思ってぇ愛情を持つものなんですよぉ」と、神とはそういうものらしい。

「でもぉ、あまり個人に入れ込みすぎるのはぁ神としてだめですよぉ?」と釘を刺さたが、今のアンドリューへの感情を考えるとあの時既に女神に見透かされていたのかもしれない。


 また、ひたすらに集中して書き続ける。

 その間も、女神からの指摘が入り修正。指摘・修正、指摘・修正・・・・を何度も何度も繰り返す。

 永遠とも思えるこの繰り返しを破るように原稿を机を使って整える。


「先生、ご提案したいことがあるので一度手を止めて頂けますか?」


「ん、了解。丁度こっちもキリのいいところまで書けた」


「ほい」と今書いた原稿を印刷して女神へと渡す「ありがとうございます」と言って原稿を受け取る女神。


「こちらの確認は後ほどしますので、まずは提案ですが・・・ここまで先生が書いたアンドリューの物語ですが、一度貼り付けてみませんか?」


「んん?まだ全部書いてないけど大丈夫なのか?」


「えぇ、この本はアンドリュー・クリークスの人生が書いてある本。生きている本です。先生がこれまでに書いた原稿を貼り付けることで運命が変わりこの本にも必ず変化が起きます。それを確認してから続きを書くほうがなにか起きたときに対応しやすいと思いますので」


「あー・・・なるほど、そういうことか」


 確かに今書いてある10歳までの物語が世界に修正されなければ、間違いなくアンドリューの人生は変わる。そういう物語にしたからだが。

 確かにここで修正力が働くようであれば展開を見てこれからの物語に変更を加えなければならない。

 当初の予定なら14歳で死ぬアンドリュー、その人生を10歳までは書き変えた。

 もしここで14歳までの物語を書き貼り付けて最後のページが変わらなければ、今までの作業が全て無駄に終わってしまう。

 そうならないためにも後の4年は残し、何かあれば加筆・修正できるこのタイミングで貼り付けて様子を見よう、というわけだ。


「・・・・それに正直申し上げますと、先生の書いたこの物語と台本ですがアイディア自体は素晴らしいとは思いますが物語の流れにはまだ不安が残ります」


 先も言ったが、女神は今回のプロットにはあまり乗り気ではなかった。確かに今回俺が書いた物は結構滅茶苦茶だと自分でも思う。

 ただ、アンドリューの死因には少なからず子供の時に経験や、その時に形成された性格が絡んでと思ってる。そうなると必然的にアンドリューの捻じ曲がった性格を何とかしてやらないといけない。

 人一人の性格を変えるとなればかなり強烈な経験が必要になる。ただ幸いアンドリューはまだ5歳。大人ほど強烈な経験は必要ないと考え、少し・・・・本当に少しだけ強烈な経験をするような展開の物語にしてある。

 女神が言う不安とは、そこら辺の展開のことだろう。


 女神の提案は、その両方を加味しての提案というわけだ。


「オッケー、言いたいことは分かった。それで具体的にこの原稿を本に反映するにはどうしたらいいんだ?」


「本当に・・・・このままの展開で反映させて良いのですね?」


「あぁ、大丈夫。なんとかなるさ」


 女神の不安が少しでも和らぐようにと、俺は笑顔でそう答える。

 暫くは不安そうな顔をしていた女神も、俺の笑顔に折れたのか「分かりました」といって説明をしてくれる。


「原稿の本への反映は、創造神である先生でしか出来ません。先生は原稿を持って反映した本を思い浮かべて「反映」と念じてみてください」


 そういって、先ほどまでチェックしていた原稿を渡してきた。

 言われた通りに原稿を持ち、アンドリューの本を思い浮かべ「反映・・・・反映・・・」と念じてみる。

 すると手に持っていた原稿が光を放ちばらばらになって中を舞い、1枚ずつ本の中へと取り込まれていく。

 あまりの幻想的な風景に驚きつつ、その光景を見守る。

 最後の一枚が本の中へと吸い込まれ、光が収まる。


「これで完了です。先生お疲れ様でした」


 どうやらこれで終わったらしい、本当に反映されたのかちょっと不安だな、と思っていると女神が本を持ってきてこちらに見せてくれる。

 そこには先ほどまで白紙だったページに、間違いなく俺が書いた物語がしっかりと書き込まれていた。

 それを確認しほっとした感情と共に、先ほどまでは集中していて感じていなかった疲れが俺の体を襲う。

 ただここで休んではいられない、反映されたということは俺にも次の準備が必要になるのだ。


「今のところは修正力が働いている様子も見受けられません。恐らく暫くはこのままで彼の人生の物語は進行すると思われます・・・・ので先生もご準備を」


「了解、と言ってもなにを準備すればいいんだ?」


「心の準備だけで結構かと。もしなにか聞きたいことなどあれば私と念話ができますので、その都度お聞きください。」


「分かった、ありがとう」


 そうこう言ってるうちに、部屋の中に男の子の泣いている声が聞こえてくる。

 どうやら反映が上手くいき、アンドリューの物語が少し進んで、俺の出番が来たようだ。

 本の内容を確認し、俺は覚悟を決める。


「先生・・・私は本当に不安です。この物語の行方は、私の未来予知でも見ることが出来ないのです。本当に何が起こるか分かりません。もし少しでも危険だと思ったら直ぐにこの部屋にお戻りください」


「心配性だな・・・・まぁ分かった、危なかったらすぐ戻るよ」


 次第に大きくなる泣き声に合わせて、俺の体が引っ張られるような感覚を覚える。

 その様子を心配そうに見る女神。


 実際は俺もかなり不安なのだ。

 なにが正解で何処に地雷が埋まっているかわからない。全てが手探りで進むしかないこの状況に不安を感じるな、というほうが無理だろう。

 それでも俺が書き、女神が修正したこの物語を信じるしかない。

 なんとかなる。そう信じて覚悟を決めて女神に向き直り


「いってきます」


「いってらっしゃいませ」


 そう言った瞬間。急に視界が反転し、俺は森の中へと飛ばされていた。

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