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創造神の執筆作業  作者: 木部音尾
プロローグ
3/5

プロローグ③

 

 どうも、和上侑人改め「創造神ワガミ」です。

 俺が女神に殺され、この取調室に連れてこられてから一週間が経ち俺も大分落ち着いて物事を考えられるようになりました。


 あの時内容も確認しないで交わした契約書には重要な点が2つ。

 一つは俺の魂の位ってやつを女神と同格の「神」にするというものだった。

 これは単純に他人の運命を書き換えるのに人のままで書き換えることが出来ないからというものだ。

 結果俺は女神の力によって「創造神ワガミ」となってこれから活動することになった。

 神になったからといって肉体的に変わったことはほとんどない。

 時間がたてば眠くなるし、腹も減るから食事もとらないといけない。

 変わったことといえば、女神が指を鳴らしてなにもない空間から物を出していた行為、あれが使えるようになった。

 とはいえ、必要なものは女神が予め揃えてくれているので俺がこの能力を使う目的はもっぱら煙草の補充だ。

「創造神ワガミ」なんて仰々しい名前をつけられて便利な能力が使えるようにはなったが、中身は和上侑人から殆ど変わっていないので、この世界専用のペンネームぐらいにしか思っていない。


 重要なのはもう一つのほう、そう報酬だ。

 この仕事をやり切った際に支払われる報酬は「俺が望む物なんでも1つ」というかなり曖昧だが意味が分かるととんでもない報酬だった。

 一生遊んで暮らせるだけの金でも、権力でも、それこそ才能でも俺が望むものなら一つそれが今回の報酬となる。

 どれもこれも、あのまま物書きとして生活していたら手に入ることのなかった物である。

 それが手に入るとすれば、今回の仕事もやる気が出るというものだ。


「とはいえ、まずは仕事をしないといけないよなぁ」


 そう言って目の前の年代物のワープロと三冊の本に目を向ける。

 あれから一週間、契約を交わしたのはいいもののそこから全く文章を書いていなかった。

 正確には書いては消して、書いては消してを何度も繰り返しているといったほうが正しいか。

 理由は簡単、他人の人生を書くというのはあの時想像していたよりも数倍のプレッシャーがかかるということ。

 女神からも「一度書き換えた運命は後で変更できませんのでよく考えて書いてくださいね」と念を押されているので下手なものは書けない。

 生前のよりも大きいプレッシャーに、俺の指は完全に動かなくなっていた。


「どーっすかなぁー」


 煙草に火をつけ、三人のうちの一冊「アンドリュー・クリークス」の本を手に取って生い立ちを読む。


 アンドリュー・クリークス

 アルテナシアの東大陸で一番大きいステア王国の侯爵の三男坊。

 父親はステア王国の宰相。母親は現王の遠い親戚にあたる名家の出身。

 上には優秀な兄と姉がおり生まれたころから常に二人と比べられて生きてきた。

「兄と比べれば・・・」「姉なら出来た・・・」と影で言われ続けたアンドリューの  性格は徐々に歪み始める。

 下手に権利を持った家に生まれたのも良くなかったのだろう。自分の持つ巨大な権力  に若干5歳ににして気が付いた彼はそれを振り回し好き勝手に振舞うようになる。

 父親も母親も仕事で殆ど家には居らず、屋敷にいる使用人では彼を咎めることが出来  ない。その結果性格は直るどころか徐々にエスカレートしていった。


 ~空白のページ~


 しかしそれも14歳の時に屋敷に居たメイドの一人を手籠めにしてしまったことで一変  する。

 屋敷に勤めていたメイドに手をだし、そのうえ孕ませてしまったことで今までは大目  に見てきた父親からこのままでは家名に傷がつくと見限られてしまう。

 最後は「病気」という名目で山奥の「別荘」へ連れていかれ、父親の手の物に首を断  たれその生涯を終える


 大体こんな感じである


「何度読んでもクソガキなんだよなぁ・・・・」


 初めてこの本を開いたときは、死因の部分しか読んでいなかったので「早死にするのは可哀そうだな」と同情していたが、しっかり読んでみれば印象も変わる

 権力傘にして誰にも怒られないからやりたい放題、その挙句未成年で女性を孕ませ、親に見限られた結果斬首とかもはや自業自得以外の何物でもない。


 大きく煙草を吸って煙を肺に入れ、吐き出す。

 女神曰く、こいつの人生は7歳までは世界に存在するために既に確定事項として本に書かれており変更できず、書き換えるとすれば7歳からだそうだ。

 7歳からの人生を上手く書き換えることが出来れば、最終ページの内容も書き変わり14歳で死ぬはずの彼の本に白紙のページが増えていくとのことだった。


「さてどうしてくれようか・・・」


 再度煙草に手をかけて火をつけようかと思ったとき、入口のドアがノックされる


「失礼しますぅ、先生ぇ調子はどうですかぁ~?」


 同時に、気の抜けた緩い声の挨拶と共に裸眼の女神が部屋に入ってくる。

 どうやらあの真面目な雰囲気は眼鏡を掛けているときだけで、いつもは最初に会ったときのように緩い感じになるようだ。

 眼鏡一つでこうも変わるとは、あの眼鏡は一体なんなのだ・・・。


「悪いが全然だわ」


「あらぁ~そうですかぁ、でもぉ先生なら大丈夫ですよぉ!気楽に行きましょうぉ!」


 と言いながら持参したエプロンを付け、部屋の隅に設置してある流し台でお茶の準備をする女神。


 人の人生書き換えるのに「気軽に行きましょぉ!」と言われてもなぁ、と思う。

 そこらへんは女神の感覚と俺のような一般市民の感覚では大分違うのだろう。


「はい先生ぇ、こちらをどうぞぉ」と女神が淹れてくれたコーヒーを貰って一息つく。

 こちらに来てから一週間、毎日のようにこうして女神がお茶を入れてくれたり、食事を作ってくれたりと身の回りの世話を行ってくれている。

 一人暮らし歴の長かった俺は、自分のことは自分でやると申し出たのだが、「大丈夫ですよぉ?先生はぁ文章を書くことに集中してくださぁい?」と笑顔の中に凄まじい圧力を感じる言葉に屈し、今は昭和の文豪よろしく女神のヒモとして生活している。

 流石にこれは俺の精神的にもよくはない、この状況を打破するためにも早くいい文章を書かねばならないのだが・・・・。

 再度ワープロに向かい、あーでもないこーでもないと色々と考える。


「あーもー!これ単純に「アンドリューは突然人格に目覚め、勇者になって世界を救いました」って一文だけ書いて解決しないかぁ?」


 なにも思いつかずやけくそ気味に言った俺の一言に自分の分の紅茶を淹れながら「またそれですかぁ?」と笑う女神。


「それだけだとぉ、ディテールがはっきりしないのでぇ「世界の修正力」が働いて元通りになっちゃいますねぇ~」


「それなんだよなぁ・・・・」


 世界の修正力、これが今回の仕事で一番厄介な代物なのだ。

 実際さっきのように適当な文を書いて貼り付けることも可能なのだが、物事が余りにもはっきりしないため元々書かれてある世界が作った人生に負けてしまい修正力・・・つまりは元に戻る力が働き俺の貼り付けた適当な文は「無かった事」にされてしまうのだ。

 適当に書いた文はもちろん、例え真面目に書いた文章であっても細部までしっかりした文章でなければ運命を書き換えるまでに至らず修正力の犠牲になってしまう

 つまり、下手な文章を書くと世界(編集長)修正(ボツに)されてしまうということだ。


 何にせよ人の人生を書き換えるということは適当なことで許されない。

 なにかこの思考のループをぶち破るアイディアはないものだろうか、と考えていると自分用の紅茶を入れながら女神が上機嫌で「あ、そういえばぁ」と話を始める。


「昨日ですねぇ、先生こと創造神ワガミ様がぁこの世界に新しく誕生したことをぉ私の巫女に神託したんですよぉ!」


「は?」


「何言ってんだ?」というセリフが喉まで出掛かったがなんとか飲み込れ俺を誰かほめてほしい。



「あれぇ?言ってませんでしたっけぇ?アルテナシアの今の文明には私を神として祈りを捧げてくれる宗教がありましてぇ、直接手を貸さない代わりにぃ巫女に神託を下して助言してるんですよぉ」


「あー・・・・あぁなるほどね、分かったわ」


 そういえばそんなことも言っていたな、と思いだす。


「先生もぉ、今は神ですからぁ私と同じように信仰心が力の源になりますのでぇ、私だけじゃなくて先生にも祈りを捧げてもらえるようにみんなにお願いして来たんですよぉ」


「神像も建てるんですよぉ」とウキウキしながら話す女神をよそに俺は考えていた。

 神託・・・神託かぁ・・・・。

 なんかこう、引っかかるんだよなぁ。なんかこう・・・思いつきそうな・・・

 脳の中で「神託」という言葉を転がす。もうちょっとでなにか出てきそうなんだがなぁ。


「なぁ、その神託ってのは具体的にはどんなことをやってるんだ?」


「神託ですかぁ?例えばぁ私の能力である程度の未来がみえるのでぇ災害の兆しが見えたらお知らせしてぇ準備をさせるとかぁ、年に一度ぉ人々が捧げてくれるお供えやお祈りにお礼をいったりとかぁ、他にもいろいろですねぇ」


「例えばそれで滅亡って回避できないのか?」


「やったことはありましたがぁ・・・・魔素を排出する魔道具はぁこの世界の生活を豊かにする上でぇ欠かせないものなんですよぉ。

 それを急に「使うな!」って神託してもぉ従う人のほうが少ないんですよねぇ・・・」


「まぁそれもそうか・・・」


 以前女神に聞いた話では魔道具ってのはこちらの世界で言えば電化製品のようなものらしい、それを「明日から電化製品を使うな!」と急に言われたら生活できなくなるのは当たり前か。

 人は一度経験した生活水準を下げることは難しいってことなんだろうな、多分

 っとそんなことより神託だ、神託。


「話がそれたな、それで神託ってのはどんな風にやってるんだ?」


「基本的にはぁ、巫女達が寝ているときに夢の中に現れて行ってますねぇ。昔は降臨したりぃ巫女を依り代にしたりなんかもしたんですけどぉ、今はどちらもやってないですねぇ」


「なるほどなるほど・・・・ちなみに、神託って俺でもできるのか?」


「もちろんできますよぉ?ただぁ先生の場合はまだ神託を受ける巫女が決まってませんからぁ、神託しても誰も信じてくれないかもしれないですねぇ・・・」


「あぁ・・・まぁそうだろうなぁ・・・・」


 その時だった、俺の中で転がっていた「神託」と言う言葉が、俺の記憶と結びつき脳の中で一気に広がり、一つの世界を作り上げる。

 その世界で繰り広げられる物語は、俺の中を走馬灯のように駆け巡る。


(来た!!ネタが降ってきた!!)


 今すぐにでも立ち上がって叫びたいと思う衝動を抑え、冷静になって考える。

 まだだ、まだ足りない。もう一人重要な登場人物が居る。

 それが登場できるかどうか、それを確認する必要がある。


「・・・・なぁ、その神託って巫女以外にも神託できるのか?」


「できますよぉ?さっきも言いましたけどぉ信じてくれないと思いますけどぉ」


 よし、と心の中でガッツポーズを取る。

 これで大まかなストーリーは固まった、後は世界の修正力が働ないように細かい部分をどう固めてをどんな風に形成するかだが、今の俺ではアルテナシアという世界の知識が全く無い。文化や慣習そういうものを知ってこそ細部を固められるというもの。

 ただこれの解決出来る問題だ。


「なぁ、女神、一つネタを思いついたんだが、ただちょっと問題があって女神さまにも協力をお願いしたいんだが大丈夫か?」


 翡翠色の目を大きく開き驚いた声で「私ですか?」と答える女神に、俺は「あぁ」と短く頷く。


「もちろんあんたの話を聞いてるからな、主義に反するようなことは絶対にさせない。そのうえで俺の原稿を書くサポートをあんたにお願いしたいんだ」


 そう言って俺は頭を下げる。

 散々言っているが、これは下手な文章を書けない仕事だ。

 今の俺はアイディアはあるものの、知識が無いためどこで地雷を踏むかわからない。それを回避するためにも、この世界を良く知る者・・・つまりは女神の協力が絶対に必要だ。

 きっとこんなこと改めて言わなくても、目の前にいる女神なら協力してくれるという確信はあったが、それでも今の関係は雇う側と雇われる側の関係だ。後々拗れることのないように、こういう事はなあなあにせず、しっかり声に出し頭を下げてお願いしておく事が筋というものだ。


「大丈夫ですよぉ先生。先生にはぁ滅茶苦茶な依頼をしてると私も思っておりますのでぇ

 依頼した以上、先生にだけぇ責任を負わせるような事はいたしませんからぁ、私に出来 ることがあればぁ何でも仰ってください」


 そう言って慈愛に満ちた笑みを浮かべる女神。

 見惚れるほど美しい笑顔と、欲しい言葉を貰えたからだろうか、先ほどまで感じていたプレッシャーも少し和らいだような気がする。


 ネタが浮かび、女神の協力を得たことで全てのピースは揃った。

 大きく息を吸い、姿勢を正してワープロに向き合う。

 ここから先は書き始めたら途中で投げ出すことのできない、長い長い仕事が始まる。

 生前は物書きとして色んな文章を書いてきた、その経験を生かせば、今回だって絶対なんとかなる。

 そう自分に言い聞かせ、覚悟を決める。


 さぁ、執筆開始だ






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