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創造神の執筆作業  作者: 木部音尾
プロローグ
2/5

プロローグ②

 


 目を覚ますと、俺は警察ドラマによく出る取調室のような部屋でパイプ椅子に座っていた。

 四方をコンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれ、中央には簡素な机がある。

 出入りができるような扉は一切なく、照明も机の周りだけスポットライトのように丸く、明るいがそれ以外は薄暗い。

 机の上には今時見なくなった昔の裸電球のデスクライトと、これまたもう今は見ることもなくなったワープロの機械が1台。

 そして俺の向かいには・・・。


「わぁ!お目覚めになりましたかぁ!お仕事受けて頂いてありがとうございますぅ!」


 と、嬉しそうに胸の前で手を合わせて飛び跳ねている金髪美女が居た。

 ゆるくウェーブのかかった髪に、北欧系の整った顔立ち。

 古代ローマを思わせる白い布を何枚か合わせたようなゆったりとした服を着ており、服越しでも分かるほど出ているところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる。正に「ボン!キュ!ボン!」のプロポーションをしていた。

 先ほどから飛び跳ねているおかげで凄まじい勢いで上下に揺れて自己主張してくる胸についつい目が行ってしまうが、彼女にはそれ以上の特徴があった。

 背中の肩甲骨の辺りから真っ白い翼が生えているのである。

 最初は飾りかなにかかと思って見ていたが、開けた背中から生えている翼は、先ほどから飛び跳ねている間も意思があるようにバサバサと動いており、それが偽物ではなく本物のあることがしっかりと理解できた。

 見たこともない羽の生えた美女が目の前でピョンビョンと跳ねて胸を揺らしている。

 好奇心と下心で見つめていた俺の視線に気が付いたのか、手と背中の翼でわざとらしく胸を覆い隠す


「あぁん、そんなに見つめないでくださぁい」


「あ・・・あぁ、すまない」


 しまった、流石に見すぎたかと少しだけ反省する。

 女性のほうもはしゃぎすぎたと思ったのか、恥ずかしそうにコホンと咳ばらいをすると、居住まいを正す。


「改めまして和上先生ぇ、お仕事うけてくださりましてありがとうございますぅ」


 仕事と言われ俺は考え、最後に見たあの奇妙なメールを思い出す。


「もしかしてあのメールか?」


「そうですよぉ!そのメールですぅ~」


「よかったぁおもいだしてくれたぁ」と満面の笑みを浮かべる美女。正直それだけで一瞬見入ってしまう。

 これはまずいと思い、余計なことを考える前に頭を振って目の前のことに集中する。


「あの奇妙なメール、差出人はあんただったのか」


「そうですよぉ、それでぇお仕事なんですけどぉ」


「待った、その前に」


 仕事の話を続けそうになった美女の話をぶった切って、俺は基本的な質問を投げつける。


「あんた、一体誰なんだ?」


「え?」


 驚いた表情で固まる美女。


「あ、あれぇ?メールに名前、書いてありましたよねぇ・・・?」


「いや、会社名は読めたが名前のところは文字化けしてたな」


 あの奇妙なメールを思い出す。神栄社という社名は書いてあったが、担当者の名前のところが文字化けして読めなかった。


「あちゃー、言語の変換間違えたかなぁ」


「言語の変換?」


 格好もさることながら、言ってることまでおかしくなってきたぞこいつなどと思っていると、「はぁ、私もすわりますねぇ」と言って指を鳴らすと、俺が座っているのと同じパイプ椅子がなにもない空間から突如現れる。

 目の前で起こった突然の手品のような光景に俺が驚いている間に、椅子を開き座り、話を続ける。


「それではぁ私の自己紹介をさせていただきますわぁ、私の名前は女神アルテナ、異世界の神兼神栄社の編集長をしておりますのぉ。」


 といって女神は胸の谷間から名刺を一枚取り出し、俺に差し出してくる。

 妙に生暖かい名刺を受け取り、まじまじと眺める。


「異世界の・・・・女神?」


「はぁい、そうですよぉ。和上先生もぉ見たことございますでしょぉ?異世界転生物のライトノベルとかぁ、小説とかぁ」


「あ、あぁ・・・あるな」


 もちろん職業柄、本はジャンル問わず大量に読む。

 ハードカバーの小説や文庫本はもちろん資料として専門書や図鑑も、元々読書にかんしては雑食だった俺は様々な本を呼んだ。

 その中で近年一番流行っていると言ってもいいのが「異世界転生」というジャンルだ。

 そこで一つの事に気が付きはっとした。


「ちょっと待て、異世界転生ってことはもしかして俺は死んだのか・・・?」


「あー・・・えぇとぉ・・・・」


 気まずそうな顔をして俺から視線をそらす様子を見て、流石の俺も察した。

 意識を失う前のことも思い出し、女神の表情と俺の記憶を合わせて考えれば間違いなく俺が死んだということを認識できたからだ

 衝撃の事実に手で顔を覆い、天を仰ぐ。

 怒りとか、悲しみとか、そんな感情よりも先に「どうしてこんなことに・・・」という疑問が生まれ、思考を支配したお陰で取り乱すこともなく冷静にいられた。


「はーっ・・・・一応聞くが、俺はなんで死んだんだ?」


「それはぁ・・・・えーっとぉ、そのぉ・・・・お仕事を受けて頂けると思ったのでぇ・・・・」


 徐々に消え入りそうな声で、先ほどよりも気まずそうな表情をしている様子から一つの答えに行きつく、まさか


「まさか、あんたが殺したのか・・・?」


「そのぉ・・・はいぃ・・・」


 この数分間で何度目かわからない衝撃と驚きに意識が吹っ飛びそうになる。

 俺は目の前の女神アルテナを自称する美女に殺された。

 恐らくは彼女が依頼した仕事に関係することで、だ。

 もはや思考がぐちゃぐちゃでまともに考えることが出来ないが、それでもなんとか言葉を絞り出す。


「・・・・なんで俺は殺されたんだ?」


「えっとぉそれはぁ、お仕事にも関わるのでそちらも一緒に説明させていただきますのでぇ少し準備させてくださぁい」


 そういってパチン、と指を鳴らすと、またどこから出てきたのか分からないがスクリーンとプロジェクター、ノートパソコン出てくる。

 ケーブルがポルターガイストのようにひとりでに動き準備を始める。

「準備の間に資料資料を渡しておきますねぇ、それとこちらもどうぞぉ」と言って「アルテナシア救済計画」と書かれた小冊子と冷たいコーヒーを差し出してくる。

 どうも、と小さく礼を言って受け取り貰っ資料を眺めつつたコーヒーに口を着ける。

 先ほどから驚きすぎて味はほとんど分からなかったが、冷たい飲み物を飲むことで考えすぎて茹ってきている頭の温度も少し下がったような気がした。


(そうか、俺死んだのか)


 幸い、と言っていいか分からないが、俺には家族も友達も居なかったし両親も亡くなっているので、残す人は誰もいない。

 好き勝手に生きてきた人生、未練がないわけでないがきっと他人よりは少ないほうだと思う。

 実際死んだことを認識した今、心残りはなにかと考えるととHDDとSSDに残した未発表の作品群ぐらいしか思いつかない。

 深く考えればもっとなにかあるかもしれないが、どれも致命的なものじゃないだろうなぁ

 人間関係も仕事上の物でしかなかったし、編集にも特に親しい人はいなかった。

 死んだことを悲しんでくれるような、そんな人も思い浮かばない。

 俺の人生、あっさりしてるよなぁ・・・。


 などと考えていると準備が終わったのか部屋が薄暗くなり、往年のプレゼンソフトで作ったと思わしきスライドのプレビューがスクリーンに表示される

「それではぁ、準備が終わったので始めますねぇ」と言って女神が立ち上がる。

 またどこからか取り出した眼鏡を掛け、レーザーポインターを取り出すと、スクリーンの脇に立つ。

 先ほどまでのフワフワした緩い雰囲気はどこへいったのやら、そこに立つ女神は姿勢を正しピリっとした空気を身に纏い知的な雰囲気を醸し出していた。

 眼鏡一つでここまで変わるのか、と人が変わった空気を察して、俺も居住まいを正す。


「それでは、「アルテナシア救済計画」の説明を始めます。

 まずは私が統括しております世界「アルテナシア」について説明します」


 そこから暫く異世界についての説明を受けた。

 ・・・受けたのだが結構長い説明だった上、コーヒーと真面目な雰囲気で多少回復しているとはいえ、まだまだ沸騰している俺の頭では殆ど理解できなかった。

 理解できた部分の要点をまとめるとこうだ。


 ・女神アルテナが統括しているアルテナシアという世界は、俺がいた現代日本のような世 界ではなく、RPGによくある剣と魔法のファンタジーのという感じの世界。

 ・大陸は大きく分けて2つ、人間以外にもエルフや獣人、ドワーフなど様々な種族が存在 し、種族ごとに大小さまざまな国家を形成、それぞれに文明を築き暮らしている。

 ・文明のレベルはこちらで例えるなら15~16世紀ぐらい、科学技術の代わりに魔法技術という ものが発展しているようである。


 こんな感じだ


 他にも種族間の戦争の話とか、現状の国家の成り立ちとか歴史についても説明されたのだが殆ど頭に入らず右の耳から入ってきてそのまま左耳へ抜けていった。


「・・・・以上がアルテナシアという世界になります、ここまではよろしいでしょうか?」


「ん・・・あぁ大丈夫」

(いかんいかん、こんなに必死に説明してくれているのにぼーっとして殆ど理解出来ませんでしたとか言えないわ)


「・・・では次に参ります。ここからはお渡ししている資料も同時にご覧ください、まずは4Pを開いてください」


 返事をした俺の様子から殆ど話を聞いていなかった事を察した女神は、少しムっとした表情したが直ぐに元の真面目な表情に戻り説明を続けた。

 長い説明のお陰で更に思考が回復し、仕事のことも絡むと最初に言われていたので俺もここからは本気で聞こうと思い、言われた通りに資料を開く。

 指定のページを開くと「滅亡」について書かれてあった。


「救済計画と銘打ってあります通り、今この世界の文明は滅亡の危機にあります」


「滅亡・・・ね」と呟いて女神を見る

 先ほどよりも少しだけ眉間にしわをよせ、硬くなかった声色で話を続ける


「滅亡とは・・・こちらの世界では「世界が持つ自浄作用」のことを言っておりますわ」


 そこからの話はこうだ

 さっきも言った通り、アルテナシアでは魔法技術というものが発展して魔法を使った「魔道具」と呼ばれるこちらで言えば電化製品のようなものが普及していた。

 使用方法としては魔力を持つものが魔道具に直接魔力を流し込むか、魔石と呼ばれる魔獣から採取される魔力の籠った石をセットして使用するのだがここに問題があった。

 こちらで言えば火で何かを燃やした時に発生する二酸化炭素のように、魔道具を使用した際に「魔素」と呼ばれる魔力を含む微粒子が発生する。

 この魔素という物質、本来は人畜無害なのだが大量に溜まると厄介な効果を引き起こす。

 例えば、洞窟などに大量の魔素が集中して溜まると次元を捻じ曲げ亜空間を形成するこれがこの世界で言うところの「ダンジョン」と呼ばれるものらしい。

 人や動物も例外ではなく魔素を一度に多く取り込んでしまうと体内に魔石が形成され人であれば「魔人」野生動物であれば「魔獣」と呼ばれるものに変貌してしまう。

 デメリットしかないように思えるが、この魔素という物質は時間がたつと土に吸収され今度は作物を育てる力になるため、アルテナシアという世界には必須の要素なんだそうだ。

 現状のアルテナシアでは循環のバランスがとれているため問題ないのだが、このバランスが崩れてしまうのが問題らしい。

 例えば戦争などで短期間に大量の魔道具を使われた場合や、文明が発展したことで魔道具の大型化などで魔素の排出量が一気に増えた場合、大地が魔素を処理しきれず循環バランスが崩壊する。

 こうなると、溜まった魔素を排出するために自浄作用を発揮。

 魔素を排出するもの、つまり魔道具を使う人や、魔素から生まれた魔獣や魔人、ダンジョンなどをありとあらゆる方法を使って排除する。

 大地震や火山の噴火、異常気象による洪水に寒冷化と温暖化も組み合わせて草木も生えない大地を作り出す。

 なにもなくなった地表は、溜まった魔素を消費して再度生物が住める環境に復活する。というのが世界の持つ自浄作用「滅亡」って奴らしい。



 滅亡についての大体の説明が終わったところで素朴な疑問が一つ


「滅亡ってやつはよくわかったんだけど、そもそも女神の力でなんとかならんのそれ?」


 多分、至極まっとうな質問だと思う。

 毎度毎度こういう物語の時の神様って妙に力を出し渋ってる感じがあってあまり好きになれないのよね。


「・・・そうですね、私もそれが最良だと思っていました」


 そういうと女神は、悲しみと寂しさが入り混じった何とも言えない表情し、少し考えた後言葉をつづけた。


「幾度目かの滅亡の後、私もアルテナシアに住む命を護るため直接世界に干渉し人々を救ってきました。ですが結局最後には滅んでしまいました」


 なぜそうなったか。

 女神は言う「全ては自分のせいなのだと」


「人々に直接手を差し伸べ、導き救うことこそが最善と思っていましたが。それが思い違いだったのです。私が救えば救うほど人々は何かあっても「神様がなんとかしてくれる」と思うようになり、自分たちで滅亡に抗おうとしなくなりました」


 あぁ・・・なるほなどな、と思う。

 始めは助けてくれた事に対して感謝していても、それが何度か続くと「助けてもらって当たり前だ」と思うようになってきてしまう。

 そうすると本来自分たちで考えてやらなきゃいけないことも誰かがやってくれるのだからいいだろうと投げだしてしまう。


「その後、酷いものでした。次の滅亡が来ても「また助けてもらえるだろう」と思った人々は魔素の問題など忘れ、文明の発展と共に更に多くの魔素を排出するようになりその結果、大気には魔素が満ち溢れ世界が耐えきれなくなり、滅亡が起きるペースも、1000年が500年に、500年が100年にと早まっていきました。

 早まってしまった滅亡に、私も対応できなくなり少しずつ犠牲になる人が増えて行きました。亡くなる人が増えるにつれて人々は不満を募らせるようになり、私への信仰心も徐々に失われていったのです。

 神にとって信仰心とは力の源です。信仰心を失えば私は本来の力を出せず、もはや人々を護ることは出来なくなって行きました」


 辛そうに、喉の奥から声を絞りだすように話す女神。

 その話を俺は静かに聞いていた。


「結局、私が手を貸すことで一時的に滅亡から逃れられたとしても根本的な解決にはなりません。滅亡はその世界に住む人々の手で解決していかなければならない問題なのです。

 なので、今は神託による助言のみ行い、直接手を貸すことは止めることにしています」


「全部私の身勝手が招いた結末なんですけどね」と、力なく微笑む女神に少しだけ胸が締め付けられる。

 話だけ聞けば、人々が勝手に滅んだだけに思えるし、女神本人が言うように安易に手を貸さなければこんなことにならなかったのかもしれない。

 人側にも女神を頼らず自分でなんとかする事が出来ただろうし、女神も力を失う前に人側にそれを伝えることも出来たはずだ。

 もっといいやり方が他にあったかもしれないのに、人は女神を頼りにしすぎたし、女神は人を信用しすぎた。

 結局どちらもやれることはあったのにそれをやろうとしなかった自業自得が招いたなんとも後味の悪い結末バッドエンド


「あんたが直接手を出さない理由は分かったが、俺に頼みたい仕事ってのは一体なんなんだ?」

 重い話に部屋の空気まで一気に重くなってしまい、耐えきれなくなった俺は話を変える。

 女神もそれを察したのか、涙を拭い咳ばらいをして声を整え表情を戻した。


「先生にお願いしたい仕事は、アルテナシアを救うため、その為の物語を書いてほしいのです」


「こちらを」と言って三冊の本を取り出し、俺に渡してきた。


 渡された三冊の本に目を向ける。

 それぞれ「アンドリュー・クリークスの生涯」「研究者ジェシカの一生」「騎士ユリアーナ伝記」と題名が刻印されたハードカバーの大きさは同じだが厚さはバラバラの本

 試しに「アンドリュー・クリークスの生涯」という本を開いてみると、最初の数ページは既に何か文章が書いてあるが、数ページ捲るとそこからはずっと白紙のページが続いていた。

 奇妙な本だなと思いつつも他二冊も見てみるが、最初に文章が書いてあるページ数こそ違うものの最初に手に取った「アンドリュー・クリークスの生涯」と同じように、途中からは白紙のページが続いていた。


「この三冊は私が選定した三人の人間の人生を本にしたもの。先生にはこの三人が世界から滅亡から世界を救う物語を書いてほしいのです」


「世界を救う物語を書く・・・?」


「そうです、白紙のページは彼らの未だ定まらない未来。そこにこのワープロで書いた物語を貼り付けることで彼らの未来を変える事ができます。先生には彼らの未来の物語を書いてほしいのです」


「未来を書き換えるって・・・・」


 そこまで言って気が付く


「まさか、こいつらの人生をこっちの都合のいいように書き換えて世界を救えってことか!?」


「その通りです」


 平然とした声色と表情で女神が答える。

 その様子に俺は少しだけ怒りをおぼえた。

 先ほどまで世界を救えず嘆いていた慈悲深い女神の様子とは全く違う。まるで人の人生などどうなってもいいと思っている冷たい女神だと思ったからだ。

 人の人生を誰かの理不尽で書き換えていいわけじゃない。それぐらいは俺にだってわかった。


「先生、思うところがあるのは分かりますが・・・。その三人の本の最後のページをご覧いただけますか?」


「最後のページ?」


 言われた通り、最後のページを開いてみる。

 そこに書かれていたのは「アンドリュー14歳斬首にて死亡」「ジェシカ19歳異端者として絞首」「ユリアーナ16歳ダンジョンにてオーガに殺害される」と、恐らく三人それぞれの死因だった。


「これは・・・・」


「先ほども言った通りその本は三人の人生を本にしたもの、最後のページのそれは彼らの死の原因を書いたものです。ご覧の通り、理由は様々ですが三人ともいずれも若くしてその命を散らします」


 確かに、と思う。

 この本が本当なら三人とも成人を前に死ぬことになる。

 それも斬首だ絞首だとかなり物騒な死因で亡くなることになる。


「先生の言う通り、本来であれば三人の人生を私の好き勝手に書き換えることは許されないことではあります。

 だからこそ私は三人に「世界を破滅から救う」という使命を与えることで未来を書き換え、若くして死ぬ彼らの運命さえも変えてしまおうと考えたのです」


「・・・・それさ、例えば俺が断ればどうなるんだ?」


「その時は・・・・三人はその本に書かれた通り死ぬことになるでしょう」


 心のどこかで「あぁ・・・やっぱりな」と思った俺がいた。正直こうなることは話の途中で読めていたからだ。

「世界を救う」為に未来を書き換え三人を救う女神の提案は、裏を返せば「俺が書き換えなければ三人はそのまま死ぬことになる」ということだ

 要は女神はこの三人の命を人質に取って是が非でもこの仕事を受けさせるつもりなのだろう。

 正直に言えば顔も見たこともない、早死にする未来だけ知ってる赤の他人だ。

 関わる必要もないし、断って死んだところで俺の人生に何の影響もない。

 ・・・まぁ死んでるんですけどね!


 真顔で睨むように女神の顔を見る

 恐らくこの女神、性格的に俺がこうなると絶対に断れないことを知っている。

 例え顔を知らないし関わる必要もないし人生に影響がない相手でも「俺のせいで誰かが死んだ」という事実だけは俺の心に一生後味の悪い記憶として刻まれる。

 受けても断っても俺は「三人分の人生」を背負うことになるのだ。


 ・・・・結局のところ、俺はここに連れてこられた時点で選択権などない、所謂「詰み」の常態だったのだ。

 頭を抱え、深くため息をついて、なんとか反撃の言葉をひねり出す


「・・・・なんで俺なんだ?」


 物語を書くのなら俺よりも優れた作家なんて星の数ほどいる。

 それを俺のような才能のない物書きをわざわざ殺してまで雇う理由を知りたかった。

「それはその・・・・」と少し気まずそうに一冊の文庫本を取り出す。

 その本を見た瞬間俺は「ヒュッ!!」と変な声を出して呼吸が止まる。

 女神が出した本は所謂ライトノベルという奴で、15年前に俺が書いたもの、俺のデビュー作だった。


「先生が書いたこの小説。私本当に大好きで何度も何度も読みました。特にこの主人公とヒロインが駆け落ちするところが本当に素敵で・・・・」


 先ほどの真面目な表情はどこへ行ったのやら、笑顔の花を咲かせ、若干頬を赤く染めながら声を弾ませて小説の感想を早口で語る女神。

 俺としては正直忘れたい作品の一つだった。

 当時、俺は自分のHPで小説を掲載してそれなりの人気があった。BBSにも連日「面白かった」とか「早く続きが読みたい」とか好意的な感想が寄せられたことで「俺には才能がある」と本気で思っていた。

 そんな時にとある出版社から誘いを受け、書いたのがこの作品だった。

 結果は惨敗。一冊目で全く人気が出ず、売り上げも悪く二巻目を出した時点で打ち切りが決定。

 打ち切り後も出版する際に契約書をよく見ずに契約した俺はかなり不利な契約を結んでいたため出版社と大揉め、最終的に販売停止の絶版という事となった、忘れたいのに忘れられないそんな作品である。

 そんな人生の恥部とも言える作品の感想を目の前でうきうきとしながら語られるのはもはや羞恥プレイである。

 辱めに耐えきれず机に突っ伏し手をひらひらとさせて降参の意をしめす。


「分かった、分かったからもう勘弁してくれ・・・・」


「はい?」


「とにかく、あんたが俺の作品のファンだってのは分かったから、契約の話をしようぜ・・・」


「!?受けて頂けるのですか!」


 驚きと喜びの籠った声を上げ、「それではこちらの契約書をご用意しますね!」といってパチンと指を鳴らす女神

 もはや色々と理解できない事があった後まさかの羞恥プレイでもはや俺に物事を考える力はなく「ではこちらにサインを」と言われるがままに契約書にサインをする。

 サインした契約書を受け取った女神は「はい、これで契約は完了しました」と満面の笑みで言ったあと本日最大級の爆弾を落としてきた


「それではこれからよろしくお願いしますね、創造神ワガミ様」


「は?」


 みんなも、契約を交わす際はしっかり契約書を確認しようね。

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