第1章
第1章
「キーンコーンカーンコーン」
静まっていた教室に、生徒たちの声がこだまする。あちらこちらで放課後の予定を話し合う生徒の声が聞こえるが、彼はただ一人、勉強道具をカバンに詰め席を立った。
「和、今日部活??」
そういって声をかけてきたのは、木村凪。彼とは幼稚園からの付き合いで僕の数少ない友達のひとりだ。クラスではリーダー的な存在で、人気もある。
「部活はないけど、ちょっと走って帰るつもり。」
僕はそう答えて部室に向かおうとすると凪は
「本当走るの好きだよなー。俺なんか出来れば走りたくたい……」
といい、歯を見せて笑っていた。そんな彼に僕は、
「良くそれでサッカー部のキャプテンが務まるよな」
と笑いながらいうと、彼はあれこれ言い訳していたが、長くなりそうなので早めに切り上げ教室を出た。ジャージに着替え、いつものように、グラウンドの隅でストレッチをしていると、校舎の三階の窓から手を振ってくる女の子がいた。彼女は、同級生の堀北朝。1年生の中では有名人で、栗色のショートヘア(ショートボブと言うやつだったと思う)に、整った顔立ちで、明るい性格で誰に接しても優しい、まさにこれぞモテるといった印象を抱かせる女の子だ。なぜそんな子と僕が手を振り合う関係になったのか。
実は彼女とは中学校が一緒だった。その見た目と性格もあってか、中学校でも人気者だった。そんな彼女と僕が仲がいいという訳がなかった。ただ1度だけ傘を貸してあげたが、それ以外は何か頼まれ事をした時や、委員会の話をしたりする程度の関係だった。そのまま何事もなく中学校を卒業し、高校に進学した。僕は家から1番近かった玉置高校に進学した。特別レベルが高いという訳では無いが、この街の高校では三本の指には入るくらいだ。中学時代からあまり好んで人と関わっていた訳では無いので、誰がどこの高校に行くかという情報は入ってこなかったし、特段興味もなかった。なので彼女が玉置高校に入学していた事は知らなかった。入学して数日が経ったある日、
「あのっ、もしかして朝羽くん?」
学校の食堂で食券を買おうと券売機の列に並んでいた所だった。声がして後ろを振り向くと、そこには彼女が居た。なぜここに彼女が、と思って動揺していたが、彼女の顔から下に目をやると、納得した。彼女が着ていたのは玉置高校の制服だった。紺色の長袖のブレザーで、下衿の部分には玉置高校の校章のバッチが光っていた。胸元にはチェック柄の大きいリボンがあり可愛らしさを演出している。スカートは紺色のシンプルなやつだが、裾は膝より上にあり、まだ肌寒いからかタイツが黒く光っていた。そんなことを考えていると彼女は不思議そうな顔をしてこちらを覗いて来たので、
「久しぶり。堀北さん。」
と返すと、彼女はうんうんと頷き、やっぱりそうだーと何だか嬉しそうにしていた。すると後ろから、堀北さんの友達らしき女の子が近づいてきた。
「なになにー?あーちゃんのカレシ??」
「違うよっ!!!中学の時の友達だよっ!」
堀北さんは顔を真っ赤にして否定していた。その顔に少しドキッとしつつも、僕を友達だと思っていてくれたんだ、と心の中で嬉しくなった。堀北さんは、僕に手を添えて
「彼は朝羽くん。それでこっちは今宮桜。幼稚園からの付き合いなんだ!」
「君が朝羽くんかぁ。ふふっ。よろしくねぇ」
彼女はそう僕に伝えると顔や体をジロジロと見てくる。
「よ、よろしく」
少し引き気味にそう答えると彼女は笑ってこっちを見ている。
最初の印象としては怖かったが、よく見てみると彼女も堀北さんに負けず劣らずの美少女だ。
「朝羽くん。またね!」
「うん。また」
こんな事があり、廊下であった時などに挨拶をする関係になり、今に至るというわけだ。こっちを見て手を振ってくれると目の保養にもなるし、やる気も出る。今日も僕は練習をがんばれた。