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おかくれになる

作者: 倉紀ノウ

 こんな話を聞いた。中学時代からの友人の話だ。友人は小学校の教師をやっていて、今年で十年目になる。

 受け持ちの子から不思議な話を聞いたのだという。その、受け持ちの子というのがよくおかしなものを見るという子で、木の枝の上に小さな人が見えるとか、神社の屋根の上に小鬼を見たとか、そういう話をよくする子なのだそうだ。その子はお寺の子で、その子の父親は有名な古刹の住職らしい。その子はよく、父親にも『こんなものを見た』と話すのだそうだが、父親は『そういうものを見ても、他人に軽々と話してはいけない』と諭すのだそうだ。だが話してしまったのだからしかたがない。その話をしよう。

 その子が学校の帰り道、何か嫌な感覚に襲われたのだそうだ。その子が言うには、妙なものを見る時、唐突にこの『なんとなく嫌な感じ』に襲われるのだそうだ。その子は立ち止まって、周囲を見回した。すると、予感どおり、妙なものが向こうにいた。

 その妙なものは、背丈は子供ほどの大きさだったそうだ。

 その子は幽霊の類を一目見ると、自分に害意があるものなのか、そうでないものなのか感じ取ることができるそうだ。だが、そのときだけはわからなかったそうだ。だから、とにかく見つからぬように木の陰に隠れたそうだ。

 その、妙なものは無数にいて、神社の階段近くの、鬱蒼とした旧道を中心にしてあちらこちらと動き回っていたそうだ。

 人のような形をしているが足は無く、亡霊のように宙に浮いていたらしい。

「おかくれになられた」

「おかくれになられた」

 と、妙なものがぶつぶつ言っている。

 隠れている自分を探しているのだと思い、その子はますます恐ろしくなって、木の後ろでじっとしていたのだそうだ。

「どこへいかれた」

「まだ見つからぬか」

 低く呻くような気味の悪い声を出すので、その子は隠れながら震えていたそうだ。

その子が、逃げようか迷っていると、その妙なものたちは、

「〇〇〇〇様は、どこへ行かれた」

 と言ったそうだ。

 その子は自分を探しているのではないのだと思い、亡霊は他の人を探していると思ったそうだ。それで、恐怖は消えないまでも少し安心した。

「〇〇〇〇様」「〇〇〇〇様」

 それが仕える主の名なのか、それは定かではない。口々に自分たちの崇拝する者の名前を呼んでいたそうなのだが、名前がとても難しく、子供には覚えられるものではなかったそうだ。


「なんとかオオミノカミと聞こえた」

 その子は言ったそうだ。

 その話を聞いた友人は、その子にこう言ったそうだ。

『おかくれになるというのは、身分の高い人が死ぬことを丁寧に言う言葉なんだよ。死ぬのではなく、隠れる。ほんの一時、いなくなって、また姿を現すだろう、という言葉なんだ』

 崇拝している人間が死に、しかしその人が死ぬはずがないと、今でも探し続けているのだという。

 それを信じているあの妙なものたちは、いまだにその、なんとか様を探し続けているのだ。

 その子が言うには、妙なものたちの身なりは大昔のもので、それこそ古事記に出てくるような服を着ていたのだという。その顔は人間ではなく、鹿やウサギやカエルに似ていたそうだ。

 友人の話を聞くうちに、なんだかただの怪談と片付けるのが勿体ないような気がした。

 もしかしたら、その者たちが探していたのは古い神々だったんじゃないか。私は一人でそう思った。神様がいなくなったのだろうか。それならば、その子が見た者たちは亡霊などではなく、神々に仕えていた使者なのだろう。色々と想像が膨らむが、真実はもうわからない。

 無垢な子供が、神々の世界を垣間見たのだろうか。



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