サバイバル
目が覚めると馬車の中だった。口を縄で縛られて言葉を発せなかった、手と脚も縛られて何もできなかった。
「んんんー!」
「起きちまったか、早くしてくれ」
「もうここら辺でいいだろ」
そう二人の兵士が言った。
すると縄をほどかれ馬車から突き落とされた。
「あいたたた……」
――ぼーっとしてる暇はないかもな……
どういうこと?
――もう夕方だ。夜になると光源もなくて猛獣に襲われる未来はほぼ確定だ。
「そうだ、ここ……南西の森って、『ブデン森』のこと……!」
――どういうことだ?
ここ、すごい凶暴な魔物がたくさん出るって……
――魔物についてはよく知らんがなおさら急がねえと。サバイバルはまず安全が最優先だ、寝床だ寝床。木の上に拠点作るぞ。とにかくツタと石を集めまくって大きめの木の上に登れ。木登りはできるか?
それにできると答えると実行に移せと言われた。
――音はあまり出すなよ。猛獣が寄ってくるぞ。
――穴があったら目印つけとけ、後で来ることになるからな。
――取れる木の実は取っておけ、食えるかどうかは後で試す。
――乾燥した落ち葉や枝は可能なら集めて一箇所に置いておけ。
――アリの巣も目印つけておけ。一応だがな。
…………………
「はあ、はあ……」
――よくやった、十一のガキが全力で。とりあえず木に登って寝床作るぞ。
まだやるの……
――日没になったら行動できねえ。後三十分もねえ、急げ。
言われるままにツタで簡易的な柵を作った。縛り方も言われたようにできなくて適当だし大丈夫なのかな……
――あくまで無いよりもマシくらいだ。もう日没だ、寝ろ。明日に備えろ。
木の実は?
――明日だ。ある程度の明るさがないと毒の判別がしづらい。
そう言われて枝に寄りかかって魔物が襲ってこないように願いながら眠りについた。
………………
日が刺してきて目が覚めた。そして昨日のことを思い出して涙が出てきた。右手の紋章が出てきたのに国から追い出されて、親とも別れて……
――悪いがあんまりウジウジしてるのはきついぞ……
「え……?」
――7時の方向見てみろ。
七時の方向?
――ああもう、左後ろだ。ただし絶対に声をあげるな。
するとその方向には黒く大きな一匹の狼がいた。
「っ……!」
そうだ、声を出しちゃダメなんだ……向こう側には行かないようにしよう。
――いや今日はそっちに行く。
なんで!? 絶対だめでしょ!
――気持ちはわかる。だが、あの猛獣が向こうに行ったということはそっちに生活に必要な物があるはずだ。おそらくは水か……ともかくあてもなく歩き回るより全然いい。警戒しながら足跡たどるぞ。まあだけど今は――
グーという音が僕からなった。
お腹空いた…… 昨日の夕方から何にも食べてないよ……
――腹ごしらえだな。まあ毒があるかもしれねえからそれの確認するぞ。
どうすればいいの?
――まず左腕を袖めくってだせ。んで、あーそうだな……木の実をかじって汁を腕にかけろ。ぜってーに飲み込むんじゃねえぞ。
そう言われてまず赤い木の実から始めた。
これすごく甘いけど食べちゃダメなの?
――絶対にダメだ。安全が確認できるまでダメだ。
そう言われて仕方なく言うことを聞いた。黄色のはすっぱく、小さくて濃い青色のはちょっと苦くて、外が薄緑で中は白いのは苦かった。
これでどうすればいいの?
――十五分放置。
十五ふんって?
――えー? そうだな……一日を二十四時間とした時一時間を四分の一に割った時間。いやでも、公転時間が一緒とは限らないから、光が299792458mを進む時間……あーくそ1mも分からねえのか。大体地球の北極点から赤道までが一千万mだから……あるいはセシウムが遷移する時間、なんだったけな、……99億2千万しかわからねえ。クソッ、規格がねえって辛すぎだろ!
彼の言っていることが全くわからないので理解しようとすることは諦めた。
まあよくなったら教えてよ。
――ああ、そうするよ。くそ、mも、Lも、gも分からねえ、それができなきゃmolまで……最悪mol単位は新しい単位を作れば大丈夫なのか。……あーくそ面倒だ、まず正確な六分儀を作って……高い山を……あ、待て山の高さすらわからない。重力はほぼ同じだから星の規模が同じとして、1mの時水平線まで3.57kmなのを……
なんかよくわからないことをずっと言っていて質問する気になれなかった。
だけどしばらくすると落ち着いたので色々と聞いてみる。
そういえば、名前は? ずっと聞いてなかったし。
――あー言ってなかったな。天野孝和だ、好きに呼べ。お前はノイマンだったか。
うん、アマノはどんな世界から来たの?
――魔法もなければ魔物だとかいない世界。
……本当? すごい不便そう、それに魔物じゃなくても危険な動物だっているだろうし……
――不便そうと思うならちょっと勘違いだな。数千年間、いやそれ以上の時を人類は創意工夫で森羅万象を知ろうとした。バカみたいにただ試すだけ奴もいれば、知りたいという欲求だけで調べる奴もいれば、あんな物やこんな物が欲しいと発明した奴もいる。戦争のために研究した奴もいた。
そう彼は淡々と話していった。ただ話の量が多すぎて聞き流していったことも多い。
――理由はともかく世界のルールを調べまくったおかげで、それを応用してとんでもねえ便利な世界になったんだ。
へえ……
――……あんまり信じてない様子だな。じゃあこの世界のことも教えてくれよ。
それに「わかった」と答えていろんなことを伝えていった。アマノの世界にないっていう魔法、魔物、魔族について話していった。
――いやこっちのが信じられねえよ! ルールもへったくれもねえじゃねえかよこの世界!
嘘はついてないよ!
――疑ってるわけじゃねえよ。ただ……他の世界が入り乱れて魔法に関しては……呪文唱えりゃ使えるって言う奴、思い込めば使える、魔法陣が必要、儀式が必要、それぞれ言ってることが違くてそれでも本人らは使えている。くっそ、どうなってるんだよ…………いや、ルールを調べ尽くす、ルールがなけりゃ世界は成り立たねえ……そもそも量子力学とアインシュタイン相対性理論ですら矛盾起きてんだろ……それにおそらくはある程度は俺の世界とルールは同じだ。
どうしてそう言い切れるの?
――上見てみろ。
上? 空?
――ああそうだ、青色だろ。これは空気で拡散する光の色が青色以外ってことだ、それに色があるってことは光の波長も大体同じってことだ。それに植物の葉は緑色だ、これは葉緑体があるって証拠だ。炎の起こる要素も聞く限り同じだ。少なくとも化学、ある程度の生物学、古典物理学は同じはずだ。
へー。……それで木の実まだ?
――もういいんじゃないか。拭いてみろ。
「わかった」と答えて袖で腕を拭う。すると気づいた。
「一つだけ腫れてる……」
――危なかったな。赤いのはダメだ、毒は確実だ。他のは一個くちびるに触れろ。
青いのを持ってそうした。特に問題はない。
――よし、次は口に入れて十五分、噛んだり飲み込んだりするなよ。
またぁ?
――まただ。まあ死ぬ可能性の覚悟があるならそうしてもいいがな。お前の行動はお前が選ぶんだ。
……わかったよ。
しばらくの間、僕の今までについて話していった。
――ほえー、算術に自信があると。
うん、村の友達の中で一番なんだ! 足し引き掛け割る全部できるよ!
――なるほど、確かお前11歳だったか。ちょっと問題出してやろう。
どーんとこい!
…………
――……ま、中世の農民出身じゃこんなもんか。二桁の掛け算や分数の演算は厳しいと。
………………いじわる。
――意地悪じゃねえよ、これからのためだ。ちょっとずつでも算術とかその他科学を教えていく必要があるな。
アマノは大人気なく難しい問題を出してきた。こんなの村じゃ大人すら出来る人は少ないと思うのに。
――ところでだ。お前元から体搔きむしっちまう癖ってあったか?
いや、なかったよ。そういえばなんか体かゆいな……
――!! 今すぐ口の中のもん全部吐き出せ!!
そう言ったので思わず口から出てしまった。もう、なんなのさ……
――明らかにこの実が原因のかゆみだろ。体かくな、爪を立てるな、菌とかウィルスに感染したらゲームオーバーだぞ。
うん……よくわからないけど。
そんなやりとりをして残りの黄色の実と皮が緑の実は食べられることがわかった。
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科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが)