プロローグ
『右手の紋章』
この世界では誰もがそれが浮かび上がることを夢見る。それを持つと誰よりも強い力を得られる。
人は彼らを勇者と呼ぶ。
異世界の英雄から力を授かれる、そして誰もが勇者達に残虐非道な魔王の討伐を願う。
僕も勇者になれたら――
………………
光が目に入り目が覚めた。まだ寝ていたいという気持ちがあるが今日も農作業をしなければいけない。
そう思って右手で目をこするとそれに気がついた。
「あああああああ!!!!」
思わず叫んだ。やった! やった! ついに僕にも来たんだ!
喜んでいるとドタドタとこっちに走ってくる音が聞こえた。
「どうしたんだ!」
先に起きていたお父さんが扉を強く開けた。その顔はとても心配していたようだった。
「見てよお父さんこれ……!」
右手の甲を見せつけた。するとお父さんは固まってしまった。
「お、お父さん……?」
「うおおおおお!!!!」
「うわビックリした」
急に大きな声を上げるので驚いてしまった。でもお父さんは喜んで声を出したようだった。それも涙が出るほどに。
「まさかノイマン、君が『右手の紋章』を持つとはな」
右手を持って感動したようにそう言った。そしてお母さんを呼んだ、やっぱりお母さんもとても喜んだ。
それから村は大騒ぎだった。たくさんの人が祝福してくれた、友だちも近所の大人たちも。そしてすぐに王都に行くことが決まった、きっと王都でもたくさんの人が歓迎してくれるに違いない。
数日後そんな期待を胸にしてお父さんとお母さんと共に王都行きの豪華な馬車へ乗った。先に連絡の馬車が向かっている、きっと今頃王都でも大騒ぎに違いない。
右手の紋章がつくと異世界の英雄から力を授かれるって言うけど、その英雄もわからないし力も何も感じいない。勇者についてはたくさんの事が秘密にされてるけどきっとこのこともすぐにわかるはず。
数日後に王都へ着いた。馬車から降りると目の前に今までに見たことないほど大きかい、まるで山のような城が目に入った。
「すごい……」
「ああ、教会も一緒に建てられているからな」
兵士さんに連れられて今までに着たことのないほど綺麗な衣服を身につけた。お父さんとお母さんもだ。
そしてそのままとっても豪華で大きな扉の前まで連れてこられた。
「これから国王陛下に謁見する。粗相のないように」
「ひゃ、ひゃい!」
すごい緊張してきた。今までこんなこと想像すらしなかった。変なことしないだろうか。
扉が開かれる、するときらびやかな部屋が見える。心臓が張り裂けそうになりながら兵士さんに着いて行った。白髪で王冠を被って大きな椅子に座っている人がいる、きっとあの人が国王様なのだろう。
少し歩いたところで目の前の兵士が止まってひざまずいた。お父さんとおかあさんもしたので真似して下を向く。
「右手の紋章を持った者を連れて参りました」
「ご苦労、してその者は?」
「この少年にございます」
「少年よ、名をなんと申す」
え!? 僕が言うの!? お父さんが目で合図を送ってきた。
「の、ノイマンです」
うつむきながらそう言った。
「右手を見せよ」
そう国王様が言ったので、右手の甲を差し出した。緊張で手汗がすごい。
すると横から医者のような格好の男が手を見てきた。そして喋り始めた。
「陛下、やけどなどではございません。右手の紋章に違いないでしょう」
「よろしい、では彼を例の部屋へ連れていけ。保護者は適当な部屋でくつろがせておけ」
そう言ったのが聞こえると兵士さんに連れられて部屋の外へ出た。お母さんとお父さんがは別の方へ連れていかれた。
しばらく歩いていると白い石でできた部屋に入った。するとその兵士さんは「ここからは神官様に従うように」と言うので、目の前の神官様に着いていく。
「ここからのことは誰にも言わないように、ご両親にもです。もしそうしたらその人をひどい目に合わせなければいけませんから」
「は、はい!」
「まあ、そこまで身構えなくても大丈夫です。言わなければいいだけですので」
そう言われて少し安心して着いていった。すると扉のところで止まった。
「いいですか、ここに入って部屋の真ん中でじっとしていてください。するとあなたの右手の紋章の力と英雄がわかるでしょう」
そう言われて扉が開けられた。「わかりました」と答えて部屋に入った。あまり大きな部屋ではなかった。窓もなく白い石だけでできた床、壁、天井。窓もなかった。所々ランプはある。
どれくらいじっとしていればいいんだろうかと考えていると、突然部屋が光りだした。
な、なにこれ!? 急に眠く……
――――――
――よお、聞こえるか?
だれ……?
目の前に人がいるように感じた。ただ顔もよくわからない。
――お前らが言うところの『英雄』だ
本当に!? どんな力を貰えるの! どんな英雄なの!
――落ち着けガキ、一個ずつ答えてやるから。まず力だな、お前にやる力は……
うん……
――ない
……ええええ!!!??? どういうこと!? もしかして試練とかを突破して――
――そんなもんねえよ。まじでねえ。
なんで!
――落ち着けや。強いていうなら……ここだ
彼は僕のおでこを指さした…
…………おでこ?
――頭だ頭! こんなファンタジーワールドでも文明レベルも中世レベルだ。俺とお前でこの世界を科学で導いてやる事ができる。
……魔王は?
――安心しろ、科学は戦争と強く結びついてる。最強に準備したお前なら、ただの子供ですら魔王も一瞬で生命活動を停止させられる。
誰も魔王にすら辿りつけてないよ。そこまで行かないと。
――安心しろ。ランチェスターの法則っつーもんがあってな。戦力=武器の性能×人数の2乗。その武器の性能を相手に比べて百倍にも一千倍にもできる。つまりお前がいれば軍隊は最強になる、俺の知識の武器があれば魔王軍なんて楽勝だ。
……でも僕に力はもらえないんでしょ?
――力なんか必要ねえよ。この戦争で真の英雄となるのは魔王を殺したやつでも戦場で成果をあげたやつでもねえ。その武器を作ったやつだ、つまりお前と俺だ。知識こそ力だ。
うん、わかった! これからも話せるの?
――おう、他人には聞こえねえけど。お前には聞こえる、聞こえてつっても耳の中の有毛細胞が感じてるわけじゃなく脳に直接情報を伝達するってわけだから……あーいや脳が誤解してるだったらいいのか。幻聴でも聞こえるっていうしな。
?
――あー気にすんな。ともかく仲良くやろうや。
――――――
目が覚めた。きっとさっきのはただの夢じゃないだろう。
立ち上がって扉へ向かおうとする。
――あー、もしもし聞こえてるか?
「うわびっくりした!」
――悪い悪い、喋んなくていいから俺に伝えようと念じてみろ。
念じる……念じる……念じる……念じ
――聞こえた聞こえた。これから俺に伝えようとするときそうしろ。
わかった。
そう答えて扉を開けた。するとさっきの神官様がいた。
「どうでしたか、英雄様とお話はできましたか?」
「はい! 英雄様は――」
「そのお話は国王陛下の前で」
そう言われて着いていってもう一度あの豪華な部屋に入って国王様の前で跪いた。
「儀式は終わったか。して、どんな力を授かったのだ?」
「……ないんです」
「は?」
「その代わりに――」
「待て、今ないと申したか?」
「は、はい――」
――言葉を変えろ。直接的な戦いができる力はない、その代わりの知恵が多くあると。
「直接的な戦いの力はないんですけど代わりの知恵が――」
「同じではないか! 勇者が最前線で戦えないなど……」
――あ、これあかんやつだ……
え!? どういうこと?
――武器を持った奴は十四人、そして逃走路は後ろの扉と前の窓、窓は高すぎてほぼ無理と考えていい。後ろの扉には二人。
なんで、そんなこと考えてるの!?
――そりゃあ――
「こいつを処刑しろ! このわしをぬか喜びさせおって……!」
――こういうことだよ! 要するにあの国王は勇者は前線で戦うと決めつけの強いバカなただのジジイなんだよ!
「今すぐにだ! こいつの親もだ!」
「な、なんで……」
すると激昂すると神官の人が耳打ちをした。
「ならば国外へ放り出せ! 南西の凶暴な魔物が多くいるところだ! こいつの家族もだ、ただし同じところへやるなよ」
――チッ、後ろへ向かって走れ! 姿勢を低くして全力疾走でだ、五秒以内に辿り着け。
お母さんとお父さんが――
――んなこと後考えろ、チャンスは来る。逃げられたら。今は自分のこと考えろ!
……わかった。
決心をつけ後ろへ振り向くと――
首の後ろに強い衝撃を覚えて意識が途切れた。
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星一評価、辛辣、一言感想でも構いません、ちょっとした事でも支えになります。世界観や登場人物の質問もネタバレにならない程度に回答します。(ガバあったらすいません)
科学質問も出来る限り回答します(ネット知識なので大したことはできないしガバガバですが)
今日3話投稿します。PVが伸びるなら明日以降連載します。