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おはようございます。

少しシリアス風味です。

とりあえず、現代医学に希望を託し、それでもどこに行けば良いのか検討もつかなかった私は、永らく主治医を担当してくれていた所謂「町医者」の先生を訪ねてみた。


チョット諸々持病があって10年近くお世話になっているその病院は、看護婦さんだってほぼ全員顔見知りだったから、こんな異常事態でも、ずいぶん敷居が低かった。


まぁ、かなりの大騒ぎでしたけどね。


旦那の顔も知られてたし、ダメ押しで子供達も引き連れて行ってみたから、本人だというのは辛うじて信じてもらえた。


ビバ、10年来の付き合い!


長男次男ともに、お腹の中にいた頃から可愛がってもらってた関係だしね!

産婦人科にあるエコーじゃ無くても、胎児の様子って見れるんだよ?持病のエコー検査のついでに見せてもらったもんね!


最も、信じてもらえたけれど、なんでそうなったか、は判明しなかった。

主治医の先生に紹介状書いてもらって、所謂大病院、ってやつにも行ってみたけど、やっぱりわからなかった。


ま、そうだよね。


儚い希望だろうと、分かっていたからそれほど気落ちはしなかったけど。


それよりも、原因不明の病(?)に、大病院の先生方の目の色が少し変わってたのの方が怖かった。

幸い、主治医の先生が出向で働いてた病院で、それなりに発言権持ってた場所だったから大丈夫だったけど、下手したら人権危なかったんじゃないかな?私。


で、無事に帰宅許可が下りた訳だけれども。


本当の問題はここからがスタートだったんだよね。

何しろ、私の見た目は現在10歳前後の子供で、だけど、本来の立場的にはアラフォーで既婚者で二児の母親なんだもん。


コレが、ひと月もすれば元に戻る、って保証があるなら引きこもってやり過ごすことも出来たんだろうけど、そんな保証、当然無い。

どうして縮んだのかがわかんない以上、どうやれば元に戻るかなんて、皆目見当もつかない。


だったら、このまま、生活して行く覚悟を決めるしかないわけで。


だけど、それは、想像以上に大変な日々の始まりだったんだ。






「第1回高瀬家夫婦会議を始めます」

重々しく宣言した明菜に、コーヒーを用意していた翔志が笑いながらマグカップを渡した。


緊急入院から解放されたその日の夜、子供達が寝静まり、ようやく2人でゆっくりと出来る時間が取れた。

当然のことながら、「これから」のことを相談しようという流れになったのだ。


「なに、そのテンション。わあ〜〜、とか、やらないとダメ?」

くつくつと笑う翔志に明菜も少し照れたように微笑んだ。


「だって、どんなふうに話して良いのか迷ったんだもん」

小さく舌を出して、牛乳のたっぷり入れられたカフェ・オ・レというよりコーヒー牛乳と呼びたくなるような甘い飲み物を明菜は口にした。


体が子供に戻ったせいか味覚までお子様舌になってしまったようで、コーヒーも砂糖と牛乳をたっぷり入れないと飲めなくなってしまった。


カフェイン中毒と笑われるほど日に何度も愛飲していた明菜だが、何気なく飲んだコーヒーの苦味に吹き出しそうになってしまった。そんな自分に、本当に子供に戻ってしまったんだとシミジミ実感して肩を落とした記憶はまだ新しい。


それでも、意地になったかのように飲めないコーヒーを手にしてしまうのは、「大人としての矜持」なのかもしれない。

まぁ、砂糖と牛乳をたっぷりと入れている時点で、矜持も意地もあったものではないのかもしれないが………。




「とりあえず、職場にはキチンと話しないと、ねぇ。この体じゃ、どう頑張っても続けていけないだろうし」

少し視線を落としがちにつぶやく明菜に、翔志も微妙な表情になる。

明菜が、とても楽しそうに仕事をしていたのを見ていただけに、その心中は察してあまりあった。

だが、その道に素人の翔志から見ても、慰めでも「続けてみたら」とは言えなかった。


明菜は、介護福祉士として老人福祉の現場で働いていたのだ。

支える対象よりもはるかに小さく弱くなってしまった体で、今までのように介助をする事はとても無理だ。


「とりあえず、所長にメールして時間取ってもらうよ。心配もかけてるしね」

現在、明菜は原因不明の病に倒れ入院している事になっていた。

嘘ではないのだが、体調的には元気だったので非常に心苦しかったが、正直に話すのも躊躇われたのだ。


心の何処かで、二、三日の事かもしれない、と希望的観測があったことも否めない。

だが、あらかた調べ尽くして『原因不明』のレッテルが貼られてしまった以上、これ以上引き伸ばしてもしょうがないだろう。


「こんなことなら、お見舞い断らなければ良かったかなぁ」

検査入院の連絡をした時その打診はあったのだが、移るものだと困るから、と理由付けて断っていたのだ。


「まぁ、些細な差だろう。どこで会うにしろ、顔合わせたら一目瞭然なんだし」

肩を落とす明菜に、翔志が軽い調子で返した。


「だよね〜〜」

半笑いでつぶやくと、気を取り直すように明菜はもう一口、コーヒーを口に含むと携帯を手に取った。

「あと、保育園も。しばらくは失業状態で通わせられるとして、顔出し説明しないと送迎が出来ないね」


メールを打ちながら、明菜がつぶやく。

現在は、「妻が入院しまして……」と休みを取った翔志がおこなっているが、仕事が始まれば、そういうわけにもいかないだろう。


「あぁ、天海先生はともかく、園長先生が固まりそうだな……」

「………ちょっと、リアクションが楽しみなんだけど」

思わず夫婦で顔を見合わせてニヤリと笑いあう。


上の子の時からお世話になっている保育園はすっかり先生たちとも顔見知りで、よく言えば気安い関係になっていた。


何事も子供中心の考えを持つ園長と副園長ではあるが、決定的な違いは視界の広さと応用力。

猪突猛進気味の園長を、笑顔の副園長がさりげなく手綱を引く光景は保育園の裏名物である。


「後はご近所とか、小学校………?」

「だなぁ。ご近所………は、町内会長と二軒隣ぐらいは行っとくか。そしたら自然と広がってくだろ」


下を気にせずのびのびと子供を育てたいとの方針のもと、少し田舎に一軒家を購入していた為、それなりに横の付き合いというものが存在している。


最も、数十年前に作られた住宅街は、住んでいる住人も60代以降の子育て終了世代が多く、新参者の夫婦共働きである翔志達は、引っ越して5年、あまり関わることもなく過ごしてきた。

町内の行事ごとや掃除の時に声をかけられれば参加するスタンスを取っているため、そこそこに顔見知りはいる程度である。


幸いにものんびりした気質の住人が多く、付かず離れずの若い夫婦にも好意的に接してくれる。

まぁ、声をかけられれば時間の許す限り参加していたから、貴重な若い労働力、と思われている気もするが……(なんとアラフォーでも「若い」に括られるのである)


「入院の恩恵として、役所関係の手続きはあらかた済んでるし、印籠ともいうべき医師の診断書もあるし、なんとかなるでしょ」

「まぁ、中身が本人だっていうのを信じてもらえるのが最大の難関だし、な。普段の付き合いが密であるほど、すんなり信じてはもらえるだろ」


お気楽とも言える発言は、どちらかといえば、自分たちに言い聞かすような響きになっていたが、それも仕方がないことだろう。

こんな事態は前代未聞であり、対応策など、どこを探しても見つかりはしない。

手探り状態でなんとかやっていくしかないのだ。


「小学校は、とりあえず置いておこう。幸い今はなんの役員もしてないし、参観日はおれがいく方向で」

「参観日………行きたいのになぁ」

しょんぼりと肩を落とす明菜に、翔志が慰めるように頭を撫でた。


「とりあえず3ヶ月、様子見て諸々変化なければまた考えよう」

「は〜い。まぁ、関わる人数増やしてもいいことはあんまり無さそうだしね〜」


さらに、話し合いは進み、互いの両親にもしばらくは現状を伏せる方向で決まった。

どちらの実家も他県にあり、電話での交流はそれなりにあるが、里帰りはせいぜい半年に一度ほど。

ついでに言えば、どちらの父親も持病持ちで余計な心労はかけたくない。


「まぁ、問題あるとしたらうちの母親の異常な勘の良さ、なんだけど………」

ため息とともに、明菜がそっとこぼす。

明菜の母親は、なぜか不思議な程、こちらが何かあったり困っている時に連絡をよこすのだ。


本人は「なんとなく」としか言わないのだが、ただの勘にしては、特殊能力でもあるのではないのかと疑いたくなるレベルだった。

例えば、妊娠した時。

急な病気で入院騒ぎになった時。子供の問題や夫婦間のトラブルなどなど。

相談するか迷っていると電話が鳴る。


「あぁ、お義母さんなぁ」

その事を知っている翔志も苦笑を浮かべた。

「まぁ、その時は明菜の気持ちに任せる。お義母さんだったら悪いようにはしないだろ」

「何、その、根拠のない信頼感」

アッサリとした翔志の様子に明菜があきれた視線を向けるが、当の翔志はどこ吹く風だ。


「いや、うちのお袋だったらパニクってテンパりそうだけど、さ〜〜」

「………そうね。お義母さん、真面目だし」

「な、親父も融通効かないしな」

2人で顔を見合わせる。


「とはいえ、面白がって悪ノリしそうなうちの両親とどっちがマシなんだろ………」

「あ〜〜〜、ノーコメントで」

首を傾げつつ、翔志がコーヒーの残りを飲み干す。


「じゃ、明日は保育園と町内会長にアポとって説明、な」

「了解。その方向で」

軽くコーヒーカップを掲げると、明菜は甘いカフェオレを飲み干した。










ある朝、目が覚めたら嫁が若返ってたんだが。


え?何言ってんだって?

俺も、そう言えたら良かったんだけどな。


若返ったっていうか、子供に戻ってたんだわ。

あ、中身はそのまま、外見だけ、な。

長男は嫁似だって、生まれた頃から周りにも言われてたけど、本当に実感したわ。


嫁と息子が、双子かってくらいソックリだった。


とりあえず、病院に駆け込んでみたものの、原因は分からずじまい。


ま、そうだわな。


成長が遅い、もしくは止まるって病気は聞いたことあるけど、逆行するって聞いたことないし。

老化が加速する、なら、聞いたことあるけど……。


救いだったのは、中身まで子供に戻ってなかったこと、だな。

「知らないおじちゃん」とか言われたら泣いてた自信あったわ。


困り顔の嫁に出来たことは、「何でもないこと」のフリをすること。

ある日突然小さくなったんなら、ある日突然、元に戻ることだってあるかもしれない。

そうでなくったって、中身嫁なら、それで問題なし!


いや、現実問題、問題だらけなんだけどさ。

平気そうな顔しながら内心不安と動揺で一杯一杯なのは、分かりきってんだから、俺が追い打ちかけても、しょうがないし。


まぁ、それを抜きにしても、「中身嫁なら」ってのは本心だしな。

最悪、そのままだとしても20年もすれば元の嫁まで戻るだろう。

だから、問題なし!





そう言ったら、泣きそそうな顔で「バカ」って笑った嫁の顔を、きっと俺は一生忘れないと思う。









読んでくださり、ありがとうございました。



そして「前」で、誤字報告してくださった方、ありがとうございました。

次男の年齢は2歳が正解でした。後で、思い直して変えたのです(汗。

初の機能で使い方がわからず、間違えて消してしまってお礼メールを送れなかったので、私事ですがここでお礼。うかつもので申し訳ない(´・ω・`)

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