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シリアス‥‥なのかな?

ある日目が覚めたら、子供に戻ってたんだけど。


何言ってるか分かんないって?

うん。私も。

訳わかんなかったわ。


だけど、今日も鏡の中から見返してくるのはくっきりお目目とふっくらほっぺの少女。

おそらく10歳くらいの私、だった。


本当に、どうしてこうなった?!








明菜は、いつもの通りに目覚ましのなる五分前に目覚めると、いつも通りにベットから降りようとして転げ落ちた。

なぜか予想していた場所に床がなかったせいで、バランスが崩れたのだ。


幸いにも、一緒に寝ている寝相の悪い子供達の転落事故防止に敷き詰めていた古毛布のお陰で、だいぶ衝撃は薄れたとはいえ、痛みがないわけではない。


「あき〜、生きてるか〜〜」

明菜が無言で悶絶していると、落下音に目を覚ました夫の翔志が笑いながら覗き込んで来た。


「人の不幸を笑うなんてヒドイ」

明らかに面白がっている声音に明菜が涙目でふり仰げば、なぜか視線の先で翔志が笑い顔のまま固まっている。


「しょー君?どうしたの?」

はて?と首を傾げながら、明菜は体を起こした。そうして、再び感じる違和感。


(アレ?このベッドってこんなに高かったっけ?)

明菜は疑問を感じながらも、とりあえず固まる旦那をどうにかしようと手を伸ばして………、三度目の違和感に固まった。


眼に映るのは、随分と小さな子供の手だったのだ。

どことなくプニプニと柔らかそうな皮膚の薄いソレは、長年付き合って来た自分の手とは随分違うものだった。


(あ、でも手の甲のホクロは同じだ……)

そんなことを思いながら、明菜は手から腕へと視線を移す。健康的に小麦色に焼けた細い腕は肩に続き、その手が紛れもなく自分(・・)から伸びていることを確認すると、明菜は再び視線を手に戻した。


そっと指を動かせば、自分の思った通りに動く小さな指先。

意識してみれば、やけに肩からずり落ちそうになるパジャマがわりのTシャツの襟ぐりから明菜は、そっと中を覗いてみた。


「…………ない」

そこには真っ平らな平原が広がっていた。

たしかに豊かとはいえないが、昨日までは細やかながらも主張していた膨らみが何処にもない。


明菜はパッと顔を上げ、未だに固まっている翔志の襟ぐりを鷲掴んだ。

「ない!無くなってる!なんで?なんで?!」

ブンブンと揺さぶられ、固まっていた翔志はようやく意識を取り戻した。


「あき?明菜だよな?なんでそんな姿になってるんだ?!」

「分かんない!私の胸は何処に消えたの?!」

「いや、胸とかの問題じゃなくって!!」

2人共にパニック状態で大声を出していれば、当然眠っていた子供達も起きてくるわけで………。


「まぁ〜まぁ〜?」

「はい。ゴメン、騒いで。起きちゃったね?」

寝起きで少し舌ったらずの声に呼ばれた瞬間、明菜が反射的に返事を返したのは本能のなせる技だった。


明菜は、ベットによじ登り、ぼんやりと半眼で体を起こした2歳の次男を抱き寄せトントンと背中を叩く……つもりが抱き上げることができずに、バランス崩してゴロンと転がってしまった。


最も、今度はベッドの上のことだったのでたいした衝撃もなく、そのまま添い寝の形でトントンと背中を叩いてやれば、まだ寝足りなかった様子の次男はスゥッと再び眠りの国へと戻って行った。


スゥスゥと規則正しい寝息を確認した後で、明菜はそろりと体を起こした。

寝起きが微妙な息子は変な起き方をすればしばらくグズって非常に大変なことになるのだ。


「セーフ………って、そうじゃなくて」

夫婦して顔を見合わせると、明菜が無言のまま下を指差した。翔史がこれまた無言でコクリと頷くと静かに移動を始める。

その後を続きながら、明菜はちらりと隣の部屋に目をやった。

開け放たれた扉の中、ベッドの上では長男が先ほどの騒ぎなど頓着せず気持ちよさそうに爆睡していた。



「子供になってる」

「な?」

洗面台の鏡の前で、明菜は呆然と立ち尽くした。

そこにはダボダボのTシャツを身にまとった少女がポカンと口を開けてこちらを見つめている。

ちなみにその背後には、なんともいえない微妙な顔の翔志が映っている。


「…………夢、とか?」

「さっきつねって見たら痛かった。夢じゃない」

キッパリと言い切られ、明菜は無意識のうちに自分の頬をつねっていた。

「…………痛い」

強くつねりすぎで、若干涙目だ。

そのまま、背後の翔志をふり仰ぐ。

タダでさえあった身長差がさらに広がって、明菜は首をかなり上に向けないと視線が合わない。ソレが、これが現実だということを知らしめる。


「なんで?どうして?」

「わからん。なんか変なものでも食ったか?」

「なんでそんなに冷静なのよぅ」

疑問を投げかけても、首を傾げながら変な返事を返してくる翔志に明菜が唇を尖らせた。


「いや、なんか一周まわって落ち着いた」

少し困ったような微笑を浮かべる翔志に、明菜は1つため息をついた。

そんな簡単で良いんだろうか?

だけど、その表情に気が抜けたのも確かだ。


「そ、だね。取り敢えずコーヒ飲んで家族会議、かなぁ」

未だ夢の中の子供達が起きて来たら、大騒ぎ再び、は必須だろうと、明菜は肩を落とした。

なにせ、母親が子供の姿になってしまったのだから。


「だな。あ、会社にも休みの連絡しないとなぁ。子供達の学校はどうする?」

「休ませてもしょうがない気はするけど………まぁ、起きた時の反応次第、かなぁ〜〜」

何処か現実逃避気味のから笑いを浮かべつつ、明菜はコーヒーを入れるためにキッチンへと向かった。






先に起きて来たのは8歳になる長男の玲斗(れいと)だった。


まだ少し眠そうな顔でリビングに入ってきた玲斗は、ソファーに父親が座っていることに眼を丸くした。

「あれ?パパ、どうしたの?」

「おはようが先だろ」

少しムッとしたように返す翔志に、玲斗は慌てて「おはようございます」と声をあげた。

普段は鷹揚な翔志だが、挨拶と返事に関しては厳しい。ここで下手な対応をすれば、朝っぱらから説教が始まることを玲斗は身にしみて知っていた。


「しょうがないじゃない。平日に玲斗が起きる時、あなたが起きてる方が珍しいんだから」

台所の方から飛んできた母親のフォローの声に、玲斗はホッとしながらも頷いた。


「そうだよ、パパがもう起きてるなんて思わなかったんだもん」

味方を得た気分で声を上げれば、苦笑いの父親に頭を小突かれた。

「パパだってそんな日もあるさ」

「うん。だから、何かあったのかなって」

ちっとも痛くないその手をそれでも避けながら、玲斗は父親の隣へと腰をかけた。


翔志は無邪気に自分を見上げる息子の妙な勘の良さに少しどきりとした。

この子は昔からそういうところがあった。

普段はポヤンとして頼りないほどなのだが、妙なところで鋭いのだ。


(さて、なんと言えば良いものやら)

タイミングが良いのか悪いのか、明菜は朝食の準備のため台所の方へと入り込んでいた。

対面キッチンなのだが、丁度死角に入り込んでいてこちらからは見えないのだ。


「あのな、玲斗………」

考えがまとまらないまま口火を切った翔志だが、その声は2階から響いてきた幼い泣き声に遮られた。

「うえ〜〜〜ん、まぁ〜まぁ〜、どこ〜〜??」


寝室で1人眠っていた次男の悠斗(ゆうと)の声だった。


目が覚めた時、寝室に1人だった次男の反応は2つ。

1つは無言で起き出し、階段を降りてきて笑顔で「おはようごじゃいます」。

そして、2つ目は今回のパターン。

泣きながら母親を探して声を上げる、だ。

こうなると、翔志が行っても泣き止むことはないし、無理に抱き上げて連れてくれば機嫌の悪さは倍増する。

納めるには明菜が行ってあやすしかないのだ。


「はぁ〜〜い、ママ、ここよ〜〜」

反射のように返事をしながら、明菜が台所から飛び出して二階へと小走りに去って行った。

その背中を、翔志と玲斗はなんとなく無言のまま見送った。


「………ねぇ、パパ」

「なんだ?」

その背中が見えなくなってから、ポツリと玲斗が声をあげた。

「ぼく、寝ぼけてるのかな?なんか、ママが小さく見えたんだけど………」

少し自信なさげに小さく呟く玲斗の頭を翔志は慰めるように撫でた。


「安心しろ。パパにも同じに見えてるから。あのな、なんでかママ、縮んじゃったんだよ」

「ええぇぇ〜〜〜〜、どゆこと?!」

2階からの声が静かになった代わりに、玲斗の叫び声が静かな朝の空気の中響き渡った。




「………おはよ、ごじゃーます」

さっきまで泣いていたのが嘘のようなニコニコ顔で、悠斗が階段を降りてきた。

その手はしっかりと明菜と繋がれている。


「悠斗は気にしなかったのな」

明らかに縮んで顔つきも幼くなっている母親にどんな反応をするのかと内心ヒヤヒヤしていた翔志は、いつもと変わらない様子の悠斗に肩を落とす。

そんな父親の様子に、悠斗は不思議そうに首を傾げた。


「ママ、小さくなってるだろ?」

「………ママだよ?」

指さされ、隣を見上げた悠斗は、だから?と言わんばかりにさらに首をひねった。

幼い悠斗にとって、多少サイズが変わろうとも母親は母親という認識のようだった。


「…………兄ちゃんは固まってるのにな。チビすぎてわけわかってないのかな?」

ホテホテと近づいてきた悠斗のふくふくのほっぺを突きながら翔志は首を傾げた。


「まだ2歳だし、ねぇ。それより、玲斗〜〜、レイく〜ん、正気に戻っておいで〜〜」

固まったままの玲斗の顔の前で、明菜がヒラヒラと手を振って声をかけている。


「に、しても分かってたけどソックリだな、お前ら」

その様子を眺めながら、翔志が感心したようにつぶやく。

くっきりとした二重まぶたの大きな眼を長い睫毛がビッシリと取り巻き、少し低めの丸い鼻にやや下唇の厚い唇が愛嬌を添えている。

まだ男女の差異の少ない年頃だからか、髪の長さをのぞけば、2人はまるで双子のようにソックリだった。


「俺の遺伝子はどこに消えたんだろう」

首をかしげる翔志の視界の中で、悠斗が母の真似をして玲斗の顔の前で手を振ろうとし、距離感を間違えてペチペチと叩いていた。

その衝撃でようやく我に返った玲斗は、2、3度目を瞬くと、本日2度目の叫び声をあげた。




ある日、起きたらママが子供になってたんだけど。

訳わかんない!


最も、ママ達だって理由は分かんないらしい。


とりあえず、ママが昔からお世話になっていた主治医の先生に会いに行き、おっきな病院に行き、分かったことはママの体が大体8歳から10歳くらいになった事、記憶はきちんとある事、くらいで「肝心のどうして縮んだのか」の原因はサッパリだったんだって。

お医者様でも、分からないことがあるんだね!


まぁ、なっちゃったものはしょうがないし、もしかしたら縮んじゃった時みたいにある日ヒョッコリ元に戻ってるかもしれないからって、お家でいつも通り生活して良いですよ、と、ママが帰ってこれたのは3日後の事だった。


「やあ〜、一回西先生通してて本当に良かった。実験材料にされるかとヒヤヒヤしたわ」

自宅で悠斗を抱っこしながらママがしみじみ呟いてたけど、どういう意味だろう?


そして現在。

ママと離れ離れになってて寂しかったらしい悠斗がママにしがみついて離れないけど、僕の心は複雑だ。


ママが元気に戻ってきてくれたのは嬉しい。

寂しかったし、本当は僕だってギュッてしてもらいたい。


けど、ママの見た目は同じクラスの女の子くらいになっちゃったんだよ。

ママだって分かってても、なんだか抱きつくのに抵抗があって………。


どうして良いのか分からなくなってパパを見上げれば、慰めるように頭を撫でてくれた。

そうだよね。

パパだって、奥さんが子供になっちゃったんだから、複雑だよね………。

なんとなく「同志!」って感じて、パパに抱きつく。


と、突然、後ろから抱きしめられた。

「玲斗もママがいない間、頑張ってくれててありがとうね」

その手はいつもより小さくて覚えがないものだったけど、ふわりと香る優しい匂いや柔らかな感触は記憶の中にあるものと同じで、なんだか、ホッとした。

あ、ママだ、って。


ただ、1つ言いたい。

現在、同じくらいの身長の筈のママの腕が僕の頭を抱えるなんてできる筈、ない。

背伸びどころか、台の上に乗るのは、チョットズルいと思います!て、いうか、いつの間にその踏み台持ってきたの?!


読んでくださり、ありがとうございました。

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