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-274点の理不尽な世界  作者: 朝倉神社
第二章 冒険者として
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試練

 オートレイリアとの国境にあるカバナ山脈を越えるというと周囲の人間が酷く驚いた。冒険者ギルドでも、山越えのアイテムを買いに行ったお店でも、反応はみな同じだった。

 話を聞くとカバナ山脈は魔物が多く、首に賞金の掛かった大物までいるそうだ。とてもじゃないが星二つの冒険者であるキトリーやルーにどうにかできるレベルのものではない。


 そのため、オートレイリアとダダン王国の行き来は南下して海沿いを船を使って渡るのが普通とされていた。しかし、それにも問題があるのだ。


「じゃあ、この査証では船に乗れないって事?」

「ええ、この部分に通過する国境門について記載があります。他の場所では門前払いになります」


 宿でイーナを交えて今後のルートについて話をしているところだった。


「教会に頼んで、別のルートで発行してもらうことはできないんでしょうか?」

「無理ですね。教会がこのルートについて知らなかったとは思えませんから」

「それって…」


 淡々と答えるイーナにルーは口をつぐんだ。考えたくもないことだが、もしかしたらということが頭に浮かぶ。


「知っててこの道を通るように、指示したって事?」

「ええ」

「でも、教会は私の冒険者証を見ているのに」

「試練です。神様は我々に試練をお与えになったのでしょう」

「ま、待ってください!そんな言葉で納得できるんですか?」

「神様の御心は我々には遠く及びません。ただ、その声に従うだけです」

「じゃあ、神が死ねって言えば死ぬの?」

「はい」


 キトリーの意地の悪い言い方にも、平然とイーナは即答した。


「神の意向じゃなくて、教会の意向じゃないの?」

「上司の言葉は、私にとっては神の言葉に等しいもの」

「…」

「そんな…」


 もはや疑うことも出来ないほど、はっきりと教会の思考が読めてしまう。教会はあの事件をなかったことにしたいのだ。イーナの勘違いで終わりに出来ないと思っているのだろう。不都合な真実を知るキトリーたちを全員始末してしまおうと考えたのだ。蘇生術という人の領域を超えたキトリーの技術を取り込むよりも、神の領域に触れないことのほうが優先された。


 殺人はクルシュナ教の教義に反するため、直接的な方法は取れないのだろう。だけど、やり方はもっと汚い。査証でルートを限定させ、星1つの冒険者では対応できないルートを選択させる。キトリー達がオートレイリアへの道を断念したとしても、別の方法を考えているのかもしれない。どう考えてもやり方が温過ぎる。始末できればいいという程度の、生ぬるいやり方。


 だが、狂信的なまでに神の意向に従う姿勢を見せるイーナと、罪悪感を覚えているキトリーであれば、オートレイリアへの道を断念するとは考えていないのだろう。多少の無理をしてでも、カバナ山脈を越えると大司教は考えているに違いない。


「海路を使うための査証を手に入れるしかないよね」

「査証が個人に発行されることはないわ。それに、それは神の意向に背くことになる」

「それじゃあ、カバナ山脈を越えるための冒険者を雇ってはどうですか?カバナ山脈に出現する魔物のレベルは星三つから星4つなんですよね。星4つ以上の冒険者を雇うことが出来ればなんとかなるんじゃないでしょうか」

「どこにそんなお金があるの?それに、そんなに都合よく上級の冒険者なんて見つからないでしょ」

「時間は掛かると思いますけど、ほかに方法はないと思いますが」


 オートレイリアまでイーナを連れて行く期日は設けられていない。それだけが救いだった。星4つの冒険者を雇うのに掛かる費用は莫大になるだろう。それも、多くのものが迂回を選択する危険なカバナ山脈の護衛となると、かなりの金額を積まなければならないはずだ。


「なんだい?ここにいるってことはキトリーもか?」


 突然話しかけれれて、キトリーは背後を振り返った。ブルネットの髪をした大柄の女性剣士-オルトヴィーナが立っていた。他にもたくさんの人がいる食堂なので、いてもおかしくはない。だけど。


「なんでここにいるの?」

「いちゃ、悪いかい?」


 さも当たり前の顔をして、キトリーたちのテーブルに腰掛けた。突然のことに、イーナは目をぱちくりとさせ、キトリーが何も言わないのでルーが簡単に紹介をする。


「くくっ、なんだかんだ言っても、キトリーもやっぱり冒険者だな」

「違うって。オートレイリアまで彼女の護衛をしているだけよ」

「冒険者として?」

「いや、それは…そうだけど」

「くくっ。まあ、とりあえず、オートレイリア行くならカバナ山脈越えするんだろ。だったら、一緒にやろうぜ」

「やろうって何を?」

「キールバーンだよ」

「!!?」

「えっ、ちょっと、待って!!キールバーンが出るの」

「何だ?知らなかったのか」


 呆れたような顔を見せるオルトヴィーナに、キトリー達は唖然とした顔を返す。どおりで皆がカバナ山脈越えをやめろと忠告するわけだと、いまさらながらに納得する。


「近隣の村まで襲われてるらしいから30000リュートの賞金が掛かってる。王都の討伐部隊に連絡済みだって話だから、近いうちに派遣されてくるはずさ。つまり、やるなら今しかないんだよ。あ、おっちゃん適当に串焼き肉とエールをお願い」


 当然のように食事をしようとするオルトヴィーナに唖然としてしまうが、これは好機なのだろうかとキトリーは考えた。

星4つを超える冒険者は少ない。星5つとなると本当に僅かだ。見つけるだけでも困難な冒険者が目の前にいるのだ。


「でも、キールバーンの討伐レベルって星6つだよね」

「つまり昇格のチャンスってことだろ」


 口の端をにやりと上げて、運ばれてきたエールを流し込む。


「まあ、多少はてこずるかもしれないが、キトリーの援護があればやりやすい」

「いやいや、無茶言わないでよ。そして、さも当然のように巻き込まないで」

「ん?そういう話じゃなかったのか?」

「違います。私達はオートレイリアに行きたいんです。でも、カバナ山脈ルートの査証しかなくて…」

「だから、一緒に討伐しようって話だろ」

「違います。まあ、でも、都合がいいわ。キールバーンの討伐が終わったら、カバナ山脈越えの護衛をお願いできない」

「護衛?なんで?」

「なんでって?カバナ山脈って星4つクラスの魔物が出るって聞いてますけど」

「キトリーなら問題ないだろ。星4つは稀に出る程度、基本は星3つ程度までだからな」

「いやいや、私、星二つなんだけど?」

「そんなもん、只の指標に過ぎないだろ。あのときのグランガシートは星四つに相当する。それだけの力があれば、問題ないさ」

「安全圏からの攻撃なんだけど。近接戦闘のレベルは大したことないから」

「そうか?そんな風には見えないが、まあ、でもそうだな。キールバーンを一緒に狩るなら山越え手伝ってもいいぜ?」


 願ってもない申し出。

 彼女を雇うのに掛かる費用を思えば、破格ともいえる。しかし、代償は大きい。マティエスと出会ったときのキールバーンは亜種でサイズも小さめだった。果たして本物のキールバーンを相手に、自分の力が通用するのか不安はのこる。


「やはり神の思し召しなのですよ」


 イーナがさも当然のように口を挟む。たしかに、このタイミングで星五つの冒険者が現れるのは神の采配なのかもしれない。それでも、危険な道のりであることに変わりはないのだ。むしろリスクの方が高いと思える。

 

「どうします?」

「本当にキールバーン討伐に手を貸せば、山越えに力を貸してくれるの?」

「いいよ。あれを狙ってるのは他にもいるからな。明日の朝には出発する。ところで、そっちの嬢ちゃんはどうする?確か魔法が使えるんだったよな」

「ふふっ、私だって攻撃魔法使えるようになったんですよ」

「へぇ」


 キトリーは面白がるようなオルトヴィーナを睨みつける。


「ルーは残ってて。安全な場所から魔法を使うわけじゃないんだから危険だよ」

「それくらい分かってますよ。それを言ったらキトリーだって危ないじゃないですか。オルトヴィーナさんが前でひきつけてくれるなら、キトリーと私で援護できると思うんです」

「嬢ちゃんのいう通りじゃないか?キールバーンの動きは封じて見せるさ。隙を見てキトリーの空牙槍と嬢ちゃんの魔法を叩き込んでくれれば、私も攻撃しやすくなる」


 オルトヴィーナの戦いはストラテクラクスのときに見ている。だから、彼女の実力が大型の魔物と戦える実力を備えていることは理解している。あのとき、最後のグランガシートから取れた魔核は星5つ相当であったことを踏まえれば、疑う余地もない。キールバーンがそれ以上だとしても、あの時の彼女には余裕があった。


「でも、キールバーンは空を飛ぶんだよ」


 マティエスの護衛が苦戦していた理由はその一点に尽きる。地面に落としたあと、彼らは難なく討伐してのけた。もちろん、本物よりも弱かったのだが、攻撃が通用するにも関わらず苦戦したのは、空を飛ぶからに他ならない。


「くくっ。問題ない」

「まさか、空が飛べるなんていわないよね」

「人の身でそれは無理ってもんだが、対空戦もいけるさ。だから、安心しな。私より先に殺される心配はないだろうさ」

「全然安心できないんだけど?」

「くくっ、だったら私が殺されないようにしっかり援護してくれ」


 何が楽しいのか、大声で笑いながら焼き串を食べ、エールを流し込む。冒険者として普通なのかもしれないけども、キトリーもルーもそういう意味では冒険者ではない。


「だから、まだ決めたわけじゃないって」

「くくっ。まあ、いいさ。明日の朝には出発する。それまで考えればいい」

「私達が来なくてもいくの?」

「まあね。冒険者のランクってのは上がれば上がるほど停滞してしまうものさ。こんな機会は滅多にないからな。逃す手はないさ」


 無謀ともいえる挑戦を歯牙にもかけず言い切るオルトヴィーナにキトリーは何もいえなかった。彼女自身言っていたことだ。格上の相手に挑戦しようという気概があるもの。そういう風にキトリーを称したのは、もちろん彼女自身がそういう類の冒険者だからだろう。


「どうします?」

「ちょっと、真面目に考えよう」


 神の意向に準ずるイーナは、確実にカバナ山脈を抜けようとする。そんな彼女を説得するのは不可能だろう。教会の命令だとしても、それに対して責任の一端を感じるキトリーとしては放っておけないのも事実だ。道程は恐ろしく危険で、欲していた星4つ以上の冒険者の助けは得られる状況にあるという奇跡的な状況。


 どんな道であっても100パーセントの安全を確保することは出来ない魔物の蔓延るこの世界で、提示された条件は最悪の中の最良かもしれない。

次回、キールバーン

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