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-274点の理不尽な世界  作者: 朝倉神社
第二章 冒険者として
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イーナ

 イーナは神官である。

 教会の規定で言うと司祭という階位である。

 敬虔な両親の元に育ち、毎日の礼拝を欠かしたことはなかった。祈りをささげ、聖典を読み、司教の話に耳を傾けた。彼女の才覚に気付いたのは、通っている教会の司教だった。

 クルシュナ教の司祭や司教が全て、奇跡の代行者というわけではない。奇跡を操るものには特殊な力が宿っていた。奇跡を行うのは、あくまでも神であり、神官は代行者に過ぎない。


 奇跡の行使そのものは、本来誰にでも実行できるものである。しかし、神の力は人の身に余るのだ。絶えられず肉体は滅んでしまう。求める奇跡が大きければ大きいほど、体への負担は大きくなるのだ。神の代行者たる神官は、その力に耐えうる力をその身に宿している。


 信仰心と代行者たる素質を併せ持つイーナは司教の誘いを受けて神官への道を進んだ。彼女の両親は、娘が選ばれたことを神に感謝し大いに喜んだ。


 小成人の頃から教会で下働きを始めたイーナは、成人すると同時にアシュートにあるダダン王国におけるクルシュナ教の本部で修行を始めた。才能はもちろんのこと、彼女の信仰心は厚くメキメキと力を付けていった。21歳という年齢で、司祭の地位を得、キトリーが負った傷を癒せるほどの奇跡に耐えられるということは彼女の優秀さをあらわしていた。


-主よ、私は間違いを犯したのでしょうか


 キトリーたちが仕事に出かけている間、彼女は自室で祈りをささげ神へ問いかけていた。教会へ行くことは、上司より禁じられていた。ブヨウ族である彼女の容姿は、この国ではとても目立つものだった。アシュートの悲劇がどこまで伝播しているのか確かめる術はなかったが、無用なトラブルを招くのは彼女の意思に反するものだった。


 神の代行者として、神の意向に背くことは出来なかった。直接的に指示をしたのが彼女の上司であっても、自分より階位の高いものの言葉は、彼女にとっては神の声に等しかった。


 この国の中で居場所を失った彼女にブヨウ族の国であるオートレイリアに行くように指示がされた。その旅の護衛として選ばれたのは、あの日イーナが助けることの出来なかった命を救おうと懸命に行動した少女であった。あの時、何が起きたのか正確なことはわからなかった。


 大司教からは、少年は死んでいなかったと告げられた。あの日の悲劇はイーナのミスだと、そう言われた。


 自分の判断に間違いがあったとは思わない。神の奇跡をあの場で執り行うことは出来ない。あの場でイーナに出来るのは、助けられるかどうかと判断し、儀式の場に連れて行くことだけである。神の代行者としての力を与えられたイーナには、その力が作用するかどうか分かるのだ。心臓が動いているかどうかというのは二次的なことに過ぎない。


 しかし、彼の言葉は絶対だった。


 自分が判断を間違えたのだろうと思う。判断を間違えたことにより、少年が不幸に見舞われたことは遺憾だった。奇跡が間に合わず、息を引き取った信者を幾人も見ていた。だが、少年の死には自分が大きく関わっていた。自分のせいで命を落としたのだと考えると、夜、眠ることが出来なくなった。


 まともな思考が出来なくなった。


 自分は神に選ばれたのだという自負がなくなり、自信が消えかかっていた。そんな時、護衛であるキトリーが大怪我をして戻ってきた。奇跡を求められ、彼女は神に祈りを捧げた。


 祈りが通じたことは、彼女に自信を取り戻させた。


-主はまだ私を見捨てられていなかった


 安堵した。いままで信じていた世界が崩壊したような気持ちに陥っていた彼女にとって、世界が変わっていなかったことが分かり、温かなものが胸に広がった。次の日、護衛をするキトリーたちに話しかけられたとき、いままでより温かな気持ちで応じることが出来た。


 彼女達に罪がないことは分かっていた。教会から満足なお金を貰っているわけでもないのに、自分を隣国まで護衛する任務を受け、身銭を切ろうとする他者への敬愛の心をクルシュナ教の信徒として共感し感謝していた。しかし、二人の冒険者としての階位を聞いたとき、唖然とした。


-主は私を試されている


 そう思うことにした。もっと悪い想像もした。しかし、神の御心を疑うなどあってはならないことだった。彼女の信仰心すら試されていると思った。冒険者でないイーナだが、仕事からそういうものと接する機会は多い。色々な話を耳にしていた。


 商隊の護衛をするのは星二つ以上が最低ラインということも知識として知っていた。星一つとは駆け出し冒険者に与えられるものであり、半人前の冒険者を指すものだった。


 隣国への旅路が一気に不安になった。挙句の果てに、ミジェスの討伐に出ていったときは、愚かな行いに頭が痛くなった。他者を敬えというクルシュナの教えがなければ、罵詈雑言を投げかけるところだった。だが、敬虔な信徒としてイーナは二人の無事を神に祈った。


 祈りが届いたことにホッと胸を撫で下ろした。

 彼女達から、星二つに昇格したと聞いた。護衛の任務を受ける最低ラインに達したことは喜ばしいことだった。だが、イーナは知っている。それだけでは不十分なことを。


 オートレイリアへの道のりは星二つの冒険者では超えられない壁があることを。

 だが、彼女に出来るのは神に祈ることだけである。


-やはり、主は私を、私達を試されているのですね


「天におわす四柱の神々よ。


其は我等に与えるもの。

其は我等を救うもの。

其は我等を罰するもの。

其は我等を許すもの。


我等は其を尊び、

我等は其を愛し、

我等は其に感謝し、

我等は其に請うもの。


日々の糧に感謝し、己の罪を見つめ、

他者を敬えるよう お導きくださいませ。


クルシュナの光を注ぎますように。

エン・ラーナ」

次回、春祭り

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