ピアス
屋敷を出たあと、ルーと肩を寄せ合い通りを歩いた。彼女の目には涙が溜まっている。子爵の家では気丈に振舞っていたけども、辛くないわけは無いのだ。弟がいなかったこと、頼りにしていた親戚の家を害虫のように追い出されたこと。叔母とのひと時が、幸せだった分、突き落とされたことが響いていた。
「ねえ、キトリー」
「うん?」
「これからも一緒に居てくれる?」
「当たり前でしょ。どうしたの?」
ルーの言葉の意味が分からずキトリーは小首をかしげた。ここで分かれる理由なんかないはずなのだ。
「私が最初にキトリーにお願いしたこと覚えてる?」
「弟を探す手伝いをしてほしいってことでしょ」
「うん。そうだけど、正確には叔母さんの家まで連れてってほしいってお願いしたの」
「そうだったっけ」
「そうだよ。王都にいなければここしかないって考えていたから」
「それで」
「私がキトリーにお願いしたのはここまでだから、キトリーが帰りたかったら帰っても良いよ」
キトリーが立ち止まり、腕を組んでいたルーは引っ張られてバランスを崩した。
「何でそういうことをいうの?」
「だって、森で自由に生きていたのに、私の所為で大変な目にばかりあわせているし。本当はキトリーの護衛代も叔母さんにお願いして払うつもりだったの。でも、それも出来なくて、これからだってお金を払う宛なんか無いし。まだ、アーブは見つからないから、私の旅は終わらないけど、もちろん、キトリーには付いてきてほしいけど、でもそれは私のわがままなのかなって」
「わがままで良いじゃない。わがまま言ってよ。私はルーの友達だよ。お金のために一緒にいるんじゃないし、弟が見つかるまでとか、そんなこと関係ないよ。私が一緒にいたいから一緒にいるの」
「…いいの?」
「よくない」
「えっ?」
「すごくがっかりした。ルーはまだ貴族だったんだって。お金の関係のつもりだったの?」
「ち、ちがうよ。でも、キトリーのしてくれたことを考えたら」
「ルーも気付いていないかもしれないけど、私にたくさんのことしてくれてるよ。森の中で死んだように生きていた私を外の世界に連れて行ってくれた。そりゃあ大変なこともあったけど、ルーと一緒だったから全部ひっくるめていい思い出だよ」
「奴隷になったのも?」
「奴隷になったのも」
キトリーは大きな声で笑った。
「母親との再会だけはいい思い出とはいえないけど、何一つ後悔してないよ。だからさ、遠慮なんかしないでよ。私は森にいるよりルーといるほうが100倍楽しいんだって。ルーが嫌だっていっても付いてくよ」
「ありがとう。本当にありがとう」
ルーが涙ぐむと髪をくしゃくしゃにして抱きしめた。
「次に変なこといったら森に帰るからね」
「うん。ごめん」
うれしそうな顔をしたルーが、キトリーから離れると何かを思いついて先ほど貰った小さな木箱を取り出した。
「キトリー、このピアス貰ってくれる?」
「いや、それはさすがに、もらえないよ。だって、お母さんの形見なんでしょ」
「うん。だから一つずつ。私とキトリーで一つずつ。ダメかな?」
「友達の証?」
「そんな感じかな。だって、キトリーにあげたナイフはもうどこに行ったか分からないから。これはいままでの感謝の気持ち…っていうよりも、やっぱり二人の絆かな?」
「そういうことなら、うん。ありがたく!」
キトリーはそういってピアスを一つ手に取った。貧乏冒険者が手にするには価値が高そうだけど、ピアスなら髪の毛に隠れるからたぶん大丈夫だろう。近くで見ると細工の細かさがとてもよく分かった。緑色の宝石も決して大きくは無いけども、透き通っていてとてもキレイだった。
「それと、やっぱり」
と、ルーがピアスの入っていた木箱の綿のクッションをはずすと、底には金貨が数枚と紙切れが入っていた。面と向かって渡せなかったので、気を利かせたのだろう。木箱を手にしたとき、見た目に反して重かったことにルーは驚いていたのだ。ルーの叔母の粋な計らいに舌を巻いた。
屋敷を出たときとは打って変わって二人の顔は明るく希望に満ちていた。弟が見つからなかったことは残念だったけども、王都にいるククルが何か情報を得ているかもしれない。そんな前向きな考えが湧き上がってくる。笑う角には福来る。暗く沈んでいれば良い考えも浮かばないけども、希望さえ失わなければ未来は明るい。
真っ白な地面に二人分の足跡が刻まれていく。日の光に照らされて雪が僅かに溶け始めていた。雪解けはもう近いのかもしれない。
次回、新しい魔法




