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-274点の理不尽な世界  作者: 朝倉神社
第二章 冒険者として
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冒険者の楽しい雑用

 冒険者証が無事に戻ってきた。

 ギルドの方から保安局の方に確認を取ったところ、逮捕されたときに押収されたものの中に冒険者証が残っていたらしい。そのため、複雑な手続きを経ることなく二人の元に冒険者証が返されたというわけだ。


「今日はどの依頼にしましょうか?」


 壁に貼られた依頼票を確認しながら、ルーが一つ一つを読み上げていく。冒険者証を手にしてから数日、精力的に活動を行っているが、どれもが冒険者のお仕事とは呼べない代物ばかり。雪かきに雪下ろし、迷いシュロの捜索に、煙突掃除、大きな屋敷の掃除に、引越しの手伝いに、薪割り、さらにはベビーシッターのような仕事までと多岐にわたっていた。安いものでは50リュートからと、少し豪華なディナー程度で賄えるため、小遣いを使う感覚で依頼をする平民も多いようだ。


「これなんかどうです。シクルロウの散歩ですって」


 シクルロウは小型のルロウ族で、シュロと同じように街中で時々見る動物である。黒くふわふわした毛並が特徴で、ペットとしても人気がある動物である。冬の間は外に出るのが億劫にもなるので、この手の依頼も度々出てくるらしい。最近は冬の終わりだというのに、雪のちらつく日が多いのもあるのだろう。


「散歩だと外だよ。大丈夫かな」

「うへ、そうでしたね。でも、ほら、一時間だけで良いみたいですし…」


 キトリーとルーは仕事を初めて収入を得られるようになったとはいえ、いまだに冬用のコートは手にしていない。ここ数日で手にしたお金で下着や替えの服を手に入れてはいるので、それら全部を一緒に身に纏っているような状態だ。薪ストーブのある室内はともかく、外を歩くときはいつも凍えそうな思いをしている。


「うん。じゃあ、それは受けるとして、もう一つくらいあったほうがいいんじゃない。それは、それだけだと、50リュートだよね。」

「そうですね…それじゃあ…」


 と、ルーは再び依頼票に目を向ける。王都には様々な人が住んでいる。子供の居ない年老いた老夫婦なんかも多いようで、先日依頼を受けた屋敷の掃除というのは、まさにそれだった。子供たちは別の街で暮らしているらしく、夫婦は住み慣れた王都に残っている。しかし、広すぎる屋敷を自分達で手入れするのは大変で、かといって常時使用人を雇えるほど裕福でもないという。そこで、定期的に屋敷の掃除をするものを雇い入れているらしい。


 読み慣れない文字を追いかけるのをやめて、キトリーが周囲に目を向けると冒険者達は朝からお酒を飲みながら談笑していた。彼らはいわゆる冒険者なのだろう。戦いを専門としていて、魔物を狩ったり、商人の護衛として雇われたり。キトリーたちが探しているような雑用仕事をとっくに卒業した連中というわけだ。キトリーたちとて魔核の売却などの経験があるので、たまに仕事をするだけで生活できるというのも頷けるのだ。


 キトリーたちと同じように、その日の糧を求めて依頼票を覗き込む冒険者も幾人かは存在している。それなりの装備を手にしているようだけども、イスに座ってだらだらとしている連中とは、装備品の使い込まれ方に差があるのは一目瞭然だ。


 新前冒険者の装備がきれいなのはもちろんだが、冒険者の資本である体を守るためのものなので、しっかりメンテナンスはされている。だが、長く身に着けていたことによる歴史のようなものが刻まれているのだ。細かい傷があるという話しではない。装備が体の一部としてしっかり馴染んでいる感じがするのだ。


 それだけで、彼らは経験者なのだと良く分かった。


「キトリー、いいの見つけましたよ」

「うん、どれどれ」


 うれしそうな声をあげるルーに、キトリーは彼女が指差す依頼票に目を向ける。読んでみるとなるほど、ルー好みのいい依頼だ。


「でも、これも外だよ」

「それがどうしたんですか?」

「いや、いや、ルー?」

「何が問題なんです?行きましょう。こんなことでお金が貰えるなんて、逆に申し訳ないくらいですよ。でも、ほら、金額も300リュートって結構なお値段ですよ。募集もちょうど二人まで見たいですし。ね、行きましょう」

「ちょ、ちょっと…」


 キトリーが止めるまでもなく、ルーは依頼票をちぎると受付へと提出する。


「ほら、キトリーも冒険者証を出してください」

「わかったから引っ張らないで」


 言われるがままにキトリーは冒険者証を提出する。そして、いつものやり取りを経て、キトリーたちは依頼を受領すると件の場所へと足を運ぶ。


 平民の住まう家としてはかなり大きめで、おそらく大商人のような人のお屋敷なのだろう。屋敷の前に広がる庭も貴族のお屋敷と比較しても見劣りしないしないほどに広大である。今日の仕事場はここである。この広い庭でキトリーたちは働くことになっている。


 雇い主そのものは、当然のことながら屋敷の主ということになるのだが、直接的な指示をするのは庭師の人である。


「いや、すまんね。こんなことを冒険者に頼むのも悪いかと思ったんだが、いつも一緒にやっている人間が腰をやってしまってね。教会への寄付金でも捻出できればいいんだが、まあ一週間も安静にしてれば治るだろうてことで、休んでるんだ。まあ、苗床は仕入れてしまっているし、植えた方が良いだろう思ってね」


 つまりはそういうことらしい。

 春が訪れる前に、春に咲く花を苗を庭に植えて準備をするということのようだ。ルーが率先して依頼を受けたのは言うまでもなくガーデニングが趣味のようなものであるからだ。


「それで、今日植える苗は何があるんです!」


 声を弾ませて、瞳をキラキラと輝かせて、ルーが質問すると庭師のおじさんは一瞬戸惑いながらもうれしそうな笑みを浮かべて花の名前を挙げていく。


「はあ、なるほど、なるほど。それは大変すばらしいですね。それでしたら、ニルシモの周りにミミエデンを広げていくような感じでしょうか?それともマクシュリスも混ぜますか?ああ、でも、でしたら、コロモとミミエデンでも互い違いに…いえ、それよりも…」

「ちょっと、ルー。庭師の方が戸惑ってるよ」

「は!ごめんなさい。お花のことになると…」

「いやいや、それは、うん。冒険者に依頼を出して大丈夫かと不安だったけど、二人なら大丈夫そうだ。むしろ、二人は本当に冒険者なのかい?」

「もちろんです。こう見えて、私魔法が使えますし、キトリーもすっごい強いんです!」

「ほう、それはすごいですね」


 若干引き気味の庭師にルーが力説する。


「あの、指示をしてもらっても良いですか。ご覧の通り、この子、ちょっと暴走気味になるので」

「はは、若いものはそれでいいですよ。そうですね。それじゃあ、まずはあの木の近くの雪を払って、土にこちらの肥料を混ぜてもらえますか?」

「はい」


 はきはきと返事をするとルーが機敏に行動を開始する。庭仕事に本当に手馴れているのだろう、雪を払う動作も、土に肥料を混ぜる動きにも慣れが見られる。そして、何より楽しそうである。キトリーもじっとしていては寒いばかりなので、一緒になって体を動かしていく。


 肥料を混ぜたら準備された苗床を庭師の指示に従って埋めていく。庭師のおじさんも一言指示をするだけで、ルーがテキパキと動くのですごくやりやすそうである。キトリーはどちらかというと、ルーの指示に従って、苗床の埋め方や間隔の取り方などを教えてもらって作業を進めていく。


「いやぁ、二人とも手際が良いからビックリだよ。もういっそのこと、相棒が寝たきりでも良いんじゃないかと思えてきたな。どうだい、あいつの代わりにこのまま働いてみるかい?」

「ふふ、すごく魅力的なお誘いですけど、いえ、本当に、心からそうしたいのは山々ですけど…」

「ははは、本当に庭仕事が好きなんだね」

「はい」

「そうしたら、春になったらまた来るといい。折角自分達が整えた庭なんだ。花開いたときも見たいだろう。勝手には入れないだろうが、外から私に声をかけてくれたら何とかしてみるよ」

「本当ですか!それは、もう、願ってもないことです。はぁ、もう、いまから楽しみで仕方ありません」

「良かったね」

「はい」


 道具を片付けて、キトリーたちは仕事を完了する。ルーが慣れていたおかげもあるのだろう。丸一日掛かる予定の仕事だったけども、日の沈む前には仕事を終えることが出来た。キトリーとルーは宿に帰って仕事の成果を報告しながら、宿の夕餉の支度を手伝った。

 うれしそうに語るルーをみて、宿の主人にも笑みが伝染する。

 いつだってルーは幸せの中心にいるのだ。

次回、出発の朝

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 64部と内容が重複しているようです。あと64部のタイトルが次回と同じ再出発ですね。
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