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-274点の理不尽な世界  作者: 朝倉神社
第二章 冒険者として
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女王様の瞳に代わる物

キトリーの思い付きが、貴重な宝石に代わるものとは思えない。それに、以前にルーに言われていた言葉が気になっていた。キトリーはこの世界においてセンスがないということ。


「何かアイデアがあるなら言ってください。キトリーが教えてくれたんですよ。一見役に立たないような意見でも、出すことが大事なんだって。まだ、私たちが出したい意見なんて10個くらいしかないんですから」


 キトリーの瞳の奥に、ひらめきを感じたのだろう。黙ってないでとルーに促されて、キトリーはふふっと笑みを浮かべた。


-本当にこの子は賢い


「貴族って爪にも化粧するよね」

「マニュキュアですか。もちろんです」

「それってどんなの?私が見たことあるのって、マティエス様や伯爵夫人とか数人だけしかいないけど、みんな単色だったよね」

「そうですね。私も社交界に出る時は、つけてましたけど、それが何か」

「なんで単色なの?いろんな色をつけてみたり、絵を描くことはないの?」

「絵を描く…ですか?こんな小さなところにそんなことできませんよ」

「じゃあ、例えば赤と白とか二色を重ねるくらいは?」

「見たことないですね。それに、滲んでへんな形に仕上がりませんか」


 予想通りネイルアートはないらしい。アヴァディーン伯爵夫人はともかく、派手好きのマティエスのツメが普通すぎたのが逆に記憶に残っていたのだ。


「マニキュアって一般庶民がしてるのを見たことないけど、普通には手に入らないものなの?」

「そんなことないです。決して安くはないですけど、計り売りしているので、こちらで小瓶を用意すれば少量だけ手に入れることは可能だと思いますけど、どうするんですか?」


 ククルは話についていけなくなると、我関せずという様子で自然と毛繕いをしていた。こうしてみると普通のシュロにしか見えない。キトリーはその様子に癒されながら、ルーに説明をする。


「女王様の瞳をお金を稼いで買い取るのはたぶん無理だと思う。でもね、伯爵夫人はさ、お金よりも周囲の評価を気にしていたと思わない」

「そうですね。それはあると思います。あの宝石を自慢している様子が目に浮かびます。以前お会いしたときも、買い物の途中でしたし、社交界でもないのにあんな宝石を身につけていたのは、皆の注目を浴びたかったのだと思います」

「だからね、いままでにないマニキュアを教えれば、宝石の代わりにならないかなって。物じゃなくてただの技術だから、うまく交換できるかはわからないけど…」

「うーん。そうですね。私にはキトリーの言う新しいマニキュアが想像つかないので、一度見せてもらえますか」

「いいの?だって、結構高いんでしょ」

「値段を聞いて無理そうだったらそん時はそん時ですよ」


 ふふふっとルーが笑顔を見せる。いろいろ言ってもルーはお洒落には敏感な女の子なのだから、単純に興味がそそられている部分もあるのかもしれない。

 ククルのことも大事だけれども、キトリーとルーには弟探しという大きな目的があるので、そちらにばかり関わっているわけには行かなかった。なので、ククルへの助力は弟探しのついでという感じで進めていく。


 前回、王都にいる間に回ったのは、貴族学院とアーブの学友の屋敷に、神の家。それから、西門、北西門、南西門くらいである。まだ、残りの5つの門には確認を取っていないし、そっち方面の乗合獣車の会社も訪ねていない。ほかにも、広い王都にはスラム街なども含めれば回るべきところはいくつも点在していた。


 ただ、残念なことに手がかり一つ見つけることはできなかった。

 日の明るいうちに街中を歩き回り、暮れてきた頃にマニキュアを売っているお店に寄って大量に購入をしてきた。


 予想よりも安価に手に入れることが出来たというのもある。ただ、キトリーが多彩な色を欲したため、入れ物とする小瓶にはそれなりの対価が必要となったけども量り売りが可能な肝心のマニキュアは数滴単位で購入することが出来、指一本分ずつくらいで購入するにはキトリー達にとって問題はなかった。


 ククルはお金の価値についてもあまりわかっていなかったけども、自分のために二人が大金を投じていることを理解するとお金を稼ぐことを提案した。


「気持ちはうれしいですけど、大丈夫ですよ。それにお金を稼ぐっていってもどうするんですか。ククルは見た目が小成人前の子供ですから、仕事を得るのは難しいですよ」

「困ったにゃ。でも、二人の役に立ちたいにゃ」

「無理しないでくださいね」

 

 そんな会話をしながら、キトリーはマニキュアを塗るための準備を整えていく。小瓶を並べて何を描くかを考える。マニキュアを売っているお店で、ある程度のコンセプトは決まっていた。


「ルー、足出してくれる?」

「足ですか?」

「うん。手でもいいけど、下手に目立つと困るでしょ」

「うーん。でも、今の時期なら手袋すれば目立ちませんし、伯爵夫人にお見せするなら手の方がよくないですか」

「それもそうね。じゃあ、とりあえずしばらくこのお湯に手を付けててもらっていい」

「何するんですか」


 ネイルケアの文化レベルはそれほど高くないようで、ツメの手入れについて一から説明していく。マニキュアを塗る前に、甘皮の処理や爪の形を整えたり表面をやすりで削ることも大切なのだ。お湯で少し柔らかくなったところで、やすりを使って丁寧に整える。

 爪の表面はツルツルにしすぎて爪が薄くなっても良くないので適度に目の細かいヤスリで磨き上げる。それだけでも、少し光沢のある爪に早変わりだ。


「ほえー。光ってますよ」


 光沢の出てきた爪を眺めてうっとりしているルーの手を引き戻してベースコートを塗る、乾くのを少し待ってそれぞれの指にベースとなるマニキュアを塗る。薄桃色、薄水色、薄緑色、薄黄色と、白に近い色合いのものでそれぞれの爪を彩る。


「一本ずつ違う色っていうのもいいですね?」

「これはあくまでも下塗りみたいなものだよ。乾いてからが本番。気になるなら目隠ししてようか?」

「うぅ。難しいことを聞かないでくださいよ。最後の出来上がりも気になりますけど、途中の工程もみたいですし…」


 困ったルーの顔を見ながら、キトリーは乾くまでの間に小さな枝をつまようじのように先を細く尖らせていく。こういう手作業は森での生活からかなり手慣れているので素早く丁寧だ。先をとがらせた枝を使ってテスト代わりに、落書きをする。


-うん。悪くない


 乾いてきたルーの手を取ると、インクの入った小瓶を並べて次から次に爪のキャンバスに花の絵を描き始めた。森で暮らしていたキトリーにとって、花は身近なものであったし、ルーが一番喜ぶものだから題材に選んだのだ。

 にじむことなくきれいな線が引けることに満足しながら茎を描き花弁を広げていく。


「キトリー、これって」

「うごくな」


 興奮したルーが動きそうになるのを、手にぐっと力をいれて微動だに出来ないようにする。横からククルも興味深そうにのぞき込んでいた。

 キトリーが最初に塗ったベースの色は、それぞれの花の色が際立つように選んだものだ。もちろん、すべてを花ばかりにしても表現の幅が足りないので、左手にはシンプルなフレンチネイルやマーブル。濃淡のあるグラデーションに、砕いたガラス片をちりばめたりしてド派手な印象のネイルも一本仕上げてみた。

 バリエーション重視だったので、全体的な調和に関しては無視する形になったけれどもOL美玖の久しぶりの全力投入だった。


「キトリー!!!すごいです。凄すぎます!!」


 トップコートも塗って、完全に乾いたネイルアートを見てルーがベッドの上で飛び跳ねて喜びを表現する。ククルも一緒になって部屋の中を走り回っていると、隣の部屋からドンドンと注意されてしまった。それでも、ルーの目はきらっきらに輝き興奮は収まる気配がなかった。


「これなら社交界で目立つこと間違いなしですよ。あの宝石もすごくきれいでしたけど、毎回違うようにもできますよね。その度に注目を集められます。はぁ。本当にきれいです。私の手の中に四季が一つにまとまっているんですよ。春の花であるマーセンフローに、夏の花のエレイン、秋の花のランデバナム、それに冬の花のトレイク。左手のこれもシンプルですけど上品で気品があります。こちらはマーブルはエッカハインレスの花弁によく似ていて神秘的ですし、夜明けを感じさせる濃紺から白への流れるような移り変わり、砕いたガラスとは思えないキラキラと輝く宝石のよう」

「全体的なバランスは無視したけど、やりようによってはもっと色々できるよ。何か希望があればやってみるけど?」

「うーん。そうですね。こんなことが出来るなんて想像していなかったですけど、後は伯爵夫人の希望次第じゃないですか。それに、試すための指もないですし」

「ん。そこはククルの爪でもいいんじゃない?ククルって人型とシュロ型と変化すると塗った爪も元に戻ったりするのかな」

「それはないニャ。だから、ボクも協力するにゃ」


 いくつかのバリエーションを増やして、キトリー達は伯爵夫人へのアポイントを取ることにした。貴族との面会方法についてはルーが知っていたので、手紙を書いてもらい届けてもらった。面会の日まで二人にできるのは、弟探しである。


 ただし、どこへ行っても空振りばかりだった二人に、お礼に力になりたいと言ってククルが手伝ってくれることになったため希望が見えてきた。『女王様の瞳』を探すときに、街中のシュロにお願いしたように、ルーの弟探しにも協力してもらうことが出来るらしい。


 シュロの姿になったククルが、ルーの匂いを覚えてそれをほかのシュロに伝えるらしい。人の顔の違いを認識するのは難しいらしいけども、匂いは明確に違うそうだ。もちろん、兄弟でも匂いは違うらしいけども、共通する部分があるらしく探すのは可能ということだった。


 宿に返事が来るまでの間、二人はアーブがいるかもしれない場所、立ち寄ったかもしれない場所を重点的に回り、ククルはシュロと共に街の探索に乗り出した。


次回、交渉

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