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-274点の理不尽な世界  作者: 朝倉神社
第二章 冒険者として
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ストラテクラクスⅢ

 外壁の上には、先ほどと同様に兵達が立っているが人数に開きがあった。こちらに魔物を率いてきたものがいるのだろう。30~40人ほどの兵達が外壁の上で、武器を手に戦闘状態にあった。

 先ほどのグランガシートですら、傷をつけることの出来なかった弓兵部隊もホーグではなく外壁の向こうの敵に向かって射撃を繰り返している。全くの無駄ということはないのだろう。


 外壁手前で降ろされた二人が、外壁を登っていくと巨大なあごが顔を覗かせた。西門で戦ったグランガシートよりも巨大な顔が現れた瞬間、待ち構えていた槍兵が一斉に突きを繰り出す。多少のダメージは通ったのか、嫌がるように外壁から離れていく。


 そこへ爆炎の追撃が迸る。数トールほど弾かれて地面に叩きつけられた巨大なグランガシートに向かって、階段を駆け上がった女戦士が勢いそのままに外壁を飛び出し、高さのある斬撃を振り下ろす。しかし、グランガシートの下半身が大地でうねり、女戦士を弾き飛ばした。派手にごろごろと地面を転がると、何事もなかったように立ち上がった。

 

 ギリギリで防御が間に合っていたらしい。それでも、口の中を切ったのか、血の混じった唾を吐き出した。大剣を構えなおし、西門で見せたような不敵な笑みを浮かべて、巨大なグランガシートへとゆっくりと歩み寄る。目の前のグランガシートは先ほどの1.5倍ほどの大きさがある。体長だけではなく、おそらく外殻もそのぶん分厚くなっているのではないだろうかと想像する。


 兵たちは、グランガシートが外壁を上ってきたときの攻撃と、魔法使いによる攻撃、さらには弓兵たちの弓による攻撃を繰り返していたらしい。グランガシートの外殻を傷つけることは出来ずとも、無数にうごめく足は何本も切り飛ばされ、関節部分に数十本の矢が突き刺さっていた。体の大きさからすれば、どの程度のダメージになっているかはわからない。地面に流れる体液から、背中側の外殻は無理でも腹側にも幾らかのダメージを与えているらしかった。


 キトリーが観察している間に、グランガシートと女戦士の戦いは始まっていた。西門の戦いにはなかった遠距離の攻撃をグランガシートが繰り出していた。頭部に小さなトゲがあり、それを何らかの方法で飛ばしていた。兵士達の用意した明かりだけでは、細かな部分までは見えないが、女戦士が剣ではじきつつ、時には身を翻して攻撃を回避しているのが分かる。


 トゲの攻撃を掻い潜り、接近しようとした女戦士にグランガシートの長い下半身が襲い掛かり行く手を阻んでいた。それでも、体液が飛び散っていることみると、多少なりともダメージを与えているらしい。女戦士に焦りの色は見えないし、赤いオーラが見えないので、身体強化を使わずに巨大な魔物と戦っているのがわかって、さらに驚愕する。


「手伝わないのか」


 戦闘を行方を見守っている兵の一人に声をかけられて、仲間だと思われていることに気がついた。あんな化け物じみた人と同列に扱われるのは心外だとキトリーは顔をしかめる。


「大丈夫じゃないですか。スキルも温存しているみたいだし」

「そうなのか?」

「たぶんですけどね。ところで、こういう事態に対応できる兵士っていないんですか?」

「…」


 キトリーの質問に罰が悪そうに言葉を詰まらせる。警報というシステムがあることにも驚いたけども、住民の対応からして、これは予想された災害なのだろう。神の奇跡による町全体を覆う結界まで発動されているのだ。魔物そのものに対応する術がないとは思えない。


「エルデンシャイフは小さな町だが、5名の騎士が駐在している。だが、今は不在なのだ」

「不在?」

「先日グリエントルの森で魔物の共食いが報告され、騎士が対応に向かっていた」

「つまり、ここにいるグランガシートは街に来る前に食い止められるはずだったってこと?」

「ああ」


 悔しそうに顔をゆがませる。兵士個人のミスではないのだろうけども、町の守りを仕事としている身として忸怩たる思いがあるのだろう。責任感のある男だとキトリーは好意的に考える。それにしても、騎士とは最低一つはスキルを持ち兵士とは一線を画す存在だと聞いていたので、何があったのだろうかと気になった。西門と南門のグランガシートをすべて同時に相手取るのは、容易ではないだろうが女戦士の戦いぶりを見ていると、五人も騎士がいれば対応できないとは思えない。


-それとも、彼女が異常なのかな?


 そんなことを考えながら、外壁の下に視線を戻す。双方共に傷が増えている。巨大なグランガシートの外殻にも亀裂が入り、緑色をした体液が流れているのが見えた。しかし、そのどれもが致命傷ではないのか、傷が増えていても動きが鈍っている様子はなかった。


 反対に女戦士の方も血を流しているのが見えた。顔の右半分が血に濡れ、体のあちこちの衣類が破れていた。追い込まれているようにも見えるが、彼女の目はむしろ生き生きと輝きを放っていた。身体強化は体力の消耗が激しいので、使うタイミングを計っているのだろうか。

 どちらにしろ、様子見の時間は終わったかもしれない。


「槍を貸してもらえる?」


 話をしていた兵士が目を瞬いた。


「その槍は?」

「重くて使いにくいから」


 空牙槍の弱点は、一度使えば武器が手元に残らないことにある。だったら、初めからたくさんあれば問題は解決する。もちろん、自分の槍を使った後に、借りても良いけども、出来れば温存しておきたい。


「渡して大丈夫です。彼女はスキル持ちです」


 西門での戦いを見ていた、兵士が後ろから声をかけると、不可解そうな顔をしながらもキトリーに槍を手渡した。キトリーは自分の槍を地面に置くと、借り物の槍を構える。初めて使う槍に若干の戸惑いはあるものの、構えながら重心のポイント探り出す。投槍に必要なのは、槍の重心を把握することだとキトリーは理解している。


 女戦士とグランガシートの戦いを目で追いかけながら隙をうかがう。そして、キトリーは二重の意味で驚愕した。グランガシートに一切の隙がなかったのだ。体は巨大だし、女戦士と戦っているので、いくらでも貫けると思っていたが、実際に攻撃をしようと意識を集中した時、避けられる姿しか想像ができなかった。


 キトリーは一度構えをとき、深呼吸をすると狙いを変更して再び構えなおした。止めは女戦士に任せればいいと思考をシフトすると、頭部から下半身の方へと刃先を向けた。それだけで、先ほどの感覚は消え去った。キトリーは隙を見逃さないように、槍を構えたままタイミングを見計らう。グランガシートがトゲの遠距離攻撃に入った瞬間を逃さず、キトリーは空牙槍を放った。


 槍はグランガシートの外殻を貫き、下腹部を突きぬけ地面へと突き刺さる。蟲に痛覚はないというけれど、激痛を感じたグランガシートは長い胴体をのけぞらせ、がら空きになった腹部に女戦士が横薙ぎの斬撃を叩き込む。しかし、そこで不思議なことが起こった。先ほどまでは通っていた女戦士の大剣が外殻ではなく、柔らかい腹部に弾かれた。思わぬ反発に女戦士が体勢を崩し、体を仰け反らせていたグランガシートが遥か頭上より固い頭を勢いよく振り下ろしてきた。


-まずい!


 キトリーが潰される女戦士を想像して目を逸らそうとした瞬間、巨大な爆発音が鳴り響いた。視線を戻すと、グランガシートが爆発に弾かれ、女戦士はその場から身を転がして逃げていた。魔法使いがずっと機会を伺っていたのだろう。絶妙なタイミングでの魔法の発動だった。

 女戦士は飛び起きるとすぐにグランガシートに切りかかっていく。無事な様子に安堵の息を吐くと、キトリーは隣の兵士に向き直った。


「もっと、槍を用意して!」


 大きな声にびくりとなりながら、すぐに他の兵士に指示をだして槍が集められる。外壁を登ってきたグランガシートに攻撃をすることは出来ても、外壁の上から攻撃が可能なのはキトリーに限られる。集められた槍を手にすると、キトリーはすぐに空牙槍を発動する体勢へと入る。


 彼女の槍は十二分にグランガシートに通用する。鎌首をもたげるグランガシートの執拗な攻撃を掻い潜り、斬撃を入れる女戦士であるが、スキルなしの状態では十分なダメージを与えられていない。そこへキトリーの2発目の空牙槍が突き刺さる。


 胴体半ばを貫かれて、身をくねらせて痛みに喘ぐグランガシートの頭に女戦士の大剣が振り下ろされる。キトリーの攻撃のタイミングを見ていたのだろう。彼女の周りには赤いオーラが漂っている。斬撃はグランガシートの顔の右半分を派手に切り裂いた。緑色の体液が噴出し、彼女の全身を染め上がる。

 死には至らずとも、顔の半分を失ったグランガシートの動きは極端に鈍った。そこへ女戦士の追撃が入る。一太刀ごとに大きく巨体が切り裂かれ、大量の体液が零れ落ちる。


「うらーーーーーーーー」


 気合の入った雄叫びを上げながら、嬉々として大剣を振り回す様は彼女の方こそ化け物のようである。だが、体の半分以上を切り裂かれてもなおグランガシートは動き続けていた。巨大且つ分厚い外殻を持つ魔蟲を切り裂くのはスキルを発動していても容易ではないのだろう。遠く離れているキトリーのところまで、彼女の息遣いが聞こえていた。


 キトリーは3発目の空牙槍を放った。

 その瞬間、強い脱力感に見舞われ膝から崩れ落ちた。しかし、彼女の手を離れた槍は真っ直ぐにグランガシートの外殻を貫くと、地面へ縫い付ける。倒れてしまったキトリーに近くの兵士が心配そうに駆け寄ると、キトリーは小さく「大丈夫」と答えた。


 地面に縫い付けられ、半分以下の長さとなったグランガシートは自由を求めて暴れまわるが槍は深々と突き刺さり、ダメージを受けて弱っている今の状態では抜け出すのは無理そうだった。女戦士が口の端をうれしそうにあげると、ゆっくりと近づき、尻尾の先端を真っ二つに叩ききった。

 それですべては終わった。

 完全に動きを止めて、グランガシートが大地に横たわる。頭と尾が見た目に反して逆だったのかもしれない。気力を少し取り戻したキトリーは、兵士の肩を借りるようにしてその場に立ち上がる。


「終わった?」

「そのようですね」


 女戦士がグランガシートの頭を切り裂き、中から魔核を取り出したのを見て安堵の息を洩らす。人の頭ほどもありそうな黄色い石が、照明の明かりに照らされて不思議な光を放っていた。キトリーが今まで見たことの無い色の魔核である。それだけ格の高いものなのだろう。

 

 にぃっとシュロのような笑みを浮かべると、外壁の上にいる兵士に向かって魔核を投げ、勢いをつけて外壁を駆け上がった。


「いい相棒になれそうじゃないか?」

「…やだよ」


 元気の有り余る女戦士を前に、肉体的にも精神的にも感じる疲労をにじませてキトリーは拒否する。彼女の一言だけで、スキルを使わなかった理由がなんとなく想像ついた。女戦士はスキルが使えないほどに疲労が蓄積しているわけでもなく、力を温存していたわけでもなく、ただ単にキトリーの力を見るためだけに全力を出すことを控えていただけなのだ。


「くくっ、つれないねぇ」


 大剣を肩に担ぎ上げ、愉快そうに笑い声を上げる。周囲の様子をみると、自分の仕事は終わったとばかりに外壁に備えられた階段を下りていく。まだ、ホーグの群れの殲滅は終わっていないが、彼女を必要とはしないのだろう。キトリーはまだふらつく足元を槍を杖のようにしながら、立ち上がり兵士から借りていた肩を返す。後を追うつもりはないけども、彼女も帰ることにする。


 空牙槍を連続で使用したのは初めてのことだった。西門で使用した一回を含めると、四回の空牙槍を使ったことになる。つまり、3回が限界なのだろう。確かなことは分からないけども、比較的安全な状態でこの事実に気付けたのは幸運だったかもしれない。


 足取りのおぼつかない彼女に兵士達が気遣うように声をかけ、その声に気付いたのか女戦士が後ろを振り返る。


「ったく、自分の限界も理解してないようじゃ、あたしの相棒失格だよ」

「だから・・・」

 

 反論する気力もないことに、自分自身が驚いていると、宿まで送っていくつもりなのか足を止めてキトリーが近づいてくるのを待った。別に良いのに、そう思うキトリーだったけど、二人を西門から連れてきた兵士が会話に入ってきた。


「オルトヴィーナ殿に、キトリー殿、お二人の貢献に感謝いたします。申し訳ありませんが、宿まで送り届けることはできませんので、気をつけてお戻りください。街に侵入したホーグの全滅の知らせはまだ出ていませんが、他の冒険者や我々で後は対処できますのでお任せください」


 兵士が代表して礼を述べると、外壁で戦っている兵士たちも一度キトリーたちを向き直ると、右手を握り心臓の位置に持ってくると、直立の姿勢で右足を軽く上げて踏み下ろすという、この国の敬礼をする。

 キトリーは不本意ながらも、女戦士-オルトヴィーナに守られるような形で宿へと戻った。特に襲われることはなかったけど、もしもということを考えれば、彼女がついていてくれることは正直あり難かった。


 宿のドアを開けてもらうと、ルーが飛び出してきて、キトリーの顔色の悪さに目を白黒させて「無理しないでって言ったじゃないですか」と無事に戻ってきたことの安堵の声と、ちょっと怒ったような、不安そうな声をない交ぜにしてキトリーを支えるようにして2階の部屋へと向かった。

 ベッドに倒れこんだキトリーはそのまま眠りについた。

次回、再出発


己の無力さを知ったルーが、戦う術を手に入れようとする。



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