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-274点の理不尽な世界  作者: 朝倉神社
第1章 キトリーとルー
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空飛ぶ魔物

「あれは、どうなんでしょうね」

「大丈夫じゃないかな」


 グリュンの街を出てしばらく、王都までの道中までにある最後の大きな街がそろそろかというころ。いろいろなトラブルがあったものの、二人の旅は順調といえなくもなかった。お金は卑人差別のおかげでカツカツではあったけども、無理して稼がなくても、街道で遭遇した野生動物や魔物を狩ることで何とかなっていた。


 宿場町を出て街道沿いを歩いていると、前方の上空を飛び回る獣を見つけた。プテラノドンのような見た目の怪獣で、キールバーンに似ているとルーが言っていた。

 似ているのであって、キールバーンではないらしい。

 目の前の獣は肌の色が青っぽく、キールバーンは緑色をしているらしい。空を飛ぶ獣はすべて竜種と呼ばれるそうで、その飛行能力もあって恐れられている。なにしろ、人は空を飛べない。


 青キールバーンが上空を旋回しながら、時折勢いをつけて地面に近づき火を吐いた。

 地上には10人ほどの騎士がいて、戦闘状態にある。


 それをキトリー達は遠くで眺めていたのだ。

 盗賊でも魔物でも襲われていれば助けに向かうキトリーだけど、さすがに騎士達と竜種の戦闘に飛び込もうとは思わない。


「随分膠着してますね」

「たしかに、攻めあぐねてる」


 青キールバーンの討伐部隊というわけではなく、たまたま襲われたのだろう。

 ただ、10人以上の立派な騎士を連れていることからも、それなりの地位の人たちだと推測できた。獣車も豪奢なつくりをしていて、それを引く獣もシンドラという6本足の動物で、グルゥの倍以上の速度で走ることができる特別な獣だ。


 獣車の中では身を守れないということなのだろう。

 煌びやかな衣装を身にまとったキトリー達と同じくらいの少女が大楯の騎士に守られて外に出ている。彼女の傍には妙齢の女性もいる。母親なのだろうか。スーツのようにカッチリとした服を身に纏い、少女の母親とするには衣装が地味過ぎた。


 彼女たちを守る騎士は、槍使いが2人、剣士が4人、魔法使いが一人、大楯が二人、弓兵が二人の11人。もう一人の大楯使いは魔法使いの身を守り、呪文の詠唱を支えている。時折、盾の陰から氷の塊を上空に打ち出しているが、青キールバーンは空を縦横無尽に飛び回り躱している。


 剣士や槍使いは攻撃が届かないため、何もできずにいた。

 唯一、攻撃が届いているのが弓兵の矢だ。

 だが、青キールバーンは、遠くで観察しているキトリー達からもはっきりわかるほどに大きく、小さな矢がいくら刺さったところで、ダメージが足りていない。

 目のような急所に刺さらなければ意味がなさそうだ。


「はぁ。行くしかないかな?」

「貴族の令嬢なんか助けてもいいことないですよ」

「ルーがそれを言うの?」

「だって…」


 歯切れの悪い物言いに、キトリーが小首をかしげる。


「遠いから確かなこと言えないですけど、たぶんソールズベリー公爵の獣車です」

「知り合い?」

「公爵家と男爵家じゃ貴族と平民くらい差があるんで、向こうは知らないと思いますけど……」


 なにか嫌な思い出があるのだろう、苦虫を噛み潰したような顔をする。貴族のパーティーで何かあったのだろうかとキトリーは想像する。


「だからって無視するわけにもね。それに、私たちもこの道通るしかないから」

「ですよねぇ。私はどうしよう」

「ここで、待ってて」


 キトリーは荷物を下ろして、槍のカバーを外す。

 青キールバーンを一撃で屠ることはできないだろうけども、弓よりも確かなダメージを与えることならできるだろう。空から落とすことさえできれば、あとは騎士たちに任せればいい。

 この割り切りの良さが、キトリーの持ち味だ。


 上空を旋回していると言っても、高さにして20から30トールほど。投槍の有効射程範囲は倍以上あるので問題ない。動き回られていたら、当てるのは難しいので魔法使いの攻撃のタイミングに合わせるようにする。氷塊と青キールバーンの位置を考えれば、避ける方向も大体想像がつく。


 遠目にも精霊魔法を使う際の、光の集束は見える。

 右手に槍を構えて、一気に駆け出した。


「…エン・フラーラ」


 発動句が聞こえ、先のとがった氷塊が青キールバーンへと襲い掛かる。ただし、今度はさっきまでとは数が違う。青キールバーンの全身をハチの巣にするだけの、氷塊が打ち出された。

 避けきれないと悟ったのか、青キールバーンは羽ばたきで体を空に縫い留めると、極大の炎を吐き出した。


 爆発。


 炎とぶつかった氷が一瞬で沸騰し、周囲に水蒸気の煙幕ができる。


 キトリーは攻撃のタイミングを逸したが、構わず走った。反転してた獣車の御者台に足をかけ、天井に飛び乗った。筋肉を引き絞り、投槍のタイミングを待つ。


 「ちょっとあなた!」と非難の声が聞こえるがシャットアウトする。


 水蒸気の煙幕の中で動く影を探す。

 青キールバーンが羽ばたけば気流が生まれ、水蒸気の煙幕が流れる。

 相手にはこちらが見えていない。でも、キトリーには青キールバーンの動きがはっきりと分かった。煙幕を嫌い上へ上へと逃げようとしている。


 動きの先。

 水蒸気の壁を槍が突き抜ける。


「ぐぎゃ」


 という悲鳴に確かな手ごたえを感じると、遅れて巨体が落下する。


「やれ」


 騎士達のリーダーらしき男の声をきっかけに、剣士と槍使いが襲い掛かる。

 キトリーの槍は、青キールバーンの翼の根元付近を刺し貫いていた。あれでは飛んで逃げるのは無理だろう。もちろん、それを許す騎士達ではない。

 飛べないまでも牙や尻尾、鋭い爪での攻撃に加えて火炎を吐いて対抗していたが、地上では数の優位もあって騎士達のほうに分があった。キトリーが心配する必要もなく、しばらくすると戦闘は終了した。

 キトリーは獣車から飛び降りて、自身の槍の回収を行う。


「助力感謝いたす」


 先ほどのリーダーがキトリーに礼をいう。

 遠目には分からなかったが、まだ若い。20代前半の美丈夫。


「手を出さなくても大丈夫そうでしたけど、避けて通ることもできなかったので」


 ルーから、かなり面倒な手合いだと聞いていたので、足早に立ち去ろうとする。


「待ちなさい!」


 だが、それを許さないものがいた。

 極彩色のあまり品のいいとは言えないドレスをきた少女が仁王立ちになってキトリーの行く手を阻む。

次回、貴族

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