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-274点の理不尽な世界  作者: 朝倉神社
第1章 キトリーとルー
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ルーの魔法

 キトリーは槍を地面に突き立てると、ルーの手を引っ張りあげて走った。落下してきたオタマジャクシに槍の石突が突き刺さる。弾力性のある体は、槍の柄で大きくへこませると、バウンと音を立てて槍から弾かれる。


 キトリー達とは逆のほうに落下地点が変わる。ギリギリのところで、圧殺を免れた二人に粘液が降りかかる。 


「「いやぁああああ」」


 ふたりの絶叫がシンクロする。

 キトリーは背後にいたルーが盾となったお陰で、腕と顔に少しかかった程度だが、オタマジャクシに近いルーは髪も顔も体も、全身が粘液でヌルヌルになった。

 匂いがないのがまだ救い。


「走るよ」


 左手にルーを、右手に槍を再び手に取り走り出す。

 巨大オタマジャクシは、槍に弾かれたときに横転したせいで、立ち上がれずにいた。手足が短すぎるのだ。体をくねらせてどうにか体勢を立て直そうとしている。


-攻撃する?


 一瞬考えるが、不規則な動きをするオタマジャクシの急所を一突きするのは難しそうだと諦める。


「ルーは、あれが何かしらないの」

「ご、ごめんなさい。聞いたことないです」


 恐怖に顔を引きつらせて、悲鳴交じりに答えが返ってくる。ルーは一度目の転倒もあり、キトリー以上に粘液の被害が多い。


-なんだか、つやつやしてるね


 そんな場違いな感想を抱いた。ふたりの生活レベルはかなり低い。髪の毛のトリートメントなんて出来るはずもなくバッサバサになっていた。それが、粘液のおかげで艶で出ている。


-まるで、オイルみたい……まさか…ね!?


「ルー、走りながら魔法使える」

「で、できると思うけど、なんで?」

「粘液がもしかしたら燃えるかもしれない。一か八かだけどね」

「で、でも、わたし、炎飛ばしたりできないよ」

「それは何とでもなるから、やって」


 ルーが詠唱を開始する。

 キトリーはオタマジャクシの動きを目でとらえながら、最初に走り出した地点へと急いだ。荷物は休憩していた場所にそのままになっている。手を引きながら、ルーが転ばぬように足元などに気をつける。呪文の詠唱に集中しているので、気を回す余裕がない。


 キトリーは槍用のカバーを、刃先にひっかけて拾い上げる。そのまま、おたまじゃくしが落下した地点に落ちている粘液を布に付着させていく。周囲にキラキラとした光が集まりだし、詠唱のゴールが近いことが分かった。


「ルー、槍の穂先に火をつけて」


 呪文に集中しているルーからの返事はない。でも、ちゃんと聞いているはずだ。オタマジャクシの攻撃を躱すのには慣れてきた。詠唱が終われば、結論が出る。


「ブブ・エローラ」


 発動句が唱えられ、キトリーの槍に火がついた。ただの布の燃焼だけとは思えない大きな炎が立ち上る。オタマジャクシの粘液は可燃性だという確信が得られた。だとしたらやることは一つだ。


「そのまま走って!」


 手を放し、キトリーは立ち止まると、大きな影が頭上から落ちてくる。

 ギリギリのタイミングで横跳びに躱し、槍を突いた。弾力のある体に刃先が少しだけ刺さる。蚊に刺された程度の痛みなのだろう。それどころか、痛みすら感じていないのか反応がまるでない。しかし、槍は火を伴っている。

 槍の周囲の温度が一気に上がり、体表の粘液に火がついた。

 

 槍を中心に炎が一気に広がった。オタマジャクシの全身が極大の炎に包まれる。


「グリュアアーーー」


 オタマジャクシが悲鳴を上げ、キトリーは槍を引き抜きその場を離れる。ごろごろと体を横転させて火を消そうと暴れまわる。

しかし、燃えているのがオタマジャクシの分泌液である以上、簡単には消えない。それどころか、オタマジャクシが飛びながら粘液をまき散らしたところに飛び火する。下手に近づけば、キトリー達も火だるまになってしまう。


 火が消えず、怒り狂ったオタマジャクシが、キトリーに向かって跳んでくる。だが、距離をとって動向を見ていたキトリーは、冷静に投槍を放った。


 刺さることは確認済み。

 体表の粘液は燃えて機能しない。


 飛び上がったオタマジャクシの顔の真ん中に槍が突き刺さる。

 向かってくる力が相殺され、その場に落下する。

 絶命はしていない。

 もだえるように体がうごめく。


 だが、時間と共に、緩慢になってくる。それと合わせるように、体を覆いつくしていた炎も力を失い完全に鎮火する。


「ルー」


 動きが止まったことを確認して、先に逃がしたルーを探す。安心したのか、少し離れたところで、へなへなと座り込んでいた。


「キトリー、怖かったぁ」


 瞳を潤ませるルーに近づいていき、キトリーの体が固まった。二人ともぬるぬるには違いないけども、キトリーのほうがかなりマシだ。キトリーは手を掴めるように差し出した。


「立てる?」

「…キトリー、いま一瞬止まりましたよね」


-ばれた!


「そんなことないよ。何言ってるの?」

「じゃ、じゃあ、なんで最初は両手を広げてたのに、引っ込めて片手になったんですか?」


 安堵の表情が消え、顔つきが鋭くなる。


「いつもなら、ぎゅってしてくれるのに……」

「いや、ほら、いつまでも子ども扱いするのも悪いなって」

「絶対ちがいますよね」


 キトリーの手を取らずに、立ち上がる。

 ルーの目つきに不穏なものを感じて、キトリーは後ずさった。


「ル、ルー!? なんか、ちょっと怖いよ」

「そうですか?」

 

 ゆっくりとにじり寄ってくるルーから逃げるように背中を向ける。


「なんで、逃げるんですか?」


 静かな分、不思議な怖さがある。オタマジャクシを前にしたときよりも、確かな恐怖を感じてキトリーは走り出した。そのあとをルーが追いかける。


「キトリーーー!」

「いやーーーー!」


 まばらな火が上る粘液だまりと、消し炭となった巨大な塊、多くには霧が見える不毛の大地に二人の嬌声が響き渡る。

この後、ぬるぬるの二人が宿場町で宿を探せたのかどうかは別の話。


次回、ククル


峡谷の町にたどり着いたキトリーたちが、探し物をしている少女と出会う。

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