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APOLLON -灼熱の特務執行官-  作者: 双首蒼竜
FILE4 明かされる過去と真実
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(6)放たれた災厄


 通路を進んだ一行は、少し開けた空間に出た。

 巨大な円形をしたその空間は、直径として二十メートルほどありそうである。

 周囲の壁にはレリーフのようなものが刻まれているが、どのような意味があるのかは一見わからない。

 それ以上に目を惹いたのが、空間の中央に立つ巨大な台座であり、その上には丸い結晶のようなものが鎮座していた。

 結晶内部には、激しく動く赤黒い渦が見えている。


「これは、いったいなんだ……?」

「なんとも禍々しい感じだが……まるで卵のようにも見えますな」

「エネルギーの発生源は、間違いなくこれだが……これは鉱石か?」


 各々が異なった意見を口にする中、結晶の中の渦が目に見えて動きを変える。

 赤と黒とが不規則に混じり合う様は、原子生物か細菌のような不気味な動きであった。


『……破壊せよ』


 次の瞬間、ライザスは奇妙な声を聞いた。

 通信機を通して入ってくる音声ではなく、直接耳に語り掛けられたかのような声だ。


「博士? 今、なにかおっしゃいましたか?」

「いえ、私はなにも……!?」


 思わずウェルザーを見る彼だが、そのウェルザーも驚いた表情をしていた。

 よく見ると、その場にいる人間たち全員が顔を見合わせ、動揺した様子を示している。


『……破壊、混沌……』


 続いて聞こえてきた声は、先ほどよりも強く響くものだった。

 一行の多くが膝をつき、苦しんだように頭を抱えた。


「これは……なんだ? 頭の中に直接、声らしきものが……!?」

『……放て。すべてを混沌に帰すために……!』


 ライザスも軽い頭痛を覚える中、結晶の中の模様が形を変える。

 赤い輝きの中に浮かんだ黒い染みが、まるで人の顔のような形を取った。その顔は、邪悪な笑みを浮かべているように見える。

 やがて、頭を抱えて苦しんでいた者たちが揃って立ち上がった。

 軍人たちはレーザーライフルを、研究員たちは護身用のブラスターを手に取って構える。

 その動きは緩慢ながらも、一糸乱れぬ統制された動きだった。


「お前たち、どうした!?」

「よせ! やめるんだ!!」


 ライザスたち三名が制止の声を発する中、残りの者たちは一斉にトリガーを引く。

 放たれた閃光が結晶体に次々と炸裂し、凄まじい光が辺りを包み込んだ。


『ハハハハハハハハハハ……!!』


 やがて不気味な笑い声と共に、結晶体はひび割れ、粉々に砕け散る。

 同時に赤黒い波動のようなものが吹き荒れ、その場の全員が衝撃波で壁に叩き付けられた。


「ぐ……う……な、何者だ……!?」


 苦痛に呻きながら、ライザスたちは目を見開く。

 結晶体のあったその場所に、人の姿をした影のようなものがたたずんでいた。

 影からは激しい風のようなエネルギーが放たれ、一行を壁に張り付け続けている。

 その顔に当たる箇所には複数に色を変える瞳のような輝きが二対ずつ、上下に連なって計六つ浮かんでいた。


『ほう……我が力に当てられて正気を保つとは……だが、所詮は人間よ』


 不気味な影はそう言うと、振り上げた手からレーザーのような闇を放つ。

 その闇が、動こうとあがくウェルザーの胸板を貫いた。


「ぐわあぁぁぁっ!!」

「博士!? 貴様!!」


 その場に崩れ落ちた彼を見て、ボルトスがライフルを構えようとする。

 しかし、強烈なエネルギー流は、逆らおうとする者の一切の動きを許さない。

 怒りに震える軍人の胸板を、続けて闇が貫いた。


「ぐわっ!!」

『なにをしようと無駄なこと……だが、感謝するぞ。人間ども……』

「少佐!? ぐうっ!!」


 やはり抗おうとするライザスにも、闇のレーザーは放たれた。

 正気を保っていた三名はなす術もなく倒れ、残された者たちは意思を失ったまま、壁に埋もれていく。

 スペーススーツすら貫通する圧力の前には人間の肉体など豆腐のように脆いものであり、誰もが形を失いながらその生命の鼓動を止めていった。


『我が力の解放と共に、閉ざされし領域への道は開かれる……我が子らよ。贄を捧げよ……我が眷属、そして我のために……!』


 やがて不気味な影はその姿を崩し、拡散するように広がっていく。

 ひび割れ砕けていく施設内部の映像を最後に、場面は移り変わった。





 次の場面は、再び強襲揚陸艦のブリッジであった。

 そこには激しい警告音が鳴り響き、乗員たちが慌てふためいたように飛び回っている。

 艦自体も激しく揺れており、緊急事態なのは間違いない様子だった。


「これは……いったい、なにがあった!?」

「わ、わかりません。小惑星から放たれるエネルギー数値が、異常な高まりを見せています!」

「調査団は!? 調査団の探査艇は!?」

「動きがありません! こちらからの通信も届いていないようです!!」


 乗員の誰もが困惑の声を上げる中、スクリーンに映っていた小惑星がその姿を変えていた。

 全体が脈動するかのように蠢き始め、赤黒い色が鮮やかな赤へと変じていく。

 そして、その表面には無数のひび割れが走り始めていた。


「小惑星から放たれるエネルギーが、危険なレベルに達しています!」

「た、大変です!! 艦体第一次装甲に亀裂が発生しています!! 艦長! ここにいては本艦も危険です!!」


 宇宙空間すら揺るがす凄まじいエネルギーの奔流に、強襲揚陸艦自体も軋みを上げている。

 現在位置にとどまり続ければ、状況はさらに悪化するだろう。

 調査団のことは気になるが、今は自分たちの安全を考えねばならない。


「やむを得ん……本艦はこれより一時後退し……!?」


 艦長席に座っていた男が立ち上がり、一時後退の声を発したその時であった。

 まるで内側から弾けるように、小惑星が爆発した。

 正確には、小惑星の表面を覆っていた赤い外殻が吹き飛んだのだ。

 砕け散った欠片は、無数の流星のようになって周囲に飛散していく。

 そして小さいながらも灼熱の弾丸と化した欠片の直撃を受け、強襲揚陸艦が更に震えた。


「か、艦長! 破片が、艦体を突き破って……ぐわああぁぁぁぁ……!!」

「メ、メインエンジンが破壊……うわああぁあぁぁぁ……!!」


 あちらこちらで悲鳴が上がり、強襲揚陸艦は炎に包まれていく。

 やがてブリッジ内部にも破壊の嵐が吹き荒れ始め、乗員たちの断末魔の叫びの中、白い閃光が弾けた。

 その輝きが世界すべてを染める中、記録は終わりを告げた――。






 小惑星突入から爆発までの一部始終を見ていたソルドたちは、そこでようやく我に返ったように口を開き始める。


「おい、まさか……あの小惑星の外殻が全部、カオスレイダーだったのか!?」

「確かに、あの粉々に吹き飛んだ破片……サンプルで見たカオスレイダーの種と似た形をしていたわ」


 シュメイスとルナルは、吹き飛んだ小惑星の破片がカオスレイダーを生み出す種だと認識していた。

 元々の種と呼ばれる寄生体が人の指先ほどの大きさなので、あの規模だと天文学的な数字の種が生み出されたことになる。


『最後に出てきた映像から、外殻の吹き飛んだあとの姿が、今のパンドラと一致してますね……』

『一瞬しか見えなかったけどね。でも、あの気味悪い殻に囲まれてたって思うと、ぞっとするなぁ』


【クロト】と【ラケシス】は、爆発のあとに一瞬だけ見えた映像に注意を向けていたようだ。

 それは紛れもなく現在の小惑星パンドラであり、元々はカオスレイダーの外殻に覆われていたことになる。


「それよりもあの影、あれは……【テイアー】なのですか?」


 身を震わせるようにしながらつぶやいたのは、アーシェリーだった。

 彼女は結晶体の中から出てきたあの影の存在に、脅威と恐怖とを感じていたのだ。

 実際、殺されかけたことを考えると無理のない反応だが、ソルドの見解は違っていた。


「いや、似ているが違う。あれはまだ見たこともない奴だ。それにあの禍々しさ……奴とは桁違いだった」


 それは【テイアー】や、金の瞳の影と直接対峙したことのある彼だからこそ、抱いた感想だった。

 今まで出会ったものと比較すると、あの影は映像データでありながらも、圧倒的過ぎる存在感を持っていた。

 恐らくまともに向かい合ったら、まるで太刀打ちできないだろうと直感させられるほどに――。


「それよりもあの影はいったい、どこに消えたのかしら? それにあの意味深な言葉もなんなのかしらね……」


 サーナは、影の行方が気になっている様子だった。

 影が最後に残した言葉の意味も、今の記録からは推測しづらい。

 その時【アトロポス】が、なにかに気付いたように全員に告げた。


『あ、待ってください……この記録、まだ続きがあるようですよ? 先に進めてみましょう』


 終了したと思われていた映像記録の先を発見し、彼女は場面を次に進めた――。


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