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APOLLON -灼熱の特務執行官-  作者: 双首蒼竜
FILE11 黄昏に向かう世界
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(27)ひび割れた秩序


 そのニュースは、世界を震撼させた。

 火星最大の軌道エレベーターを襲った悲劇――百数十名にも及ぶ犠牲者を出した襲撃事件は、ソルドたちやCKOの奮闘も空しく、反政府組織によるバビロン占拠という結果に終わったのである。

 そして、誰もが予想し得なかった事実は、世界を大きく変えるうねりとなっていく。




『我らは世界に新たな秩序をもたらすべく、立ち上がった! この度の軌道エレベーター占拠は、その先駆けとなるものだ!!』


 映像の中で、銀髪の男が弁舌を振るっている。

 特徴の少ない顔をした壮年の男だ。拳を振り上げつつ、鋭い視線をカメラに向けている。


『これをご覧になっている人々の中には、テロリストがなにを言うのかと憤慨する方もいるだろう。実際、多くの犠牲者を出してしまったことは、我らとしても誠に遺憾である。しかし、それは我らの本意でなかったことをご理解頂きたい!!』


 威圧するようでありながらも、強弱と抑揚をうまくつけて語る様子は、男がしゃべり慣れた人間であることを窺わせる。


『どうか改めて考えてみて欲しい。偽りの秩序を掲げる現行政府やCKOが、今までなにをやってきたのか! 世界を富裕層と貧困層とに分断し、不満を抱く者を武力で抑えつけて統治するやり方は、昔となにも変わっていない。そう……我らの祖先が地球という星を食い尽くし、崩壊に導いた頃となにも変わっていないのだ!!』


 語っている内容が真実か否かは、この際、関係なかった。

 たとえ偽りであろうとも、それを信用させる説得力があれば真実となる。

 武力であれ言葉であれ、力こそ正義であることは、今も昔も変わらないことだ。


『……政府の愚策は数え上げればキリがない。我らはそんな旧態依然とした支配を、理想をもって打ち砕く!! そして闇に煌めいていた【宵の明星】は、栄光の輝きを得て【明けの明星】となるのだ!!』


 つらつらと話を続けてきた男は、やがて大きく両腕を広げ、ここぞとばかりに声を張り上げる。

 どこか芝居じみていながらも、その言葉は確かにひとつの変革を見る者に期待させた――。





「……なかなか見事な弁舌でしたな。小物の割には」

「レイドリック=バース……支部長クラスとしては凡庸な男だが、口はそれなりに回る。要は適材適所ということだ。矢面に立たせるにはちょうど良い人材よ」


 中空に浮かんでいた映像が消え、円柱状に造られた室内で、男たちは口々に言った。

 前回は広さに合わぬほどに張り詰めた空気が漂っていたが、今はそこまででもない。

 軍服のような服を纏った者たちの顔に浮かぶのは、緊張以上に歓喜とも呼べる感情であったのか。

 やがて、一番背もたれの高い椅子に座る白髪の青年が口を開く。


「この度はご苦労だった。バビロン攻略作戦の成功は、諸君らの尽力あってのことだ」


 その言葉に、場の全員が頭を下げる。

 次いで言葉を発したのは、斜め向かいに座る男だ。


「若干のイレギュラーはありましたが、作戦の進行には支障ありませんでした。今回はむしろ、そのイレギュラーが我々の味方をしてくれたとも言えますが……」

「ふむ……例の化け物、カオスレイダーか」


 白髪の青年は、なにかを思うように視線を上げる。

 血の色をした瞳が、歪に煌めいた。


「実際、現場には特務執行官がいたようです。奴が作戦の阻止に注力していたら、結果は違っていた」

「CKOとしても虎の子だったのだろうが、謎の化け物が現れれば、そうも言ってはおられんからな」

「然り。いかに噂の特務執行官と言えど、本来の目的を忘れて行動すれば世論の批判の的となる。奴らもそれは望むまい。なんとも皮肉なものよ」


 次々と放たれる言葉に哄笑が重なる中、青年は右手を上げた。

 同時に再び、場の空気が重くなる。


「企業どもの動きはどうだ?」

「アマンド・バイオテックは、内部でも意見が割れているようです。ですが、今回の件で自社の最重要施設を提供した以上、言い逃れはできんでしょう」

「ハナビシ・バイオケミカルは数刻ほど前に、本格的な協力を申し出てきました。もっとも、奴らとしては他に目的があるようですがね……」

「アマンド・バイオテックの有するSPS細胞……そしてSSSの新型強化兵士。その技術をものにしたいというところか?」

「ハナビシも、競合他社の後塵を拝するのは我慢ならないのでしょう。所詮は俗物ということです」

「そう言うな。世の大半は俗物が占めるのだ。貶すのではなく、利用することが肝要だ」


 思い思いに口を開く列席者たちの間に共通するのは、圧倒的な自負である。

 自分たちが他者よりも優れているという、幼稚かつ純粋な自己顕示欲だ。


「あとは、政府やCKOがどう動いてくるかだな」

「奴らとしても、このままバビロンを放置しておくつもりはあるまい。奪還のための戦力を送り込んでくることは容易に考えられる」

「然り。それも恐らくは少数精鋭……特務執行官である可能性が高い」

「そこは対策を練らねばならないところか……」


 もっとも、彼らとて怖れはあるようだ。

 特務執行官――まったく未知とも言える敵の存在は、その最たるものだったろう。

 空気の変化を読み取った白髪の青年は、重々しさを含んだ声で告げる。


「諸君らの懸念は理解した。それに関しては、私に任せてもらいたい」


 リーダーと呼べる人物の確かな言葉に、誰もが口をつぐんで頭を下げる。

 やがて静かに立ち上がった青年は、列席の者たちを見回し、声を張り上げて続けた。


「今回の作戦成功を機に、世界は大きく変わり始めるだろう。新世界到来のために、今はそれぞれが為すべきことを為せ。偉大なる我らが主のために……!」

「【宵の明星】に、栄光の輝きを!!」

「【宵の明星】に、栄光の輝きを!!」


 誰が言い出したかわからないほどスムーズに、唱和の声が辺りに響き渡った。





 その後、小高い岩山に偽装された施設の外に、白髪赤眼の青年の姿はあった。

 跪いた彼の前にいたのは、目元に白い光を湛えた黒い影である。

 青年の報告を聞いていたその影――【レア】は、やがて重々しく口を開く。


「なるほど……今回はご苦労だった。やはりお前たちは優秀だな」

「ありがたきお言葉……」

「世界を変革するためにも、この流れを途切れさせるわけにはいかん。特務執行官の件は、私に任せておくが良い」


 その言葉に、青年の身はわずかに震えた。

 畏怖と畏敬とを抱く黒き影に現状の懸念を伝えたものの、無視される可能性は大いにあった。

 しかし、偉大なる主は彼らを見捨てなかったのだ。


「我らが主よ……御身の手を煩わせるようなことになってしまい、申し訳ありません」

「気にする必要はない。奴らは人の手に余る存在だ……むしろ、お前の判断は的確と言えよう」


 そんな彼の思いを察したのか、【レア】は努めて穏やかに言い放つ。

 青年はそれに対し、地にこすりつけんばかりに頭を下げた。


(想像以上に、事はうまく運んだか……混沌の軍勢も今は、この流れを利用することを選んだようだな……)


 しかしながら、【レア】の心にあったのは別の思いである。

 反政府組織の作戦が失敗する可能性は充分にあったが、その成功を後押ししたのは他ならぬ【統括者】たちの行動であった。

 もちろん、ある程度は思惑通りであったものの、実際は僥倖と言えただろう。


(だが、【絆の光】の復活は手間取っている様子……少し介入してやる必要があるか。今回の件は、うまく利用できそうだな……)


 乾いた風の吹き抜ける中、【レア】は残された懸念のことを考える。

 自身の目的を果たすべき重要な駒は、いまだ深き闇の中に取り残されたままだ。


(くだらぬ感情などで、イレギュラーを起こされても困る。ルナルよ……お前の役割はこれからなのだ……)


 新たな暗躍を考える黒き影に、慈愛の心はまるでない。

 それを示すかのように、白く輝く双眸が中空に歪んだ光を放った。





 時は無常に移ろいゆく。

 ずっと続くと思っていた平穏も、いずれは崩壊する時がやって来る。

 世界に走った亀裂は秩序の黄昏となり、混沌の夜を導く。

 その中で人は、戦士たちはどう歩んでゆくのか。

 数多の思いが生まれすれ違い、戦いはより混迷の度合いを増す――。





FILE 11 ― MISSION FAILED ―


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