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APOLLON -灼熱の特務執行官-  作者: 双首蒼竜
FILE10 それぞれの道
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(12)危機下の決断


 解けた謎と残された謎――そのふたつが頭の中で渦を巻く中、ソルドがその事実に気付いたのは、少し時を経てからのことだった。


(なんだ? この異常な熱は……?)


 湧き上がってくる熱気が、室温を急激に上昇させている。

 床もわずかに振動しており、遥か足の下でなにかが稼働していることを感じさせた。


「ふむ……臨界まで、十分を切ったか」

「……なに?」


 それとなくつぶやかれたガイモンの言葉を耳にしてすぐ、頭の中に簡易通信が飛び込んでくる。


『ソルド! 聞こえるか!?』

「シュメイスか? どうした?」

『これはやはり罠だった! 早く脱出しろ!!』


 いつになく焦った様子の通信にソルドが眉をひそめると、シュメイスは畳み掛けるように続ける。


『あと八分で、ここは完全に吹き飛ぶ!! もう止める手はない!!』

「なんだと!?」

『SSSは強制捜査を見越していたんだ! 重要な機密もすべて移動させた上で、本社をビルごと消し去るつもりだ!!』

「バカな!!」


 あまりに突然かつ衝撃的な内容であったが、状況を考えると、ある程度納得はいく。

 思わず踵を返しかけたソルドはその途端、入口を封鎖するように落ちてきた壁を目にしていた。


「どこへ行く気じゃ? 特務執行官?」

「ガイモン! どういうつもりだ!?」

「どうもこうもなかろう。お前の質問には答えてやった……今度はわしの番じゃ」


 コンソールを操作したガイモンは、低い声で言った。

 どこか闇を感じさせる雰囲気の老人に目を戻し、ソルドは顔をしかめる。


「さっきの言葉……貴様は、ここが吹き飛ぶことを知っていたのか!?」

「気付いたか……その通りよ。ディスインテグレーション・システム――特殊なエネルギー波を放出し、直上にあるすべての物体を原子分解して消し去る装置じゃ。わかりやすく言えば自爆じゃが、単なる自爆と違って文字通り跡形も残らないのが特徴じゃな」


 変わらず饒舌に語るガイモンだが、その内容は物騒以外のなにものでもない。


「ふざけるな! このビルにはSSSと関係のない人々も大勢いる!! それに貴様自身も死ぬつもりなのか!?」

「それがどうしたのじゃ? 有象無象の生命などどうなっても構わん。そしてわしも承知の上でここに残っておる……お前も人格継承のことを知っているのならば、その目的は理解していよう」


 声を荒げるソルドに対し、しかしながら老人は意に介した様子も見せない。

 人格継承は、知識や記憶を別の肉体に移し替えることで永遠に近い時を生きる手段だ。

 今の自分が死したとしても、その意思は受け継がれる。ガイモンにとって死とは、すでに自身の消滅と同義ではなくなっているのだ。


「それにお前たち特務執行官に、それを責める資格があるのか? お前たちの敵も、元はなにも知らない人間たちのはず……!」

「!? それは……!!」

「人の姿や心をなくしたから殺しても構わない……偉そうなことを言っても、やってることは所詮人殺しよ。むしろ己が行為を正当化しようとしている分、タチが悪いわ。欲望の赴くままにそれを為すほうが、よほど純粋というものよ」


 特務執行官の背負う宿命を、老人はあっさりと切り捨てる。

 やってることは所詮人殺し――かつてはボリスにも言われた言葉だった。もちろんすべてがその一言で片付くものではないが、本質的な面で見れば理があったことは確かである。

 ソルドは、歯噛みして押し黙るしかなかった。


「まぁ、そちらの事情など知ったことではないがな。それよりも、わしの問いに答えてもらおう……お前たち特務執行官の力の源についてな」

「……答える義理はない」

「フン……勝手なものよ。もっとも無理に口を割る必要などないでな……」


 言葉を続けたガイモンは、そこで再びコンソールを操作する。

 脇の床から柱のようなものがせり出し、その先端が彼の目線の辺りで停止する。

 そこにあった物体を目にした瞬間、ソルドは驚愕せざるを得なかった。


「それは!? なぜ、貴様がそれを!?」


 柱先端の透明な培養カプセルに入っていたのは、緑と紫のツタが絡み合うような外見をした種子である。

 それは紛れもない新種カオスレイダーの種子であった。


「あのダイゴ=オザキの置き土産よ……しゃべらないのなら、直接見せてもらおうではないか」

「バカな! それは人の扱える代物じゃない!!」

「さて、それはどうかな……? 試してみなければ、わかるまい……!」


 ソルドの制止の声にも構わず、ガイモンはキーを叩く。

 次の瞬間、カプセルは開放され、獲物を見つけたかのように蠢いた種子は老人に襲い掛かった。


「うおおおおおおおぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉ!!」

「ガイモンッ!!」


 無数のツタに絡まれ、ガイモンが異形のサナギに包まれる。

 そして脈動したそれは、周囲の熱気を振り払うかのように爆発的な衝撃波と共に砕け散った。






 その頃、シュメイスたちは立ち往生を余儀なくされていた。

 特務執行官たちを分断するために使われた分厚い隔壁が、二人の脱出を阻んでいたのである。


「これをブチ抜かないと戻れないか……!」


 来る時はそこまで脅威にも感じなかった壁だが、時間に追われている今はいまいましささえ感じる。

 腕の中のアンジェラも、焦燥を隠せない様子だった。


「どうするんです!? このままじゃ……!!」

「……心配するな。一応、手はある……少し離れていてくれ」


 静かに答えたシュメイスは彼女を下ろすと、隔壁に右手を当てた。

 そのまま目を閉じ、スキャニングモードを起動――意識を集中する。


「分析完了。振動波を固定……よし、いくぞ!」


 手に入れた情報に従い、コスモスティアのエネルギーを高める。

 それを変換し、壁に流し込むようなイメージで波動として放つ。

 かざした手が輝くと同時に隔壁に亀裂が走り始め、やがて砕けて崩れていく。

 十数秒ほど時間を要したものの通路を隔てていた壁はほぼ消え、塵となってその場に積もった。


「す、凄い……! これって……?」

「見よう見真似の仲間の技さ。実戦で使うには難しいが、障害物の排除ならなんとかなる……!?」


 嘆息しつつアンジェラの元に寄ろうとしたシュメイスだが、そこでハッとして動きを止める。

 起動したままのスキャニングモードに、新たな情報が流れ込んできたからだ。


(カオスレイダーの反応だと!? しかもこのCW値は新種……こんな時に!!)


 同フロア――ソルドの反応が感じられる地点に、敵が出現していたのだ。

 それは今彼らが置かれた状況を考えれば、あまりに厄介な相手と言えた。

 怪訝そうに見上げてくるアンジェラに目を戻しつつ、シュメイスは新たな焦燥を内心で抱く。


(助けに行きたいが、彼女を放っていくわけにもいかない! 急げ。ソルド……今は無理に戦うな……!!)


 抱き上げたエージェントの生命を守るべく、彼は脱出を優先し駆け出した。

 システム発動までの時間は、すでに五分を切っていた。






 施設内部に、破壊の嵐が吹き荒れる。

 照明が割れ、立ち並ぶ機器が爆発し、培養カプセルが砕け散る。

 立ち昇る熱気も異常な暑さを生み出す中、そこはすでに人の存在できる環境ではなくなっていた。


「オオオォォォオォォ……コントン……コレガアァアァァァァァァ……!!」


 人のようでいて獣のようでもある漆黒の魔人が、咆哮を上げる。

 熱風の中でその姿を見たソルドは、強く歯を噛み締めた。


(ガイモン……! カオスレイダーになってしまったか!!)


 ダイゴと違い普通の人間であるガイモンに、新種の種に抗う術などない。

 今、目の前に現れた存在は文字通り、特務執行官の敵であるカオスレイダーだった。


「オオォォオオォォォ……ミセロ……チカラヲォォオオォォ!!!」


 魔人の全身から無数の触手のようなものが生えた。次いでそれらが凄まじい初速と共に放たれる。

 ソルドは飛び退って回避するも、すぐに分厚い隔壁が背に当たった。

 わずかに舌打ちした彼の目に間髪入れず迫る追撃――とっさに腰を落とした頭上で、触手が立て続けに壁に突き刺さった。


(悠長に戦っている余裕はない。そして逃げ道はない……!)


 その後も触手の攻撃は休む間もなく押し寄せ、ソルドの逃げ場を奪っていく。

 敵の力はかつてのフューレと同レベルであり、簡単に倒せる相手ではなかった。

 更には臨界を迎えようとしているディスインテグレーション・システムの存在――通常兵器を無力化するカオスレイダーにとって脅威ではなくとも、ソルドにとっては生命を脅かす悪魔の罠だった。


(危険な賭けだが、ここはA.C.Eモードで一気に突破するしかない!)


 もはや逡巡は命取りと判断した彼は、意識を集中して最終形態を発動した――。


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