(10)光の下の激闘
四方から吐き出された光の弾が、連続で着弾した。
轟音の中、もうもうと巻き起こった爆風と粉塵の中から、ソルドは飛び出す。
しかし、ドローン群は容赦なく攻撃を加えてくる。エナジーバレットが次々と彼を狙い、態勢を立て直す間もなく彼は回避を強いられる。
弾ける閃光と共に繰り広げられる追走劇――しかし、ソルドに迫る攻撃はドローンからのものだけではなかった。
「そんなによそ見していていいのかしら!?」
「なにっ!?」
隙を見て飛び込んできたダージリンの蹴りが、ソルドの身体を捉えていた。
想像以上に重い一撃を食らい、超金属細胞が軋む。
転がるように吹き飛ばされたソルドは歯噛みしたが、そこへドローンからの追撃も押し寄せたため、とっさにエネルギーフィールドを展開せざるを得なかった。
「あら? そんな手が残されていたのね。でも、それだと動きは取れないわね?」
光弾を受け止めるソルドを見つつ、ダージリンはその背後に回り込む。
ドローンの攻撃が止んだタイミングを狙ったように、彼女は再び連続蹴りを放った。
続けざまの攻撃を回避することも間に合わず、ソルドは前のめりに吹き飛ばされる。
「く……!」
床を転がった彼は、またしても態勢を立て直す間もなく光の雨に晒される。
それらを再度エネルギーフィールドで受け止めながら、ソルドは追い込まれつつあることに戦慄した。
用意された罠に飛び込んでしまったとはいえ、このような形で身体能力の不利を補ってくるとは想定外だった。SPS強化兵が特務執行官の戦闘能力に及ぶはずがないという驕りが、心のどこかに残っていたこともあったろう。
同時にこの状況は、ライザスの抱いた懸念が現実味を増したことを意味してもいた。
(SPS強化兵……やはり、このまま放置するわけにはいかん。倒さねばならない……!)
これまでの攻防における不覚を反省し、ソルドは改めて闘志をみなぎらせた。
「ふむ……今のところは優位といった感じじゃが……」
ソルドたちの戦いをスクリーン越しに眺めながら、ガイモン=ムラカミはつぶやいた。
彼以外は無人の研究施設内。スクリーンの脇には複数の小型スクリーンが浮かび、様々なデータを表示している。
「身体能力の差異は、そこまで大きいものではない。問題となるのは、エネルギー源……あれは既存の科学で造り出せるものではないようじゃ」
コンソールを操作しつつ、彼は淡々と分析を進める。
灼熱の炎やエネルギーフィールドを瞬時に生み出す特務執行官の力――コスモスティアの存在を、老人はこの短時間で突き止めていた。
「奴を超える兵器を生み出すためには、やはりアレを利用する以外ないということじゃな……」
やがてガイモンは、納得したようにつぶやく。
未知のエネルギー源の存在ゆえ、彼の中ではダージリンに勝機がないことは想定済みだった。
今、こうして善戦していることは意外であったものの、それが長続きすることもあり得ない。
「じゃが、見れるところまでは見せてもらうぞ。特務執行官よ……」
猛禽にも似た光を瞳に宿し、ガイモンは皺だらけの顔に歪んだ笑みを浮かべた。
光の広間における戦いは、特に大きな変化もなく続いていた。
ドローンの放つ無数の光弾があちらこちらで弾け、無表情とも言えた室内はデコボコに様相を変えている。
特に反撃する素振りもなく、ひたすらに逃げ回るだけのソルドを追いかけながら、ダージリンは獲物を追う喜びと同時にわずかな苛立ちを覗かせていた。
「どうしたの? 逃げ回るだけなのかしら!?」
彼女にしてみれば、ゾクゾクする戦いこそが望みだった。
いかに打つ手がないとはいえ、立ち向かってくるような動きを見せて欲しかったのだ。
少なくともソルドという男は、そういったタイプの人間だと彼女は思っていた。
「その程度だなんて、失望したわね!! あなたはもっと骨のある相手だと思ったけれど……!!」
しかしながら、苛立ち気味に放たれた蹴りを受け止めて後退しながらも青年の思考は冷静だった。
(あのドローン……自律稼働にしては、ダージリンが攻撃してきた時だけ動きが鈍る。味方を識別して攻撃を止めるというよりは、コントロールそのものを喪失するような……)
戦いに意識を集中し直したソルドは、ダージリンとドローンの連携を分析していたのだ。
誤射を避けるため、両者の攻撃が被らないのは理解できる。しかし、その動きに不自然さがあることを彼は感じ取っていた。
(それに奴が仮面を装着した意味……私の予想が確かなら……)
これまで得られた情報から、彼はひとつの仮説を導き出す。
しかし、それを実証するには、敵の攻撃に隙がなさ過ぎた。
そこで脳裏に浮かんだのは、あるひとつの技の存在である。
(フィアネスから原理は聞いているが、やってみたことはない。それに彼女ほどの効果が期待できるかどうか……躊躇っている場合ではないな)
特務執行官の使う技には、少なからず互換性がある。原理自体を把握すれば、模倣することは可能だ。
つまり純粋な専用技能はそこまで存在しないのだが、相性や慣れなどもあるため、望む効果を得られるかどうかは使う者次第だった。
回避運動の中で意識を集中したソルドは、思い描くイメージのままに原子変換システムを起動する。
「ナノマシン構成変換……身体再生用プログラムを妨害用に書き換え……拡散率最大にして開放……いくぞ! 電影幻霧!!」
腕を振るような動きに呼応するように、周囲に赤い煌めきを残す粒子が放たれた。
それは同名のフィアネスの技よりも遥かに密度の低いもので、霧と呼ぶにもおこがましいものだ。
しかし、この閉鎖空間で彼の望む効果を発揮するには充分だったらしい。
粒子に包まれたドローン群の動きが目に見えて変わり、くるくる回りながら滞空するだけとなった。
「ドローンの制御が……!?」
「もらったぞ! ダージリン!!」
動揺したダージリンの一瞬の隙を見逃さず、ソルドは距離を詰める。
風を巻いて繰り出された拳の一撃が、女強化兵の仮面に炸裂した。
「ぐぅっっ!!」
粉々に破壊された仮面が、宙に無数の煌めきを残す。
ダージリン自身は苦痛の声と共に壁に叩き付けられ、床に膝をついた。
同時に浮遊していたドローン群が光を失い、次々と落下していく。
「やはり仮面がコントロール装置だったようだな……だが、これでドローンは役に立たん。終わりにするぞ! ダージリン!!」
咆哮と共に、ソルドは拳に再度力を込める。
灼熱のエネルギーが渦を巻き、手が赤い輝きに包まれる。
しかし、必殺の一撃をダージリンに打ち込もうとした瞬間、彼はその動きを止めてしまっていた。
「くぅ……ソルド……」
(!?……ルナル……!?)
その瞬間にダージリンの見せた表情は、ルナルとまったく同じであった。
容姿という意味だけでなく、どこか愁いに満ちたような表情――泣き顔にも見えた顔が、この間見た妹の姿と完全に重なってしまったのである。
しかし、それはあくまでソルドの内面的事情であった。呆然とした彼の隙を見逃さず、ダージリンは鋭い前蹴りを放つ。
「ぐうっ!」
「……そう簡単に死ぬわけにはいかないわ。今日はここまでね……ソルド」
「くっ……! 待て!! ダージリン!!」
悔しさを感じさせる声を残し、彼女はその場から駆け出していく。
一時的に苦悶の表情を浮かべたソルドは体勢を立て直して追おうとするが、その瞬間室内に大量の煙が溢れた。
「煙幕だと? そう何度も……!」
それは以前の要人襲撃時と同じ逃亡の手口であったが、今度は逃すまいとスキャニングモードを起動して足取りを追う。
しかし、彼の心中には動揺と、自らに対する憤りとが渦巻いていた。
(くそ……! なぜ、私は奴にルナルの姿を重ねる! どうして……!!)
「イーゲル=ライオットが、ダイゴ=オザキかも知れないだと?」
同じ頃、別の通路を進んでいたシュメイスは、アンジェラから衝撃の事実を聞かされていた。
当人たちの思いはともかく、組織としては協力して調査任務に当たっている。アンジェラが危険を冒してまで調べていたことはなんなのか――それを教えて欲しいと言ったシュメイスに対し、彼女が渋々と答えた内容がそれだった。
「まぁ、普通はそう思いますよね。わたしだって、なに言ってるんだろうって思いますし……」
今は自分の足で歩きながら、アンジェラは視線を逸らす。
それは諜報部のエージェントが話す内容としては、あまりに曖昧で主観的なものだった。
「いや……俺は信じるさ。奴なら、やりかねないことだ」
ただ、一時的にこそ驚いたものの、シュメイスは彼女の言葉をすんなり受け入れていた。
なぜなら、それを可能にする人物と技術とを知っていたからである。
意外な反応に思わずアンジェラは青年を見上げたが、その横顔には先ほどまで見せなかった厳しい表情が浮かんでいたのだった。




