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APOLLON -灼熱の特務執行官-  作者: 双首蒼竜
FILE9 凶気と野望の演者たち
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(17)闇に猛る


 凄まじい激突に、轟音が響き渡る。

 ダイゴの突撃を受け止めたソルドだが、その勢いを止めることはできず、地を抉りながら後方へと押し流される。


「おおおあぁぁぁぁぁっっ!!!」

「ぬうっ!!!」


 数百メートルは押されたところで、ソルドは弾くように突撃の勢いを上方へ流す。

 宙に跳ね上がった相手を見据えつつも、彼は地に背をついた。

 翼をはためかせながら回転したダイゴは、そのまま倒れたソルドに突っ込んでくる。

 とっさに横に逃れたものの、異形の青年の傍らで大地が弾け、爆風のような衝撃波が巻き起こった。


「おのれ! ダイゴ=オザキッッ!!」


 吹き飛ばされたソルドは宙で体勢を立て直すと、クレーターのようになった地の中央にたたずむダイゴに向けて、灼熱のエネルギーを撃ち放つ。

 かつてフューレを葬った一撃が、暗紫の異形に炸裂した。


「ぬううああああああぁぁっっ!!」


 しかし、圧倒的な熱量と衝撃の中で目を見開いたダイゴは、咆哮と共にエネルギーを解放する。

 弾けるように広がった黒き力が、ソルドの攻撃を霧散させた。


「!? 打ち消しただと!?」


 ソルドは驚愕の表情を、無機質な顔に浮かべる。

 そんな彼に向けて、今度はダイゴが黒き奔流を撃ち放つ。

 狼の顎のような姿を形取ったエネルギーが、赤き異形を呑み込み爆裂した。


「うおおおおおおっっ!!」


 苦痛の滲んだ声を上げて、ソルドは地に落下する。

 そこへ先程を上回る勢いで突っ込んできたダイゴが、振りかぶった拳を叩き付けた。

 弾丸のように飛んだ鋼の異形がプラント施設の壁を破壊し突き抜けたあと、なおも勢い余って飛び、そのまま地を転がる。


「フフフ……フハハハハハハ……!! どうだ! ソルド=レイフォースッ!!!」


 哄笑を上げながら迫ってきたダイゴは、更なる一撃を打ち放つ。

 その攻撃をなんとか両腕で受け止めるソルドだったが、手甲のような表層に亀裂が走り、血を噴き出した。


「これが……!」


 悪魔の異形の更なる拳が彼の顔面を捉え、轟音が響く。


「これが私の……!」


 次いで蹴りが腹に炸裂し、腕同様に亀裂を刻む。


「これが私の力だあああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


 最後に突き出された掌底が混沌のエネルギーを弾けさせ、ソルドを再び吹き飛ばした。

 破壊のエネルギーを撒き散らしつつ飛んだ彼は、付近にあったものをすべて薙ぎ倒し粉砕しながら、セレスト・ワンの外壁に当たって落下する。


「ぐっ……はっ……!」


 なんとか身を起こしつつも、ソルドは口から血を吐き出す。

 ひびの入った表層から金属片と共に血が流れ落ち、地面に血溜まりを作る。

 仮面のような顔には苦悶の表情が浮かび、金色の目はその光を弱めていた。


(バカな……A.C.Eモードを発動した私が、ここまで追い込まれるとは……!)


 信じられない現実に驚きを隠せない彼だったが、同時にダイゴの言った言葉の意味をも思い返して愕然とする。


(奴の言ったことが事実なら……新種が上級化すれば、これだけの能力を発揮するということになる……!)


 今まで出現した新種カオスレイダーはすべて覚醒直後か、短時間の内に掃討されていた。

 ゆえにその真の力を発揮――すなわち上級化した個体というものには、オリンポスの誰も遭遇したことがないのである。


(恐ろしいことだ……こんな奴が数多く現れようものなら、私たちの力でも対抗できないかもしれん。そうなれば人類は確実に滅びる……!)


 あってはならない想像に戦慄を覚えつつ、ソルドは宿敵を見つめる。

 血の色の目を輝かせた悪魔の異形は、その手を固く握り締めてつぶやいた。


「貴様との因縁も、やっと終わりにできる……貴様こそ、私の悪夢そのもの……」

「あ、悪夢だと……?」

「貴様を葬る……! 貴様を葬ることでしか、私は私でいられんのだ!!」


 狂気を感じさせる咆哮と共に、再びダイゴはソルドに襲い掛かる。

 廃墟の闇に、破壊と轟音とが嵐となって吹き荒れた。






 その頃、任務の傍らセレストを訪れたボルトスは、決闘の場から放たれる力を感じ取っていた。


(ソルド……A.C.Eモードを発動したか! しかし、それに匹敵するもうひとつの力はいったい……!)


 スキャニングモードを起動した彼は、その力の変動を確認して戦慄を覚える。


(徐々にではあるが、CW値が高まっている……! これがあのダイゴ=オザキの力だというのか……!?)


 実際に数値として確認しても、ダイゴの力は最終形態のソルドをわずかに上回りつつあった。

 それはオリンポス創設の頃からいるボルトスでさえ、いまだ直面したことのない出来事だ。

 ただ、彼が焦燥に駆られたのはそればかりが理由ではない。


(それに遥か上空にも恐るべき力を感じる……それもふたつ……奴らもこの決闘を観察しているということか!)


【ハイペリオン】と【テイアー】――二体の【統括者】の存在が、ボルトスの行動をある意味で牽制していたのだ。

 ここでソルドに加勢するのは容易いことだったが、もし彼らも同じことを考えたなら、セレスト全域が危機に陥ることとなるだろう。

 迂闊に刺激するような真似は、避けなければならなかった。


(……ここはソルドを信じるしかない。だが、勝てるか……!? この相手に……!)


 光と轟音とを放つ廃プラントのほうへ目をやりながら、ボルトスは歯噛みせざるを得なかった。






「……私が貴様の悪夢とは、どういうことだ!?」


 宙に舞いながら、ソルドは宿敵に問い掛ける。

 両者の戦いは地上での格闘から、空中戦へと移行していた。

 無数に放たれた火炎が散弾のように炸裂するも、ダイゴは意に介することなく、詰め寄って拳を振るう。


「貴様がすべての元凶だったということだ……! アイダス=キルトの妹を拉致し損ねた時から、私の運命は狂い始めた!!」

「……ミュスカのことか!? なぜ……!?」


 その攻撃をかわしながら、ソルドはなおも問い掛ける。

 かつての任務で起こった出来事を思い返しつつも、それが目の前の男と、どのような相関を持つのかが謎であった。


「貴様が余計な真似をしなければ、アイダスを捕らえることができた!! そうすれば、あの【ハイペリオン】につけ込まれるようなことも起きなかったのだ!!」

「なにを言っている!?」

「貴様のせいで、私は奴の手下に成り下がったのだ!! 混沌の下僕などという、ただ利用されるだけの存在にな!!」


 ただ、ダイゴの答えは、やはり簡単には理解できないものだった。

 増しに増す憎悪を滾らせた男に、普段の知的かつ狡猾な印象はまるでなく、感情の赴くままに言葉を放っているように見える。


「貴様がいなければ……貴様がいなければあぁぁっっ!!!」


 咆哮と共に、暗紫の異形からビームのようなエネルギーが放たれる。

 とっさにエネルギーフィールドで防ぐものの、起こった激しい衝撃にソルドは弾き飛ばされた。


(力が更に高まっている! 奴の憎悪がこれほどとは……! だが……!)


 体勢を立て直しながら、ソルドは思う。

 今までの暗躍からは想像もできなかったが、ダイゴにとって混沌の下僕となったことは相当に不本意なことだったらしい。

 そこに至るまでの経緯こそ不明だったものの、ミュスカの拉致を阻止した一件が、ひとつのきっかけであったことは確かなようだ。


「ダイゴ……! どんな事情があったのかは知らんが、貴様が多くの人々を不幸にしたことは事実だ! そんな言いがかりのような理由を免罪符にできると思っているのか!!」

「ぬかせ!! この偽善者があぁぁっっ!!」


 闘志を奮い立たせた彼は、憎悪を滾らせる男と再度ぶつかり合う。

 拳と拳が激突し、闇を砕く衝撃と閃光が走る。


「ぐうっっ!!」


 互いに弾かれるものの、苦悶の表情を滲ませるのはソルドのほうだ。

 その手から血を噴き出す彼とは対照的に、ダイゴの拳は緑の輝きと共にすぐに再生する。


(やはりSPS細胞……! このままでは分が悪いのはこちらか……!)


 当然のごとく、敵は例の超細胞をも有していた。

 本来なら再生力を発揮できるほどの光量はない場所だが、皮肉にもA.C.Eモードを発動したソルド自身が放つ余剰エネルギーが光源となってしまっている。

 かと言って、ここで最終形態を解除することもできなかった。


(これ以上、戦いを長引かせるのもまずい……ならば、奴の再生力を上回る力をぶつけるしかない!)


 決意を固めたソルドは身構えると、意識を集中し始める。


(力の収束と指向……思い出せ。あの訓練を……!)


 彼の全身から放出されていたエネルギーが、徐々に弱まっていく。

 反対に、構えた拳には凄まじい力が集まり始めた。

 翼をはためかせ滞空するダイゴを見据え、青年は声を張り上げる。


「……来い! ダイゴ=オザキ!! この一撃で決着をつける!! 貴様も私が憎いのなら、その憎悪で打ち砕いてみろ!!」


 それはある意味、賭けとも言える挑発であった。

 正直なところ、制御訓練における力の収束と指向の勘は今も完全に掴めていない。実戦で使用するには即応性に欠け過ぎるのだ。

 ある程度の時間があれば充分な収束が可能にはなっていたものの、それを確実にぶつけられるかと言えば、やはり疑問だった。動き回る相手が黙って受けてくれるはずもなく、こちらも集中を切らせば力が拡散してしまう。

 ゆえに今のソルドが必殺の一撃を決めるには、ほぼ足を止めた状態で、敵が突っ込んでくる状況を作り出す必要があったのだ。


「どうした? 怖気付いたか!? 力を得ても姑息なところは変わらずか!? そんなことで、この私を葬るなどと良く言えたものだな!!」


 それでもソルドは、ダイゴが挑発に乗ってくると感じていた。

 新種を取り込んだ影響か他に要因があるのかはさておき、異形の男は感情を昂らせた状態にある。ここまでソルドに対して優位に立っている現状も考えれば、見下されるような発言には大きく反発するはずだ。


「……気に入らんな。その態度……! この期に及んで、まだ私に勝てるとでも言うつもりか!?」


 そんなソルドを見つめるダイゴの赤い目は、歪に歪んでいた。

 ぎりりと拳を握り締め、混沌のエネルギーを滾らせた彼は、翼を大きく広げると爆発的な加速力で突っ込んでくる。


「ならば、望み通り打ち砕いてくれる!! 死ねぃ!! ソルド=レイフォースゥッッ!!」

「うおおおおおおおおおっっ!!!」

 

 思惑通りの行動を見せた相手に対し、迎撃態勢を取りながらソルドは咆哮する。

 そして星闇の中、ふたつの異形は交錯した。


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