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APOLLON -灼熱の特務執行官-  作者: 双首蒼竜
FILE EX3 月は闇に揺れ動く
141/304

(17)軍神激闘


 灼熱の炎が辺りを染める中、ロウガと【イアペトス】の戦いが開始される。

 メルトメイアの時と異なり、両者の戦いは打って変わって接近戦が主体となった。


「うだらああぁぁああぁぁっっっ!!」


 ロウガの咆哮と共に、巨大な戦槌が音を立てて振るわれる。

 コスモスティアのエネルギーを宿したそれは重量級の鈍器と思えぬほど速く、直撃すればどんな物体も木っ端微塵に吹き飛ばすだろう。

 しかし、その動きを観察しつつ【イアペトス】は、柳のような動きで攻撃をかわしていく。


「フン、くだらぬ攻撃よ! あくびが出るわ!!」


 やがてそれにも飽きたと言わんばかりに彼は進み出ると、漆黒の腕で戦槌の一撃を()()()()()

 凄まじい衝撃音が響き渡るものの、【イアペトス】はダメージを受けた様子がない。

 そのまま空いた手から、強烈な衝撃波が放たれる。

 それを察知したロウガは、とっさに戦槌を離して飛び退った。


「見事な危機察知能力だ! だが、甘いぞ!!」


 咆哮を上げた【イアペトス】はすかさずロウガに追いすがると、力をみなぎらせた拳を放つ。

 唸りを上げて飛んできたその一撃を、ロウガは瞬間生成した巨大な盾で防御する。

 しかしその盾はあっけなく砕かれ、再びの轟音と共に、彼の身体は吹き飛ばされた。


「ぐっ!?」

「その程度で、我が攻撃が防げるかぁ!!」


 更に猛然と迫った【統括者】が、組み合わせた両拳を振りかぶって叩き下ろそうとする。

 自力で回避不能と即断したロウガは至近に爆弾を生成し、それを起爆した。

 強烈な爆風によって彼の身体は予測不能の軌道を描いて方向転換し、敵を見失った【イアペトス】は拳を地に叩き付ける格好となる。

 混沌のエネルギーが地を打ち砕き、土塊が大きく弾けた。


「ほほう!? 面白い!! 実に柔軟な状況判断よ!! どうやら戦い慣れているようだな。特務執行官の男!!」

「ちっ……この野郎……!!」


 自ら負う形となったダメージに表情を歪めたロウガは、舌打ちしつつ体勢を立て直す。

 自分の攻撃を完璧に受け止めた挙句、こうも攻め返してくる敵というのは今までいなかった。

 手合わせしてわずかな時間ではあったが、彼はカオスレイダーを超える【統括者】の力の片鱗を垣間見た気がした。


(パワーもスピードも桁違いだぜ……! こいつはメルが一方的にやられるわけだ)


 メルトメイアも実力はあるとはいえ特務執行官としての戦歴は浅く、そこまで戦い慣れていない。

 まして自分を上回る力を持った相手との戦いでは、分が悪くて当然だった。


(どうする? どう戦う……? 迂闊な動きは命取りになっちまう……!)

「さぁ、もっと我を楽しませろ!!」


 次の手を考えあぐねるロウガに、【イアペトス】は再度攻撃を仕掛ける。

 メルトメイアを屠ったエネルギー球を両手に生み出し、それを無造作に投擲したのだ。

 視界の両端から眼前を埋めるように迫る攻撃を見据え、ロウガはぎりりと歯を鳴らす。


「なめんじゃねぇぞ! この野郎!!」


 次の瞬間、彼は全身に防御のフィールドを纏うと、エネルギー球のひとつに向かって突っ込んだ。

 ややあって凄まじい爆発がその場に巻き起こり、ロウガの姿が呑まれてかき消える。


「むぅ!?」


 攻撃を放つと同時に飛び上がっていた【イアペトス】は、その相手の行動に目を細める。

 ややあって爆炎の中から一筋の閃光が飛び出し、彼に向かってきた。

 ただ、その攻撃は【統括者】の身体を撃ち抜くことはなく、呑まれるように消え失せてしまう。


「ほほう……やはり大したものだ。特務執行官の男よ!! 我が狙いを読んでいたとはな!!」


 感嘆したように【イアペトス】は、眼下の敵に向かって吼える。

 煙の晴れる中、巨大な砲身を構えて立つロウガは全身に火傷のようなダメージを負いつつも鋭い眼光を返していた。


「俺が飛び上がったところをぶっ飛ばすつもりだったんだろうが、そうは問屋が卸さねぇんだよ!!」

「ハハハハハ……良いぞ! 実に良い! 惜しむらくは今の攻撃に、パワーがなかったことだがなぁ!!」


【イアペトス】はそう言うと、愉快げに笑う。

 実際、命中したことは事実なので、コスモスティアの出力が【統括者】の力に匹敵したならダメージを与えることはできたはずだ。

 しかし悲しいことに今のロウガでは、その出力を叩き出すことは不可能だった。


(くそったれが……! こいつは、シャレにならねぇ……)


 手にしたレーザーキャノンを杖代わりに、ロウガはわずか揺らいだ身体を支え直す。

 勝利への道筋が見出せない状況に、彼は焦燥を抱くしかなかった。





(ロウガ……!)


 両者の戦いを見ていたメルトメイアは、ロウガの劣勢に同じく焦燥を抱いていた。


(か、加勢、しなきゃ……このままじゃ……ロウガが死んでしまう……!)


 胸の奥に湧き上がる不安を振り払うように、彼女は傷付いた身体をゆっくりと起こす。

 ロウガの服の温もりを感じながら、それを羽織って立ち上がる。

 しかし次の瞬間、衝撃の光景がその目に飛び込んできた。

 それまで沈黙を保っていた黒い異形が、咆哮を上げてロウガの元へ向かっていたのである。


「ゴアアアアアァァアァァッッ!!」

「し、新種カオスレイダー……! いけない!! ロウガァァァッッ!!」


 絶叫したメルトメイアは、力を振り絞って両手を突き出す。

 その動きと連動するように地から生まれた巨大な手が、新種カオスレイダーの身体を抑え込んだ。


「グガアアァァアァァァァァッッ!!」


 その拘束を振りほどこうと、新種は激しくあがく。

 しかし、メルトメイアの残された力のすべてを懸けた巨腕は簡単に砕けなかった。


「い、行かせない……ロウガの、元へは……!」


 息を荒げつつ、拘束を維持するメルトメイア。

 残念ながら今の彼女では、敵を足止めするだけで精一杯だ。

 ただ、その力も限界が近かった。徐々に拘束が緩みを見せ始め、彼女が今一度力を振り絞ろうとしたその時である。

 天から無数の見えない刃が降り注いだ。


「あ、あれ、は……!」


 メルトメイアは、目を見開く。

 真空の斬撃に加え、吹き荒れ始めた烈風が、黒い異形をズタズタに切り裂いて吹き飛ばしていく。

 その威力は原子すら消し去ってしまうのではないかと思われるほどの凄まじいものだった。

 やがて土の巨腕共々、新種カオスレイダーは塵に帰り、跡形もなく消え失せる。


「シュ……シュメイ……ス……良かっ……た……」


 その後、空から降り立った金髪の青年の姿を認めたメルトメイアは一言つぶやくと、今度こそ完全に意識を手放して倒れるのだった。





「むぅ……我が眷属が倒れただと?」


 一時の間に起こった変化にその眼を歪めた【イアペトス】は、やや憮然とした口調でつぶやいた。

 その後、ロウガのほうへ視線を移した彼は、そこに新たな敵の姿を認める。

 破壊の暴風と共に降り立った特務執行官【ヘルメス】ことシュメイスは、彼らしくもない強い殺気をみなぎらせていた。


「なんとか間に合ったか?」

「……おせぇぞ、色男。神速の特務執行官の名が泣くんじゃねぇか?」

「悪いな。ま、遅れた分はキッチリ働かせてもらうさ」


 憎まれ口を叩くロウガにいつもながらの口調で返すも、彼の表情は笑っていなかった。

 ただ、前に進み出ようしたところで、その肩に強く手が掛かる。


「待てよ。シュメイス……あの野郎は、俺の敵だぜ」

「お前、その状態でよくそんなことが言えるな? 少し休んでろよ」

「あいにく、そうはいかねぇ理由があってな……」


 金髪の青年を引き戻したロウガは、わずかにメルトメイアのほうを見やった。

 次いで顔をやや伏せ気味にし、静かな声で続ける。


「それより、メルを頼む。あいつ、ボロボロのくせに気を回しやがって……」

「……メルはお前のことが心配だったのさ。もっと察してやれよ」

「それが……余計なお世話なんだよ」


 その言葉に普段の荒々しさは欠片もなかったが、同時に彼の秘めた思いを強く表してもいた。

 シュメイスはわずかに口元を緩めつつ息をつくと、彼の傍を離れてもう一人の仲間の元へ向かう。


「フン、どうした? まとめてかかってきても良かったのだぞ?」

「ぬかせ!! てめぇなんざ俺一人で充分だ!!」


 再び【イアペトス】と対峙したロウガは、いつも通りの声音を取り戻して吼える。

 その手に再び巨大な戦槌を生み出し、先端を目の前の敵に向けかざした。


「それに言っただろうが! この場でぶっ潰してやるから、覚悟しろってな!!」

「フフフ……面白い奴だ!」


 そんな彼の様子を興味深げに見つめながら、【イアペトス】もまた吼える。

 今、両者の戦いは最後のステージに移ろうとしていた。


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