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APOLLON -灼熱の特務執行官-  作者: 双首蒼竜
FILE EX3 月は闇に揺れ動く
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(15)奇襲作戦


【宵の明星】が企てる襲撃計画前日の深夜――闇に乗じて、作戦は開始された。

 セレスト・セブンにほど近い敵の集合拠点数ヵ所を、同時に攻撃するというCKOの奇襲作戦である。


「な、なんだ!?」


 打ち捨てられたファクトリーに、男たちの狼狽の声が響き渡る。

 小規模な爆発と共に壁が破壊され、衝撃に揺れた鉄骨が次いで倒れてくる。

 粉塵の中を舞い降りてきたのは、黒いボディスーツに身を包んだ者たちだ。

 顔すらもバイザーに隠し表情を窺わせない彼らは、地に降りたと同時に目の前の男たちに攻撃を開始する。

 マズルフラッシュが閃く中、煌めく薬莢が弧を描き、弾丸が続けざまに放たれる。

 飛び散る鮮血に絶叫が重なり、次々とその場に骸となった者たちが倒れていく。


「て、敵襲か!?」

「や、野郎! 応戦しろ!!」


 当初こそ動揺に動きを止めていた男たちだが、仮にも戦いを生業とする傭兵たちである。すぐに黒ずくめの侵入者に武器を向け、攻撃を開始した。

 しかし、一度先手を取られ、混乱してしまった状況を立て直すのは容易ではない。

 まして黒い兵士たちはこういった作戦に慣れているのか、一糸乱れぬ洗練された動きを見せ、統制の取れない傭兵たちの反撃を無効化していく。

 戦闘開始から数分と経たぬ内に【宵の明星】側傭兵は、その数を三分の二にまで減らしていた。





 鈍い光の照らす冷たい空間で、【宵の明星】の月支部長レイドリック=バースは、その報告を聞いていた。


「CKO側の奇襲だと!?」

「はっ! 計画用の集合拠点が襲撃され、味方に多大な被害が出始めています!」


 オペレーターと思しき男が、コンソールの前で声を上げる。

 目の前にある大型モニターにはいくつかの映像が映し出され、その大半が血煙と炎にまみれた様相を見せている。


「支部長! ポイント・ワンとスリーから救援を求める通信が入っています! 他のポイントからも指示の要請が……!」

「援軍は送れん。とにかく迎撃するのだ。奴らにそう伝えろ」


 悲痛な様子のオペレーターに、レイドリックは無慈悲に告げた。

 その顔にはわずかに憤りの色が見え、彼自身も想定していなかった事態であることが窺える。


(敵の動きが早過ぎる。これでは例の計画にも……)


 拳を握り締めた彼の元に、一人の老年の男が歩み寄る。

 その男はレイドリックのみに聞こえるよう、小さな声で告げた。


「支部長……厄介なことになりましたな」

「うむ。CKOがここまで的確かつ迅速に行動を起こしてくるとは……」


 返答しながらレイドリックは踵を返し、男にもついてくるよう促す。

 揃って部屋を出たところで、彼は周囲を確認し言葉を継いだ。


「どうやら襲撃計画の詳細が漏洩した可能性がある。そうでなければこの状況の説明がつかん」

「すると、我らの中に裏切り者がいると……!?」


 老年の男は眉を吊り上げるが、それに対してレイドリックはわずかにかぶりを振った。


「それは定かでないがな。しかし、これでは例の計画も修正せねばならん。アルベルト=グラングの動きはどうなっている?」

「はっ……予定通り、第一宇宙港からエリア・ミューズを経由し、こちらに向かっているようです。まもなく治安維持軍基地に到着するかと」


 手にしたタブレット型端末を操作し、老年の男は続ける。


「セレスト駐留軍は想定通り各プラントの警戒に主力を割いており、基地自体の戦力は少なめです。しかしイプシロンからの護衛が当初の予定より多く、アルベルトの周りは手薄というわけでもないようです」

「……ここに来て、つくづく想定外のことが重なるな」

「いかがしますか?」


 舌打ちした上官に対し、老年の男は特に臆した様子もなく問い掛ける。

 わずかに考える仕草を見せたレイドリックだが、次いで出た言葉は迷いのないものだった。


「アルベルトの到着と同時に敵基地に襲撃を敢行する。実行部隊にそう伝達しろ」

「支部長、それは時間的にかなり厳しいですぞ!? それにアルベルトの護衛部隊も含めれば、彼我の戦力差はほぼないと言えます。成功の可能性も高くは……」

「それはわかっている。だが、実行部隊の準備はほぼ整っているはずだ。不可能ではなかろう?」


 男の声はあくまで冷淡だ。

 反政府組織の支部長を務める人物だけに、現状認識と即断の重要性は理解しているのだろう。

 もちろん、それが合理的であるかは別としてもだ。


「それに裏を返せば、集合拠点を攻められている今なら敵の注意も逸れていることになる。狙うならこのタイミングしかない」

「それは確かに、そうですが……」

「これを逃せば、アルベルト=グラングを葬る機会はまずやってくるまい。万全を期す余り、その機を逃がしては本末転倒だ」


 元よりCKOの統括司令を葬ろうという計画が、そう簡単にいくはずもなかった。

 目的達成のために必要となるのは綿密な計画以上に、それを成し遂げようという意思と覚悟だとレイドリックは考えていた。


「潜り込んでいるスパイに伝えろ。アルベルトがやってきたら合図を出せとな。それと同時に攻撃開始だ」

「……かしこまりました」


 指示を下した彼は、そのまま元の部屋へと戻っていく。

 わずかに頭を下げた老年の男の前で、両開きのシャッターが音を立てて閉じた。


(……あとは襲われてる傭兵どもが、どこまで粘れるかか。せいぜい時間稼ぎしてもらいたいものだがな……)


 再び目の前に広がった戦いの映像を、レイドリックは冷めた視線で眺めた。






「はい……了解しました。では、統括司令到着のタイミングで、こちらから合図を……」


 その男は格納庫の外壁にもたれ、携帯端末に話しかけていた。

 周囲に人の姿はないものの声を潜めながら通話している辺り、かなり警戒した様子が窺える。

 やがて幾度か頷いたのち通話を切ると、彼はわずかに息をついた。


「想定外とはいえ、基地への襲撃作戦に急遽変更とはな。実行部隊に同情するぜ。行き当たりばったり過ぎて笑えてくらぁ」


 今までと異なる太々しい態度を見せつつ、男はつぶやく。

 携帯端末を片手で弄びつつ歩み始める彼だったが、次の瞬間、その後ろから語り掛けてくる声があった。


「なるほど。治安維持軍内部に内通者がいたとはな。CKOもずいぶん目が行き届かないと見える」

「だ、誰だ!? ぐあっ!!」


 驚いて振り向く男だったが、その声の主を男が視認することはなかった。

 みぞおちに炸裂した凄まじい衝撃が、彼の意識を刈り取っていたのだ。


「さて……悪いが、貴様には我らの傀儡として働いてもらおう……」


 路面に倒れた男を見据え、声の主は紅い瞳を輝かせる。

 その手から落ちたのは、紫と緑色の入り混じった種子である。

 それは意思を持ったように根を伸ばし、男の口から体内へ侵入していく。

 どこかおぞましさを感じさせる種子の動きを眺めながら、混沌の下僕――ダイゴ=オザキは口元を歪めた。






 作戦の最中、シュメイスとロウガはSSS部隊の集合拠点となっていた二ヵ所の奇襲に参加していた。

 参加と言っても、実際は特殊部隊を陰から援護する形である。特務執行官が表立って軍の作戦に加わるわけにはいかないからだ。

 しかし現状、SSSは人外の能力を持つSPS兵を有しているため、二人も状況によっては加勢することを考えていた。


(妙だな。SPS兵の数が情報より少ない……)


 ただ、その思惑は外されることになる。

 シュメイスは自分の担当する拠点が、事前情報の三分の一程度の戦力しかなかったことに眉をひそめていた。

 そして、SPS兵にされた敵の数も数えるほどしかいなかったのである。

 特殊部隊の連携攻撃で敵の大半は駆逐され、シュメイス自身はほとんど手を出す必要がなかったほどだ。


(……コソコソするのは性に合わねぇんだがな。しかしゾンビ野郎の数が少ねぇのは、どういうことだ?)


 同じことが、ロウガの担当した拠点でも起こっていた。

 こちらも敵の戦力規模は少なく、ロウガも味方に合わせる形で攻撃しただけだ。

 特殊部隊員が数名犠牲になったとはいえ、敵勢力の排除は問題なく完了しようとしていた。


(……嫌な感じがする。やはりこれは……)

(どうも気に入らねぇな。こりゃ、もしかすると……)


 時間こそ少し違えど、二人の特務執行官はその違和感に同じことを考えた。

 戦況が落ち着きを見せ始めた時点で、彼らは各々の予感に従って行動を開始した。






 奇襲開始と同時刻、メルトメイアは一人、セレスト・セブンに残っていた。


(どうやらCKO部隊の奇襲が始まったようですね。ですが、なんでしょう? この胸騒ぎは……)


 星の闇を見上げ、彼女は漠然とした予感に表情を曇らせる。

 SSS側やダイゴの動きを考慮し、不測の事態に備えるということで、シュメイスはメルトメイアを待機させていた。新種カオスレイダーが出現しない限り、拠点制圧に三人もの特務執行官が出張る必要もないからだ。

 実際それは合理的な判断であり、そして結果として功を奏したとも言えた。


(……あれは!?)


 やがてメルトメイアは、空に黒い闇が凝り固まるのを見た。

 闇は星々の光を呑み込みながら広がっていき、まるで巨大な穴のようになる。

 そこから、なにかが落ちてきた。

 それは人の姿をした人ならざるものたちであった。


「オアアアアァアアァァァァッッ!!」


 地を揺るがす轟音と共に降り立ったのは、悪魔にも似た一体の黒い異形だ。

 その周囲に、緑色の肌を持った人間たちが虚ろな瞳をしながら無数に続く。


(カオスレイダーにSPS兵!? それにあれは、まさか……!!)


 しかし、メルトメイアが戦慄したのは、落ちてきた異形たちに対してではなかった。

 闇の中から最後に姿を見せた黒い影の存在に、彼女はこれまで味わったことのない恐怖を抱いていたのだ。


「フフフフ……さぁ、戦いの幕を開けようぞ! せいぜい楽しませてくれ。人間ども!!」


 そんな彼女の狼狽をよそに、雷鳴のように悦びの声を轟かせた黒い影――【イアペトス】は血の色をした瞳を輝かせた。


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