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強襲、しかしそれは計画的では無く

 しばらく陸路で特定の地点は避けるようにしつつも移動を続けて、ギュールズとパーピュアのチームが潜んでいそうなポイントへと向かう。

『索敵に反応無しっす。まーどうせ廃都市っすよねー』

『ナジアが詰めるだけ詰めるとしたら、璃々華が籠もる上で最も安全な場所が逆に戦場になるだろうから、当然かもね』

『にしてもヴァートを仕留めて以降、これっぽっちも他のチームと遭遇しないのはおかしいと思いますけど』

『あたしがアズールのチームだったら、厄介な二つのチームは後回しにして、先にこっちを潰すのに』

 それはアズールのチームが『ヘクス争奪戦』の定石を知らないからだ。俺だってそれは知らない。なら、俺だったら目に移った敵から先に潰して行こうと考える。そんな他のチームにまで意識は回らないんじゃないだろうか。

『故意に定石を外しているのならまだしも、っ! 索敵に二機が掛かったっす! 真っ直ぐこっちに向かって来て、』

 クワノキさんが全てを伝え切る前に、始まって早々に接敵し、命からがら逃げ出したあの機体がモニターに映り、真正面から突き進んで来る。すぐさま全員の機体が迎撃に移り、俺はエース機ということで後退するが、どの遠距離攻撃も馬鹿げた動きで最小限のダメージに留めながら進撃を続け、ナジアの機体は寸前で俺の前方を塞いだアマイロさんの機体を飛び越えて、腰に携えていたソードを引き抜き、斜め上空から降って来る。


 こんな無茶苦茶な特攻に度肝を抜かれるかと言われれば、そんなわけはなく、むしろ後退しつつも飛来して来るだろう攻撃に対してずっと注意を払っていたのでスムーズに機体からソードを引き抜かせて、ナジアの一撃を受け止め切る。


《よぉ、ルーキー? 元気にしていたかぁ、おい?》


 どこで拾ったか分からないソードでデタラメに切り掛かって来るが、さっきのヴァートの機体と戦った感覚だけは記憶しているので、その通りに機体を動かすことは難しくとも、それを僅かだがなぞって凌いで行く。

《短時間、ってわけでもねぇがちったぁマシになったか。いや、マシになっちまったか。ルーキーを絶望のどん底に叩き落とすのが俺の楽しみだってのに、反発される力が強くっちゃ、困ってしまう》

「困る?」

《撃墜した時の旨味が増しちまうからなぁ》

 強く反抗された方が楽しみが増すという思考回路は、単純に考えても狂人の域にある。俺の持っている理解力を総動員しても、言っていることを十全には呑み込めない。

『ナジア! 強気に出たのは良いけど、囲まれているってことを忘れない方が良いよ!』

 ファニー・ポケットさんが飛び掛かる。俺との鍔迫り合いを放棄して、ナジアの機体が即座に剣戟を受け流し、続いてブーストダッシュを用いて一気に距離を開く。

《強襲は失敗だが、俺にもあんまり時間がねぇ》

 そう告げたのち、なにを考えたのかナジアは恐らくは味方の機体だろうKnightへと襲い掛かり、備えていたソードやエネルギーライフルを無理やり奪い取って撃墜してしまう。

《な、ん……で》

《そんだけ耐久力を減らされていたら、もうテメェはただのお荷物だ。使えない奴が使える武装を持っているんなら、剥ぎ取るのが道理ってもんだろ?》

 そうチームメンバーに言い残して、掻き集めたのだろう武装で固めたナジアの機体、そのアイカメラが光を浴びて妖しく輝く。

『なにを焦っているんすかねぇ!?』

 クワノキさんが真後ろからナジアを攻めるが、翻りながら繰り出した蹴撃で吹っ飛んでしまう。続いて左右から攻めるススキノさんとアマイロさんの近接攻撃を嘲笑うかのように巧みに避け、二人の機体の間から瞬間的に引き下がる。

 モーションを抜け切れなかったススキノさんとアマイロさんの機体はチームでありながら、剣戟を浴びせてしまう。フレンドリーファイアというものだ。ナジアがさっき、自身の味方にやったこととは違って、これは悪意無く起こってしまった事故だけど。

《知ってっか? セーブルの連中。俺がどうしてこんなつまんねぇ強襲を仕掛けて、テメェらだけでも潰そうって考えてんのか、理解が出来るか?》

 焦りのようなものは感じている。だけどそれ以上に、この極限状態を楽しんでいる気配が強くて、察することは難しい。

《アズール……ありゃぁヤベェ。パーピュアの連中を先に追い掛けていたっつーのに、気付いたらそいつらに追い掛けられる側だ。しかも、パーピュアと合わせてだ》

『一時休戦して、二チームでアズールに対抗すれば良いだけでしょ』

 銃撃を防盾で凌ぎ、カウンターで放ったビームがファニー・ポケットさんの機体を焼く。

《んなことは言われなくてもやったんだよ。横槍なんざ俺もあの璃々華って女も嫌いなんだからやるに決まってんだろうが。だが、あいつらは俺とあいつの想像を超えた》

 超えた?

《テメェ、璃々華にずっと狙われていたはずだよな? どうして急に狙われなくなったか、足りない頭でも考えてみたか? 楽しみは最後に取っておくのもあいつの悪趣味な一面だが、第一にチームが襲われたんじゃ急いで下がるしかねぇってことだよ》

 ファニー・ポケットさんを強引に押し退け、ナジアの機体が俺へと迫る。同じArmorなのに、どうしてナジアはKnightのファニー・ポケットさんの機体を上回る強さで立ち回れているのか。もうこの人は滅茶苦茶過ぎる。


《十機を物ともしねぇ五機を前にするってのは、さすがに痺れたな。俺ぁ、井の中の蛙に過ぎねぇと思い知らされはしたが、あんな連中と真っ当に戦いたくはねぇ。となれば、逃げて本命の獲物を始末するに限るっつーわけだ》


 自分より強い奴らに暴れられて、逃げ出したあとで俺を潰しに来る? それはただの弱い者イジメだろ。

『理には適っているのよ。『ヘクス争奪戦』終了後に戦績が出て、順位付けがされる。誰が一位で、誰が最下位か。貢献度とか、なにか色々なポイントで決められるんだけど順位で特別な報酬が出るわけでもないから、あたしたちは気にしていない』

《だが、それを一つのサーバーごとのランキング付けだと思い込む輩も居るっつーわけだ》

 アマイロさんの説明を補足するようにナジアが付け足す。

「点数稼ぎのためにセーブルを潰すのを優先したってことですか?」

『そういうことっす』

 クワノキさんの機体が復帰し、アマイロさんと挟撃を仕掛けるがナジアは俺の機体との距離を詰め切っている。だから二人の機体はまともに攻撃モーションには移れない。ナジアがほんの僅かでも二人の想定外の行動をすれば、俺の機体を攻撃することになるからだ。

《ウチのエヴァンスは、どうにも順位というものに拘っちまう性格らしくてなぁ。まぁ、同サバのよしみってもんだ。快く、撃墜されてくれ》

「そんなつもりは」

 毛頭無いと言い切ろうとしたら、反射的に操縦桿を引いて、機体を下がらせた。ナジアの機体が丁度、俺の機体にソードを突き刺そうとしていたので、意図的というよりは偶然が重なって空振らせることが出来た。

 その隙をファニー・ポケットさんを除いた三人が逃さず、三方向から一気に襲撃する。


《順番ってのは大事だ、いつだって、どんな時だって。ゲームでもだ》


 順にナジアは即座に剣戟を避けつつ反撃を浴びせ、流れるようにして三人の機体からジョイント部分を狙って右腕を切り落とした。

 アマイロさん、クワノキさん、ススキノさんの順番……? それもどの機体も右腕?


『やっぱコイツ、化け物でしょ。ファニポケさん! 新人君を連れて退避して!』

 アマイロさんが叫ぶような通信を送った直後、ソードがその機体を貫き、機体の動きが停止する。

「なんですか……今の?」

『詰める距離が一定じゃないから、自分に来た順番にナジアは対処したの。同時に攻めても包囲網から逃れられたら、全員の攻撃がフレンドリーファイアになってしまうから攻める順番はズラすのが基本なんだけど』

「三方向から攻めたってことは三方向からのアラート音を聞いているんですよね?」

 そして距離感は現実よりも感覚的にしか、コクピット内では分からない。

『直感的に、攻めて来る順番を把握して薙ぎ払った。それを当然のようにして来る。だから、化け物なの』

 ファニー・ポケットさんの機体が前に立ち、促して来るので俺の機体を下がらせる。その間にナジアはススキノさんとクワノキさんの剣戟を全て子供のチャンバラごっこに仕方無く付き合っている大人のように、しかし一切の手加減などを行うことなく、一蹴する。


 右腕……一般的な利き手だから……クワノキさんとススキノさんは慣れていない左腕にソードを持たせるしかない。どちらも二刀流で攻めていた様子は無いしソードを持たせていたのは右手だったはず……だから、狙った? あの状況で、三機の右腕だけを正確に、切り落とす“眼”を持っている……?


「順番もなにも、そんなのは普通じゃ不可能だ」

《不可能だと思うことが出来ちまうのが、ゲームってなぁ》

 機体を跳ねさせて、ナジアはファニー・ポケットさんの機体へと向かう。


 俺はルール上、エース機だ。撃墜されたらチームメンバーが残っていても失格になる。それはヴァートのエース機を落とした時にハッキリと理解した。


 なのに、俺はブーストダッシュを掛けて、自機をナジアの機体へと飛び掛からせて、ファニー・ポケットさんへの一撃を強引に押し止めさせていた。


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