主を持たないファンタジスタ
SANチェックいる?
ねぇ、君は何処に向かっているの?
この先が何処につながっているか知っている?
僕はあの星に導かれてきたんだ。
あの、水色の一等遠くに輝いている星だよ。
冷たい色だね。
きっと凍えているよ。
一人で寂しそうだから、そうかもしれない。
僕はあの星のところに生きたいんだ。
とっても遠くだって、知っているよ。
この星の欠片をどうぞ、とっても甘いよ。
君がくじけそうになった時にきっと力をくれるよ。
きっとだよ。
ありがとう。
そちらはどちらへ向かっているの?
列車に乗るんだ。
遠くへいってしまった友達のところへ追いかけていける列車が、あすこの停車駅に来るはずなんだ。
勿論、此処までで手に入れたもの全部捨てて行かなきゃならないんだけど、それでもあの子に会いたいんだ。
宝物だった空を閉じ込めたこの石も、海の音を詰め込んだ貝殻も、生まれる前の雨の卵も、全部引き換えたってかまわない。
家の人と会えなくなるのも…仕方ない。
その全部よりも、あの子の方が大事なんだ。
もう会えないなんて嘘っぱちだ。
だから、自分から会いに行くんだ。
それはきっと、すごく遠くだよ。
お前だってすごく遠くへ行くんだろう。
そうだよ。
君は?
私は何処にも行かないよ。
いけないんだ。
メルキュリウスの天秤から、返事を待っているんだ。
向こうへいったあの人が、迷わず帰ってこられるように、此処で灯台番をしているんだよ。
此処に来る途中も、あの光は随分ピカピカして、お星さまが一つ地上に降りてきてるんだと思ったよ。
遠くからでも見えていたかい、この灯台は。
うん、よぉく見えていたよ。
きっと君の待っている人にも見えるよ。
迷わずに帰ってこられるよ。
ずっと遠くなんだろ、なんでお前は追っかけないで待っているんだ。
あの人も、此処が好きだったから。
あの人に会えても、帰る場所がなくなっていたら寂しいでしょう。
だから私は待っているんだ。
ずっと、ずっと。
あなたたちだって、一人で旅をするのは寂しくないの?
寂しいよ。
でも、あの星も寂しいと思うんだ。
あの子がいない方が、何をしていたって寂しいんだ。
他の誰がいても、あの子がいないことが寂しい。
寂しいとはうまく付き合っていかなければならないよ。
皆、寂しいを誤魔化せる何かがないと寂しいんだ。
ルルカンスの天球儀にも書いてあるように、寂しい人の数だけ星は輝くんだ。
僕は星が輝くのは導くためだって聞いたよ。
そういう星もある。
でも星は一人で光っているだけだよ。
星の声を聞いたことがあるかい。
凍える夜に降ってくる、微かな声を。
うんと遠くからの声だから、私たちのところにはかすかにしか聞こえない声だよ。
星の歌う声を聞いたことがあるよ。
よく晴れて透き通った夜に、遠くから聞こえてくるんだ。
祈るような歌だよ。
星に喉があるのか?
星はずっとずっと遠くへ行ってしまった人なんでしょう?
勿論声だってあるに決まっているよ。
あの子は星になんてなっていないよ。
だから会いに行くんだ。
空を飛び越えて、星々の向こうへ行く列車に乗って。
列車に乗るのには切符がいるって聞くよ、持っているの?
列車に乗ってから買うこともできるって聞いた。
だから持ってない。
みんなみんな、その列車に乗ってもたどり着けないって言うんだ。
だから変えなかった。
あの子はずっとずっと遠くに行ったんだって言ったくせに。
君がいなくなったら、君の家族は悲しむんじゃないかな。
それは仕方ないんだ。
皆よりも、あの子を選んでしまったから。
あの子じゃなきゃダメなんだ。
どうしても。
わかるよ。
僕も、最初にいた場所の人たちを悲しませた。
悲しませたんだと思う。
でも僕は選んだんだ。
僕を導いてくれるあの星のところへ行くんだって。
二人とも、みんなよりも一人を選んだんだね。
そういう選択もあるということは私も知っているよ。
その勇気を私は讃えないよ。
あの人と同じだから。
プルードスの審判は覆らない。
オルフェスですら取り戻せなかった。
それでもいくの?
知らない人のことなんて知らないよ。
あの子に会いに行くって決めたんだって言っただろ。
僕は君が何を言いたいのかよくわからないな。
僕はあそこに行くって決めたんだ。
それは何か悪いことなの?
いいや、自分で決めたのならそれは何であれ自由だよ。
自由だから、自分で責任を取るんだ。
星の欠片を君にもどうぞ。
旅路の途中でくじけないように。
ありがとう。
あの列車が来るのは夜明けより前だよ。
あんまり引き止めると遅れてしまうね。
私が止めるのは筋違いだから、話はこれくらいにしよう。
僕は列車の旅じゃないけど、星がよく見える今、先に進むね。
それじゃあ、さようなら、また、またどこかで会えるといいね。