表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アウトサイド -貧血少女と処女中ー

作者: KAZU

  アウトサイド

          貧血少女と処女中


 眠ると夢を見る。普通のことだ。大体の者は夢を見る、中には夢は見ないというものもいるがそれは少数だろう。夢は記憶の整理だという話がある。他にも予知夢や前世の記憶を観ることができるという者もいる。ルーンもその一人だ。体質上頻繁にメッセージ性の強い夢をみる。しかし、ルーンは夢の解読は苦手だった。予知夢や警告夢は抽象的なことが多い。出てくるものが同じでも状況で解釈が変わったりするため正確なメッセージを受け取るには繊細な解読が求められる。何度か勉強してはみたがあまりの難解さに諦め、夢の内容については無視を決め込むことにしていた。

 それでも、なかにはじっと耐え忍ぶだけでは通り過ぎない嵐もある。二週間前から毎日同じ夢を観ていた。一日一回じゃなく眠る度に毎回だ。次第に夢のことが頭から離れなくなり、気が付くと夢のことを考えている自分がいた。次第に眠りは浅くなり、ベッドではなくいつの間にかソファやラグの上で寝てしまっていることが増えた。実に危険な状況だった。今はまだ自分の部屋で寝落ちしているからいいものの、これが町のカフェや公園のベンチで眠ってしまったらルーンは三十分とたたずにルーンを狙っている者たちによって殺されてしまうだろう。

 可及的速やかに問題を解決する必要がある。トラブルを解決するのは得意だ。というより専門家だ。解決するのはわけないだろう。しかし、その問題の根底にたどり着くのはルーン一人では骨が折れそうだった。


 ルーンは気がつくとどこかビルの屋上に立っていた。すぐに現実ではないと理解する。空は晴れているのに、バケツをひっくり返したような雨が降っているせいかビルの上は水浸しだった。屋上は雨のせいで足首のあたりまで水に浸かっている。ルーンはずぶ濡れになっていたが不思議と冷たさは感じなかった。あたりを見渡すと水浸しなのがルーンの立っているビルだけではないことがわかる。町全体が水に沈んでいた。ルーンはビルの淵まで行き下をのぞき込む。土砂降りの雨が降っているにもかかわらず水はどこまでも澄んでいて地上のほうまで見通すことができた。綺麗な水だったが生物の気配はない。人間はもちろん水棲生物さえいない。

 ルーンは思わず溜息をついた。また眠ってしまったのだ。さっきまで自分の部屋で本を読んでいたはずがまたこの夢の中だ。自分の情けなさとこの夢への辟易した気持ちで首を振る。

 いつものルーンならたとえ夢の中でも自由に動き回れるし、なんなら自分の意思で夢から抜け出し目を覚ますこともできる。簡単なことだ。鳴り響く目覚まし時計をボタン一つで黙らせることができるように、ワンアクション。そのはずだった。しかし、この夢はそうではなかった。夢は毎回、同じ展開を見せる。まず、通りの向こうのビルの屋上に何かの影が現れる。それを見たとたんルーンの体は石にでもなったかの様に全く動かなくなる。次に向こう側の人影は消え、かわりに背後に気配が現れる。ルーンは必死に振り返ろうとするが指先ひとつさえも微動だにしない。現れた背後の気配はゆっくりとルーンに近づいてくると優しくルーンの身体に腕を巻き付け抱き寄せる。ルーンはこの後ろから何者かもわからないものに抱きつかれることに何度やられてもなれなかった。腕が絡まる瞬間悪寒が走り夢の中で鳥肌たつ。得体のしれないものにまとわりつかれるのははっきり言って薄気味悪い。そして次にそれはルーンの耳元に顔を寄せ何事かを囁く。しかし、その囁き声はいつも聞き取れないほど小さく不明瞭だ。わかるのは声が弱々しく震え、寄せられた身体も震えているため何かに怯えているのではないかということと、おそらく女性だということくらいだ。

 このことからルーンは助けを求めるために何者かが自分の夢に侵入してきているのだとあたりをつけていた。大抵の場合ルーンは助けを求められればそれに応える。というかそれを仕事にしている。しかし、今回はこのファンシーな依頼を二週間無視していた。理由はふたつ。情報が少なすぎて助けを求めているであろうものがどこの誰だかわからないこと。それと、わざわざ人の夢の中へ侵入してきて夢主であるルーンを拘束し一方的にメッセージを伝えようとする横暴なやり方が気に入らなかった。それに、ルーンの夢に侵入してきてルーンの自由を奪えるということは、侵入者はかなりの力の持ち主のはずだ。そんな力の持ち主が自力で解決できない問題。きっとろくなものではない。

そんな理由で長い間放置してきたが、そうもいかない状況になっていた。侵入者はひとしきりルーンの耳元で囁いた後は強制的にルーンを現実へと覚醒させる。眠るたびに同じ夢を観るためルーンの眠りはおのずと浅くなっていた。簡単な話、寝不足になってきていた。ここ数日は仕事中に居眠りすることも増え―現に今もそうだが―生活に支障をきたし始めている。ルーンにとってはまったくもって不本意だが女の正体を突き止め助けなければならない。安眠を取り戻すために。

 女はまだ耳元で囁いている。ルーンは不意に肌寒さを感じた。それを女も感じ取ったのかどうかはわからないが女はルーンの身体を束縛から解放する。身体が自由なった瞬間ルーンは即座に振り返ったがそこにはもう女の姿はなかった。すると今度は背後から何者かに襟首を掴まれ水中に引き込まれる。ルーンはまた寒さを感じ身震いした。そして気が付くと現実の自分の部屋で肘掛椅子に座っていた。



 目を覚まして最初に感じたのは寒さだった。開けっ放しになっていた窓から春先の冷たい風が入り込んでいる。ルーンは肘掛椅子から立ち上がると窓を閉め、部屋の中央にある円形型の暖炉に簡単な呪文で火をいれた。すぐに薪がパチパチと音を立て始める。

 再び椅子の戻り深く腰掛けるとルーンは深くため息をついた。また同じ夢だった。しかも、自分がうたた寝なんて、こんな状況が続けばいつ殺されてもおかしくない。体力には自信があったが自分でも気づけていないほど消耗しているようだ。ルーンは首を振って眠気を払うとダブルサイズのベッドほどもある巨大なデスク―本や新聞、手紙などが乱雑に積み上げら散らかっている―におかれた小さな木箱を自分のほうへ引き寄せた。ふたを開け中身を取り出す。箱から現れたのはロリポップキャンディだった。実用性だけを重視した質素な包み紙をはがしワインレッド色の飴を口にふくむ。鉄の味が口の中に広がり、ざらざらとした香りが鼻から抜ける。寝不足からくる倦怠感がやわらぎ、頭も少しすっきりし、思考力が回復してくるのを感じた。

 ルーンはキャンディを舌の上で転がしながら考えた。どうすべきかはわかっている。しかし、実行するかどうかで悩んでいた。

 まずは、ルーンにさっきの夢をリバイバル上映いている張本人を探しださなければならない。それはいい。問題はその手段だ。夢の中に現れるのは水辺と女、それだけだ。せめて女の名前や容姿がわかれば探しようもあるのだがこれではお手上げだった。しかしながら、まったく打つ手なしというわけでもない。つまるところ、専門家に夢の解読を頼めばいい。仕事柄ルーンも夢の解読にまったくの無知というわけではないが、いかんせん情報が少ない。ルーンに解読は難しかった。

 専門家、つまり魔女のことだ。ルーンは知り合いにというか親戚にひとり魔女がいる。彼女に相談すればいい話なのだが、ルーンは躊躇していた。親戚の魔女グリテはかなりの曲者だ。彼女は物事に対して必ず対価を求める。それは親姉妹であろうと変わらなかった。そして、その対価は大抵の場合、無理難題なのだ。それならば、ほかの魔女に頼めるかといえばそうでもなく。そもそも魔女は居場所を突き止めるのすら困難なうえに、魔女には油断ならない者が多く、油断しているといつの間にか魂を縛られ死ぬまで馬車馬のようにこき使われることもあるらしい。しかし、背に腹はかえられない状況になってきていた。こうして自分の部屋で居眠りするぶんにはまだいいが、外でやってしまったら三十分と経たないうちに普段からルーンを狙ってる者たちに捕まり、殺されてしまうだろう。

 ルーンは小さくなったキャンディをガリガリとかみ砕くと、覚悟を決めて椅子から立ち上がった。グリテは親戚だ。さすがに魂までは対価に求めはしないだろう。部屋の出口わきにある帽子掛けから革のベルトを取るとチェック柄のプリーツのミニスカートの上から巻いた。さらにそのわきの小さな戸棚から小ぶりのナイフを取り出す。それを巻いたベルトの腰にある留め具に固定すると隠すように上から黒いカーディガンを羽織り壁に立てかけてあった黒いフリルの日傘をとる。それから、ルーンは扉の取っ手に手をかけ、はっと思いつく。扉のすぐそばに設けられた応接セットから未開封のお茶っ葉を適当に何箱かとり扉に戻る。ルーン取っ手に手をかけ目を閉じた。少しすると厚い木製の扉にはめ込まれた翡翠色の石がぼんやりと輝きだしルーンの右手にある同じ翡翠色の石のはまった指輪が輝く。ルーンはそれを確認すると、ようやく扉を外側へ開き外へと踏み出した。


 ルーンが扉をくぐるとそこは森の中だった。さっきまでの文明的な自分の部屋とは違い自然に溢れ、人の暮らす場所とは違うゆったりとした時間の流れを感じとれた。ルーンは雨で緩んだ土の匂いを肺いっぱいに吸い込み森の空気を楽しんだ。

 ルーンが現れた場所は針葉樹の森の中にあるぽっかりとした広い空間だった。その部分だけ木が生えおらず、かわりに小さなログハウスがぽつんと人目を忍ぶように建っている。ルーンは自分が出てきたログハウスわきの物置小屋の扉を閉めた。一瞬、扉に魔法陣が表れて消える。ルーンの部屋の扉にかけられた魔術でこの物置小屋と自分の部屋の扉をつなぎ、遠く離れたはずのこの場所へ瞬間移動した。

 ルーンはしばらく森の空気を楽しむと、大きく息を吐き出してログハウスの入口へとまわった。少し上がったデッキにはルーンには名前もわからない草花の鉢植えが足の踏み場もないほど置かれ手すりの上も同様だった。ルーンはドアをノックしかけたが寸前で手を止めた。グリテに助言をこう。悩んだ末に自分の心と同意したはずだったが直前でひるんでしまう。まったく情けない。どんな化け物が相手でも躊躇なく相手の懐に飛び込んでいく度胸はあるはずなのだが、どうやら親戚の魔女はべつのようだった。今のルーンをハンターどもが見たら〝プロディトル〟の弱点をようやく見つけたと狂喜乱舞することだろう。

 ルーンがいつまでも動けずにいると思わぬ方向から声をかけられた。「あら、お客さん?珍しいわね。」ルーンは飛び上がり振り返る。後ろにはニコニコと笑みを浮かべたグリテが小さな籠を腕にさげ立っていた。「ルーン!久しぶりね。何年ぶりかしら?」グリテの微笑みは満面の笑顔に変わりエメラルドグリーンの瞳が揺れる。ルーンを心から歓迎しているように見えた。

 「二十年ぶりかな、たぶん」

 「二十年!本当に久しぶりなのね」グリテはルーンの言葉に驚き「そんなにたつのに貴方ちっとも変わらないのね」羨ましいわと言いつつルーンのことをまじまじと観察した。特に顔を。

 「グリテさんも変わっていない」グリテは貴方もそんなことが言えるようになったのねぇとルーンの言葉をお世辞ととったが、実際グリテは二十年前と何も変わっていないようにルーンには見えた。二十年前と同じ二十代半ばといった印象の姿だ。グリテの正確な年齢はわからないがルーンより年上なことは確実なので二百歳は超えているはずだ。魔女はルーンたちとは違い年をとる。いったいどうやってグリテが若さを保っているのかルーンにはわからなかった。

 「立ち話もなんだし、とりあえず入りなさいな」グリテはいった。「二十年ぶりに訪ねてきたのだもの、フラっと立ち寄ったわけではないのでしょう?」ルーンは苦笑いだけで返事をした。グリテはルーンのわきをすり抜けると玄関の扉を開き仕草でルーンを入るよう促す。ルーンは少しの間、またしても躊躇し立ち尽くしていたが、グリテと目が合うとグリテはルーンに微笑んだ。その微笑みにどんな意味があるのか、ルーンにはわからなかったがグリテにわからないよう小さく息を吐くと扉をくぐり中に入った。

 なかは表とは違いほとんど物がなかった。目立つものは部屋の奥に置かれた大きな作業台くらいでいたって普通の部屋だ。小さなキッチンに小さなダイニングテーブルと椅子。グリテは視線でルーンにそのテーブルの椅子に座るようにいった。ルーンはそれに従う。

 「あいにく紅茶をきらしてるの、コーヒーでもいいかしら?」グリテの言葉にルーンは出かけに自分が持ってきた茶葉をグリテに差し出す。

 「あら、これはなぁに?」グリテは姪から差し出されたものを受け取らずまず訊ねた。

 「緑茶です。お口に合うかどうかわからないけど」よかったらとルーンはいった。

 「緑茶。また渋いものを持ってきたわね」ルーンから茶葉の入った箱を受けとるとグリテは早速箱を開け中身を確かめた。香りを嗅ぎ頷く。「ありがとう。早速淹れてみるわ」グリテはそういうとキッチンに行き水色の小さなケトルに水を入れタイルの壁に掛けてあった五徳を手に取りそのふたつをもってテーブルに戻ってきた。五徳を無造作にテーブルに置きその上にケトルを置いた。グリテはとくになにも、呪文を唱えたりもしなかったが五徳の中央に青い炎が現れケトルとそのなかの水を加熱し始めた。グリテはもう一度キッチンのほうへ行き今度はクッキーの入った籠を持ってきた。クッキーははちみつをつかっているようでほんのりとした甘さだった。

 「相変わらずこの山からは出ていないの?」ルーンはグリテにきいた。

 「そうね、これといって出る用もないし」出掛ける理由がないものとグリテはこたえた。それ以上は何も言わず、眼の端でルーンのことを観察している。ルーンは夢のことを切り出せなかった。こうしてグリテの家に来てテーブルに座り相手が待っているにもかかわらずまだ二の足を踏んでしまう。渋みのあるお茶が自分とグリテの心境をそのまま表しているようだった。

 「お茶をしに来たわけじゃないのでしょう?ルーン」やがて何も言わずにルーンが三杯目のお茶を飲みほしたところでしびれを切らしたグリテが呆れた声で口を開いた。

 「うん、そうなんだ」ルーンはようやく切り出した。「訊きたいことというか、相談したいことがあって」ルーンはカップの底にたまったお茶葉を見つめながらいう。「最近同じ夢を観るんだ。眠る度におなじ夢を」

 「夢?どんな?」グリテは軽く眉を寄せた。ルーンは思い出せる限り夢についてできるだけ詳しく説明した。グリテならきっとルーンが見落としているところに気がつくはずだ。グリテはルーンが話し終えてもしばらく黙っていたがようやく口を開いた。「あなたはどう思っているの?ルーン」

 「誰かが僕に助けを求めて、僕の夢の中に侵入しているんだと思うんだ」ルーンはグリテの問いにがっかりした。グリテはしばらく考え込んでいたようだったのに最初に出てきたのがルーンに意見を求めるものだった。意見がほしいのはこちらなのだ。

 「でしょうね」と素っ気なくグリテ。

 「女性の正体を突き止めたいんだ」ルーンはいった。「でないとなにもできないから」

 「それで、私に何をしてほしいの?」

 「今話したことで何かわかることがないかと思って」

 「そんなにたいしたことはわからないわね」グリテはカップのふちを指でなぞり始めた。「ひとつ確かなことは、その女性はあなたのすぐそばにいるってことくらいかしら」

 「僕の近く・・・?姿は見えないけれどすぐそばにいるってこと?」ルーンは思わずグリテの家の中を見渡したが、特に不審なものも、気配もない。

 「そうではないわね」グリテはいう。「あなたの住んでいるところのって意味よ」グリテの言葉に思わず自分の住む街の名前を口にしてしまいそうになったがルーンはなんとかこらえた。それを見てグリテが笑みをうかべる。

 「あの街に・・・」そういわれてもルーンにはなんの心当たりもなかった。そもそもあの街には長年住んではいるがほとんどで歩いたこともない。街のことはほとんど知らなかった。それでも、一見探す範囲がずいぶんと狭まったように感じるかもしれないがルーンの家があるロングケープは人口約百四十万人だ。都市にしてはかなり小さなほうだが、そのなかからほとんど手掛かりなしでひとりの女性を見つけ出すのはかなり困難だ。いや、無理だといっても過言ではないだろう。

 「ルーン」ルーンが考え込んでいるとグリテがそれを絶った。「もともとその女性は街にはいなかったはずよ。それだけ強い力の持ち主があなたの近くに住んでいたのならあなたはそれを感じ取っていたはず」つまり侵入者がルーンの街に来たのは最近のはずだとグリテはいった。

 「なるほど」とルーンは頷いてみせたがこれもあまり役に立つ情報とは思えなかった。ルーンはグリテが他にもなにか助言をくれないかと黙って待っていたがグリテはそれ以上何も言わなかった。お茶の葉だけではここまでということなのだろう。あまり収穫はなかったが、潮時だろう。これ以上何か聞き出そうとすれば見返りに何を求められるか分かったものではない。

 「ありがとう、グリテさん。参考になったよ。」ルーンがそういうとグリテは本当に?というように片方の眉をあげた。

 「ところであなた、もしかしてその歳で・・・」何か言いかけたグリテだったが、首を振り何でもないとはぐらかした。気にはなったがルーンはあえて追及はしなかった。

 ルーンはグリテの家を出て森に来た時の、物置小屋の前に立った。あとからグリテが見送りについてくる。

 「しかし、便利なドアよね」グリテは不思議そうに自分の家の物置小屋の扉を眺めた。「沢山作って売り出せばいいのに」きっと儲かるわよとグリテはいった。

 「残念だけど、そうもいかないんだ。」ルーンはグリテを見ていった。「あの扉、僕が作ったんじゃないんだ。もらいものなんだよ」それを聞くとグリテはあら、残念とルーンにはわからない程度に表情を曇らせた。

 「話を聞いてくれてありがとう。グリテさん」ルーンは礼をのべると物置小屋の扉の取っ手をつかむ。目を閉じ、自分の部屋を思い浮かべると翡翠色の石がはまった指輪がぼんやり輝きだす。指輪の輝きを確認してルーンは扉を開いた。扉の先はガーデニングの道具がおかれた物置小屋ではなく真っ暗な空間が広がっている。

 「こちらこそおいしいお茶をありがとう」グリテの言葉にルーンが振り返った。「ルーン、もっと頻繁に顔を出しなさい」私は貴方を家族だと思っているのよとつけたしグリテは微笑んだ。ルーンは思いがけない言葉に戸惑い苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。



 ルーンはホテルの屋上からロングケープの街を見渡した。街はまだ昼過ぎだというのにスモッグに覆われ視界は良好とはいえなかった。それでも海側の西の方は遮るものもほとんどなく風も吹いていたため存外遠くまで見通すことができた。

 ルーンの家があるロングケープは地方都市だ。まわりを海と山にかこまれているため平地が少ない。港の多い街だが主な産業は漁業ではなく造船だ。そのため造船所が多数ありその仕事を受ける町工場もいたるところにある。

 もともと海と山からの霧で視界の晴れることの少ない街だが、工場から垂れ流される煙でいつも靄のかかる煙っぽい街だ。

 夢に現れた女性についてわかっていることは約二週間前にこの街に来たであろうということだけだ。これからのことを思えばできるだけ早く問題を解決したい。ルーンはもともと睡眠欲が強いほうではなかったが久しぶりにぐっすりと眠りたかった。

ホテルのすぐそばのフェリー乗り場近くにある芝公園に見慣れないものがあった。原色を使った巨大な円形型のテントが辺りの落ち着いた雰囲気をぶち壊すように建っている。芝公園はテントを中心に沢山の人で溢れかえっていた。



 芝公園はビルの上からみていたときよりも混雑しているようだった。ルーンは身長145センチの小柄な身体をうまく使い人混みをぬって進んでいた。テントの正体は公園の入り口にあった。どうやらサーカスが来ているらしい。しかもちょうど二週間前から。確信はなかったが期待を込めながらルーンは人混みのなかをテントへと向かって進んでいった。

ルーンはテントに近づくにつれて違和感をおぼえた。公園のいたるところに屋台がでていて賑わっていたがテントに近づくにつれ賑わいは喧騒に変わっていった。子供の楽しそうなはしゃぎ声がだんだん大人たちの怒りに満ちた怒鳴り声にかわっていく。テント付近ではもみあいも起きているようだった。ルーン自身サーカスがどのようなものなのか詳しいわけではなかったがサーカスはもっと楽しいもののはずだ。ルーンはあと百メートルでテントにたどり着くというところで進むのをやめ、すぐ近くの羽振りのよさそうな紳士に声をかけた。

「失礼、何かあったのかな?」ルーンの問いかけに紳士はちらりと顔を向けすぐにテントのほうに視線を戻した。かけている銀縁の眼鏡とは違い彼の表情は曇っていた。

「君も今日、サーカスを観に来たのかい?」紳士の問いにルーンはとりあえず頷いておいた。「なら、残念だったね。今日の公演は中止らしいよ」

 「どうして?」

 「それがわからないからみんな騒いでいるんだ」彼はきつく眉を寄せた。「サーカスの運営側からはなんのアナウンスもないんだ。チケットの払い戻しに応じてくれるのかもわからない」おそらくこの紳士とって肝心なのは最後の部分なのだろう。紳士は深くため息をついた。お互い災難だねと彼は肩をすくめる。

 騒ぎは治まらず逆にひどくなる一方で限界まで膨らんだ風船のようにちょっとしたきっかけで破裂し、つめかけた客がいつ暴徒化してもおかしくない状況にみえた。サーカスの急な公演中止、これがルーンの夢と関係があるのかはわからないがとりあえずもう少し状況を詳しく知るために、ルーンはテントの向こう側に設置されたサーカスのスタッフのための小さなテントが密集しているエリアへ向かった。入り口にはスッタフオンリーの文字があったが二メートル以上はある即席で作られた塀をルーンは助走もなしに軽く飛び越えなかに入った。なかは無秩序に大小形も様々なテントがところ狭しと建ち並んでいた。テント以外にもトレーラーなどもありおそらくそれが人間の居住区になっているようだ。ルーンはトレーラーの近くを避けテントの影を進み、出来るだけ人目につかないように奥へと進んでいった。食堂らしきダイニングテーブルがいくつも並ぶテントを見つけルーンは足を止めた。サーカス団の憩いの場にしては食事や休憩をとる人間はほんの数人で賑わいにかけているように感じた。ルーンは乱雑に置かれた木箱や荷物の影に隠れながら大きく回り込み、食事をとる二人組へ近づいた。

 「結局今日はこのまま中止か?」ぴったりとした黒いタイツを着た小柄な男が苛立った様子でいった。

 「さあな、でもこのまま見つからなければ多分そうだろうよ」白いシャツに革パン姿の筋肉質な男がどうでもよさそうにこたえる。タイツの男がふんっと鼻を鳴らす。

「たかが女が一人消えたくらいで騒ぎすぎじゃないのか?」

 「いいじゃねえか」革パンの男がカップを掲げる。「おかげで俺は楽ができてる。」

 「駆り出されてるこっちの身にもなってみろ。街中駆け回ったせいで足が棒みてぇだ。この街は坂が多すぎる!」

 「それにしてもなにをやらかしたんだかその女?」そもそも誰なんだと革パンの男。

 「前回の公演地で入団した雑用だ。女が何をしたのかは知らねぇ」タイツの男が吐き捨てる。「まあ、間違いないのは見つかったら女の命はないってことだな」なぜか嬉しそうにクククッと笑う。

 「副団長の切れっぷりからみてそれは間違いないだろうな」革パンの男が同意する。

 「なにしてるんだ」ルーンは不意に後ろから男に肩を掴まれた。ルーンはそのまま素早く立ち上がり掴まれた肩を男に押し付けながら身体を回転させ左のフックを男の顎にクリーンヒットさせる。男は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。食堂にいた全員が異変に気づき臨戦態勢をとる。どうやらただのサーカス団ではないようだ。タイツと革パンの男にくわえほかにも二人の男が奥から出てきた。ルーンは一瞬で状況を確認すると、一番近くにいたタイツ男に一瞬で接近すると日傘の柄をタイツ男のみぞおちに突き出した。タイツ男はそれを身体をくねらせかわし宙返りをきめルーンと距離をとる。その隙を見逃さず革パンがテーブルの向こうからルーンにサンドウィッチののった皿を投げつける。ルーンはそれを日傘ではじき返しタイツ男を追い、上段から日傘をたたきつけタイツ男をしずめる。革パン男が雄たけびをあげながら今度はテーブルを横殴りにルーンに叩きつけようとしたがルーンはジャンプしてかわし革パン男の後ろへ着地した。ルーンは革パン男の膝裏を蹴りつけて膝をつかせ、男の後頭部めがけ右の拳を振り抜いた。革パン男は白目をむき地面に倒れる。そしてルーンはカーディガンについた埃を払いながらゆっくり振り返り奥で大の男二人が小柄な少女にのばされるのを観ていた二人の男に微笑んだ。



 「本当に知らねぇんだ。信じてくれ」サーカス団の男は懇願するようにルーンを見上げた。もう一人の男はよだれをだらしなく垂らして床に転がっている。革パン男に拳を叩き付けた後ルーンが微笑みかけたら二人とも逃げようとしたので一人を気絶させもう一人を椅子に縛りつけた。

 ルーンは思案顔でさっきから言葉を覚えたばかりの九官鳥のように同じ言葉を繰り返す男をみた。さっきの二人組が話していた女性について知っていることを教えてくれと言ったら怯え切った様子で知らない以外口にしなくなった。仲間を見捨てて逃げるような奴らだ、同じ団員のために嘘をついたりはしないだろう。男をこれ以上怯えさせないようできるだけ優しく話しかける。

 「君、その女の子を実際に見たことはあるんだよね?」その問いに男は小刻みに頷いた。悪くない知らせだ。「名前は?」それにも頷いてみせた。それを見てルーンも小さく頷く。名前とある程度の容姿が判れば探しようがある。

 「名前はエマ。苗字は知らない」男は本当だと早口にいう。

 「それで、どんな子?」

 「おとなしくて陰気な奴だ。入って三か月くらいになるのに誰とも馴染めてなかった」

 「質問の仕方が悪かったようだ。どんな見た目かが知りたいんだ」

 「後ろに写真がある」男はルーンの後ろにある木製の掲示板を顎で指した。ルーンはピンで留めてあった写真をはがす。写真はこのサーカス団の集合写真のようだった。中央に写るのは金髪に口ひげをたくわえた小太りの男だった。金の鳥の飾りがついたステッキを持って笑っている。この男が団長だろうか。その男を中心に百人ほどがカメラに視線を送っている。

 「どの子がエマ君?」ルーンは男に写真を向けた。

 「左端の灰色のつなぎを着た赤毛の女だ」写真に灰色のつなぎを着た人間は何人もいたが女性はひとりだけだった。ほかの団員はおおむね皆笑顔だったが彼女は左端でうつむいている。

 「エマ君はここでなんの仕事をしていたんだい?」

 「ライオンやゾウとか、動物の世話係だ」

 「その動物はどこにいるのかな?」

 「メインテントの真裏だ」

 「どうも」ルーンはそういうと男のあごに裏拳を放った。瞬きよりも早く放たれた拳を椅子に縛られた男がどうにかできるはずもなく、殴られたことを認識することもできないまま男は椅子の上で意識を失った。



 サーカスの演目がおこなわれるメインテントの裏には頑丈な柵がはられた区画があった。出入口はルーンの腕ほどもある太さの頑丈そうな南京錠で閉じられていた。ルーンは南京錠の隙間に日傘を差し入れ無理矢理に力を加える。特殊なつくりの傘は見た目の頼りなさとは裏腹に、しなりもせず南京錠を役立たずの鉄の塊に変えた。

 檻に囲まれたテントの中はさらに檻が並んでいた。入ってすぐ手前のほうにはハトやインコなど鳥類のケージ、並んでサルや犬などの中型動物の檻があった。ルーンはそれをまっすぐ通り過ぎ奥の扉を開ける。ルーンが扉を開けた瞬間、サルと犬がけたましく騒ぎ始めた。部屋の奥には騒ぎ立てるほかの動物など気にも留めず、くつろぐ二匹のライオンがいた。右の檻にいる雄のライオンは片目を開けルーンの様子をうかがっている。左の檻の雄ライオンは背をむけて侵入者にもなんの反応も示さなかった。

ルーンはライオンの檻がある部屋を注意深く見渡した。何かがおかしい。外から感じたこのテントの大きさと中の広さがあっていないように感じた。ライオンの檻はあまり掃除されていないのか薄汚れていたが、左のライオンの檻だけ壁が綺麗な部分があった。ルーンは何の躊躇もなく檻の扉の隙間に傘を差し込む。

「よしねぇ、お嬢さん」ルーン以外誰もいないはずだが老いた老人のしゃがれ声が聞こえた。声の主を探して辺りを見渡す。「ははは、たいていの奴は今ので飛び上がって逃げてくんだがね」背を向けていたライオンが大儀そうに振り向くとにやりと笑った。

「あいにく知り合いにおしゃべりな蜘蛛がいるんだ」ルーンは何でもないと肩をあげた。

「おっと、そういうことかい」ルーンの姿を見たとたんライオンは眉間に深くしわを寄せた。「まいったね、こりゃ。迷ってここへ来たわけじゃないんだろう?」

「迷ってきたには違いないけどその奥に用があるんだ。」ふとここでルーンはさっきの男の言葉を思い出す。「ところで君はエマという女の子を知っているだろう?」

「無論」ライオンは素っ気なくかえした。

「彼女を探しているんだ。何か知らないかい?」

「檻の中にいる私が外の何を知っていると思うのかね」

「彼女とは親しかったのかな?」

「食い殺さない程度にはね」このライオンは何か知っているかもしれないが情報を聞き出すには骨が折れそうだった。しかしこれだけはわかった。エマはこの先の秘密を知っていたのだ。その秘密が彼女の失踪に関係がありそうだ。あの壁の向こうを確かめる必要がある。

「僕のことも食べずにいてくれると助かるのだけれど」

「なんの用かは知らんがね。はいどうぞと通すわけにもいかんのさ。お嬢さん」

「交渉の余地はなさそうだね」ルーンは鉄製の檻を日傘で無理やりこじ開けた。ライオンは頭を低くしてルーンの腕ほどもある牙を剥き出しにして呻る。ルーンはライオンの威嚇も気にすることなく無造作に壁の怪しい部分へ進む。そんなルーンの態度が癇に障ったのかライオンは首をしゃくり上げながら吠えると飛び上がりルーンめがけて爪を振り下ろした。次の瞬間ライオンが見たのは床に横たわった自分の体だった。ルーンの三倍以上はある筋肉質な体がぴくぴく痙攣している。一瞬、なにが起こったのかわからなかったが起き上がろうとしてもなんの反応も示さない体を見て理解した。切断されたのだ首を。眼球を精一杯動かして少女を見ると、今切り捨てたばかりのものになんの関心も示さず隠し扉を開いて奥の部屋に入っていくところだった。

隠し部屋はライオンの檻がある部屋と同じくらいの広さだった。部屋にあるのは部屋の半分くらいある檻と、大型犬が入れそうな檻が二つ、あとは小さな動物用のケージが無造作に積み上げられていた。それだけたくさん檻があるにもかかわらず全て空っぽだった。ルーンは積みあがったケージに歩み寄りそれを右手で持ち上げる。ケージを掴んだ右手に痛みが走りルーンはケージを投げ捨てた。右の掌を確認すると皮がただれ真っ赤になっていた。

ルーンは痛々しい自分の右手を見つめた。肉の焼けるにおいがする。おそらくこの部屋の檻はこの世のものではない獣を捕まえておくための特殊なものだろ。自分が火傷を負ったのがその証拠だ。ここからは憶測になるが、このサーカスには裏の顔があるらしい。おそらく幻獣や珍獣のバイヤーをやっているのだ。ライオンの言葉を素直に受け取るならエマはこの部屋にも出入りしていたはず。秘密は元から知っていた。ならなぜエマは姿を消したのか、ルーンは首を振りため息を吐いた。考えても仕方がない。とにかく今はここのサーカス団員より先にエマを見つけなくては。


「工場街のほうだ!上にでかい廃工場がある坂にいる」

「橋を渡ったところか?」受話器の先の団員はかなり焦っていた。エマを見つけたとテント事務所に電話してきたのだが、女ひとりくらい見つけてしまえば連れ帰るくらい簡単なことだろうに応援をよこせと何度も繰り返している。横から白く細い腕が伸びてきて電話を切られた。

 「対岸の廃工場?」サーカスで事務職をしている男の首元にカッターを突き付けている少女は独り言のようにつぶやいた。

 「俺はわからない。この街の土地勘がないんだ」ルーンは眼鏡をかけた事務職の男を一瞥すると男の首元にあてていたカッターの刃をしまいデスクに放り投げた。エマが見つかったという場所はおそらく今いる芝公園から橋を越えた先のビックバリーだろう。ここからだとどんなに急いでも対岸に渡るだけでも五分はかかる。ルーンは仮設事務所の扉を閉めるとドアノブを握り自分の部屋を思い浮かべた。対岸に行くには数キロ先の橋を渡る必要がある。それなら一度自分の部屋に戻りビックバリーの使える扉から出たほうがはるかに速い。口をぽかんと開けたままの男を放ったまま指輪の輝きを確認すると部屋に入りすぐに扉を閉じ今度はビックバリーにある公園のトイレの扉を想像しながら扉の取っ手を掴む。またすぐに指輪が輝きだし、ルーンは扉を開けて外に出た。

 公園のトイレを出ると、暮れかかる街にガス灯の灯がともり始めていた。街に漂うスモッグが黄昏時の侘しさに拍車をかけ、陰る街がよりいっそう不気味に見えた。ルーンは嫌な予感をつのらせ廃工場がある通りへと全力で走り出す。途中バスにぶつかりそうになりながらも最短距離で街を突っ切り電話の男が言っていた場所であろう坂に躍り出る。肩で息をしながら素早く見渡したが坂道には誰もいなかった。ルーンはそのまま廃工場のほうへ駆け上がっていった。

 廃工場敷地のエントランスに横たわる小さな影があった。ルーンは急いで駆け寄る。エマだった。腹部が血で真っ赤に染まっている。傷の具合から見て銃で撃たれたようだ。脈を確認するとまだ生きていた。

 「エマ君、君を助けに来た。」いったい何があったんだとルーン。エマは気が付き苦しそうに目を開けた。

 「か・じょ・・す・て」弱々しくエマがうったえる。ルーンは彼女の口元に耳を寄せた。「彼女を・・・助けてあげて」この状況でエマはほかのだれかを心配していた。

 「わかった。助けるよ。でもまずは君からだ」そういって抱きかかえようとするルーンの手にエマは何かを押し付けてくる。受け取ると血まみれのメモだった。

 「無駄だ。助かりはしねぇよ」廃工場から男が出てきた。くすんだ茶色のロン毛にTシャツ、ジャージに下駄、黒い革のライダースジャケットを羽織っている。「狙い通りにはいかなかったがとんでもないもんがかかったな」そういって茶髪の男はルーンを睨み付けた。

 「この子をこんなふうにしたのは君かい?」ルーンが睨み返す。

 「そんなことより」男はどうでもいいというように手を振る。「あんた、その肩にかかる銀髪に幼い容姿、そして緋色の眼。〝プロディトル〟だろ?」茶髪の男がにたりと笑う。

 「そういう君は〝追放者〟だね」

 「おっと、勘違いされちゃ困る。俺は自分の意思で抜けたのさ」あんなところこっちが願い下げだと男は唾を吐く。「一応自己紹介しとくか、俺はグラッツ。あんたにゃ悪いがここで俺のために死んでくれ」

 「僕の首を手土産に協会にもどしてもらうつもりかな?」グラッツは何も言わず口をゆがめた。

 「おい、話が違うぞ」廃工場から別の男が出てきた。サーカス団の集合写真にいた金髪小太りの男だ。左手にあの趣味の悪いステッキ、右手には拳銃が握られていた。

 「悪いね、副団長さん。」小太りの男は団長ではなく副団長だったよだ。「見当が外れたことは謝る。でも邪魔はしないでくれ」

 「それじゃ困る。早く見つけ出さないと」副団長は焦っていた。

 「緑に囲まれた水辺を探すんだ。奴はそこにいるはずだ」副団長はしばらくグラッツを睨みつけていたが、やがてあきらめたのかため息をついて、なにやらぶつぶついいながら停めてあった車に乗り込み坂を下って行った。

 「僕も君にかまってる暇はないよ」ルーンはグラッツにいった。

 「さっきも言ったろ。無駄だ。その女は助かりはしない。さっきのデブが使ってる銃弾はたっぷり毒が塗ってある。血が止まっても助からん。それに、逃げようとしても追いかける。」足には自信があるんだと言いながらグラッツはジャッケット脱ぎわきに放る。「お気に入りなんだ」

 「・・・・・だったら、さっさと済ませよう。」ルーンはエマをそっと寝かせると巻き込まないようエマから離れる。

 二人は十メートルほど距離をとって向かい合った。

 「さっきの答えを聞いてないんだが、あんた〝プロディトル〟なんだよな?」

 「僕のことをそう呼び輩もいるね」

 「・・・・・あんたがあの〝焔腕〟の腕を奪ったなんて信じがたいな」ルーンはにやにやしながら話すグラッツを無視して、いっきに距離をつめると日傘で胴を横殴りにした。グラッツは吹き飛び廃工場の窓のガラスとフレームを破壊しながら廃工場の中に消えた。ルーンはグラッツを追って廃工場へ入っていく。

 「いきなりだな。伝説の化け物なんだろ?少しは余裕を持てよ」グラッツが瓦礫の中から炎をまとって立ち上がる。ルーンはグラッツの変化を見て立ち止まった。

 「今この状況で僕が時間をかけることに何のメリットもない」

 「そういうことじゃ・・・ねぇよ」グラッツを覆っていた炎は最初、彼から放射状に拡がっていたが完全に立ち上がると今度は彼に向って集束した。グラッツが耳が割れんばかりの音量で凶暴な野犬のように遠吠えを上げる。炎の光が収まるとグラッツに起こった変化をはっきりと見ることができた。

 「ヘルハウンドか」グラッツは人狼のような姿に変身していた。全身が黒い毛皮に覆われ尻尾も生えている。狼のように伸びた口には鋭い牙が並んでいる。その牙の間からは呼吸するたびに炎があふれ出ていた。天使の僕となった者たちが持つ力だ。自身が討伐した魔物の力を自分のものにできる。

 「こっからだっ‼」グラッツは胸を大きく膨らまし息を吸うとルーンに向かって炎の球を吐き出した。そしてすぐさまルーンの動きに反応できるよう四足になり構える。しかしその時にはもうルーンはグラッツの脇にいた。ルーンも低く構え日傘で居合の構えをとっている。グラッツは本能的に全力で真上へ飛び上がった。常人ではありえない速度の回避だったが、尻尾の先を切断され鮮血が尾を引く。ルーンの右手に握られた日傘の先には日除けの小間ではなく純白で細身の両刃剣があった。ルーンはグラッツが着地したときの無防備な瞬間を狙うため剣を日傘の鞘におさめ再び居合の構えをとった。グラッツはルーンの狙いを瞬時に見抜いたようだった。グラッツは空中で身体を捻りながらもう一度、肺に空気を溜めルーンめがけて炎を吐き出す。吐き出すと同時に全方向に注意を向けルーンの動きを警戒するが今度は回り込んでは来なかった。炎は工場の床に衝突して地面に衝突し勢いを増し燃え上がった。床のコンクリートがグラッツの炎で赤くなり融解していく。炎の中から黒い影が飛び出した。それを見てグラッツは口を釣り上げる。これで着地すると同時に斬られることはまずない。そのまま炎の中におりていく。炎はグラッツの味方だ。それでも警戒を怠らず猛スピードで離れていくルーンの影を凝視していたグラッツは次の瞬間には自分の愚かさを呪った。壁にあたった黒い影はパンっと乾いた音をたてて円形にひろがった。グラッツがルーンだと思っていたのはカーディガンをかぶせられた日傘だった。無防備な状態で炎の中に落下してきたグラッツの首をルーンは彼の腕ごと切り落とした。ルーンは全身にひどい火傷を負っていたが気にする様子もなくグラッツの首を掴み上げ、ゆっくりと炎の中から出ていく。

 「あまり自分を大事にしてないようだな」グラッツは首だけになったというのにまだ意識も話す力も残っているようだった。

 「これでも労わってるほうだよ」ルーンはそういうとグラッツの首を炎が届かない場所へ放り投げた。ルーンの着ていた服は燃えてボロボロになり腰にあったはずのナイフも柄を残して消えていた。彼女が負った火傷はすでにほとんど治りかけている。

「そういう意味じゃない・・・・・」グラッツはあきれた様子でいった。

「・・・・・ずいぶん余裕そうだね。僕が殺しはやらないとでも?」るーんはさりげなくグラッツの胴体と首が視界に入る位置をとる。

 「聞きたいことがあるだろうからな」

 「僕が、君に?」いったい何をとルーンは大げさに首をかしげて見せる。

 「さっきの女を助けなくていいのか?」

 「助けてあげたいのはやまやまだけど、彼女を助けようとすれば何もできないままこの一件が終わってしまうかもしれない。それじゃ僕はただのピエロだ」今ここでこの男から毒の種類を聞き出せたとしても解毒が間に合うかどうかかなり怪しいところまでエマは弱っていた。エマに時間を割き助けられず、さらに彼女が言った助けてほしいという〝彼女〟も助けられないでは場をかき乱すだけで終わってしまう。

 「じゃあ、見捨てるのか」

 「そうだ」

 「ならなぜ俺にとどめを刺さない?」もう用はないだろとグラッツ。

 「聞きたいことがあるからさ。さっきの男は何を、誰を探していたのかな?」

 「話せば見逃してくれるか?」グラッツはルーンの言葉を鼻で笑い、ニヤついた表情で命乞いをした。

 「君の態度次第かな」

 「協会に入るとルーキーどもが最初に教わるのはあんたのことだ〝プロディトル〟。出くわしたら兎に角逃げろ。そう教わる」グラッツが何やら語り始める。「ほとんどの奴らはあんたと〝焔腕〟の話を信じてない。俺も信じちゃいない。・・・・・確かにあんたは強いが」

 「悪いけど君と会話を楽しむつもりはないんだ」ルーンはグラッツの話を遮り、歩み寄ると剣の切っ先を真上からグラッツの頭に突き付けた。

 「わかった・・・っよ!」グラッツの言葉と同時にルーンの真下の床が割れ炎を噴き上げながらグラッツの胴体が飛び出してきた。さっきの炎で地面を溶かしながら回り込んできたようだ。ルーンはとっさに後ろへジャンプする。グラッツの胴体は素早くルーンのほうへ向きなおったが、そのまますぐに糸が切れた人形に様に床に崩れ落ちた。ルーンの右手に握られた剣には血の滴るグラッツの頭が串刺しになっていた。


 「緑に囲まれた水辺を探せ。奴はそこにいるはず」グラッツは副団長と呼んだ男にそう言っていた。グラッツを始末した後すぐにエマの元に戻ったが彼女はすでに息をひきとっていた。エマに〝彼女〟が誰なのか聞き出せなかったため手掛かりはグラッツのこの言葉しかない。ロングケープは山に囲まれ緑は多いが極端に水辺と呼べる場所が少ない。ルーンはしばらく考え込んでたが、ふとひらめき廃工場にまだ使えそうな扉がないか探すため走り出した。

 ルーンの夢を操作する力の持ち主、サーカス団の特別な獣を売りさばいていたであろう裏の顔。エマの言葉にグラッツの緑に囲まれた水辺という言葉。〝彼女〟というのはおそらく〝あれ〟のことだ。〝彼女〟は神聖な土地を好むというのが通説だ。サウスヒルに神の社があるのだが、その土地には緑に囲まれた噴水広場が存在している。〝彼女〟が伝説の通りの生き物ならそこにいるはずだ。

 工場裏手にまだ使える非常扉を見つけ自分の部屋に戻る。ボロボロの衣服はそのままにすぐさま踵を返して神社の境内にある市民の集会場の扉と部屋の扉をつなぎ境内へ飛び出した。すぐ左に曲がり噴水広場へと急ぐ。陽が沈みすっかり暗くなって―神社の境内には灯りがほとんどなかった―いたがルーンは体質のおかげで昼間のように見通すことができた。不規則に並ぶ敷石にもつまずくことなく噴水広場にたどり着くと〝彼女〟は隠れることもせず水辺にたたずんでいた。もともと神聖な力が強い場所だが、〝彼女〟がいることでさらに強まっているようだった。ルーンは寝不足のせいもあって場の神聖さにあてられ目眩をおぼえ膝をついた。

 「お待ちしていました。ルーン・ドロップ様」穢れを知らない純白のユニコーンがルーンに語り掛ける。その毛並みは真珠をちりばめたように水面の揺らめきを映してキラキラと輝いている。

 「驚いた、まだ子供だ」ルーンはなんとか立ち上がるとユニコーンの姿をしっかりと見た。ユニコーンはまだ体もラバほどに小さく、その象徴である額から延びる角も成長しきっていなかった。ユニコーンはそもそも積極的に繁殖をしない。何十年かに一度生まれるかどうかだ。そしてその生まれた子供はユニコーンが住む森―その森に棲む動物や木々―が大事に育てる。成体のユニコーンを見つけ出すのは山に隠された一枚のコインを見つけ出すほどの困難さだが、子供となるとそれ以上に不可能なことだった。しかし、この子供のユニコーンがここにいるということは、つい最近までサーカスにあったあの檻に入っていたということだ。あのサーカス団はどうやってこの子供のユニコーンを見つけ出し捕らえたのだろうか。

 「貴方のちからをかしてください。」澄んだ声でユニコーンは言った。

 「助けるのはかまわないけど、いくつか条件がある」ルーンはまだ何か言いかけていたユニコーンを遮った。ユニコーンはしばらく黙ってルーンを品定めでもするように観察していたがやがて頷いた。

 「いいでしょう。条件を話してください」

 「まず場所を変えてほしい」

 「私はその必要を感じませんが・・・・・」

 「今すぐに移動すべきだ」ルーンは今にも気を失いそうになりながら簡潔に説明した。「まず、君を探しているサーカス団がいつこの場所に現れてもおかしくない。次にこの場所は今の僕にとって負荷が強すぎる。この場所でサーカス団から君を守り抜く自信がない」

 「了解しました。どこへ行けばいいのでしょう?」

 「こちらへ」ルーンはたった今自分がやってきたほうを示す。ユニコーンはゆっくりと水から上がりそれにしたがった。

 「見つけたぞっ‼」静かな噴水広場に男の声が響き渡る。「副団長に伝えろ。ユニコーンが見つかった」サーカスの団員らしき男が三人広場に現れた。三人とも右手に拳銃を握っていた。

 「走って」ルーンはようやく水から上がったユニコーンを急かし集会場を目指す。当然だがあとをサーカス団が追いかけてくる。ルーンは精一杯走っていたが足がもつれ何度も転びそうになってしまう。神を祀っている聖域の力にあてられいよいよ限界が近づいていた。

 「乗ってください」見かねたユニコーンがルーンの前に回り込み姿勢を低くする。ルーンは迷わず体をユニコーンにあずけた。ユニコーンは幼い体格にもかかわらずルーンを乗せてまるで風のように走った。ユニコーンに乗って駆けるなんて体調が万全ならきっと感動したに違いないが、庭先に干されたマットレスのように無様な恰好でユニコーンの体にしがみついて感じるのはユニコーンの背中からもろに伝わる振動と吐き気だった。

 「あそこだっ」すぐに集会場が見えてくる。ユニコーンが完全に止まるのを待たずにルーンは不格好に頭から滑り落ち扉へ這いよる。

 「急げっ。あそこだ‼」大した距離もなかったせいですぐにサーカス団が追い付いてくる。砂利を蹴りつける音とともに神社に乾いた銃声が響いた。

 「馬には当てるなよ」サーカス団の一人が叫ぶ。ルーンは扉をつかみ自分の部屋の扉を思い浮かべる。指輪が光りだすのを待つがなかなか光らない。近くに着弾した弾丸が砂利をはじきそれがルーンの額に当たる。ルーンは忌々しく指輪を睨み付けたいつもならほんの一瞬で輝きだすのだがアドレナリンのせいで引き伸ばされた時間の中ではすでに何分もこうしているように思えた。サーカス団員たちがどんどん近づき銃の精度も上がり危うい場所をかすめることも増えてくる。

 「ルーン様、もうすぐそこまで来ています」ユニコーンがいやに落ち着いた声でルーンを急かす。

 「わかってる!静かにしてくれ」ようやく指輪が光りだす。しかしまだ不安定に点滅していた。まだ扉は完全に繋がっていない。早く、早くと念じながらルーンは扉の取っ手を握りしめたが思いは届かず指輪の光はなかなか安定しない。サーカス団の一人がついに手の届くところまで追いついてきた。男は拳銃の狙いをルーンの頭に合わせなんの躊躇もなく引き金を引く。しかし弾丸は発射されずカチャカチャとなるだけだった。弾切れだ。ホッとしたルーンだったが男が銃を捨てサバイバルナイフを抜くと背中に冷汗が流れた。飴もナイフもない。今これ以上傷を負うのはまずかった。それに今扉から手を離せば一からやり直しだ。男が威勢よく声をあげながらナイフを突き出してくる。ルーンは体をそらし日傘でなんとかそれをいなしたが砂利に足をとられ体勢を崩す。それを見逃さずすぐさま男がルーンにナイフをふるう。ルーンは無傷で切り抜けるのを諦め痛みにそなえたがそうはならなかった。ユニコーンが後ろ脚の強烈なキックを男におみまいした。肉と骨が壊れる鈍い音が響き男は五メートル以上吹き飛んだ。身体が不自然に捻じれている。ようやくルーンの指輪が強く輝きだしたがほかのサーカス団員もすぐそこに迫っていた。断続的だがまだ撃ってきている。

 「さぁ、入って」ルーンは扉を勢いよく開きユニコーンを部屋に入れると自分も転がりながら中に入り扉を閉めた。


 自室の床に転がりルーンは深く息を吐いた。ユニコーンは興味津々といった様子でルーンの部屋をきょろきょろと見渡している。いくら子供とはいえ大型の生物がいると部屋が狭く感じるものだった。

 神聖さにあてられておきていた気怠さが徐々に抜けていくのを感じながらルーンはユニコーンを観察した。ユニコーン自体の聖の力は子供だからかたいしたことはなくとりあえずはここにおいても問題はなさそうだった。おそらくあの場所の聖域の力とユニコーンの力が相乗効果を生んでいたのだろう。ルーンは息を整えると巨大なデスクにむかい木箱からキャンディを取り出しバリバリかみ砕きすぐに飲み込んだ。塞ぎきれていなかった傷がみるいる塞がっていき、それに加えて体力も幾分回復する。

 「もともとどこの森にいたんだい?」遠足は帰るまでが遠足だ。このユニコーンを森に帰さなくては。

 「まだ帰るつもりはありません。」ユニコーンはきっぱりとそう告げる。

 「捕まっていたのを助けてもらうためにあんなことをしたんじゃないのか?」

 「あんなこと?・・・・・そうですねいきなり心の中に入り込むのは失礼でしたか」ユニコーンはルーンの言葉の意味を分かっていないようだった。

 「いや、そうじゃない。エマのことだよ。彼女を巻き込んだ。・・・・・死んだよ、彼女。」

 「そうですか。」ユニコーンの返事はそれだけだった。

 「彼女を無理やり従わせたわけじゃないよね?」ユニコーンなら心を操るくらいのことはできるだろう。

 「そんなことはしていません。事情を話したら、彼女自ら助けになりたいと言ってくれました」ユニコーンは嘘は言っていないようだったがエマのように普通の人間はユニコーンのような力を持つものの影響を受けやすい。それに、ユニコーン自身が無意識に彼女を誘導していたかもしれない。「それよりも、貴方の力を貸してほしいのですが」ユニコーンはエマの死に関心が無いようだった。このての幻獣にはよくみられる反応ではある。同じ種族の仲間に対する絆は自らの死をいとわないほどの強さをみせるがその反面、他者に対する関心がまるでない。

 「まずはその事情っていうのを僕にも話してくれるかな?」

 「私たちはここよりもずっと西の大陸、その北にある山々に護られた森の中で静かに暮らしていました。」ユニコーンは遠い目をして語り始めた。「あの時私は今よりも幼くまだ生まれたばかりでした。好奇心の旺盛で新しいものを見つけることに夢中でよく母を困らせていました。

その日もあたしは森の中を好奇心の赴くまま駆け回っていました。樹々やほかの動物に誘われて私はいつの間にか森の端のほうまで行ってしまいました。普段母から絶対に森から出てはならないときつく言われていました。森を出る勇気はありませんでしたが、外に何があるのか気になって仕方なかった私はそのまま森の外周を行ったり来たり。そのうち見慣れないものを見つけました。人間です。たくさんの荷物を抱えてたくさんの人間が森にわけ入っていくのを私はこっそりと後ろから追いかけました。杉や白樺にもすぐに母のもとへ帰るように言われましたが私は聞きませんでした。

陽もとっぷり暮れたころ人間たちは森の奥へ進むのをやめ火を焚いて眠りにつきました。私は人間が持っていた荷物に興味をそそられ気づかれないようそっと近づき荷物を漁っていました。そのとき人間のひとりに見つかってしまったのです。彼はゆっくりと後ずさりして仲間のところへ行ってしまいました。私は急に怖くなり回れ右をしてその場を離れようとしましたがその時にはもう人間に周りを囲まれていました。おそらく私が後をつけていたのを知っていたのでしょう。私は必死に逃げようとしましたがどうにもうまく逃げられませんでした。人間たちに崖まで追い詰められたとき母とほかの仲間が現れました。きっと森が知らせてくれたのです。母は人間たちに突進しながら私に逃げるよう言いました。私は母の言うとおり必死に走って逃げました。どれだけ走ったのかわかりませんが随分と長い間走りました。仲間の元に戻り母の帰りを待ちましたが母は帰ってはきませんでした。」ユニコーンはそこまで話すとしばらく黙ってしまったがルーンは催促せず話の続きを黙って待った。「その日から私は母を探して森中を走り回りましたが母はどこにもいませんでした。森や仲間たちは人間が母を連れ去ったといっていました。

一年前また同じ人間たちが森に現れたのです。私は母に会うためにわざと彼らにつかまりました。ですが彼らのところには母はいませんでした。しばらく捕らわれているうちに彼らがサーカスと呼ばれるもので旅をしながら集めた珍しい生き物を売りさばいているということがわかりました。そして、母がどこかに売られたということも。」

「つまり君はお母さんを探しているのか。」

「はい、ここへ来たのは二週間前だったのですが、感じたんです母をそして今も感じます母の存在を。・・・・・僅かにですが」

「ロングケープに君のお母さんがいると?」

「はい、確かに感じるんです。エマは三か月ほど前にサーカス団に加わって私たちの世話をするようになりました。事情を話すと彼女は私に協力してくれました。この街で母の気配を感じることを告げると彼女はサーカス団の目を盗んで母を探しに街へ出てくれましたが帰ってはきませんでした。檻の中では私は何もできないので助けを求めるため貴方の夢の中へお邪魔しました。」

「おかげで寝不足だ」ルーンは子供のユニコーンに無意識に愚痴を言っていた。

「・・・・・昨晩、エマが戻ってきたのです。彼女は母を見つけたといい私を檻から出してくれました。しかしすぐに見つかってしまって、私を先ほどの水辺に隠すとエマは母をどうにか連れてくるといっていたのですが」そこまで聞いてルーンはエマにわたされたメモを思い出した。血で汚れくしゃくしゃになったメモを広げるとロングケープのとある住所が書いてあった。おそらくここにユニコーンの母親がいるのだろう。

「えっと、君名前は?」

「名前?私はユニコーンです」

「そうじゃなくて、君個人を表す呼び名が知りたいんだ。例えば僕はルーンって名前だ」

「それならエマがくれました。私はプリヤです」

「そっか・・・。プリヤ、君に手を貸してもいい。」ルーンはプリヤに手を突き出した。「でも、公園でも言ったようにもうひとつ条件があるんだ」

「なんでしょう?」プリヤは少し身構えた。

「エマの死を心から悼むこと、そしてこれから毎日、彼女のために祈ること」

「祈る?彼女のなにを、なにに祈ればいいのでしょ?」

「それは自分で考えるんだ」

「・・・・・わかりました」


 「本当にいいのかな?」ルーンは何度もプリヤに同じ質問をした。彼女の母親を見つけ連れてくるといったのだがプリヤがどうしても一緒に来るといってきかなかった。はっきりいって子供とはいえこんな目立つ生き物を連れていてはすぐに見つかってしまう。「さっきも言ったけど元に戻れる保証はないよ。試作品なうえに動物用だ。君たちのような生き物に使ったらどんな副作用が」

「かまいません。早くお願いします!」プリヤは苛立ち、同じことを繰り返すルーンにはやくその注射器で薬を注入するようにいった。

「じゃぁ打つよ」ルーンはプリヤの静脈に注射器の針を滑り込ませ、緑色の薬を流し込んだ。まさかプリヤがこの条件をのむとは思っていなかった。ルーンがどういっても母親の捜索についてくるといって引かないプリヤにまたひとつ条件を出した。それは、薬で人間の姿に変身することだった。ユニコーンはプライドが高いことで有名だ。下等な存在の人間になるのは一時的とはいえ耐えられないだろうと思ったのだが、彼女は二つ返事で了承した。まあでもこれで母親のいるであろう場所に忍び込みやすくはなる。

「こ、これは」プリヤは足をがくがくと震わせながら床に崩れ落ちた。「ま・さか」はじめは全身を痺れが襲ったが、すぐに痺れは痛みに変わり、それはまるで体を内側から切り刻まれているような感覚だった。

「いやいや、正常な反応だよ。そんなに簡単に変身ができるわけがない。これから半日は苦痛が続くよ」

「そんな・こと・はいってなかった。」全身に走る痛みをこらえながらプリヤはルーンを睨んだ。

「試作品だから何があるかわからないと言ったはずだよ。その反応は予想通りだけど」ルーンの呑気な物言いにプリヤはさらにきつくルーンを睨んだ。「そんな眼で僕を見ても痛みは和らがないよ。」プリヤはそのうちに痛み以外の感覚がなくなり現実と幻覚の区別をなくし悲鳴を上げ続けた。


プリヤはひんやりとした不快感で目を覚ますと薄暗い部屋で仰向けに横たわっていた。すぐに起き上がり四つの足で立ち上がる。しかし、うまくバランスが先方へ一回転して眠っていた場所から床に転げ落ちた。顔を上げるとそこには人間がいた。床に裸のまま座っている。紫陽花と同じ青い髪を床まで垂らしこちらを見て呆けている。プリヤはぎこちない動きで人間に近づいた。人間もプリヤのほうへ近づいてくる。触れられる距離まで来るとプリヤは鼻を人間に寄せてみた。しかし、プリヤの鼻にあたったのは冷たい壁のような感触だった。プリヤが前足を上げると人間も腕を上げた。今度はそれを人間に近づける。今度も冷たい壁だった。しかしそこで自分の異変に気が付いた。前足が目の前の人間と同じ形をしている!自分の姿を見ると人間と同じ姿をしていた。そして目の前の人間はプリヤと同じ動きをしている。この壁は水面と同じように自分の姿を映しているのだ。

「目を覚ましたようだね」薄暗い部屋の扉が開きルーンが姿を現した。なめるような目つきでプリヤを観察している。「君、本当に子供なのかな?」

「私は本当に人間に?」プリヤの問いにそうだとルーンが頷く。プリヤはルーンから人間になれる薬の話を聞いたとき半信半疑だった。人間になれたとしてももっと獣らしさを残した状態―耳や体毛がユニコーンのままのような―の半獣半人みたいになるのだと思っていた。それが予想を超えて目の前に映る自分は完璧な人間だ。プリヤは壁に手を突きながらゆっくりと二本の足で立ち上がった。筋肉を動かすたびにピリピリとしびれが走り、動かしたところがむず痒い。完全に立ち上がりもう一度よく自分を見た。肌は驚くほど白くまるで雪のようだった。体毛は頭髪と秘部のみであとはつるつるだ。瞳は髪と同じ薄い青。全体的すらりとした体型だったが胸だけが妙に張っていた。指で触ってみると柔らかく弾力があった。

「それは君が女性である証さ」ルーンがプリヤの後ろから鏡をのぞき込む。

「貴方はないようですが、雄なのですか?」振り向くとルーンの頭頂部が見えた。ユニコーンの体のときは見えなかったものだ。

「僕は立派なレディさ。それには個人差があるんだよ。」ルーンはプリヤの胸を指さした。「さっきも聞いたけど君本当に子供かい?」ユニコーンのときの姿に比べて随分と発育にいい体つきだ。

「はい、森になかでは一番幼いユニコーンでした。ルーン様、貴方も子供なのですか?」プリヤは純粋な眼でルーンを見下ろした。親子ほどの身長差がある。

「少なくとも君よりは長く生きてるはずだよ」プリヤの視線を手で払いながらルーンは裸のプリヤにかぶせるためベッドのシーツを掴んだ。「あれ、君、おねしょしたのか!プリヤ君」シーツの中央が濡れている。ルーンはニヤつきながら濡れたシーツをプリヤに広げてみせたがプリヤはキョトンとした顔をするだけだった。


「これは他のものはないのでしょうか・・・」プリヤは小さなサイズのシャツを無理やり着たせいでボタンは今にも弾けそうでおへそも丸出しになっていた。下もスカートの丈が短く動くたびに下着が見えそうだ。

「悪いけど今は僕のもので我慢してくれ」ルーンは茂みの中でプリヤにもっと姿勢を低くするように頭を押さえなつけながら注意する。

「そもそも私はこんなものいらないのですが」プリヤはそういってスカートの裾をつまんでみせ、特に下着と呼ばれるものは締め付けが強く食い込む感じが気持ち悪いとぼやく。

「人間は服を着るものだ。裸でいることに羞恥心を感じるからね。」

「ですが」プリヤはもぞもぞとしゃがんだまま下着の位置をなおす。

「それ以上言うならここに置いてくよ」ルーンにぴしゃりと言われ。プリヤはそれ以上何も言わなくなった。

二人はまた日が暮れるのを待ってからエマがルーンにわたしたメモに書いてあった住所に来ていた。住所の場所にあったのは高い塀と物々しい巨大な鉄の門だった。正面には警備が立っていたので側面へ回り込んだが、回り込むのに十分以上も歩いた上に何か所も防犯カメラが設置してありプリヤを連れて見つからないように歩くのは一苦労だった。塀の中にはルーンが壁に拳で、プリヤがなんとか入れるほどの穴をあけ侵入した。そこから物陰に隠れながら奥へと進み巨大な洋館を発見して裏に回っていた。広い庭にはプリヤの母親はいなかった。あとはあの洋館の中しかない。

「中に入る前にこれを渡しておくよ」ルーンは自分の腰から紅い刀身のナイフを手渡した。「もしもの時は話した通りに」そう言い終えるとルーンはおもむろに立ち上がりあらかじめ見つけてあった監視カメラの死角を駆け抜けデッキにいた見張りを音もなく気絶させた。ほかに見張りがいないことを確認してプリヤを招き寄せる。

「なぜだか私は今とてもドキドキしています」この状況でなぜか目を輝かせているプリヤの口を手で塞ぎ、ルーンは扉に耳を当てて中の様子を探る。虫の鳴き声とプリヤの吐息以外にはなにも聞こえなかった。どうやら中には誰もいないようだ。ルーンは扉を力任せに開き中に入る。中は十メートル以上ある長い廊下だった。左右に等間隔に扉が並んでいる。廊下とはいったが横に五人以上並んで歩けるような広い空間だった。ルーンは思わずため息を漏らした。洋館の外観や庭を見た時にも感じたことだがここの家主は趣味がいい。どれもこれも成金が好みそうなゴテゴテした調度品が並んでいるのだが全体としてみると調和がとれている。

「これはなんでしょう?」いつの間にかルーンのもとを離れプリヤは壁際に飾れた聖書のワンシーンが描かれた巨大な壺を手に取っていた。

「はやくおろして」ルーンが慌ててプリヤから壺を取り上げると同時に廊下にある扉という扉から銃を持ったスーツの男たちが廊下になだれ込んできた。男たちはルーンたちに銃を構えて取り囲む。

「本当に来るとは」一人の初老の男がそういいながら前に進み出てきた。他のブラックスーツの男たちとは違いグレーのスーツに金縁のサングラスをかけている。

「私は嘘は言いませんよ、クラークさん」その後ろからサーカスの副団長が姿を現す。

「じゃあ、このお嬢さん方が私のユニコーンを?」

「はい。そっちの小娘がユニコーンを連れ去ったのを部下がみています」

「そうか」クラークと呼ばれた男は大げさなしぐさでルーンのほうに体を向けた。「では、私のユニコーンを返していただけるかなお嬢さん」クラークはにっこりと笑う。ルーンは素早く左右に視線を走らせ包囲の脆いところを探した。

「おっと、下手な真似はするなよ。ちょっとでもおかしな動きをしたらハチの巣になると思え」副団長の合図で男たちは銃を構えなした。「とりあえず手を挙げろ」ルーン自身はともかくプリヤはいま人間だ。ユニコーンのときのような治癒力はないだろう。銃で撃たれればすぐに死んでしまう。この場で抵抗するのをあきらめ、別のチャンスを待つのが賢明だ。ルーンは壺をはなし両手を挙げた。壺が床に衝突して砕ける。割れた壺を見て副団長は頬をひきつらせたがクラークは何の反応も示さなかった。

「母はここにいるのですか?」プリヤがクラークにきく。

「母?ユニコーンの母親のことか?」

「事情はエマから聞いているぞ。あのガキのユンコーンは母親を探しているらしいな」副団長が口を挟む。聞いたのではなく吐かせたの間違いだろうとルーンは思った。

「母親かどうかはわからんが、ユニコーンの一体はここだ」クラークは愉快そうに両手を広げてみせた。

「会わせてください。お願いします」プリヤはクラークの袖を引っ張った。周りの男たちが一斉にプリヤに銃口を向ける。クラークが右手を上げそれを制止した。

「その前に私の幼いユニコーンの居場所を教えてもらおう」クラークの言葉にプリヤが口を開きかけたがそれよりもはやくルーンが応えた。

「ここにいるユニコーンを見せてくれたら教える」そういったルーンをクラークは何も言わず長い間見ていたがようやく口を開いた。

「まぁよかろう」連れてこいクラークがそういうとルーンとプリヤは黒い袋を頭に被せられ手錠をかけられた。


「準備はいいかなお嬢さんたち」ルーンたちは目隠しをされたまま連れていかれ、目的の場所に到着すると並んで膝をつかされた。クラークはこの状況を楽しんでいるようだった。「どうぞ、ご覧あれ」二人は乱暴に袋をはがされた。ルーンは急な光に目がくらみ何度も瞬きをする。ようやく光に慣れた眼で見たものはひどい現実だった。ルーンはある程度予想していたが、プリヤにとっては絶望そのものだっただろう。彼女はそれを瞬きすることなくみつめ涙を流していた。確かにそこにユニコーンがいた。しかし、それはすでに役目を果たした抜け殻だった。プリヤの母親は剥製にされていた。よく見るとほかにもおぞましい数の珍しい動物やユニコーンのような幻獣が剥製にされガラスの向こう側に飾られていた。

「プリヤ君、彼女で間違いないのか」ルーンは違っていてほしいと思ったがプリヤは泣きながら何度もうなずいた。

「これで満足してもらえたかな?」背後で得意げな顔をするクラークをルーンはみた。ルーンたちがいる部屋は円形状になっていて壁一面にクラークのコレクションが飾られていた。まるで美術館のような内装になっている。悪趣味すぎて吐き気がした。部屋にはルーンとプリヤ、クラークと副団長だけでさっき廊下にいた男たちはいないようだった。副団長は油断なくルーンに銃口を向け左手にはルーンの日傘を持っていた。

「さあ、はやくユニコーンの居場所を教えてくれ」

「・・・・・」ルーンはぼそぼそとクラークにこたえた。副団長は首を横に振ったがクラークは眉を上げ笑うとルーンの口元に耳を寄せた。その瞬間ルーンは力任せに手錠を引きちぎり左手でプリヤの手錠の鎖を叩き切り、右手でクラークの頸椎をへし折った。そしてルーンは副団長に頭を撃ち抜かれた。すべてが一瞬のうちに起こりクラークとルーンが床に倒れる。床に敷かれた絨毯がルーンの血で染まっていく。

「ルーン様!」プリヤは倒れたルーンの上に覆いかぶさった。

「動くなっ‼くそ、なんてことをしてくれたんだ」副団長がプリヤに銃口を向ける。

「ごめんなさい」プリヤはそういうとスカートの中からルーンから預かったナイフを取り出した。

「ナ、ナイフ一本で何ができる。お前も死にたくなかったらユニコーンの居場所を言え」副団長は銃の撃鉄を起こした。プリヤは副団長を無視してナイフを両手で逆手に持つと勢いよく振り下ろしルーンの心臓に突き刺した。副団長ははずみで引き金を引き銃弾はプリヤの肩をかすめた。

「いったい何のつもりだ!」副団長はプリヤの髪をつかみルーンから引きはがす。仲間の死体にナイフを突き立てるなんて異常すぎる行動だった。剥製になったユニコーンを見て頭がおかしくなったのではないかと副団長はプリヤを見たが彼女は涙を流して床を見ているだけだった。

「ここ何年かで一番気分が悪いよ、副団長君」プリヤではない声に驚き顔を上げるとそこには死んだはずの少女が立っていた。ルーンは副団長がプリヤを引っ張ったときに落とした拳銃を拾い上げ構える。

「どうなってる。お前は確かに死んだはずだ。」

「僕はバンパイアだよ。あれくらいじゃ死なない」

「バンパイアだと」

「君も聞いたことくらいあるだろ?バンパイアは不死身といわれるほどの再生能力がある」

「お前は頭が吹き飛んで、この女に心臓をナイフで刺されたんだぞ」助かるはずがないと副団長はいった。

「あのナイフのおかげでこうして今君と向き合ってる。あのナイフの刃は特殊な製法で大量の血を固めて作ったものだ。普段僕はバンパイアとしての力を抑えるためにできるだけ血を摂取していない。しかし、あの紅いナイフで心臓を一突きすれば一瞬で大量の血を摂取できる。つまり今の僕はバンパイアとしての力を最大限発揮できるということだ。君に勝ち目はない」ルーンは撃鉄を起こす。「彼女を放すんだ」

「お前が銃をおろせ」副団長は日傘から剣を抜きプリヤに突きつけた。

「やれるもんならやってみればいいよ」ルーンは安心させるためプリヤに微笑みかけた。プリヤが小さく頷くとルーンはゆっくりと副団長との距離を詰めていった。一歩ずつゆっくりと。それに合わせて副団長もプリヤを引っ張りながら後ずさりしてく。ついには壁際まで追い詰める。

「畜生目ぇ!」副団長は叫びながらプリヤの首を白剣で横に払うと今度は逆手でルーンに切りかかった。ルーンはそれを片手でさばき愛刀を奪い返すと目にもとまらぬ速さで副団長の右手を切り落とした。

「ルーン様」プリヤはルーンの背中にしがみついた。

「確かに斬ったはずだ」生きているプリヤを見て副団長は驚愕した。「そいつもバンパイアなのか・・・・・」右手首を押さえながら口をパクパクさせている。

「彼女はバンパイアじゃない。種があるのはこの剣のほうさ」ルーンは剣を振り刀身についた血を払う。「この剣はこの世ならざる者にしか扱えない魔剣だ。人間はこの剣で髪の毛一本切ることができない。剣が物体をすり抜けてしまうんだ」ルーンは再び副団長に銃を構え引き金を引いた。銃弾は副団長の腹部に命中し、彼は一度膝をついて床に倒れた。「エマと同じ苦しみを味わって死ぬといい」ルーンは苦しみもがく男にそう言い残した。


ルーンとプリヤはユニコーンの故郷である大陸北の山々に囲まれた森を訪れていた。夜ということもあり森は静かだったが、ときおり吹く風が樹々の葉を鳴らす。ルーンにはそれがプリヤの母親の死を悼んで森が歌っているように思えた。

「母やエマは私を恨んでいるでしょうか」プリヤは母親の眠る湖を眺めながらぼそりといった。湖は月明りを反射して幻想的に輝いている。ルーンはプリヤの頼みで彼女の母親をここまで運びユニコーンたちが神聖視しているらしい湖に彼女を還した。

「・・・・・どうしてそんなことを?」ルーンはプリヤの声があまりにも小さく独り言のようだったので返事をしようか迷ったが結局訊きかえした。

「私の身勝手が招いたことです」プリヤの瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。「私があのとき樹々たちの、森のいうことをきいていればふたりは死なずにすんだはずです」プリヤは自分を責めていた。ユニコーンらしくない感情だ。人間の姿になったことが影響しているのだろうか。ルーンは彼女の背中をそっと撫でる。プリヤはルーンに身をあずけ声をあげ泣き、やがて泣き疲れるとルーンの膝の上で眠った。ルーンはプリヤの髪を撫でながら長い間彼女の問いについて考えたが、その答えはやはりわからなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ