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忘却のヴァンドラ〔宇宙軍と宇宙羊の物語〕 作者:カプセル
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第5話:夜明け 3/5

 〔惑星メルタ 早朝〕


 暗い壁と燃え残ったメイデンが塞ぐ十字路をかけ戻り、光が差し込む扉を見つけた。

 たわんだ扉をこじ開けると、明るい光が差し込んだ。目が慣れると黒焦げた野原の先には綺麗な緑の草原が広がっていた。

 振り返ってみると、建物は金属で出来た要塞のようなもので、かなり昔に捨てられたものらしく壁にはいたるところにヒビが入って崩れている。

 昨日の地獄が信じられないほどの晴天。なだらかな緑の大地が地平線の先まで続いている。

 電波が戻ったのか、右目の視界に千怜からメッセージが入った事を知らせるベルのアイコンが現れた。

 メッセージの内容はヴァンドラからの撤退命令。目的を達成したことで本部はやっと撤退させる気になったらしい。集合地点は和樹が残った前線基地。あとは帰るだけだ。

「うーん……なにかあった……?」

 背中で朱鳥が目を覚ました。

「おはよう朱鳥、朗報だ。迎えが来る。今から24時間以内に前線基地に戻れば帰れるんだ」

 振り向いて伝えると朱鳥は嬉しそうに笑った。

「昨日ひっくり返ったAST-1があった。あれを使って帰ろう」

 朱鳥をおぶったままAST-1を見かけた丘に向かう。辺りは爆発によって出来たクレーターがあちこちにあり、土が掘り返されている。

 散らばる薬莢や装甲を引き破られたAST-1の残骸が昨日の戦いの凄まじさを物語っていた。

 昨日散々襲いかかってきたマリモ達は草原のいたるところに点々と並んでいる。

 もう襲ってくる様子はなく時折ゆっくり転がって死体や残骸にのしかかって蒸気を上げていた。

「あったあった。ウインドブラスト!」

 腕をかざし、乗り捨てられたAST-1を竜巻で吹き飛ばした。逆さまだった車体は斜面を転がり反転。起き上がった。

「動くといいけど……」

「ひどく潰れてる。でも戦車だから動くだろう」

 昨日までの隼斗ならここで悲観的な事を言っていただろうが今日に限っては、この晴天と激戦を切り抜けたという実感から、そんなことは思いつきもしなかった様子。

 AST-1に乗り込んだ隼斗と朱鳥。隼斗がアクセルを踏むとAST-1の履帯が高速回転。全速で走り出した。

 右目のマップを見ると現在地から集合地点までは12キロ程度。全速で行けば5分もかからない。

「そんなにとばして大丈夫?」

 朱鳥がハッチを開けて車内に溜まった暖かい空気を追い出した。空いたハッチからは涼しい風が流れ込んでくる。

「昨日みたいな夜はともかく、この草原じゃ素人の俺でも簡単。今日はツイてるみたいだ」

「そうでもないみたい……」

 朱鳥が電力メーターを見て否定した。よほど乗り回されたのか、残りあと1メモリ。いつ止まってもおかしくない。

「なんだこりゃ、電池がない」

 隼斗の気分に合わせるように日が落ち始めて、AST-1のモーター音が下がっていく。そんななか草原の脇に広がる森に木で作られた住宅のようなものがいくつか目に入った。

「あれは原住民か」

「あの村に行くの?」

「村を作れるくらいなんだ。あの辺りは安全だろう。それに協力して暮らせる知能があるなら殺しにかかるようなことはしないはず」

「だといいけど……食人族は協力して狩る」

「いまなんて?」

「なんでもない……」

 朱鳥はアビリティブックを取り出して原住民との交流規則を確認して、こちらに見せた。

 ・現地生命体との交流は最小限に。

「なにこれ〜?」

 速度を落とし、村に近づくと、木でできた家の窓から覗く銀髪に獣耳を持つ少女が好奇心からかこちらをうかがっている。

 朱鳥がまたアビリティブックの画面をみせた。

 ・規則追記、話しかけられた場合はその限りではない。彼、あるいは彼女、その他、の機嫌を損ねないように留意すべし。

 つまり、干渉せずに、相手を怒らせなきゃ良いってことか。

「了解した。誤解されないうちに話してみよう」

 隼斗は天井のハッチを開けて身を乗り出した。

「こんにちは、ボクハヤト、ソラカラキタ」

 隼斗はカタコトの日本語で空を指しながら言った。

「そうなの?」

 あっさりと日本語で答えた獣耳の少女。

 右目の視界の端には「メルタ語から翻訳」の文字が現れている。どうやら言葉に困ることはないらしい。こんな異星人の言葉までインプット済みの装置を作った博士はまさに天才だろう。来たこともない星なのに。

「君はウエノ・ハルテイル博士を知ってる? 彼の知り合いなんだ」

 ある考えを思いついてそう聞いた。

「ウエノ……知ってるけど?」

 少女は空を見上げて懐かしそうに言った。

 やはりそうか。博士はこの星に来たことがあるらしい。なぜ未開惑星の原住民がウエノ博士の事を知っている? 聞いたは良いが、状況が飲み込めない。

 博士は未来人だったということは知っているが、セリアさんは並行世界にすら行けない文明だったと聞いたことがある。次元の壁を自由に越えられるようになったのはヴァンドラのようなシープのクリスタルを持つMUS級移民船が初だ。だとしたら博士はこの星出身? いや、ありえないか。

 隼斗はこんなことを考え、このありえない出来事になにか理由をつけようとしばらく必死だったが、いくら考えたところで答えが出るものではないということが分かり、考えるのをやめた。

「ねぇ、聞いてる?」

 立ちつくした隼斗にしびれを切らした少女が苛立(いらだ)ったようにしっぽを揺らして聞いた。

「俺たちは怪しいものじゃないシープという化け物が来るから倒しに来たんだ」

「シープ……!?」

 少女はシープという言葉を聞いた途端に家に隠れてしまった。警戒させないように答えたのが裏目にでたようだ。

「昨日もウエノの船が落ちてきたから。そうだとは思ってた」

 しばらくして恐る恐る顔を出した少女が言った。

「そうだったのか、それはすまないことをした」

「いいの。私たちには嬉しいことなの」

 少女のあべこべな反応に隼斗は悩んだ。

「それと急ですまない。どこか空き地を貸してくれないか?」

「もちろん、大歓迎!」

 少女は飛び上がって即答した。

 あまりの警戒心のなさに驚く隼斗。もし俺たちが肉に飢えた宇宙人だったとしたら絶滅した羊やドードー鳥のように狩りつくされてしまうかもしれないのに。しかし、こちらとしてはありがたい限り。AST-1のバッテリーが回復するまでの間、厚意に甘えよう。

 AST-1を目立たないように草むらの中に止めて、木造住宅の裏庭にまわった。アビリティブック右画面のアイテムメニューからテントを選択した。

 赤い線が立体的に現れた。

 もう一度選択するとその赤い線のあった場所に正方形の大きなテントが現れた。

 本来5人用だから中はとても広い。それに、壁はシープの体当たりにも耐えるという特殊装甲で作られているらしい。

 壁だけで予算が足り無くなったのか中央には布一枚を垂らしただけの仕切りがあり男女1つのテントで済むようになっていた。

「俺は左側を使おうか」

「じゃ、私は右ね」

「りょーかい」

「覗かない?」

「覗くわけないだろう?」

 笑いながらそれぞれの部屋にわかれた隼斗は、テントの奥に備えられた白い長方形のチェストの上蓋を開ける。中には宇宙食のようなキューブ状に固められた食料やパックに詰められた飲みものがぎっしり詰められていた。

「何か食べるか?」

(うん)

 隼斗は朱鳥に聞いてチェストの横にあるコンロに立った。しきり布の隙間から朱鳥が不安そうにのぞいている。

(料理できるの?)

(それなりにね。親が帰るのいつも夜中だったし)

 隼斗は頭の中でそう返した。しばらくして出来上がったのは小皿に入ったカレーとチャーハン。冷凍ピザ。それらを小さな折りたたみテーブルに並べた。

「どうだ!」

 大げさなリアクションをする隼斗。

「副菜がない……」

 朱鳥は並んだ料理を見てつぶやいた。

「ごめん、それは作ったことないんだ……」

「冗談、まともな料理は久しぶり」

「学園の寮食もスープみたいな栄養食だったもんな。地球で食べた缶詰の方がずっとおいしかった」

 隼斗はそう言ってカレーを一口食べた。決して美味くはないが、この安っぽい味がくせになる。

「このドッグフードみたいな……屑肉みたいな感じが、これはこれでいける」

「うん……」

「なに、明日には基地につけるだけの電気が貯まるはずだ。明日向かっても時間には間に合う」

「そうね」

 それ以降、食器にスプーンが当たる音だけが静かに響いた。

 食事を終えると今度は装備の補充をはじめた。アビリティブックから【20mm対シープライフル】を二丁取り出して弾薬を装填。

 武器を揃えると、最後に腰に下げていた達也の片手剣をアビリティブックにしまった。保管庫に【アフクリスタソード】というアイコンが新しく増えた。

「さっきの剣、使わないの?」

「使わない。俺が使うにはまだ早い。それに形見をなくしたくないしね」

「そう」

「はいこれ」

 隼斗は朱鳥に20mm対シープライフルを渡した。

「20mm対シープライフル。重いけど大丈夫?」

「大丈夫……12連装ランチャーだと思えば……」

「やっぱり重いんじゃないか」

「問題ない……」

 朱鳥が問題ないと言うなら問題ない。貸しておこう。

 隼斗は状況確認のために右目の端末を再起動させた。バッテリー残量はもう20パーセントしかない。これが切れてしまえば、通信や能力のブーストが出来なくなる。一応太陽光かなにかで勝手に充電されるらしいが、効果は実感できない。

 隼斗は通信能力を使い、千怜に呼びかけた。

『おっ!やっと繋がった!ちょっと待ってね。そっちは無事?』

 千怜達もテントで食事中だったらしく、リンクした右目に食べかけの豚骨ラーメンと、端末のことを知らないのか突然1人で話しだした千怜に好奇の目を向ける少女2人の姿が見えた。

 かわいそうに……。

 そんな千怜に同情した。

「こっちは全員……いや、和樹以外は無事だ。今は原住民の村に泊めさせてもらってる」

『そーか! そーか! なら大丈夫。生きてたならいいや! 私はこれから危ない人っちゅう誤解を解かなきゃならないからこれで! それに麺も伸びちゃうし』

「千怜さんも気をつけて、ビースト以外にも変なのがうようよいます」

『へーいへい、気をつけるっ! さいなら〜!』

「さいなら〜」

 通信を切ると目の前では朱鳥が身を乗り出して様子をうかがっていた。

「どう?」

「千怜達は無事だった」

「そう」

 これだけで会話は終わり。最後にレーダーを起動。村のまわりを調べた。見たかぎり獣人たちが広場で団らんしてるだけで近くに敵はいない。来たとしても獣人たちが狩るだろう。

 隼斗は頭の中でシャットダウンするように念じて端末の電源をきった。

 状況を確認していた間に朱鳥が布団を敷いてくれた。

「よし、そろそろ電気消すか?」

「うん」

 朱鳥は布団の上に座って、髪を指で巻きながら恥ずかしそうに言った。

「明日はどうしようか?」

「基地に行く」

 朱鳥はいつもの冷静な目つきで言った。

「そうだな」

「朱鳥は寝れるか?」

「あんまり……」

「なんなら一緒に寝ようか」

 隼斗がからかって布団を開けた。

「それって……」

 戸惑う朱鳥。

「冗談だ。そういうことに興味はない」

 隼斗はそんな朱鳥を見て笑った。朱鳥はふてくされたようで、向こうを向いてしまった。

 明日はヴァンドラに帰れる。

 何事もなければ良いが……。

 隼斗は天井を見ながら明日起こるであろう危険な出来事。それらから逃げるための方法を考えながら眠りについた。
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