第1話:希望の船 2/6
物語の舞台ヴァンドラの登場です。
〔2015年12月8日 火星軌道上〕
宇宙空間を航行する200隻もの護衛艦と数隻の移民船からなる移民船団。その中央には一際大きな艦影がある。
それはMUS級移民船一番艦ヴァンドラ。
全長7200メートル。豪華客船のような艦影に白を基調とした船体。艦首から艦尾にかけて入ったヴァンドラを象徴するネイビーブルーのライン。
艦内に広がるオペラ劇場のように広い第二艦橋。数列にわたって並んだコンソールとそれを操作する艦橋要員。その後方から彼らを見下ろすようにかまえた中央指揮所ではメガネに短髪、白い上官服姿の見かけの年齢にして三十歳ほどの黒巻副長が席で肘をつき、大きなあくびをしていた。
そんな暇を持て余す副長の目の前で赤いランプが点滅。通信が入った。
『こちら101偵。火星軌道のターミナルポイントよりキャリアーシープの転移を確認。8000メートル級が4。直掩の戦闘型が200。今んとこ、それだけだ』
スピーカーから青年の静かな声が流れた。
「こちらヴァンドラ、今から120秒後に艦砲射撃をおこなう。至急、現宙域より離脱されたし」
副長は受話器を取って応答した。
『もう離脱した。構わず撃ってくれ』
「ただちに!?」
『そうだ』
副長はマヌケな裏声で答えると、すぐさま戦闘配置を指令した。艦橋の照明が赤色に変わり、眼下では管制員達が自分の持ち場に走っていく。
「主砲展開、ヴァンドラ。戦闘態勢に入ります」
副長の横でオペレーターが呼称。キーボードを操作する。
警報が数回鳴って正面の窓の外で、甲板が左右に開いた。格納されていた二門の主砲塔がせり上がり甲板に上がる。船体後方でも格納されていたカタパルトが船体側面から左右に展開。
カタパルトにパレットに乗せられた戦闘機UF-42 メリウスがすぐさまベルトコンベアで運ばれ最前線に射出された。
前甲板では展開をおえた主砲が旋回。クラゲに似た姿をしたシープの母艦。キャリアーシープに砲口を向けた。
「艦長。いつでもどうぞ」
「主砲、撃ち方はじめー!」
副長の甲高い合図で上官の一人が引き金を引いた。同時に主砲からも水色のレーザーが飛び出して宇宙の彼方に消える。
しばらくの沈黙が続き、30秒近くたったころ。レーザーが数光年離れたシープに到達。キャリアーシープは青みがかった頂点からクリーム色をした底部まで焼き切られて真っ二つになった。
「現状はどうだ?」
キャリアーシープを倒した頃、白髪混じりの黒髪に艦長帽をかぶったヴァンドラの艦長。坂本が遅れて指揮所に上がった。
「キャリアーシープを4匹撃破。残るは直掩150匹だけ。正面の戦闘機隊がまもなく会敵するようです」
副長は足で椅子を回して寄ってくる艦長に向いた。
「なかなかの数だ。地球以来か?」
「その通り」
2人はメインモニターを見上げて画面上でぶつかり合う赤と青、二つの印の動向を眺めた。