自殺志願者
それから1時間程度、私の耳に届いたのは私がノートに字を書く音と、微かに吹いている風の音だけだった。
内心、紅茶が何かしだすのではないかと、心配していたがそんなことは一切なかった。
もしかして、私がまだ起きていることに勘づいている?
いや、紅茶はわざわざそこまでする人じゃない。私も心配し過ぎなのだ。
ふと、机の上に置いてある携帯電話で現在時刻を確認した。
23時17分。いつもならこのくらいの時間は普通に起きているのだが、今日は紅茶がいることもあるし、そろそろ寝た方が良いのだろう。
と、その前にシャワーを浴びなければ。
干しっぱなしのタオルと、棚から着替えを取りだし、私は脱衣所に向かった。
先程の布団の血から察するにこの風呂場は特に何もないと思われる。
…いつもならこんなこと一切気にしないのに、今日は『異常』なことが起こりすぎているせいでいつもは楽しみな怪奇現象すら起こるのを恐れてしまう。
そんなことを考えながらシャワーを浴びていた。
…死にたい。
ふと、そんな考えが脳裏をよぎった。
私が今ここで死んだら、紅茶はどう思うだろうか。
私の事を憐れむだろうか、それとも悲しむだろうか、はたまた私ごときには何の感情も抱かないのだろうか。
そこで、私の視界にバスタブに溜まった昨日の残り湯が入った。
昨日は日曜日でゆっくりお風呂でも入ろうかと入れたのである。
…手首を切って自殺する人は、血が固まらないようにお風呂とかでお湯に浸けて死ぬんだよね。
血で紅く染まった水も、さぞ綺麗だろうな。
そういえば、誰かが中学校の自由研究で、自殺の仕方を研究して先生に呼び出し受けてたっけ。
そんなことを考えて、私は風呂を上がった。
服を着ながら、本当にお風呂場で転んで死んだらどうしようとか考えてたのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
色々考えていたがリビングに戻り、私は寝る為に歯磨きを始めた。