自分勝手とは、罪。
「えっ?」
紅茶は、私の問いかけに、『意味がわからない』とでも言うような何か抜けた声を発した。
「あ…いや、なんでも…」
自分で言ったことに、『なんでもない』だなんて訂正するのは、おかしいことだ。
そう、思ってきたのに、今ばかりはそう言わないと全てが崩れそうで。
「いや、全然変わらないよ。だから…そんなに心配しないでっ!ねっ?」
けれども、私の訂正など聞こえていないかのように、紅茶は笑顔で言った。
紅茶は、私を傷つけたくないのだろうか?
こんな、私を…さ…
嫌だ。紅茶にそんな気を使わせるなんて…。
ただの自己防衛なのかも知れない。それでも、私は聞いた。
「ねぇ、何か隠してるの?教えてよ、私で良いなら…お願いだよ…」
ダメだ。どうして『隠してる』という事を前提な喋り方をしてしまった?
これでは、私がおかしいのか、紅茶がおかしいのか、分からなくなってきてしまう。
「いや、何も…ないけど?月見こそ、さっきから何か変じゃないの?」
だいたいの人は、自分が回答に困った時は、相手側に話をふる。
紅茶も、それは例外ではないようだ。
「私は…ただ、紅茶が…紅茶を心配してただけ。変に思ったなら謝るよ。
それに、紅茶が『本当に』何も隠してないなら、私はこれ以上何も聞かないよ?」
怒っている訳じゃない。そう思っているつもりだ。けれど、ついいつもは出さないような大声が出てしまって、紅茶も驚いたのか、数秒たって返答した。
「…ごちそうさま。もう、寝てもいい?」
こういうとき、紅茶は嘘をつくことができない。それは罪だから。
ただ、無回答とは罪でははい。
誰でも言いたくないことがあって、それを無理に聞き出せば、聞いた方が罪を負うから。
…それでも、私には、紅茶が何か隠しているという確信がある。
それでも、罪を負いたくないのは私も同じだ。
結局、私は自分勝手だった。ごめん、紅茶。