『奇妙』の始まり
着信の原因はメールだった。
それは、件名なしの紅茶からのメール。
いつもならメールなどあまりしない紅茶からのメールだなんて、何かあったのか。
そう思い、メールを開き一通り目を通す。
『ごめんねー、いきなりメールしちゃって。
えと…色々言えないんだけど、家のメイドの事情で…今日だけ月見の家に泊めてほしいっ!お願いっ!
だから今から行っても…大丈夫?』
紅茶の家は今は亡き母親が有名ファッションブランドの創業者であるため、とても裕福な家庭だ。
だが、今は両親が海外で事故に遭って亡くなっており、紅茶は一人、広い家に暮らしている。
私と違いそんな家庭の娘なのに、なぜかこんな町に住んでいる。
一年の時にも、何度かそのことについて聞いたことがあるが、いつもなんとなく答えるだけで、本当のことはぼかされる。
そんなことはどうでもいい。今、私の頭の中は疑問府で埋めつくされている。
だって、妙に不自然な気がする。
メイドの事情ならば多少、仕方のないこともあるが食事のことならば別に紅茶でも料理は上手な方だ。
簡単に推理をしているつもりだが、私は名探偵じゃない。
ただ1つ、何かに焦るような、逃避的な感情が込められているように感じるだけ。
本当に、このメールを打ったのは紅茶だろうか。
少し、冷静に考えろ。
紅茶のところのメイドは、みんないい人達で、ましてや主人の携帯を勝手に使うなんて、そんなことはないだろう。
そうでなければ、まさか御伽話みたいに、何かが取りついたとか…そんな馬鹿なことがあるわけない。
だって、人間だよ?
何故、何故?こんなにも疑う?馬鹿馬鹿しいにも程があるよ。
苛立ちと疑問府がいりまじり、脳が思考の停止を求めている。
枕に顔を押し付けて、耳鳴りがして、はっと顔をあげた。
このまま考え込んで、返信が遅くなると、紅茶に迷惑だ。
私はそう、このメールを打ったのは紅茶だと仮定して、返信を打ち込んだ。
『いいよ。私だって別に迷惑じゃないから。
外はもう暗いから、夜道には気をつけて』
適当すぎただろうか。そう思ったのも一瞬だけ。また、放心状態に陥る。
あぁ、あのメールを見たときに感じたあの複雑な感情はなんだったのか。
もう一度、メールの文章を見つめる。
ただ、そこに存在するのはなんの変鉄もないただの文字なのであって、いくら考えてもその事実が変わることはないのだ。
…本当に、人って何かが起きそうな時、変な胸騒ぎがするのだな。
ぱっと、突然霧が晴れたかのように現実が頭に突き刺さった。
そうだ、もうすぐ紅茶が来るのだから、夕飯ぐらい先に作っておかないと。
あれ…?私は今まで何を考えていたんだろう。
まぁいいか。と、深呼吸をし、ベッドから起き上がると、キッチンで私はいつものように夕飯の準備を進めた。