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記憶
蝋燭のほのかな 光に照らされた一室。
まだ眠たくないよと訴える少年の頭を彼女は愛おしげに撫でた。
「それなら、遠い昔の遠い世界のお話をしましょう」
そう言うと彼女は目を瞑り、淡々と、紡ぐように、歌うように、思い出すように語り出した。
「それはある日のことです―」
まるで吟遊詩人の歌のようにつらつらと話す彼女の名前はシュトラウス・エリスシュルシュ。今はエリとしか名乗らない。
英雄達のことを最も近くで見ていた人だ。
寝静まった街の宿屋の一室で、蝋燭の明かりに映し出された二つの影がゆらりと揺れた。
物語の最後は詩人の歌のようにハッピーエンドだったのか、それは眠ってしまった少年には分からないものだ。