店員A「よそでお願いします……」
「んー、これとこれとこれと…あ、それも。あと、こっちのも下さい」
「は、はぃ…」
早速服屋へとやってきたヨシュカは目についたグレイスに似合いそうな服や靴を次々と店員に渡していく。あまりの勢いに店員もたじたじである。
「にぃ、こんなにたくさん…要らない、よ?」
「いいのいいの。僕これでも結構お金持ちだし、僕がグレイスに来てほしいだけだから」
ヨシュカは、今までも買い出しについでにギルドで討伐依頼や破壊の森の魔物の素材を売りかなりの金額を稼いでいた。ギルドの職員や冒険者の間では、時々やってくるローブ姿の青年がとんでもない素材を度々納品していくので噂になっていたりする。
漸く選び終わったヨシュカは、さっさと会計をしてもらい金貨3枚を支払った。グレイスは正確な金貨の価値など分からないものの見るからに高そうな貨幣に、ヨシュカの服を引っ張って止めようとする。グレイスのささやかな抵抗は誰かとの買い物という初めての状況に浮き足立ってるヨシュカには気付いて貰えなかった。
「あ、すいません。試着室借りて良いですか?」
どうぞという店員の了承を得ると、先程買った大量の物の中から上下1着ずつと靴を選び取ると残りを軽くたたみながら空間魔法へ突っ込んだ。
「さぁグレイス、これを着ておいで」
さっきのやりとりで少し剥れていたグレイスへと服を渡し試着室へ促す。剥れながらも素直に試着室へ向かい着替えるグレイス。しばらくしてカーテンが開いた。
「うん、ちゃんと似合ってるね」
出てきたグレイスを見てうんうんと頷き、抱き上げる。そこで漸くグレイスが剥れていることに気付いたヨシュカが慌てて問いかける。
「え!?グレイスどうしたの?ごめんね、服が嫌だった?」
グレイスは首を横に振る。そしてヨシュカの服の胸元を握ると俯き、
「違うの。にぃに、たくさん貰っても…僕、お返し、できないから…」
「あーもう、そんなこと気にしなくて良いのに。さっきも言った通り僕がしたくてやってるんだから。君はそれをただ受け取ってくれたらいいんだよ」
そう言って安心させるようにグレイスの髪に頬を擦り寄せた。それでもグレイスは少し不安そうにしている。
「それとも、僕からの贈り物は嫌?」
そんなグレイスに今度はヨシュカが不安そうに問いかけると、ブンブンと首を横に振り嬉しいとニッコリ笑顔で答えた。ヨシュカも良かったと笑顔を浮かべ頭を撫でた。
まるで恋人同士のような甘ったるいやりとりに店員は砂でも吐きそうな顔をしている。因みにこの店員、現在彼女いない歴2年目である。
二人は、店員の様子など全く気にすることなくグレイスの脱いだ服類を回収し店を後にした。
「ねぇグレイス、残りの買い物する前にギルドに寄って良い?良い依頼がないか見ておきたいんだ。あまりにも依頼受けてないと冒険者登録が解除されるんだよね」
「ん、いいよ。僕も、ギルド…行ってみたい…」
「行っても見れるのは酒飲みのおっちゃんくらいだと思うけどね~。あ、そうだ。グレイス、もう服着替えたし歩きたかったら歩いてもいいよ?ただ、手は繋いでもらうけど」
グレイスが歩くと答えたので、二人は仲良く手を繋ぎギルドへと向かって歩き出した。
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