隣街での噂:幼児趣味のイケメン(変態)がいるらしい
グレイスにとって1週間ぶりであり、物心ついてから2度目となる外出はなかなかスリルに溢れるものだった。この1週間何事もなく過ごしていたことが嘘のように、魔物と遭遇したり、幻覚作用のある草花が咲いていたりとする。破壊の森というだけあって出会す魔物は見るからに強そうだ。
しかしグレイスは、あまり怖いと感じていなかった。それはある程度の距離を歩くからとヨシュカに抱っこされていることもあるが、一番は手が使えなくてもヨシュカが魔物をものともしていないからだろう。
「ごめんねー。二人同時に【転移】して誰かに見られるとめんどくさいし、そこまで離れてるわけじゃないから街までは歩いて行くんだよ。魔物が鬱陶しいとは思うけど我慢してね」
そう言いながらも襲い来る巨大な蛇のような魔物が消し炭に変えられていく。通常ならば魔法など容易く弾き返す鱗が、まるで薄い紙のように燃えていくのだ。魔物は今まで感じたことのない痛みと死への恐怖に悶え狂いながら消えていった。
「もうそろそろ、森の出口だから魔物も減ってくるはずだよ。それにしてもやっぱりあの時魔物に遭わなかったのは運が良かったんだね。なんでだろ」
「あの、時?」
「あぁ、この森に転移してきた君を拾ってきたときのことだよ。気を失ってる君を抱っこして同じように歩いてたんだけど、一回も出てこなかったんだよ。まぁただの偶然だろうし気にしなくていいよ」
その後も、雑談しながら(魔物が出てこようと)歩みを止めることなく進み続けること十数分、二人は森から出た。目の前には草原と1本の人工的な道があり、その先には巨大な城壁に囲まれた街の姿が見えた。立派な城壁から、かなり大きな街であることが伺える。
「ふぉー、大きい…ね」
「まぁね。確かこの森と反対側の方にある迷宮のお陰らしいよ。僕は行ったことないんだけど強い魔物とか罠とかあるけど迷宮品っていうお宝とかが出ることもあるらしいんだ。それ目当ての冒険者とかが来るんじゃない?」
森よりも余程歩きやすくなった道をサクサクと進んでいく。途中すれ違った一人の冒険者らしき女性が整った顔立ちの青年に目を奪われるも、腕に抱えられているローブの塊から偶然見えた剥き出しの太股に犯罪の臭いを感じ一気に目を反らした。確実にとんでもない誤解が生まれているが二人は気付かなかった。
「身分証の提示を」
漸く城壁にたどり着いたヨシュカは、門番にギルドカードを見せ確認して貰うとさっさと門へ向かう。至って堂々としたヨシュカの様子に何も考えず通そうとしていた門番は、不意に我に帰りヨシュカを止めた。
「すまないが、その腕に抱えている子ども(?)について聞かせてもらっても?」
めんどくさいという雰囲気を隠しもしないヨシュカが振り返る。そのまま見過ごしてくれたら良かったのにとは口に出さない。そして、不意に周囲の雰囲気がガラリと変わった。さっきまでひどくめんどくさそうにしていたはずの青年に、ひどく庇護欲を煽られる。
「僕はここから離れたとても小さな村で暮らしていたのですが、村の入り口付近で倒れていたところを保護したんです。聞くところによると、どこかの村の口減らしに捨てられた見たいで……。それで、僕になれるか分からないけど家族になってあげられたらと思って。ただ、僕も一人暮らしなのでこの街で冒険者として働いてお金を稼いでからいろいろ必要な物を揃えてあげようと考えて来たんです」
よくもまあこんなにスラスラと嘘が出てくるものである。しかし門番は完全に騙されたようで目の端を光らせながら街へと迎え入れてくれた。
読了ありがとうございます。