両者共に自覚無し
「それじゃあまずは魔力を感じるところから始めようか。今から僕が君に魔力を流すから、何か感じたら教えてね」
「ん!」
それを聞くと、ヨシュカはグレイスの背中に手を当てて少しずつ魔力を流していく。
「……?なんか、背…中が、もやもや……する?」
「多分それが魔力だよ。君の中にも同じようなものがあるの分かる?」
グレイスは首を傾げながらんーと唸っている。数分間そうしていただろうか、不意にグレイスがパッと顔を上げた。
「見つかった?」
「ん!なん、か…もやも、やしたの…が、いっぱ…い入ってる、袋と…道?が、あった!」
「それは魔臓器ってやつと魔力管だね。それじゃあ、その袋から魔力を出して道をいっぱいに出来る?」
再び唸り出したグレイスは、しかし然程経たずに出来るようになった。
「んー、にぃ、できてる?」
「うん、ばっちりだよ。その状態が所謂【身体強化】している状態。多分【身体強化】していれば君も普通に歩けると思うよ?喋るのもできてるしね。」
そう言って、グレイスを地面に降ろし、そっと手を離してやる。グレイスはふらつくことなくしっかり立っていた。ヨシュカはグレイスから少し離れた位置に移動し此方までおいでと呼ぶ。始めは恐る恐るといった様子で足を動かしていたものの、大丈夫だと分かると駆け足になってヨシュカの腰に抱き付いた。
「にぃ!歩けた!僕歩けたよ!」
「うんうん、良かったねグレイス。これからは自由に動けるよ」
満面の笑みでヨシュカに報告するグレイスは本当に楽しそうだ。ヨシュカも笑顔で頭を撫でている。しかし、ヨシュカはでも、と言葉を続けた。
「まだ身体自体が回復した訳じゃないから無理は禁物だよ?ちゃんとたくさん食べてたくさん寝て【身体強化】無しでも動き回れるようになってね」
「ん!僕頑張って元気になって、にぃのお手伝いする」
ヨシュカいい子だねと微笑みグレイスを抱き上げた。
「さぁ、もう【身体強化】はといてごらん?魔力多いから大したことはないと思うけど、最初はやっぱり疲れるからね。今からは魔力コントロールの練習をするよ」
グレイスは【身体強化】を解くと首を傾げた。それを見たヨシュカはそういえばまだ魔法とかについて詳しく話してなかったねと説明をし始めた。
曰く、魔法とは体内にある不可視の魔臓器でつくられる魔力を動かし、または消費することによって様々な現象を起こすものであるということ。また、その魔力を操作するのも簡単ではなく自分の思い通りに動かすには訓練が必要であると。
「この魔力コントロールがしっかり出来るようになれば、消費する魔力を押さえられたり魔法の威力をあげられたりするんだよ。練習方法は…」
ヨシュカが言葉を切ると、二人の周りにカラフルなボールが突如現れた。その数およそ50個。そのどれもが綺麗な球状を保っている。グレイスは目をぱちくりとさせ口は開いたままである。
「ふふー、綺麗でしょ?色は属性によって違うからね、一つの属性の魔力だけを綺麗に取り出せれば鮮やかな色の魔力球が出来るんだよ」
「どう…したら、できる」
「まずは手のひらに魔力を集めるようにして----」
5分後、ヨシュカの丁寧な教え方により、グレイスは綺麗な青色の魔力球を作れるようになった。
補足しておくと、通常の人間が初めて魔力を扱う場合魔力を感じとるまでに数日かけるのも珍しくはない。【身体強化】も魔法学園の高等部-15歳から18歳までの子供が通う-の生徒が習うものであり、それなりの難易度を誇る魔法である。また、ヨシュカの行った魔力コントロールの訓練方法は確かに一般的ではあるものの、多くとも3個が限界であり、それ以上展開出来るものはほとんどいない。
二人とも立派な規格外だった。
読了ありがとうございます。