勿論可能性では終わらない
遅くなってすみませんでした。
「一週間ぶりだね。調子はどう?」
「相も変わらず忙しく働いている。だがそんなことはどうでもいい、俺が聞きたいのはあの子のことだ」
「はいはい、いつになっても真面目だね」
グレイスに学校の話をした日から数日、ヨシュカはとある一室にいた。きらびやかではないものの一見して良いものであると分かる調度品で整然と纏められたその部屋の主は、一人掛けのソファーに腰掛け向かいに座るヨシュカに続きを促した。
「あの子なら学校に行ってもいいって言ってたよ。僕は行かなくても良いって言ったのに…」
「おい」
「あは、冗談冗談。そう間に受けるなよ」
冗談では無く事実だったがそんなことは知らない学園の理事長は眉間に皺を浮かべながらも口を閉じた。
「但し、条件があるんだってさ。それが出来ないなら通わないらしい」
ヨシュカがそう続けると理事長は苦い顔をした。当然ながら、普通このようなことは許されない。そもそも国によって定められたことであり、拒否出来る者などいない。しかし、グレイスの後ろにはヨシュカがいる。本人に自覚はないのかもしれないが、ヨシュカの力があれば容易くこの国を壊せる。そんな男が国の騎士達から逃れられない訳がない。
「許可しよう。俺が出来る範囲に限るがな。それで?条件は何なんだ」
「簡単だよ。条件は僕と一緒に居られるようにすること、だよ」
ヨシュカがニヤニヤしながらそう言うと、理事長は眉間の皺を濃くした。正直なところとても嫌だ。もしもこの学園にヨシュカが来れば、何を起こすか分からない。ヨシュカは頭は良いが、残念なことに常識を持ち合わせていない。それは、腐れ縁とはいえ短くはない時間を共に過ごしていた間に思い知らされていた。しかし、だからこそヨシュカによって毒されているだろうあの子にきちんとした教育を受けさせ無ければなるまい。
「……許可しよう…」
かなり間が開いたものの了承の意を示した理事長にヨシュカは目を丸くした。まさか受け入れられるとは思って無かったのだ。
「へぇー、断られるかと思ってたよ」
「仕方なくだ。絶対に俺の仕事を増やしてくれるなよ」
「んふふ、勿論だよ。グレイスはとても良い子だからね。家事だってちゃんと手伝ってくれるんだよ」
そっちじゃない。
そう思って呆れた視線をヨシュカに向け、驚く。常に笑顔ではあったもののどこか嘘臭かったと思っていたが、記憶違いだったか。心の底から大切に思っている子どもを自慢する親のように、誇らしいような照れ臭いような、そんな顔をしているヨシュカを見て理事長は瞠目した。
随分と気に入ってるみたいだと考えて、ふと恐ろしいことに気がついた。昔のヨシュカも自分が大切にしていた物を蔑ろにした人間には容赦がなかった。もしも、あの子になにかあった場合…
そこまで考えて、頭を振った。可能性を恐れていては何もできない。勿論できうる限りは防ぐつもりだが。
「貴様のことについては俺が何とかしておこう。さぁそうと決まれば無駄にできる時間は無い。さっさと帰れ」
「ふふ、つれないなぁ。まぁこれからよろしくね〜」
ひらひらと手を振りながらヨシュカは部屋を後にした。
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