魔王より竜(肉)
「グレイス、ちょっと森に行ってくるね。そんなに時間はかからないと思うからご飯は作らなくていいよ」
「わかった。留守番しとく。怪我しないで」
「もちろん。それじゃ、いってきます」
あれから7年が経ち、グレイスはすっかり成長した。捨てられる前の環境のせいで当時は酷く小さかった身長や体格は、森の栄養満点な食材達により立派なものになっている。あと数年もすればヨシュカに並ぶくらいになるだろう。元々綺麗だった顔立ちも少しずつ大人びてきた。最近では、街に買い出しへ行くと特上のイケメン二人組に周囲が色めき立つほどだ。
また、グレイスの魔法や武器を使った戦闘の訓練及び勉強は今でも続いている。留守番といっても掃除は済んでいる上ご飯も作らなくて良いため暇なグレイスは、部屋でも出来る魔力コントロールの練習をして暇を潰していた。浮かんでいる魔力球は10。目の前に浮かんでいる属性の違うそれらを混ぜたり戻したりしながら遊ぶ。
魔力球が混ぜられることを見つけたのはグレイスだった。ヨシュカにその事を伝えると驚きながらも「面白い!」とグレイスも見たことのない色の魔力球まで使って遊び始め、魔力球はすっかり二人のいいおもちゃとなった。
「ただいまー」
グレイスがもっと面白い遊びができないかと思考しながら魔力球をいじっていると、ヨシュカが帰ってきた。グレイスはすぐさま魔力球を消し玄関へと出迎えに行く。
「兄、おかえり。怪我してない?」
「んふふ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。今日は運良く土竜がいたからね、狩ってきたよ」
そう言って空間魔法の中に手を突っ込むと、じゃーん!という軽い効果音をつけて厳つい竜の頭部分を引っ張りだした。ずるっと引きずり出されたそれは、軽い効果音に対してかなりの大きさで、鱗も岩のように堅そうだ。
しかしグレイスはそんなことは欠片も気にせず、おーと言いながら拍手をしている。そしてふと首を傾げると言った。
「随分大きい。最近多い?大きい奴とか、異常発生とか」
「確かに、魔王か何かが現われでもしたのかもね」
「ん、まあ俺たちの所に来ないなら関係ない」
そうだねーなんて笑いながら返すとヨシュカはローブを脱ぎエプロンを身に着けてキッチンへ入った。それを見たグレイスも急いでエプロンを着けてヨシュカを追う。
「今日なに作る?」
「んー、せっかく竜の肉が手に入ったんだし、贅沢にステーキにでもしようかな。あとは付け合わせにスープくらい?」
グレイスはステーキという言葉に若干目が輝いた。いそいそとヨシュカに寄っていき何か手伝えることはないかと聞くと早速動き始めた。
テーブルに皿を並べ向かい合って座ると、早速と言わんばかりにグレイスが食べ始めた。食べるスピードは速いものの汚ならしさはない。むしろ美しくナイフとフォークを使いこなしているようだ。全てはヨシュカの教育の賜物である。
ふと、ヨシュカが顔を上げグレイスを見つめた。
「ねぇグレイス、学校に行ってみる気はないかい?」
グレイスがむぐむぐと幸せそうに―しかし下品には見えないように―ステーキを頬張っている様子を微笑ましく眺めていたヨシュカが、突然そう告げた。
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