あなたは神様を信じますか?
あなたは神を信じますか?
この質問。誰しも一回は経験したことはあると思う。
小さい頃、友達との会話で。SFじみた内容のテレビ番組で。歩いてる最中に宣教師から。
まぁそんなことはどうでもいいな。
ちなみに俺は信じていない。別に無神論者とかそんな大層な話しではなくて単に信じていないだけだ。
見たことも会ったことも無い全知全能の奴がいるって言われても、はぁそうですか、で終わってしまう。
たぶん日本にいる若者の大半はそうなんじゃないのか?
さて、そんな俺だがなんと今猛烈に神を信じている。
信じているというよりも、もう頼むから居てくれってレベルだ。
何故かって?
強烈な腹痛に襲われているからだろうが!!
それも満員電車ん中でな!!
理由になってねぇだと?うるせぇ!
あぁクソ、なんでこうなった?
確かに昨日寝る前にお菓子を食べてたし、ジュースも飲んでた。
そのまま寝てしまったしもう冬なのに布団を蹴飛ばしてて、さらに腹も出ていたから朝起きたら体が寒かった。それでもこれはいつもの事だろ?別に今日が特別なわけでもないだろ?
むしろ用心してちゃんと腹を冷やさないように厚着して出掛けてるんだぞ?
それなのになんだよこれ!頼むよ、神様。腹痛を止めてくれ!
満員電車ってだけでも難易度高いのに線路にどっかの馬鹿が侵入したとかで停車するし!
あぁ神様・・・。これはあれだろ?これは俺に対する試練ってやつなんだろ?
もうわかったから。これからは悔い改めるから。
小さい頃、友達が万引きしてるのを知っていたのに、その悪事を止めなかったのは謝るから!
空手やってて腕っ節に自信が出来たのに、イジメの現場を見てみぬしてしまったのは謝るから!
高校に入ってワルぶるのがカッコいいとか思ってヤンキーくずれみたいになってるのも謝るから!
赤点だらけの救済措置としてのプール掃除をばっくれたのも謝るから!
えっと、あと無意味にガン飛ばすのももう止めるから!
あぁ、くそったれ。脂汗まで出てきやがった。
頼む、こいつを止めてくれ!
・・・・・・。
・・・お?
止まった・・・?
ありがとう!神様!信じてくれたんだな!しかも電車まで動き始めたぞ!
本当にありがとう!あぁ駅に着いたらトイレに行こう・・・。至福の時を堪能するんだ・・・。
そしてこれからは心を入れ替えて真面目に生きていくんだ・・・。
よし着いたぞ。さぁ着いたぞ。それでいて慌てずに行動するんだ、ボーイ。せっかくの神様がくれたチャンスなんだ、焦って無駄にしてはいけない。
しかし満員電車の時間帯に停車してたから、ホームも凄い人の数だな。トイレに行くのも一苦労だ。
おおぅ、もうさすがに超満員だな。列が外まで続いてるじゃねぇか。と、文句言ってるじゃねぇな並ばないと。
・・・。
・・・しっかしなんだ、この列流れる速度、遅すぎじゃねぇか?いや、さっきまで苦しめられていたからそう感じるだけなのか?やっとこれで一人分進んだ・・・か・・・?!
・・・なん、だと?
ぐぅぉぉおお・・・。トイレ前まできたから油断してたぁぁ。
だ、第二波到達・・・だとぉぉ。
お、おぉぉ、前屈みになりすぎるのはダメだ。見た目チャラチャラしてる奴がトイレの前で腹痛で前屈みになってるのはカッコ悪すぎだ。
俺も男なんだ。腹痛ごときに負けちゃダメなんだ。辛くても前を向かなきゃダメなんだ。
あぁ、なんで前のおっさんはそんなに平然としてられるんだ?ここに並んでるって事は俺と同じなんだろ?
腹が痛くて並んでるんだろ?それが全く感じられないなんて・・・、これが大人の余裕ってヤツなのか・・・?俺もあんな風になれるかな?いや、頭頂部だけ禿は嫌かな。あぁダメだ、思考がおかしくなってきてやがる。
・・・。
・・・よし、乗り切ったか?腹痛の波は引いたみたいだ。今の俺は腹痛サーファーだ。
ここはもう見切りをつけるんだ、俺。あまりにも進まないってのは精神的なダメージがでか過ぎたんだ。
その隙をヤツに狙われたから、あんなことになったんだ。それなら一旦改札を出てすぐのコンビニまで行くんだ。
そこでなら・・・、イケる!!!
力みすぎず、それでいて緩みすぎず歩くんだ。お前なら出来るだろ?辛い空手の練習も最後までやってのけたじゃないか。よしいいぞ、そのままだ。OK,改札を無事に通過したぞ。
この調子でコンビニまで・・・Oh,shit!!
改装中だと?
・・・っへ!面白いじゃねぇか、神様。これも試練ってことだろ?わかったよ、ちゃんと見ててくれ。成し遂げて見せるさ。さて、ここからだとちょっと離れてるがあそこの公園まで行った方がいいな。となるとこの薄暗い通りを抜けた方が早い。
確かガラの悪い奴が屯してるって噂を聞いたが、今の俺には全く関係ない。背に腹は変えられんってヤツだ。・・・切実にな。
・・すぐにそういう奴らが二人も見つけれる限り噂ってのも馬鹿にできねぇな。
しかし、何やってやがんだ・・・?通りにくいじゃねぇか。
・・・まぁここで引き返す時間も無いし、横を通り過ぎるか。
っとおいおいおい、絡んでくるんじゃねぇよ。横を通ろうとしただけじゃねぇか。
何見てやがんだってむしろどうやったら見られてるってことになんだよ。
コイツ馬鹿じゃねぇの・・・?
うわ、しかも女の子を二人がかりでこんなとこに追い詰めてナンパってか、よくやるよ。
あんたも災難だな、こんなとこ通るからいけないんだぜっとそんな目で見ないでくれ。助けて~ってか?
ヤンキー崩れに絡まれてる所をヤンキー崩れに助けてもらおうってのはちょっとおかしくねぇ?
大体、あんたみたいな優等生もどうせ俺等なんかのこと普段かr、ッイッテェ
おいおいおい、何いきなり殴ってくれてんだ?
こいつ何考えt・・・あ・・・?
嘘だろ、今ので腹痛再開?!
なんだこれ!しかも今までの比じゃねぇ!
うぉぉおお・・・。なんだと目が気にいらねぇだ?あたりめぇだろうが!
こちとらずっとてめぇの腹ん中と戦ってて眉間に皺よりっぱなしなんだよ!
あぁもう駄目だ!もう時間がねぇ!
コイツラとっとと片付けて一か八かで公園までダッシュだ。
それでお前も助かるんだろ?見て見ぬ振りはしないって神様と約束したしな、やってやるよ。
・・・・・・・・・・
そこからの俺は凄まじかった。腹痛の痛みと神様との約束によって目覚めた戦さの神となった。
必要最小限の動きで彼奴らの攻撃を捌き、カウンターを一撃ずつ見舞ってやった。
戦さの神となった俺にとって彼奴らなど一撃で十分だったらしく、情け無くその場にへたりこみやがった。
ざまぁねぇな。
何故かそのすぐ後に警官が二人ほど何か言いながらこっちに走ってきたが、俺には神聖なる儀式があった為、すぐさまその場から走り去った。チラっと確認したら、あの女の子は一目散に警官のほうへ走っていた。現金なやつめ。
俺はさながら風の精の如く公園へ向かい走った。たぶん100m世界新記録を余裕で超える速度が出てたと思う。
公園内の便所に辿り着いたとき、そこには偶然にも誰も居らず、まるで新世界に一人舞い降りた天使の気分だった。たぶん、約束を守った俺に対する神様からの贈り物だったんだろう。
神聖なる儀式を終えた俺は、公園にあった自販機のホットコーヒーを片手に今こうして余韻に浸っている。凄まじい戦いだった。ラグナロクとして語り継がれても仕方のない内容だった。いや、それは嫌だな、うん。
さぁて、休憩もしたしとっとと用事すませて帰るか。赤点ホルダー'sの一員とはいえ、留年やら浪人はゴメンだしな。参考書でも買ってそうならねぇように最低限の勉強くらいはしねぇと。
「す、すいません!」
ん?なんだ、さっきの女じゃねぇか。
「なんか用か?」
「先ほどは助けて頂きありがとうございました。気が動転して直ぐにお礼を言わなきゃいけないのに逃げ出しちゃって・・・」
「あ、・・・あぁ、まぁいいよ。気が動転してたんだろ?しかたねぇことだ。」
「あ、あの人達は、あの後警察の方が来て連れて行かれてましたよ。なんでも線路内に侵入したとかなんとか・・・。 そ、それで電車止まっちゃて・・・。あ、実は私、その電車に乗ってたんですよ。それでやっと駅について、改札でたらあの人たちがいて、怖いなぁって思ってたらこっちにきて・・・。逃げようとしたら、なんか変なとこ入っちゃって・・・。そ、それで!」
「ちょ、ちょっと落ち着けって!」
「す、すいません・・・。話すの苦手で・・・」
「いやだからいいって。まぁ大体状況はわかったよ。俺もそれに乗ってたし。ってかアイツ等のせいで止まってたのかよ・・・」
・・・もう2、3発お見舞いしてやったらよかったかな。
「そうなんですか?!これって凄い偶然ですよね。そ、それでですね!できたらお、お礼したくて・・・」
「は?いや、いいよ。助けたのも成り行きみたいなもんだし。それに参考書買って勉強しねぇと色々やべぇんだよ。」
「あ、私も参考書買いにきたんですよ!ここに来た目的も同じだなんて、本当に凄い偶然ですね!よかったら、い、一緒に行きませんか?」
「え、マジで・・・?えっと・・・、それなら行くか?」
「は、はい!」
あなたは神を信じますか?
この質問。誰しも一回は経験したことはあると思う。
小さい頃、友達との会話で。SFじみた内容のテレビ番組で。腹痛に襲われてる己自身から。
まぁそんなことはどうでもいいな。
ちなみに俺は信じている。別に熱心な信者とかそんな大層な話しではなくて単に信じている。
見たことも会ったことも無い全知全能の奴がいるって言われても、はぁそうですか、で終わってしまうがそうじゃない。
少なくとも俺は信じてる。
何故かって?
成り行き上助けたとはいえこんなヤンキー崩れの俺が、女の子から、それもさっきは極限状態で気付かなかったがこんなにも可愛い女の子からお誘いを頂いたからだ。なんか運命じみたモノまで感じてる。これはもう神様からの贈り物で決定なのさ。
理由になってねぇだと?うるせぇ!
この2時間後、俺は同じ質問を今度はニコニコ顔をした、この可愛い女の子から聞くことになる。
途中、休憩がてらにと入ったコーヒーショップで。
机によくわからんパンフレットが置かれてる状況で。
・・・ちくしょうやっぱ神様なんていねぇわ。くそったれ。
いかがでしたでしょうか?
私は電車内の腹痛に見舞われてる人ほど神様を信じ、祈ってると思っています。
少なくとも私はしています。