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前半 誰が姫を見せるのか その2


会議の場は居酒屋に移ってもう2時間近くが経っている。中立にいる香以外の面々はどちらに付くのかで揉めに揉めているのだ。

「だから、姫コンテストは正統派で行くべきなんだって」

「私たちの誰かが姫をやれっていうの!?」

茉莉奈と暁弘の意見は平行線で、互いが譲る気は全くなかった。安い料理はもうとっくになくなっており、ビールだけが杯を重ねている。

「香さんと楓さんと蘭子さんがいるでしょう?」

「私だっているよ! だいたい、誰かが普通に姫をやったとして、演劇部の意味があるの?」

勝ちのためにやっているわけではない。姫コンテストでいかに目立ち、新入生を獲得できるかが全てである。

「あのさあ、衣裳ってどうなっちゃうの?」

岡谷信幸がおそるおそる聞く。香は同じ衣裳作成に携わる部署にいるため、彼女が抜ける前提だと、どうしても負担が信幸に行くからだ。

「がっつり作るに決まってるだろ。買ってきてもいいけど」

「何いってんの? 衣裳なんて飾りよ飾り」

「よし、俺茉莉ちゃんを推すよ」

「待てよノブ!」

一人籠絡された。

「……くっそ、松代と黒姫と悠平は俺の味方をしてくれるよね!?」

この勢いでは茉莉奈にみんな持って行かれてしまう。その前に、せめて同じ舞台美術部の奴らを味方にしないといけない、とすがる。

「いいよ、同じ舞台美術だもんね」

楓はもともと暁弘推しだった。だからあっさりと快諾する。

「仕方ないです。俺も、行こう」

気の良い大町悠平は頼まれたら断れない質である。だから、受けるしかなかった。舞台照明と舞台装置を担当する舞台美術部はあまり姫コンテストに携わることはない。だから正直なところどちらでも良かったのだ。

「俺はシノの方につくぞ」

「おう。……なんでだ」

「へ? だってシノの方には舞台美術部がいないじゃん。それだけ」

黒姫悟は小柄だが、一番舞台美術への造形が深い。

「やった、クロちゃんが来る!」

茉莉奈は少しろれつの回らない声でこれ見よがしに言った。

「はい、広報はどうするつもり?」

凌弥が聞いたのは絶妙なタイミングだ。スカウトじゃなくて、自分で考えてどちらに付くかを決めたいのも当然である。

「コンテスト内ではバックアップに回ってもらうけど、おとぎ話の従者、みたいにして欲しいんだ。ファンタジーなBGMとかもいけるよね?」

「そりゃまあ、きちんと決まってからでいいんだったら。シノは?」

「私は、広報でしょ? 司会をジャックして欲しいんだけどできる?」

「オーケー、シノにつくぜ」

千曲蘭子が即答する。茉莉奈が何を言っているのかわからないが、司会をジャックという面白そうな言葉に惹かれたのだ。

「待ってよ千曲さん」

「凌弥君もシノについていいんだぜ? それに恭も」

「え? おう、そうだな」

場をまとめていた恭太郎は自分にいきなり振りかかって答えに詰まった。どうするも決めていなかった。恭太郎も広報の人間で、アイコンタクトで凌弥とどちらに付くかを考えている。

「ふたりとも、脚本はどうするつもりだ?」

「私が書くよ」

「コンテストの枠を基準に書き換える」

本来の姫コンテストならば、暁弘の案が妥当なのだ。

「凌弥、どうするよ」

「う~ん、俺は脚本とか書かないし、どっちでも気にしないかなあ」

おいで、と暁弘と茉莉奈が手をこまねく。

「いいや、シノに付く」

「オッケー、じゃあ暁弘についてやるよ」

恭太郎はさほど暁弘と相性がいいわけではないが、普通に考えて安牌なのは暁弘の方法だ。茉莉奈のやり方は嫌な予感しかしない。

「メンツも決まったことだし、解散しますか? 悠平もう潰れちゃってるよ」

蘭子が介抱してあげているが、悠平は机に突っ伏して小さく唸りを上げている。

「よし、じゃあ土曜日の会議でコンペにしよう。その旨、暁弘から部長に伝えておいてくれ」

恭太郎が締めに入る。

「待ってよ、なんでナギさんが連絡らのよ!」

「お前もはやく寝ろ。その酔いじゃまともな連絡ができると思えない」

「送ろっか?」

「ありがとぉーう」

蘭子の提案に茉莉奈はすがって言った。

「じゃあ、解散!」


会議の結果。中立、戸隠香 衣裳部。

シノ班

篠ノ井茉莉奈 舞台美術部。岡谷信幸 衣裳部。千曲蘭子 広報部。野辺山凌弥 広報部。黒姫悟 舞台美術部。

ナギ班

凪曽暁弘 舞台美術部。松代楓 舞台美術部。大町悠平 舞台美術部。須坂恭太郎 広報部。


この後両班ともが、ほぼ徹夜で草案を書き上げたことは想像に難くない。


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