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前半 誰が姫を見せるのか その1

国立水都(ミナト)大学は、平々凡々な特に面白みのない大学である。しいて言うならば日本海側最大のだだっ広い総合大学であることであろうか。これを強みに、ミナト大には山ほどの部活、サークルが存在している。ほとんどの部活、サークルは新入生の獲得のために、新歓活動にいそしむ春休み、重苦しい会議を進めている集団があった。


「では、決をとります。公演日は4月3週と4週に3日間ずつに賛成の方、挙手」

どことなく疲れた司会の声に、にょきにょきと生気のない手が挙がった。現在20時過ぎ。会議は9時間に渡り、日程がようやく決定した。ブレインストーミングと言いながら、不毛な議論が繰り広げられ、多大な遠回りをしてようやく出た結論である。

「ありがとうございます。これで日程は決定しました。それでは、全体会議を終わります。おつかれ様でしたっ!」

無理やり叫ぶようにその場を押さえつけたのは、ひょろ長い鷲鼻の男。部長の白河である。新三年生になる面々はつかれた面持ちで帰り支度を始めた。

「待ってください、終わるんですか?」

「俺達は終わりだ。じゃあ、あとは頑張ってくれ」

「頑張ってくれ、って何をですか!?」

テーブルの下座側に固まって座っていた新二年生たちは白河の少し、いやかなり下衆い笑みを見逃しはしなかった。

「夏頃に言わなかったっけ? 新歓祭の姫コンテストは新二回生がやるって」

やっぱりそれかぁ、と新二年生何人かからため息が出た。このタイミングで押し付けてくるのか、と何人かが資料をめくる。

「今言われても困ります!」

「そんなに叫ぶな篠ノィ~。必要の資料はここにあるから、次の会議までに誰が出るのかを決めておいてね?」

かばんから一冊の本を取り出す。ピンクのバインダーだ。

「白河さんっ! ……いっちゃったわ」

読んでも上回生は戻る気も手伝う気も端からないようである。

「次の会議って、土曜日だよね?」

「3日後までにどうしろって」

新二回生10人は、わらわらと車座になり、概要を読み始めるしかなかった。新歓祭の姫コンテスト、略して姫コン。篠ノ井茉莉奈は去年会場で白河たちの代の姫コンを見た覚えがある。エメラルドグリーンのマーメイドドレスを来た、サークルの先輩の姿を。

「仕方ない、とりあえず色々と決めていこう」

自分たちの好きにしていいのだから、と篠ノ井を須坂恭太郎がなだめる。彼は現実主義者だ。白河の持ってきたファイルには人数分、10人分の資料がコピーされ同封されていた。さすが部長、このあたりの抜け目がない。

「じゃあ、ノベ読んで」

「なんで俺が!? ……我々劇部が姫コンに出る意義は、新入生の獲得である。と同時に、芸術小ホールでできないことを見せる機会でもある。素材の良い子がただ自己アピールをするだけのミスコンにならないように勿論、かわいいに越したことはないが、勝ち負けよりもインパクトがなくてはならないのである、と」

中肉中背で長い髪を後ろにしばった男が読み上げた。勝ち負けじゃない、と言っても昨年は三位入賞、一昨年は審査員特別賞をもらっているのだ。結果も出していかないとダメだよ? とプレッシャーがひしひしと伝わってくる。

「インパクトかあ。じゃあ、インパクトドライバーでも持たせようか?」

「黙れ、インパクトドライバー持たせてどうする」

黒縁メガネの男に、小柄で色白な男が冷静なツッコミを入れている。

「続き読むよ? ……せっかく出るのだから、衣裳、舞台美術、BGMは勿論つけなきゃつまらない。バックアップだけではなく、きちんと演出ができてもいいのかもしれない」

「はい、ありがとう」

「いいえ~」

野辺山凌弥は読み上げると長い髪をかき上げ、そのまま自分の資料を読みなおした。

「……はい」

ショートカットの女子が遠慮がちに挙手をする。

「どうぞ」

松代楓は、自分はやりたくないけど誰かやれよと言えずにいた。

「演出ができても、って確か、去年は花巻さんが演出したって聞いたんだけど……」

「ここだね。演出・花巻麻奈陽、主演・小山侑子」

「うん。だからね、まず演出を決めてしまえばいいと思うの」

10人が黙りこむ。今このタイミングで演出を出せと言うのか。少なくとも戸隠香は新歓公演『雪月佳人』の舞台演出を担当しているため、兼任は不可能だ。時間によっては姫コンの手伝いすら無理かもしれない。

「私がやりたいです!」

「俺がやります!」

ややあって、二人が同時に挙手をした。篠ノ井茉莉奈と凪曽暁弘である。暁弘が挙手したら、茉莉奈は舌打ちをした。

「ナギさん役者じゃん!」

「それとこれとは関係ないよ」

「じゃあ多数決で、どっちが演出をやるか決めようじゃない!?」

「多数決でか? 演出プランも言わずに」

もとから相性の良くない二人である。つかみ合いの喧嘩もかくや、と思われたのを止めたのは、現在演出をしている香だった。

「次の会議で、先輩たちの前でコンペしよう。いいね?」

ボーイッシュなイケメン女子。茉莉奈を止めるにはもってこいである。

「でも香」

「いいね?」

暁弘にも有無は言わせなかった。


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