二話 穏やかな通学
翼は大きな門の下で彼女たちを待つ。
周りは柵で覆われている。
その先にはこれまた大きな家。
西洋の城を想像させる。
筆で書かれた表札には、「伊集院」の文字が知覚できる。
〜伊集院家〜
社会に生きている人間でその名前を知らない者はいない。
さかのぼれば、江戸時代から伊集院財閥は存在する。政治と癒着し、着実と勢力を伸ばしていった。
要するに、すげー金持ち。スーパー金持ち。鬼金持ちなのだ。
?「つーばーさーくーん」
可愛らしい声が聞こえてきた。
少女がこちらに走ってくる。
その背後には少年がーー
どしん
翼「おっと」
翼の胸に少女が抱きつく。
上目遣いで翼を見る。ドキッとする。
?「おはー」
翼「おはよう」
彼女の名前は「伊集院琴美」
伊集院家の次女。
ショートカットの少し紅い髪。(祖母が外国人の影響)
こちらを見つめてくるその大きなひとみが印象的だ。身長は低い。
胸はまったくない。絶壁である。
美少女というよりは、美少年といったほうがしっくりくる。そんな女の子だ。
その後ろから少年が歩いてくる。
少年の名は、「西島斉」
伊集院家で住み込みで働いている。
短髪で優しい顔をしている。
彼は無口である。話したら雪が降ると言われるほどに...
それは翼たちを嫌っているわけではない。
そういう性格なのだ。
斉「.......」(挙手)
翼「.......」(挙手)
男たちの友情に言葉はいらない。
そして後ろからもう一人。
ゆったりした歩きで翼に近づく。
それは気品を感じさせる。
「伊集院麗」
伊集院家の長女。
彼女の周りには優しく穏やかな空気が流れている。まさに、箱入り娘。
セミロングのその髪は赤いというよりはピンクに近い。かなり目立つ。
しかし、彼女の整った顔により髪が強烈に自己主張することはない。奇跡の調和である。
身長は平均。バストも平均以上。(翼の鍛え抜かれたその眼力からするとおそらくFはあると思われる)
麗「おはようございます。つばささん」
翼「おはよう、レイ」
朝からこの姉妹を見るのは最高の目覚まし時計になると思う。
どちらも美少女だし、なにより世界の悪意を知らない彼女たちを見るのは微笑ましい。
翼「じゃっ、行きますか!」
ずっと抱きついてこようとする琴美を引き剥がし静寂な住宅街をゆっくり歩き始める。
僕の前に琴美、麗は隣にきた。斉は後ろであくびをしている。
琴美「あー、やばい」
翼「どした?」
琴美「今日テストだ...なんも勉強してないよ」
翼「それはまずい。琴美の悪い成績がさらに悪くなる。留年確定だね。(ニコッ)」
少しいじわるをする。
琴美「うえーん、留年はいっぎゃあ」
いやだと言う前に何者かが琴美の尻を蹴る。
長身の男が立っていた。鍛えた筋肉によってさらに身体が大きく見える。
長髪の髪を後ろで束ねてポニーテールのようにしている。
彼の名は、「大空誠治」
翼の義理の兄である。その鋭敏な目は鷹を想像させる。
いつもはちゃらんぽらんだがやるときはやる男で翼は信頼している。
琴美「なにするんだー」
誠治「翼の隣は俺の定位置だ。」
琴美「ホモ臭がします。」
誠治「黙れ。チビ」
琴美「氏ね」
誠治「氏ねって言った奴が氏ね」
琴美「うるさーい。しねしねしねしねしねしねしねしねしねー」
誠治が僕の隣に来る。
琴美は誠治を叩く。蹴る。
しかし、誠治へのダメージは0だ。
麗「おはようございます、誠治さん」
誠治「おはよう」
翼「今日は家にいたの?」
誠治「ああ。昨日の夜は仕事がなかった。
メシうまかったぜ!」
翼「よかった」
琴美「無視すんなー(ポカポカ)」
琴美は相変わらず叩いているが誠治は無視。
琴美「はあはあ。なかなかやるじゃねーか」
琴美は誠治を物理的に攻撃することを諦めた。
そこにかなりの速さで走ってきた何かが僕たちの前に立ちはだかる。強風が吹くほどに。
琴美「きゃっ」麗「きゃあ」
風でスカートがめくれる。
パンツが見えたラッキーすけべは黙っておこう。
?「ふー。間に合った」
琴美「ちょっとカイちゃん、パンツ見えそうになったじゃん」
麗「そうですよ。もう男性に見られたらお嫁にいけません。というわけで翼さん、お嫁にもらってください」
なんてことを言うんだこの子は...
翼「えっと、たぶん誰も見てないし大丈夫だと思うよ」
笑ってごまかす。見たことばれてないよね...
疾風怒濤で走ってきた彼女の名は「龍園児カイ」
切れ長の目。それは他者を威圧する。
背が高く、スリム。モデルのようだ。
スレンダーという単語は彼女のために存在していると思う。
金髪の髪を腰まで下ろしている。
外見からも想像ができるようにクールだ。
運動神経がかなり良い。いや、良いというよりは化け物(失礼)。
女学生から人気でファンクラブが存在するらしい。
誠治「どーして今日は走ってきたんだ?」
カイ「今日はゲログマのアニメ第1話が始まる日でそれを見ていたらな、つい」
話している途中でカイは宙を見つめ、うっとりした顔になっている。
たぶん、いや絶対ゲログマについて想像を巡らしている。
ちなみにゲログマとはハゲ、デブ、顔がおっさんのなんとも薄気味悪いクマのアニメキャラのことである。なぜか小学生にキモカワと人気。
麗「ゲログマさん、可愛いですよね」
カイ「だよな。あの愛嬌のある顔がたまらん」
カイは嬉しそうに話している。
でも僕はそうとは思えなかった。
翼「えっ、ゲログマってあの気持ち悪いやつでしょ。どこがいいの?」
カイ「...」(にらみつける)
しまった。地雷を踏んでしまった。そう思った時には時すでに遅し。
やばい。怖い。無言というのは時に最も恐ろしいものになることを知った。
交差点から一つの影が現れた。
彼の名は、「高河勝」
ワックスで固めた髪と耳にピアス。
茶髪に染めた髪。爬虫類のような目。
現代の若者である。ギャグ要員。
しかし、そのチャラさからか学校の女性から評価が高い。
勝「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん」
カイ「あぁ?てめーなんて呼んでねーよ。」
怒りの矛先が勝にむく。
勝「えっ、ちょっなに?」
カイ「歯ぁ食いしばれぇぇぇぇ」
勝はカイの脅威的な蹴りで3メートル程空を飛んだ。
ありがとう。勝。君の出てくるタイミングとそのクソみたいなギャグは僕を救った。
誠治「おおー。よく飛ぶな。」
琴美「タマヤー、カギヤー」
麗「花火ではありませんよ、琴美。」
翼「ゲログマってすごくカワイイヨネ。」
カイ「だろ。ゲログマについて1時間語り合おう。」
斉「.....」
勝「...」(ピクンピクン)
この仲良し7人組を人は「伊集ファミリー」と呼ぶ。