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投稿をはじめてとうとう一週間がたちました。
ひとえに、読んでくださる皆さんのおかげです。
最初に動いたのはソラだった。
そのハンマー男を目にした瞬間直感にしたがって
「レベル1」
背中に左右に1枚ずつの羽を広げ、飛び降りる。
次に動いたのはハンマー男。
両手で持ったハンマーを大きく振り上げ
打ち下ろす
同時に、振動が地面を伝う。
局地的に小さな地震を起こしたその振動鎚によって、打撃点を中心に亀裂が走り石畳がめくれ上がる。
周囲の人々は転げまわり、たまらず避難した。
「みつけたぜぇ」
にんまりと、そのハンマー男は笑みを浮かべる。
そして、ハンマー男とソラたちの間に入るように、4人のならず者然とした男たちがあらわれた。
ソラがカルラやユニをかばうように降り立ち両腰のダガーを抜き逆手にもつ。両腕をだらりと下げ、自然体で左右どちらかも対応できるように構えていた。
揺れから立ち直ったジョイがその左手のひじから先を黒い銃へと変え、突き出す。
リッカがそっと、カルラとユニを路地裏に避難させる。
「なあ、兄ちゃんたち、その嬢ちゃんをこっちに渡してくれねえか?」
ハンマー男の視線は、カルラにむいてる。
「生憎、わけも無く、理由も無く、依頼人を渡すつもりはない」
そういいながらも、ソラは男達の様子を伺う。
「んじゃ理由を言えば渡してくれるのかよ?」
「さあね」
淡々と返す。
「せっかくきてくれたところ申し訳ないんだけど、人違いじゃないかねぇ?」
「丸一日探していたんだぜ?これで違うとか言われて、はいそうですかと下がれるかよ」
ジョイが勘違いの場合を指摘するものの、聴いてくれるはずも無く。
「魔力銃二人と振動短剣二人。ハンマー男はあれだけだけど……中になにか着込んでる」
「鑑識者か。俺らにもほしいなぁ」
リッカをみた一人が、ニタニタと下卑た顔をしながらいう。
不安なのか、ぎゅっとユニがカルラの手を握りしめて
「うん、大丈夫」
カルラがそれに答える。
「はん、たかがガキ5人なんだ。どうにでもなるだろ!」
その言葉と同時にならず者のうちの二人が、ソラとジョイにむかってそれぞれ走りこんでくる。あわせてジョイは後ろへ下がり
「まかせた」
ソラへ告げてひっくり返った屋台の物陰に逃げ込む。相手の射線から逃げるためだ。そのまま後ろに残った三人に対して銃弾を打ち込んでいく。
「くそっ」
残りの二人はたまらず、ジョイの相手をせざるをえない。
もともと仲間二人にソラとジョイの動きを止めてもらい、後ろからさっさと撃ち殺して済ませる予定だったためだ。
一歩遅れ、二人同時に物陰に飛び込む。
ソラに向かった男達は、その手に振動短剣をもち、切り付ける。
相手はただの子供。その背に背負う機塊のおかげで身体能力が多少向上していようとも大人相手にはかなうまい。
しかもこちらは二人。多少プライドが許さないが、状況が状況だ。きれいごとはいっていられない。
二人で呼吸を合わせ、刃を振るう。
しかし、あたらない。
その超振動によってあらゆるものを切り裂くはずのダガーは同種の武器をもって相対するか、よけるしかない。そしてソラは右に左に交わしていた。
「な、なんであたらねえんだ!?」
「遅い」
確かに、服にかすってはいる。
しかしアンダータウンの町中を、時としてはスラムの入り組んだ道を、機足者ほどではないにしろ高速で飛び回ることもあるのだ。
多少ナイフの扱いがうまいだけのならず者うごきが、見えないわけがない。
そして、見えている攻撃をよけられないほど軟な鍛え方を、ソラはされていなかった。
突き出された右腕を、震える刃に触れることなく、手の甲でそらし右の逆手にもったダガーを切り上げる。
男が体をのけぞらせぎりぎりでかわしたところをフォローしようと相方がソラに切りかかるものの、今度は背をかがめ避けられる。
すぐさま追撃に移ろうとするが今度はジョイから撃たれた弾が肩にあたり、動きを止めざるをえない。
「――っ!」
そしてソラが左右の手を閃かせるたびに、ならず者達の服が次々と切り裂さかれていく。そのいくつかは体まできりつけられ、血がにじんでいた。
援護に回っている男たちはなんとか仲間を助けようとするが、そのたびにソラが射線からはずれ、ときには仲間が壁となってしまい撃てない。
あたったとしてもかろうじてソラの背から伸びている二枚の羽であり、おなじ魔力によるもののため相殺しあっているのだろう。砕けない。
さらにジョイからの牽制もあり、焦りと無駄弾ばかりが増えていく。
威力調節を変更することも忘れ、申し訳程度にしか行動ができなかった。
「おかしいだろあいつは!」
片方が、ソラをみて叫ぶ。
「なんであんなことできんだよ!見えてるどうのこうのじゃねえ!」
「ありゃ視野が広すぎるんだ。くそっあんなガキに」
そして、再び顔を出しかけ、あわてて戻す。
その頭上をジョイの撃った弾が通り過ぎていった。
「こういう時は、実弾系がうらやましいねぇ」
ジョイは沈黙する銃に手をそえ、ソラの援護を重ねつつぼやいた。
「あっちは弾数制限あるけど威力が違うんだよねぇ……」
魔力弾は自身の魔力が続く限り撃てる。かわりに殺傷力や破壊力を高めようとすると『溜め』が必要だった。
「俺も偽塊、併せ持ったほうがいいかねぇ」
実弾系であれば障害物もろとも吹き飛ばせる。そのぶん重たいとも聞くが魔力障壁による威力の減衰もほぼ無視できる。
そしてまた腕をだし、何発か撃つ。
実際、ソラが事実上4つの死線をかわし続けられているのは、本人の能力もあることながらジョイの援護があってのことであった。
相手の動くタイミングを先読みし、その動きを封じ、制限する。
ソラに付き合わされる形ででに入れた能力は神業にちかかったものの
「……貫けない」
5人の男達を相手にするため、どうしても手数ばかりが増えて十分な威力を持った弾を撃ち出せない。いまはよくて石ころをぶつけた程度の威力しか出ていないだろう。
彼らが着ている防護服もその威力を減少させる役に立っていた。ソラと切りあっている二人は動き回ってて狙いが定まらないこともある。
しかも、残っているハンマー男もいる。
最初のパフォーマンス以降、ほとんど動いてはいないが
「っち……またか」
たびたび不意打ち気味に射撃するが、そのハンマーや手甲で防がれていた。
明らかにレベルが違う。
しかも、物魔共用の防護服着てるよねぇ。あれは。
そしてハンマー男も今の位置から動けない。動こうと、ハンマーを持ち上げようとするとジョイからの射撃で動きが阻害されるからだ。
多少強引に動こうとすればソラに近づくことはできるだろう。
だが、近づいたところで自分のハンマーでは味方を巻き込みかねない。
味方といってもおなじ、脛に傷を持つ者達同士で知り合いだったというだけでそこまでの仲間意識をとくに持っているわけではないが。
仲間達をターゲットに向かわせてもよかったが、そう簡単には行かせてくれないだろう。まだなにか手を隠している気配はする。
現状、ここにいることでなんとか拮抗状態を作り出してはいるが……
(あの羽のガキも、銃のヤロウも厄介だ)
ソラと切り結んでいる二人が、即席のコンビでなければ。
後ろで足止めを食らっている二人が、実弾銃を持ってきていれば……
そもそもあんな話を受けなければよかった。
長引くのはよくない。他に敵がいないとも限らないゆえに、安易に彼女たちだけではここから離れられない。
時間がかかれば自分の弾も底を尽きる。ソラの体力にだって限界がある。
ならず者たちも限界はあるだろうが、それでもハンマー男は一人無傷に近い。
ジョイがちらと、路地裏を見ればリッカたちが顔を出し伺っていた。
どうしたものかねぇ
状況が動いたのは、ソラの羽が片方切り落とされたときだった。
ソラが身をかわし、体をひねったときにわずかに遅れた羽に、振動短剣があたり中ほどから切り落とされる。
地面に当たった衝撃で爆発し、敵もろとも自爆することを避けたのだろう。ソラはやわらかく、切り落とされたその羽を蹴り上げる。
その隙をみおとすわけがなく、ソラの顔にめがけて、男が振動短剣を突き出す。
しかし、それこそ誘い。
ソラは突き出された振動短剣を交わし、柄に向かって腕を跳ね上げた。
「ぐっ――がっ――」
ダガーと指と、血が飛ぶ。
たまらず、右手を抑えうずくまった男に対して
「とりあえず寝といてもらおうか」
容赦のない蹴りをその顔に打ち込んだ。
まず一人。
生きているのか死んでいるのか、ピクリとも動かない仲間を見て、残された男の動きが一瞬とまる。
「ぐ、ぬおおおおおおお!」
逡巡の後、自らを鼓舞するように雄たけびを上げ体当たりをするかのように腰だめに構えて突進を仕掛けた。
だが動揺とこれまでの怪我による出血で、動きには精細さが欠け隙だらけとなっている。
そこをすかさずジョイによって両腕両足を打ち抜かれ体制を崩す。そのままソラに切り刻まれ、再起不能となった。
これで二人。
残り二人の男達はあわてた。このままだと生き残れたとしても後がない。
できれば一矢報いたい。なんとか物陰から覗いてみると路地裏から顔を出しているカルラとユニがいた。
格好の的だ。ターゲットを殺れば勝ちだ。
しかし
「暴発!?」
トリガーを引いた瞬間、その腰につけていた予備の弾薬もろとも爆発する。
「くそっ何が起こっていやがる!」
「しらねえよ! さっきまでなんとも無かったんだ!」
魔力銃も弾薬も過剰に魔力の供給を受けなければ爆発などしない。
まったくの原因不明であった。
騒いでいるうちに頭が上がっていたのだろう。
砲音とともに、相方の頭が吹き飛ぶ。
「あ……な……」
残された男が呆然としているうちに、目の前に何かが落ちてきて、キンッと、砕ける音がした。
最後に見たのは、粉々に砕けているソラの羽だったもの。
爆発
「えげつないねぇ」
見たところ、かろうじて生きている程度だ。
頭ひとつ吹き飛ばした自分が言えたものでもないけれど。
暴発という敵のアクシデントが味方をしてくれたのは何よりの幸運だったともおもえる。
そうでなくても飛び込んで切りつければ終わりだったとはおもうが……いや
生憎こっちも打ち止めだ。魔力切れで動けない。
Q,憲兵さんたちは何をやっているのでしょうか?
A,憲「離れたところであばれやがって……ええい! じゃまだどけどけぃ!」
ちなみに本編とはまったく無関係な短編も一個あったりあります。よろしければどうぞ(宣伝